市場にて 6
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「・・・・・」
私は絶句した。 鑑定士が特異なのは存在形式のみではないようだ。
「あんたに鑑定を依頼された時、私は初めて自身の役割に気付いたのだ」
彼女が私を差して言った。
私の脳裏にアルツでの光景が蘇る。
市場の裏通りで彼女に山賊のクロスボウを鑑定してもらった夜が。
「いや、"理解した" と言っても良い」
自らの言葉に二度三度頷く鑑定士。
「私を産み出したイスマイラの意図を、な 」
言い終わると彼女は晴れやかな表情で空を見上げた。
我々のリアルを知る彼女が "女神の意図" という言葉を使うとは。
仔細について尋ねたいのは山々だったが控えておくことにした。
先程の言からも彼女が自己認識を詳らかに語るとは思えない。
謎は謎のまま置いておこう。
それが彼女という存在のエレメントであるのなら。
肝心な事は分った。
彼女はシステムの化身ではなくこの私と同じ独立した存在であるのだと。
「話を戻さないといかんな」
鑑定士が口を開いた。
「あんたの願い、五感の完全再現について」
そうだ。
それが聞きたい。
『諦めなくて良い』 この私にそう告げた彼女の意図は何処にあるのかを。
「 『弊害がある』 ・・のですよね」
私は恐る恐るそう言った。
彼女に依ればそれが未実装の理由ではない、という事だったが。
「そうだ。 それを忘れてはならないよ」
「・・・・・」
力強く首肯する彼女に私は言葉を続けられなかった。
望みが叶うかもしれないという話では無かったのか。
「だが、 それを切実に必要とする人々も存在することは確かだ」
彼女の言葉は続く。
「あんたのようにそれを失った者達だね」
そして再び私を指差す。
「は はい!」
空かさず声を上げて激しく頷く私。
そうだ。 此処でしか私は空の下を歩けないのだから。
技術進歩による体性感覚の完全再現は是が非でも実現してもらいたい所だ。
( しかし "者達" とは ? )
鑑定士が私を差したまま言った。
「そのような境遇にあるのはあんただけじゃないんだよ」
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