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峠にて 3

                                   ・



 私の右腕に刺さった矢は一尺にも満たない小さなものだった。

物陰から撃てて且つ命中精度の高いクロスボウから放たれたのだろう。

初撃で倒すのではなく毒を付与する事に特化されたものであるのは明らかだ。


 私がそう認識するなりダメージとエフェクトだけを残して矢は消失した。

グロ抑止とリソースの節減の為 人間の損傷状況レンダリングは省略される。 

四肢切断や臓器の露出は勿論 "弁慶の立往生" の如き絵面は描画されないのだ。



「ほら、早くしないt 」

私の中段蹴りが鳩尾に突き刺さると勝ち誇った表情の親玉の台詞は途絶えた。

剣も抜かずにいる人間など丸腰と変わらない。

間髪を置かず親玉の右手側に立つ賊の左テンプルにハイキックを叩き込む。

ムエタイのように足背で薙ぐのでなくブーツの爪先で蹴り抜いた。

三人目の手下が剣を抜こうとしている。

何という緩慢さだ。 反応が遅過ぎる。

賊が剣を掴むより早く無防備な右テンプルをハイキックで破壊した。

攻撃を受けたからには反撃に躊躇は無い。

( だが拳神である私は "死体蹴り" は慎まねばならない )

三人共にクリティカルを獲った。

KFのMDS(Maximal Damage Spot)はFQでも防御無効部位となっているのだ。


 四人目の賊は私達を見下ろす右上の岩場にいた。

"一仕事終えた" という体でいたのか慌てて次弾を装填しようとしている。


「よし」


 私は三人の賊が地に倒れ伏すより早く峠道の先へと向かって走り始めた。

クロスボウの照準は正確だが射程は短い。

装填が終わるまでには射程外へ逃れることが出来るだろう。

毒矢を受けてから既に五秒程経過している。

50秒で戦闘領域圏外に離脱しなければならない。

( HPが5%を切ると移動が困難になるという )

三メートル程上手の岩場にいる射手の位置まで登って倒すのはリスクが高い。

解毒手段が無い現状では毒による私の死亡は確定している。

( NPC も死亡後に装備を遺すが所持アイテムは回収できないのだ )

ドームへの復活転移を最小の損失で行う必要がある。


 私は荒れた路面を全力で駆けた。

先般の戦闘で得たスキル "疾駆" の効果が明確に体感できる。

山岳アドベンチャーレースに出たら余裕で優勝を狙えそうだ。

運が良ければ次のマウンドまで辿り着けるかもしれない。


 行く手を見上げると稜線の頂部が迫って来ていた。





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