峠にて ★
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岩山へと向かう道を登り始めた時は何の懸念も感じていなかった私だが、
歩みを進める内に若干の警戒心を抱くようになっていた。
道幅が次第に狭まってきている。
傾斜も増してきていた。
分岐部ではそれと分からなかったがこの峠は馬車では越えられない。
更に登り続けると平坦な路面は消えて岩塊による大きな段差も目立ってきた。
馬を駆って越える道でもないようだ。
"旧道" の如きものかと此方を進路に選んだのは誤りだったかもしれない。
日本の田舎道と同じような感覚で捉えてしまっていた。
"安全な街道旅" という認識のまま周辺情報を殆ど確認していなかった。
事前の情報収集を怠って来た事を悔やみ始めた頃である。
岩角を曲がり多少開けた場所に出ると三人の賊が行く手を塞いでいた。
そう。
明らかにそれと分かる男達だった。 全員が武装している。
( "山賊" というやつか ? )
モンスターとの戦闘は経験しているが、これまで賊に襲われた事は無い。
( 少し主道を外れただけでこんな事があるのだな )
道の分岐部には道標が立っており双方に目的地までの距離が記されていた。
だから何れの路も"正規のルート" だと思ったのだが甘かったようだ。
一部のプレイヤーから "舐めプ" と謗られても仕方あるまい。
「よう兄ちゃん」
三人の真ん中に立つ男が口を開いた。
「一人で山越えとはアヤシイ奴だな。 王国の間者か?」
ニヤついた表情で問い掛けて来る。
「違いますよ。 で 貴方達は?」
即座に否定して問い返してみた。
「俺達は帝国の守備隊だ。 スパイや密売人を取り締まってる」
( この男は一体何を言っているんだ ? )
「・・・・・」
『そうは見えませんが』 と言おうとしたが止めておいた。
こちらから喧嘩を売る事になってしまう。
勿論、"面倒だから" といって先制攻撃で三人を倒してしまう訳にもいかない。
無抵抗のNPCを攻撃するのはPKに並ぶマナー違反とされているのは常識だ。
( それともこの状況は既に "襲撃を受けている" と解釈できるのか? )
もっとも徒歩旅の途中である私は寸鉄も帯びていない丸腰だったのだが。
「ここは臨時の検問所だ。 装備を全て外して其処へ並べろ」
目の前の地面を指して男が言った。
「お頭、こいつ何も持っていませんぜ?」
右脇に立っていた男が真ん中の男に進言した。
「しかも服もビギナーセットそのまんまですわ」
左脇の男も私を値踏みしつつ吐き捨てるように言った。
「シけた野郎じゃねぇですか。 やっちまいましょうぜお頭」
・・・言いたい放題だ。
「馬鹿野郎!」
真ん中の男が大声で怒鳴った。
「 『隊長と呼べ』 と言ってあるだろう。 何度言えば分かるんだよ!」
両脇に立つ二人の頭を交互に叩く。
「「スイマセンお頭!」」
二人が揃って首領と思しき男に首を垂れる。
( 私は何を見せられているのだろうか? )
「・・それにしても、お前らもまだまだだな!」
真ん中の男が私に向き直ってニタリと笑いを浮かべた。
「いいか、 こういう奴は意外と持ってるもんなんだよ!」
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