拳聖の決断
「・・・僕はコレだけだから」
質問を返して来た拳聖に私はそう答えた。
Final Quest (FQ) は KFを作った TF社が新たに提供したゲームだ。
それは知っていた。
先に述べたように私は各種メディアを閲覧する事は可能であったから。
興味を惹かれなかったとは言わない。
だが、今の私はKFのプレイヤーではあるが所謂"ゲーマー"ではない。
初代"拳神"でありこれからもそうあろうとしている重度身障者なのだ。
「ですよね~!」
拳聖が大きく頷いた。
「そうでなきゃココまで上がって来れる訳ないですもん」
得心したような表情を浮かべている。
「・・・ボクもずっとコレ一筋でやってきたから分かりますよ」
自分を指差して言う。
「目一杯練習して、オフでも只管研究して工夫して昇って来たんです」
おそらく彼の言う通りなのだろう。
目の前の拳聖が異例と言って良い速さでランクを上げて来たのは知っていた。
「正直、他の誰より才能も努力も上だと思ってました。 今日までは」
拳聖の喋り方が自嘲的な口調に変わった。
「でも思い知りましたよ。 上には上がいる って」
私を指差して言う。
「何なんですかジョーさんの強さは。 もう次元が違うとしか」
・・それ程の差があっただろうか?
確かに闘っていても ”負ける気” はしなかったけれど。
「KFを始めたのは少し遅かったんですけど、追いつける気がしませんわ」
遅れて始めたにしてはかなり強かったと思うが。
「しかも、ジョーさんはAIじゃなかった」
拳聖がいきなり妙な事を口にした。
「AIなら負けても仕方ないと思ってたんですよ。でも分かります。人間だと」
「どうもありがとう」
そんな返事しか返せなかった。 拳聖君はIT関連の社会人なのかもしれない。
「頂点に相応しい盤石さを感じます。 コロコロ替わるようなものじゃないと」
それはそうかもしれない。
頻繁に代替わりするようでは”拳神”の称号も軽いものになってしまうだろう。
「"拳神"を目指してここまで来ましたが、諦めが付きました!」
爽やかな表情に戻った拳聖がふいにそう言った。
「次に何時ジョーさんと闘れるか分かりませんし、僕はFQに行きます」
「・・・」
毎日私と対戦できるなら追い付けるかもしれないが、それは現状不可能だ。
以前より可能性は上がったとはいえ、拳神との対戦はプラチナカードなのだから。
それにしても『FQに移る』、とは?
「実は僕も先日FQをプレイしてみたんですよ」
拳聖君は既にFinal Questの垢を持っているのだという。
「ホントに凄いですよ! ジョーさんも是非一度体験してみて下さい」




