87.5日目開始と朝のルーティン作業
現実に戻った俺は、3時間前に食べ損ねた夕食のカレーを温めながら時計を確認する。
「20時50分か。後1時間半で俺の出演した番組が放映されるってのは不思議な気がするな〜」
今朝、このゲームにログインした時には想像もしていなかったテレビ出演。それが10時間と少しの時間で撮影から放映まで一気に行われる現状に、改めてこのゲームの体感時間8倍が如何に凄い技術なのかを改めて思い知る。
ただ、そんな深刻ぶった悩みもカレーとサラダを食卓に並べいざ食べ進めるとすぐに別方面へと移り変わった。
(4日目はランクアップや見習い卒業とイベントが多かったな。特にMJOの世界の真相はガチでビビったわ。このイベントの起き具合、アニメ化されてたら8話目くらいやな)
我ながら全く意味のわからない感想を抱きつつも、空腹を刺激する香りに導かれて猛スピードでスプーンを動かしていく。自分好みに作られた、少し甘口のカレーを食べる事で次第と雑念も消えていき、気がつくとたった10分で目の前のお皿から大盛りカレーとサラダが消え去っていた。
(思ったより腹減ってたのか、バクバクガッついちゃったな。我ながらすごい早食いや。っとそれより、次のログイン予定まで1時間ほどあるし、また仮眠とるか)
使用した食器類を軽く水洗いし食洗機に放り込んだ後、俺は次の1日に備えるために、睡眠ポッドに横になる。意識が消える直前に
(もう今日だけで8時間くらいゲームしてんのに睡眠じゃなくて、仮眠って俺ゲームハマりすぎてるな〜)
と、MJOに対して、ウキウキした心と少しの不安が頭をよぎっていった。
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ピピピ!ピピピ!
「んあぁ〜。もうこんな時間か」
睡眠ポッドに入ってから30分後、鳴り響くアラートに叩き起こされた俺は伸びをしながら台所まで行く。そこで顔を洗い1杯の水を飲み眠気を吹き飛ばす。
その後、改めて自分の出演回が録画されてるのか確認した後に、俺は再びMJOの世界へ旅立つのだった。
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MJOにインした俺は、ユサタクの忠告通り、まずクランチャットに目を通す。
5日目の方針から雑談まで多岐にわたる内容だったが、その中でも特に目を引いたのは昨日手に入れたクラン称号【アース解放部隊一番隊】について。
調べた結果、この称号はクエストが一般化するまではセットはもちろん習得時のステータスアップや効果すら不明という内容だった。
(シークレットクエストでの取得やから、セット出来ないのはわかるけど、普通は獲得時にステアップはされるはずやのになんでやろ?)
そう思いながらメンバー達の考察を読み進めてると、記念称号なのでステータスアップされない説と、セット可能になった時点でステータスが付与されるの2つの推測が展開されていた。
(どっちもあり得るな〜。でも今考えるのは時間の無駄やしもうええか)
セット出来るようになるまで結論が出ないし、この話題に見切りをつけた俺は小屋から出る。農地にはすでにインしていたメンバーが畑仕事をしていたり、装備の確認などしている。そして眼を血走らせひたすら料理を量産し続けるモチョの姿も。
「おはようモチョ。朝っぱらから鬼気迫る表情やけど、どうしたん?」
「おはようございます。今日の情報販売の際にセットで売る料理を量産中なんです」
「ああ〜。昨日のミーティングでなんか言ってたな。それで何個用意する予定なん?」
「とりあえずポトフ100個とジュース100個用意する感じですね」
「多いな!?」
クランで1日に消費する量の数倍を作ると聞き、思わず大きな声を出してしまう。
「多いと言っても参加者50人ですから各種2個ずつと考えたら少ないくらいですよ」
「そう言われるとそうか。でもな〜」
「大量生産ならソーイチさんも新聞やサインでやってるじゃないですか。今日も300枚お願いしたいらしいですし」
「マジか・・・。じゃあ早速新聞読んでくるわ。モチョも大変やと思うけど頑張ってな」
「ありがとうございます!ソーイチさんも頑張ってください!」
モチョと一旦別れ、俺は既にルーティン化している作業に取り掛かる。新聞にはEランクに昇格したウチや【円卓の騎士】の特集が組まれている。
だが前日【見習い晴耕雨読】に転職した俺は、自然と天気に目が引き寄せられる。もっとも、ノアの町は5日連続の晴れマークが記載されていた。
(また晴れか。やっぱり慣れるまでは天気固定なんかね〜)
そんな事を考えている内に新聞を読み終えた俺は、【司書】になった事で上昇した経験値を確認する。
(お、ベースの経験値が50から70に上がってる!【見習い晴耕雨読】もレベルアップしたし、このまま300枚【コピー】一気に行くで!)
経験値の上昇で気分を良くした俺は、そのままの勢いで要約作業を行う。
見本を書き終えると、今度はジュースとポーションを限界まで詰め込んでの【コピー】地獄。それを乗り越えた俺は10分も経たない内に300枚の新聞の要約を完成させた。
「お疲れ様です。ソーイチさん」
「ああ、アマネか。ちょうど要約300枚用意できたから持ってって」
「了解です!ソーイチさんはこの後どうするんですか?」
300枚の紙束を仕舞い込みながら、アマネが尋ねてくる。
「そうやな〜。とりあえずST分だけ畑仕事してそっから先は休憩しながら今日の計画立てるわ」
「じゃあ畑仕事終わったら声かけてくれません?特別クランクエストの納品に農業ギルドへみんなで行こうと思ってて」
「ええな。俺も向こうで聞きたい事あったし付き合うで」
「良かった〜。一番貢献してるソーイチさんが参加しないと締まらないとこでしたよ」
「ははは。じゃあみんなに付き合う為にもさっさとST使い切ってくるわ」
アマネの持ち上げる言葉から逃げるように農地へ向かった俺はSTがすっからかんになるまで、アーツを使い続けるのだった。
tips
現在の【ユーザータクティクス】の農地稼働状況
ギルド総数で約350地区、手付かずの農地は30地区と稼働率9割を超えている。
今後の農地事情だが、最低9名が【中地主】を取得する事で、新たなクラン称号が手に入るか検証する予定となっている。
次回は5月13日(月)午前6時に更新予定です。
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