83.解放クエストの説明②人工的なスタンピード
「2つ目の対策って言っても、それこそ渡り人が頑張って討伐していくしか無いやろ?」
「確かにおっしゃる通りです。魔素流入を開始後しばらくは流入量を調整し、通常よりも強い魔物を発生させて、渡り人様の戦力を強化していくのも計画の一つですし」
「ああ、こっちの強化も計画してたんや」
「ええ。現状はともかく、皆様の成長力は私達とは比べ物にならない程に凄いですしね。だからこそまだ4日しか経っていないのに、この計画をお話しできるのですから」
「褒めてくれてありがとう。ただ、その話し振りやと流入後しばらくしたら別の作戦が有るように感じたけど?」
微かなニュアンスの違いを読み取った俺は、その真意を知るべくフレンに問いかける。
「必要量の物資が揃い、解放計画の最終段階になったタイミングで、向こうからの魔素流入量を一気に増やし、擬似的なスタンピードを起こそうと計画してるんです」
「スタンピードって魔物の異常発生ってこと!?それはいくら何でも危なすぎやろ!」
「ソーイチの言う通りだ。あなた達は人類の生存の為に別次元の町で生活してるのに、スタンピードを引き起こすのは、その理念と真逆じゃないか?」
想像を超えた手段に思わず、非難の声をあげる俺達。
「確かにリスクはゼロではないです。でもこの方法を選択した場合、計算上転移ゲートから解放予定の町までの魔素濃度が約10日間ほぼ最低値にする事が出来るんです」
「ふむ。それならスタンピードの解決日数次第やけど、町の解放作業中の安全性は上がりそうやね」
「そうなんです。それにこちら側にもBランク以下の冒険者は町に残ってますので、スタンピードを発生させたとしてもノアの安全性はまず大丈夫です。その為イレギュラーの可能性が大きい向こうでの作業の安全性を向上させる方を優先すべきだと、全ギルドでの会議によって決定したんですよ」
「なるほどな〜」
「あと、自分達からスタンピードを発生させる事は、準備万端の状態で魔物達を対処出来る利点もあるんですよ」
「ああ、知らない間に発生するのとは違い、意図的な発生なら全員が万全の体制で迎え撃つことが出来るんか」
初めは危険としか思えなかった人工的なスタンピード戦術も、聞いているうちに良い作戦に思えてくる。そんな事を色々と考えてるとクランコールでユサタクが話しかけてきた。
『気づいてるかもだが、これは討伐系のイベント開催って事だよな』
『ああ〜、確かにそうやな。このゲームは運営主導のイベントは一切やらんって話だったけど、物資を集めたり大討伐イベントを発生させる土台は最初から設定してたって訳か』
『もっとも、もし町が壊滅した場合、この世界はカオス状態になるだろうけどな』
『ありそう。ゲームジャンルが復興系からサバイバル系に変わることもあり得そうやな』
もしもの事態を思い浮かべ、げんなりとした表情を浮かべる。
「あら、ソーイチさん。顔色が悪いですが、どうされました?」
「いや、もしスタンピード対処に失敗した時のことイメージしちゃってな。その悲惨さに思わず顔を歪ませちゃったんや」
「なるほど。確かに皆様にはお伝えしていない安全策など何重にも張り巡らせてますが、絶対はありませんからね」
「ああ。だからこそ、改めてなんとかせなあかんって思う事が出来たわ」
「まあ。その意気込みを聞けただけでも、皆様に説明が出来て良かったと思えました」
「ははは。それなら良かった」
張り詰めた説明会に、少し和やかな空気が流れるのを感じる。
フレンもそう感じたんだろう。場を引き締めるため、咳払いを1つした後に説明を再開させた。
「こほん。向こうの世界の魔素濃度の低下作戦についての方法について説明してきましたが、何か質問はあるでしょうか?」
「町解放の依頼って、クランランクとか累積ジョブレベルが参加条件に設定されてるけど、魔素流入での魔物の強さ向上やスタンピードって、絶対に他の渡り人にバレるよな?もしかして全員が条件達成しないと町解放は進まないってこと?」
俺は手を挙げて、フレンの説明の中で気になった点について質問する。
「いえ。今回の依頼はシークレットクエストという扱いになるのですが、その受注者が一定以上に達しますと、全ての渡り人の方々に発表を行う予定となってます」
「シークレットクエスト?名前的には極秘任務的な感じやけどあってる?」
「あってますね」
「なんで隠すん?町の真実も解放クエストもすぐに教えても良さそうなもんやのに」
「それはですね、信頼出来る方達にある程度、クエストを進行させた状態で発表したいからですね?」
「はい?信頼できる人が進行させた状態での発表?」
イマイチ意図はわからないが、このゲームのキーワードの1つである【信頼】という言葉が出てきて少し驚く。
「はい。今回の計画は順当にいけば、まず間違いなく成功します。ただ、この計画に悪意を持って参加された場合、最悪の展開を迎える可能性もあるのです」
「悪意?来たばかりの渡り人には、そこまで大規模な妨害ができるとは思えんねんけど」
「スタンピード中の裏切り行為や復興に必要な資材の独占など、力がなくても邪魔する方法はいくらでもあるのです」
「うわぁ。それやられたらマジできついですね」
悪人がそういう行為で邪魔してくる光景を思い浮かべたのか、モチョがとても嫌そうな声で反応する。
「ですので、復興の物資をシークレットクエストや通常クエストの余剰分で一定の量を集め、解放計画の基盤だけでも確実に準備できるようにしておきたいんですよ」
「なるほど。町解放の手順を知らんかったら、そもそも邪魔できへんしな」
「そういう事ですね」
「理由について完璧に理解できたわ。教えてくれてありがとうな」
「どういたしましてです」
町解放をシークレットクエスト扱いする理由について、納得した俺はフレンにお礼を告げた後、次の質問者にバトンを渡す。
「他に質問はございますか?」
「はい!ずっと疑問に思ってた事があるんです!」
ミコトが元気よく手を上げながら立ち上がる。
「あら。それはなんでしょうか?」
「今まで町解放とかいって来ましたけど、私達が解放するべき町の数と名前を教えて欲しいんです」
「そういえば聞いてなかったな」
「なんで今まで思いつかなかったんだろう」
質問内容を聞いた俺たちは、当然すぎる疑問を思い付かなかった自分自身に愕然とする。
「そういえば、最初にお話ししておくべき事でしたね。今までお話し出来ず申し訳ございませんでした」
「気にしないでください!それより・・・」
「そうですね。では回答いたします。解放するべき町の数は8つ。そして今回解放する町の名前は【アース】と言います」
「「「アース!?」」」
フレンのあげた町の名前を聞いて、驚きの声を全員があげた。
tips
スタンピード
魔素濃度が急上昇する事により、魔物が異常発生してしまう現象。
この時生まれた魔物たちは、まず通常個体が大量に現れ、やがて上位個体が出現する。
スタンピードは出現した魔物の90%以上の討伐で収束することが出来ると、長年の研究によって解明されている。
次回は5月1日(水)午前6時に更新予定です。
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