75.土産話と依頼書作成の終わり
「遅いよ!お昼ご飯と農業ギルドで椅子の情報聞きに行くだけだと思ってたのに全然帰って来ないから心配しちゃったよ!」
依頼書作成の小部屋へ到着した途端、トーマスから心配とお怒りの言葉をプレゼントされる。
「いや〜悪かったな。ちょっとイベントが重なりまくちゃってな」
「イベントね〜。それは教えてくれるやつかい?」
「お土産話たっぷりあるから、楽しみにしといて」
そう言いながら俺は作業机の前に座る。
「そういえば俺って何枚作成済みなん?」
「111枚だよ。ゾロ目だね!」
「おお!なんか意味もなく得した気分になるな」
「そうだね」
取り止めもない事を話しながらも1枚目の依頼書を手書きで作成し、その後はいつも通り【3枚刷り】のアーツを限界まで使い依頼書を量産していく。
5分ほどで全MPを消費した所で、
ースキル【メモ】のレベルが8に上がりました。これによりアーツ【4枚刷り】を習得致しましたー
【メモ】のレベルアップ&アーツを習得した。
(睡眠ボーナスで一足早く体験済みとはいえ、新アーツ覚えるのはテンション上がるな!)
新アーツにテンションを上げつつ、作りたてホヤホヤの依頼書をトーマスに手渡す。
「とりあえずMP全部使い切ったから、集計お願い」
「オッケー。じゃあ数えていくからその間に離席中何があったか教えてよ!」
「ええけど数え間違えんといてや」
「大丈夫、ボクはプロだからね」
胸を張って答えるトーマスを見て、俺も今日起きた事を順番に話し始める。
「まず、安楽椅子の情報貰いに農業ギルド行ったんや。そこで【木漏れ日の安楽椅子】が報酬の特別依頼があるって聞いて受注したんよ」
「ああ〜。ギルド農地のお手伝いだね」
「そうそう、そこで仕事をしてたら、クランがEランクに昇格したってコールが入ってな。そこでこの町の真実を教えてもらったって訳よ」
「ああ、聞いちゃったんだね」
陽気なトーマスだが、この話題には暗い表情で声のトーンも落ちる。
「色々な意味で衝撃を受けたわ。現実に起きた事とはとても思えなかった」
「だろうね。ボクも夢であれば良いと、今でも思ってるから」
「でもその情報が聞けたからこそ、リーダーがある判断をしたんや」
「判断ってなんだい?」
敢えて勿体ぶった言い方をした俺に、興味津々な目でトーマスがこちらを見てくる。
「今までチーム内で独占してた農業関連の情報を広めて、まず食糧関係から改善していこうって判断や」
「本当かい!?」
「ああ、農業ギルドのアレンにも言ったけど近日中には農地が完売するかもやで」
「それは朗報だよ!食べ物も薬草も町の解放には必要不可欠だからね!」
「そ、そうやろ?」
目を輝かせるトーマスを見て、ゴールド目的で発表する事に後ろめたく感じてしまう。
「その後は、農業系の称号を見つけたり、俺のメインジョブが【司書】になったりと色々あったって訳や」
「あれ?急に説明が雑になったんだけど!?さては面倒くさくなってきたね?」
「いやいや、そろそろ数え終えれそうやったから区切りをつけようと思っただけや」
「ならいいけど・・・」
若干腑に落ちない顔をしつつ、俺が作成した依頼書を数えていく。その後、間違いが無いか2回チェックし終えたトーマスは背伸びをしながらこちらに話しかけてきた。
「よし!数え終わったよ!」
「おお、お疲れ様。それで何枚なん?」
「今朝ソーイチが作成した分含めて、193枚だね」
「おお〜。じゃあ200枚到達したら依頼終了するわ」
「キリもいいし丁度いいかもね」
残り7枚分のMPが回復するまでの少しの間、トーマスとの雑談を再開させる。
「そーいえば、さっきの雑なまとめの中で【司書】に転職したって言ってたけど、それは本当かい?」
「ああ、これで俺も中級職の仲間入りや」
「それはおめでとう!こっちにきて4日なのに、もう中級職に転職するなんて渡り人さんは成長が早いんだね」
俺をマジマジと見ながら、感心した口ぶりで賞賛の言葉を送るトーマス。
「成長が早いとは我ながら思うけど、その弊害が出ちゃってた」
「弊害?何があったんだい?」
「司書ギルドに【司書】に出来た事を報告に行ったんやけど、読書量が少ないって怒られたんや」
「あらら、思い返して見れば、ソーイチって依頼書作成や新聞の発行、マニュアル作成と【メモ】スキルでレベル上げてる印象だもんね」
「ああ、トーマスの言うとおり、【司書】までの経験値の9割くらいは【メモ】スキルのおかげやからな」
「9割は多いな〜。でも、特別依頼を投げかけてるボク達が言えた事じゃ無いんだけど」
「いや、依頼受けたんは俺の意思やから気にせんといて。でも、依頼書作成は当分の間受注辞めとこうと思うねん」
「ええ〜。依頼書作成しながら、ここで本読めばいいじゃない」
プンプン起こりながら、トーマスは引き留めようとする。
「MPの消費的にもそれは有りと思うけど、シーラから別の方法を提案されてな」
「シーラって司書ギルドの受付さんだよね?なんて言われたの?」
「次に選択するサブジョブを【見習い付与魔術師】にして、余ったMPを魔力電池の充電に使わんかって」
「ああ〜。確かに付与魔術師系統は司書系統と相性がいいよね〜」
「後は、町解放の際に魔力電池は重要そうやしな。依頼書作成は他の渡り人も受けてるし、俺は別方面で支援しようと思ったんよ」
「うう〜。言いたい事はわかるけど寂しいよ〜」
頭では理解しているようだが、感情がついて来ていない様子のトーマス。
「トーマスには世話になったからな。差し入れとかでこれからも顔を出すよ」
「本当かい!?じゃあ甘いものをいっぱいお願いするよ」
「急にテンション上げすぎやって。でも、ウチの料理人がお菓子作ったらお裾分けに行くから、期待して待ってて」
「絶対だよ!」
差し入れすると言った途端、元気になったトーマスに呆れながらも、お菓子を持ってくると約束する。
どんなお菓子が好きかを互いに話した後、回復したMPを使用して、残り7枚の依頼書を作成したのだった。
tips
魔力電池
機械系の魔道具を起動させる為には不可欠な魔道具。
【魔力付与】スキルでMPを注入する事で、充電が可能。
様々な用途で使える為、魔術師系のギルドでは魔力電池の充電は恒常依頼として張り出されている。
次回は4月13日(土)午前6時に更新予定です。
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