72.【見習い付与魔術師】と【エアボックス】
「相性抜群か!それは嬉しいけど、農家や司書とはどういったとこが相性ええの?」
【見習い付与魔術師】が俺のジョブと相性が良いと知りテンションは上がったのだが、理由が抽象的すぎたので【メモ】しながらシーラに聞き返す。
「ざっくり説明しますと、司書系列はジョブ的な相性が良く、農家系は行動の相性が良いんです」
「ううん?ジョブ的な相性ってのは、ステータスや派生職関連かな〜ってのはわかるんやけど、行動の相性ってどういう意味?」
「そうですね〜。農家系に限らないんですが、生産系の行動にも付与魔術の効果があるってご存知ですか?」
「マジで!?戦闘の時だけじゃないん?」
俺の中の【戦闘ジョブ=戦闘でのみ使用】という固定概念が崩れ、思わずペンを持つ手に力が入ってしまう。
「マジです。付与魔術の中にステータスアップの魔法があるのですが、DEXやSTRアップの魔法を使用すると手動での行動にも補正がつくんですよ」
「へえ〜。じゃあ俺の場合はSTRアップで畑耕す為の馬力をあげたり、DEXアップで綺麗に収穫できるってこと?」
「その通りです!例にあげた方法以外でも、町中でアーツを使う機会が沢山あるんです。なので、【見習い付与魔術師】は戦闘職で数少ない、戦闘を全くしなくてもレベルが上がるジョブなんです」
「そのアピールは戦闘職としてどうかと思うけど、今の俺のプレイスタイルにはピッタリやな」
未だ戦闘はおろか、町から出たことが無い俺にとっては天職とも言えるジョブかもしれない。そう思っていた俺に対し、シーラのプレゼン攻撃は続く。
「ソーイチさんは【ユーザータクティクス】に所属していらっしゃるので、既にこの世界についてはご存知ですよね?」
「知ってるけど、情報早いな!ランクアップして2時間も経ってないのに」
「先程、フレンさんから差し入れを頂きまして、その時に教えてもらったんですよ」
「差し入れね〜。フレンとは仲がええの?」
「ええ、各ギルドの受付は情報共有会議で度々顔を合わせますし、プライベートでもお茶会をしてるんですよ」
「なるほどね〜」
(受付の人らは全員、交友関係ありか。この情報はどこかで使えそうやしメモしとくか)
住民同士の交友関係を知ることができ、また1つ話のネタが増えたと内心喜んでいると、話が大幅に脱線したことに気づいたシーラが取り繕うような話し方で本筋へと戻した。
「こほん。話を戻しますが、他の町は開放するまで真空状態になってるのはご存知ですよね」
「聞いた時は耳を疑ったけどな。魔素の流入を防ぐ為とはいえスケール大きすぎやし、町の人も石化で生き延びるって発想と覚悟が凄すぎやわ」
「世界がそれだけ追い詰められてたんです・・・」
当時の苦悩を思い出したのか、暗い表情を見せるシーラだが、それを振り切るように説明を続ける。
「今後は町の開放に向けて動いていきます。その時、町の真空状態を解除してから石化の解除という手順になりますよね?」
「そりゃ、逆なら死んじゃうもんな」
「ええ。ですので【エアボックス】という空気を生み出す魔道具を使用します。ただ、町全体に空気を満たすには膨大な魔力が必要なんです」
「そりゃ、1つの町全部やしエネルギーは必要か」
「ですので、魔力を貯蔵できる【魔力電池】に大量の魔力を注ぎ込む必要があるんですよ」
「なるほどな〜。町復興用の魔道具があるのは分かったわ。でも、その事と【見習い付与魔術師】ってどう関係があるん?」
初めて耳にするアイテムを【メモ】に書き加えつつ、更なる情報を引き出すためにシーラに質問をする。
「【魔力電池】に魔力を送る為には【魔力付与】のスキルが必要なのですが、付与魔術師ギルドで1時間弱の教習で習得が出来るんです」
「ああ〜。じゃあ【見習い付与魔術師】を選ぶことで、復興の手助けしながらレベル上げれるってことか」
「ええ。後は魔力付与した水を農地に蒔けば、聖水ほどではないですが収穫数が増えたりもしますよ」
「マジか!完璧すぎる!」
「でしょう?」
【見習い付与魔術師】の便利さに興奮する俺に、シーラは和やかに相槌をうつ。
「でも、この情報教えてもらえてよかったん?復興関連の話はクランの累計レベル超えな参加出来んって聞いてるけど」
「【魔力電池】関連の依頼は普段からあるので大丈夫です。それに・・・」
「それに?」
意味深に黙り込んだシーラは、イタズラそうな顔で、
「【魔力電池】でMPを使い切れば、【メモ】のアーツは使えないでしょ?」
揶揄うように答えた。
「結局そこに戻るんやね」
「ええ、【司書】のソーイチさんには【メモ】でのレベル上げより、ドンドン本を読んでいって欲しいですから」
「お気遣いありがとう。聞いた限りでは俺にピッタリなジョブやし、次のサブジョブは【見習い付与魔術師】選ぶわ」
「参考になったみたいで良かったです」
「もう大助かりや。それと読書量増やす第一歩として本の返却と、フィールドのシンボル関係の本がどこにあるか教えてもらえへん?」
「申し訳ないのですが、シンボルだけ集めた資料の閲覧許可は、まだ出せません」
「閲覧許可?もっと上のジョブにならなあかんって事?」
見習い卒業で閲覧できる資料が増えたと思っていたので、まだ開放されてない事に少し驚く。
「いえ、許可はジョブが【司書】かつ20冊以上の読書量が必要になるので、単純に読書量が足りてませんね」
「ここでも、本読んでないのが響いてくるんか!」
想像以上に読んだ本の数が、司書の根幹と絡んでいるのを知り、改めて自分の成長が歪んでいたのだと思い知る。
「素手だけで戦う剣士は、レベルが上がっても次の剣技を教えられないのと同じで、知識が増えないと閲覧できる資料が増えないんですよ」
「悔しいけど納得したわ。じゃあ、俺が読めるシンボル関係の本ってないん?」
「そうですね〜。【初めての野宿】という本に1箇所だけ掲載されてたので、それを読むしかないですね」
「おお!じゃあ、その本は借りるとして、残りは魔素関連の本と娯楽系の本数冊見繕ってくれへんか?」
「わかりました。息抜きも必要ですしおすすめの本を選んできますね」
そういって数分席を外したシーラは【初めての野宿】を含めた教養系2冊と一般的な本2冊の合計4冊を運んできた。
「こちらが私オススメの本です」
「選んでくれてありがとう。じゃあ、まず読み終わった本の返却お願いするわ」
「はい、4冊ですね。では確認します」
返却した本にシーラが手をかざすと、一瞬青く光り輝く。
「全て読了したのが確認できました。【知識の習得】の依頼を4冊分達成しましたので、400ゴールドと80CGP・40AGPをどうぞ」
「ありがとう。早速確認するわ」
そう言って俺はギルドカードを確認しようとしたその時、
《ユサタク様がユーザーで初めて、派生職へ転職いたしました》
ユサタクがMJOの最先端に到達した事を示すアナウンスが世界に鳴り響いた。
tips
【エアボックス】
魔力を注ぐと空気を発生させる魔道具。
大きさは文庫本からトラックまで幅広く存在する。(違いは出力と電池の容量)
この魔道具を使用した潜水服も存在し、かつては海底都市建設も考案されたとか?
次回は4月7日(日)午前6時に更新予定です。
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