64.回想② ノアの町の秘密
『そんなに長かったか?』
『転移クリスタル関連は仕方ないけどEランクの成り立ち関連は、緊急性も薄いし省いても良かったんちゃう?』
10分以上、町の情報をお預けされた事でフラストレーションが溜まり、追求する言葉が荒くなってしまう。
『俺も長いかと思ったんだが、ランク周りの話は友好度や信頼度の証明になりそうな話だし、何より世界観の一部が開示は、ネタ集め目的のソーイチには一番重要とも言える話題だろ?』
『確かに・・・。ゲーム楽しすぎて自分がラノベ作家ってのを完全に忘れてたわ。キツいツッコミ入れてすまんかった』
ユサタクなりの気遣いを聞き、自分の本来の目的を思い出した俺は謝罪の言葉を述べる。
『気にしなくていいぞ。現場にいなかったのがソーイチだけだし、説明は一度で済ませたかったってのもあるしな』
『あ!俺だけハブられてるやん!何でみんなおるん!?』
『俺も数人は欠員出ると思ってたんだが、お昼時で作業のキリが良かったんだろうな』
『マジか・・・。コールが後30分早かったら俺も行けたのに〜』
自分から断ったとはいえ、1人だけ参加してなかった事実に寂しく思ってしまう。
『次のランクやイベントの時は余裕を持ってコールするから今回は勘弁してくれ』
『仕方ないか。こうなったら【間が悪い主人公】キャラの気持ちを体感出来たとポジティブに考えるか』
『そうしてくれ』
『よし!気持ちを切り替えた事やし、早く続き語ってくれ』
『そうだな。転移クリスタルの質疑応答が終わった所からだな』
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【ユサタク視点】
「こほん、では質問はここまでにして、ここからとっても大事な話をしますので、心して聞いてくださいね」
矢継ぎ早に押し寄せた質問の数々を華麗に捌いたフレンは、軽く咳払いをした後、クラン全員に目を配りながら再び語り始める。
「今回お話しするのは、この町の秘密についてでございます。Eランククランが開示条件となりますので、クランメンバー以外には漏らさない様お願いします」
「わかりました。ソーイチ以外にはお聞きする情報は漏洩しないと誓います」
念入りに秘密厳守を求められたので、俺を含めた全員が真摯に受け止める姿勢を見せる。
「ご了承して下さりありがとうございます。それでは本題に入るのですが、皆様はこの大陸にノアの町以外存在していない事は、もうお気付きでしょうか?」
「ええ、ソーイチから話だけは聞いてます。町の歴史を見ても不自然にノア以外の情報が隠されてると言ってました」
「流石はソーイチさんですね。他に関係ありそうな事はおっしゃてましたか?」
「そうだな〜。農業ギルドで食糧不足の懸念が出た時に、職員が他の町に支援する様な口振りだったと言ってます。そこから、支援する量次第だが船は難しいんじゃないか?とか食糧生産量を上げるのがカギとなるんじゃないかとか色々考えてましたよ」
「考察だけじゃなく、次の段階まで考えて下さってたなんて凄いです!」
「ええ、俺達も助けられてますよ」
そう言ってみんなの方を見渡すと同じ事を思っていたメンバー達が頷いていた。
「ソーイチさんの考察通り、この大陸から他の町へ船以外の方法で物資などを輸送可能となっております。と言いますか、その方法以外でノアから出入りする事は不可能と言う方が正しいですね」
「不可能?海が荒れてるから船での移動が無理って事ですか?」
「いえ、空を飛ぶドラゴンや海を生きるモンスター達でもこの町へ辿り着く事は出来ません」
「ええ!?そんな事ってあるんすか!?」
驚きのあまり、セキライが思わず立ち上がり驚きの声をあげる。俺自身もあくまで輸送手段の話だと思い聞いてたのだが、根幹から勘違いしていたのでは無いかと言う思いが湧き出てくる。
「言葉だけでは理解しにくいので、ここに大陸全体の模型を用意しております」
そう言ってフレンは長机の横に置いてあった町の模型を指差した。
「この模型はノアの町を含めた大陸全体とそれらを覆う海までの範囲を箱庭化したものです」
「凄い精密ですね。地図をそのまま立体化したみたいです」
モチョが箱庭型の模型を褒めるのを尻目に、俺は学生時代に行った資料館の模型を思い出していた。
「ありがとうございます、これを製作したのは私なんですよ!題して【ノアの箱庭】。半年も掛かったんですよ!」
「「「!!!」」」
この模型の名前を聞いた途端、ゼロやフワフワなど勘の良いメンバーが驚きの表情を浮かべる。
「って、その話は置いておいて。ごらんの通りこの【ノアの箱庭】は透明なガラスケースで覆われております。何故だかわかりますか?」
「そりゃあ、全体を見やすくしたり、誰かが触ったり出来ない様にする為ですよね」
「見やすいというのは惜しいですね。このケースは、この世界をわかりやすく表現する為に箱型になっているんです」
「世界を?どういう意味なんですか?」
話のスケールが急に大きくなり始め、先ほどは気付かなかった勘が鋭くないメンバー達にも動揺が広がっていく。
「この大陸や町、海や空。この立方体の中身がこの次元における唯一存在するものなのです」
「唯一ってフレンさんは他の町があるって言ってたっすよね!?」
「確かに存在します。ただノアの町とは違う次元ですけど」
「話が難しすぎてイマイチ理解できてるかわからないのですが、何故ノアの町だけ違う次元にあるのですか?」
大体の見当は付いてそうな表情をしながらも、話をまとめる為にゼロが質問を投げかける。
「それは、ここが魔族と神々との間で起きた数年前の大戦の際、魔族達の襲来や戦禍から逃れ人類が絶滅しない為に用意された箱庭だからです」
重々しげに語るフレンを他所に、俺の頭の中には【ノアの方舟】という言葉が頭によぎったのだった。
tips
箱庭ノア
前回渡り人が来訪した際(ベータテスト時)に、これなら真実を語っても大丈夫であると判断した冒険者ギルド。その時にわかりやすく説明出来ないか会議していた所でフレンが手を上げた事で作成が決まった。
その出来栄えはまるで自分達の土地を完全再現したかと思うほど精巧に出来ている(製作期間6ヶ月)
次回は3月22日午前6時に更新予定です。
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今後とも本作をよろしくお願いします。