56.鑑賞会と3日目終了
自宅への帰り道、ユサタクと今日の撮影について振り返っていた。
「今日はよく頑張ったな。緊張してた割にトークも弾んでたし噛んだりしなかったしな」
「ある意味パース遅刻と真っ青な顔のお陰かもな」
「どういう意味だ?」
「よく言うやん。自分以上に取り乱してる人見ると逆に落ち着くって」
「ああ、そう言うのあるよな」
「だからホンマにあの謝罪連打には参ったで」
「そこは諦めろ。ただでさえ素は気弱な人間が大ファンの先生相手に遅刻で迷惑かけたんだぞ。昔なら切腹ものだぞ」
「どんな例えやねん。でも、俺もやらかしたらそうなるか」
「だろ?ああ言うタイプは謝罪とお詫びはしっかり貰った方がお互いの為なんだよ。その点ハジメプロデューサーはお詫びの解決策は見事だったな」
「番組としては報酬アップと新しい仕事。パース個人にはみんな得するポーション提供で留めてたしな」
「ファンの為になるってわかったらポーションも受け取りやすかっただろ」
「確かに。あの手法もネタ帳に書いとくか」
「心理パートとか色々使えそうだな」
こうして話してるうちに自宅へ到着したが、
「ソーイチさん、お帰りなさい。早くこっちきて飲みましょ〜よ〜」
「お酒もおつまみもあまってますよ!」
「ははは!撮影の話聞かせてよ〜」
そこには、既に酒で出来上がったクランメンバー達の姿があった。
「もう既にベロベロやんけ」
「まあ、1時間以上経ってるしな。現実だと一次会終わりくらいの時間だぞ」
「ああ、そりゃそうなるか」
ユサタクの例えに現状については納得する。
「いや〜、皆さんストレス溜まってるのかペース凄かったですよ」
「あれ?モチョは素面やの?」
「お二人の料理作らなきゃですしね。飲むのはそれからでも遅くないですしね」
「マジか!?世話かけるな」
酒好きの俺には絶対無理なモチョの気遣いに感謝を述べる。
「準備してくるので談笑するなり、作業するなりご自由にどうぞです」
「ああ、STも回復してるし畑作業するか」
「じゃあ俺らが参加しやすい様に酔っ払い共を落ち着かせておくよ」
モチョのお言葉に甘えて俺は畑作業に、ユサタクは二次会開始の為の準備をする。
(稼働してない畑まだまだ残ってるな。勿体無いとは思うけどみんなのレベル上げにはええよな〜)
農地を1面ずつアーツで耕しつつ、贅沢な農地の使い方に便利とはいえ勿体無いと思いを馳せる。
「追加の料理が出来ましたから集まってくださ〜い!」
「大急ぎで終わらせるからちょっと待ってて〜」
料理の完成を告げる声に、大急ぎで耕した土地に種蒔きまで終わらせる。
「じゃあ、料理と酒の準備も出来た事だし乾杯でもしようか」
「じゃあ今日頑張ったソーイチさんからお願いします〜」
乾杯の音頭を取ろうとするユサタクを放置し、フワフワが俺にパスを渡してくる。
「ユサタクいじけてるやん」
「良いんですよ!早く始めましょう」
「そうっすよ。リーダーが不憫なのはいつものことっすから」
他のメンバーもユサタクをスルーしていくようだ。
「ではいくで。今日の活動と俺のテレビデビューに乾杯!!」
「「「「乾杯!!」」」」
俺の音頭と共に各々酒を掲げ、すぐさま飲み始めた。
「ぷは〜、緊張続きの仕事の後はアルコールが染みるな!」
「ソーイチさん、オヤジ臭いですよ」
「まあ、ソーイチも三十路前だしそうなるよ」
「いや、他人事ぶってるけどユサタクも同い年やんけ、加齢臭は一緒や」
「そこまでは言ってないですよ〜」
既にアルコールが回ったのか年齢に対して自虐ネタを披露していく。
「そんな暗くなる話より、今日の撮影どうだったか教えてくださいよ」
「そうですね。戻ってくるのが予定より少し遅かったし何かありました?」
空気を変える為、モチョとゼロが今日の撮影について質問してくる。
「撮影自体は段取り通り出来たで。ただその前にトラブルあったけど」
「トラブルですか?」
「司会のパースが10分ちょい遅刻してな。それプラス謝罪合戦で帰るん遅なったんよ」
「ああ〜、パースさんカメラ前以外だと気弱ですしね。でも、あの番組のプロデューサーだったらお詫びとかあったでしょ?何貰いました?」
苦笑いしながらも、遅刻の補償があったのか聞くのはクランの財政担当のアマネ。
「一応パースからは視聴者プレゼントの為に【見習いMPポーション】6本の提供で、番組からは報酬アップとサインのメイキング映像の仕事やな」
「仕事まで貰えるとか凄いですね!」
お詫びが想像以上にデカかったのかみんな驚きの声をあげる。
「サインを【コピー】するついでに出来るし有難いわ」
「因みに映像データ貰ってるけど鑑賞会するか?」
「「「「賛成!!」」」」
ユサタクからの提案に全員乗り気だったので、テーブルを少しずらし半円状に全員が集まる。
「じゃあ、鑑賞会を始めるが、絶対に撮影はするなよ!どんなペナルティがあるかわからないからな」
「「「「了解」」」」
再生前に注意事項を周知した所、早く観たいのか異様に早く了承の意思表示がされる。
「じゃあ、まずは10分弱のメイキングを再生するぞ」
その宣言と共にデータチップを使用するとチップから立体映像が飛び出し再生が始まる。
「ソーイチさん、最初詰まってましたね」
「いきなり撮影始まったんやし大目に見てや」
開始早々モチョから弄りが入る。
「と言うかサイン凄すぎじゃないっすか?」
「2種類のサインが繋がってるのが良いですね」
「ああ、実はテレビ決まった時からこっそり考えてたんよ」
セキライとゼロの賞賛に酒を飲みながら応対する。
「ああ〜!リーダー先にサイン貰ってる!!ズルい!!」
「ホントだ!ズルいですよ!」
「はっはっは、良いだろう?出演者特権だ」
羨ましがるクランメンバーの前に堂々と俺のサインを見せびらかすユサタク。それを見た一同は今にも取っ組み合いになりそうな気配がしたので、
「大人気ないな〜。後で全員に渡すからまずは落ち着いて観ようや」
「やった!ソーイチさん太っ腹!」
「ありがとうございます〜」
全員に渡す事を約束し何とか場を納める事に成功した。
その後最後まで映像を見続けていると、ミコトがある事に気付いた。
「話は変わるのですが今回のコスプレって普段のソーイチさんがバレない様にする為ですよね」
「お?まあそうやな」
「でもこの映像で思いっきり顔出てますけど良いんですか?」
「あ゛あ゛、忘れてた!!」
「すまん、俺も忘れてた!急いでハジメさんに事情説明してくるよ」
そう言って席を外すユサタク。ハラハラしながら全員が見つめる中、数分後ホッとした様子でコールを終えた。
「なんとか間に合ったぞ!」
「ホンマか!?」
「ああ、事情説明したら編集でなんとかしてくれるそうだ」
「良かった〜。今回間に合ったんはミコトが気付いてくれたお陰や!マジでありがとうな!!」
「そこまで言われると照れちゃいますよ」
功労者であるミコトにお礼を言うと、赤らめた顔を隠しながら謙遜する。
「よし!問題も解決したし、インタビューも流すぞ!」
「「「「おおお〜!!」」」」
こうして、インタビューを見つつ【ユーザータクティクス】の宴は夜遅くまで続いたのだった。
tips
本編後の宴
インタビュー鑑賞会:ガチガチのソーイチと置物のユサタクをみんなで弄りながらも、わいわい楽しんだ。
サイン会:フワフワの一言からサイン会に握手までセットになり全員が殺到。ユサタクが引き剥がし役になったせいでまたリーダーの好感度が下がったかも?
これにて3日目終了です。
次回は掲示板回です。
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