55.謝罪とスタッフへのプレゼント
「カット!!お疲れ様でした!」
カメラ担当のスタッフの声で撮影が終了する。
「ふう〜、なんとか乗り切ったわ」
「ソーイチ、お疲れ様。よく頑張ったな」
安堵の息を吐いているとユサタクが労いの声を掛けてきた。
「ホンマやで。後半ユサタク全然フォローしてくれへんかったやん」
「話の流れ的に聞き手が2人になったら話題がぼやけると思ってな。でも、無言になった時の為に準備はしてたんだぞ」
「それならええけど」
「それより、パースが何か言いたそうにこっち見てるぞ。多分開始前の件だと思うけど」
「ああ〜、それが残ってたか。正直報酬モリモリ貰って謝罪済んでると思うねんけどな」
「そこはミスした張本人だし難しいだろうよ。ほら来たぞ」
緊張した面持ちでパースがこちらに向かってくる。
「お疲れ様です。ソーイチさん、ユサタクさん」
「お疲れ様、今日は撮影でのフォロー有難うね」
「だな、俺の分までソーイチをフォローしてくれてありがとう」
先手を打つようにパースの功績を褒めていく俺達。
「それは番組司会者として当然ですよ!そして遅刻は司会者として最悪なんです・・・」
「そんな気にせんといてや。精々10分ちょいの話やん」
「だな、毎回なら兎も角次回からは気を付けてくれるんだろ?」
「勿論です!」
「番組からお詫びの報酬も出てるし、話はこれで終わり!ええな?」
「うう、わかりました」
(司会者モードと全然性格違うな〜。演技力高すぎやろ)
事を収めながらも俺は、撮影時とのギャップの大きさにパースの演者としての力量に驚く。
「お疲れ様、2人とも、今日は通常撮影だけじゃなくメイキング映像まで提供してもらってありがとうね。これ、さっきの撮影データどうぞ」
ハジメさんが労いの言葉と共に2つのデータチップの様なものを手渡される。
「これは?」
「ああ、MJOと放映契約を結んでいると、入手出来る「データ化」というスキルだね」
「凄いスキルやん!」
「でも情報アドバンテージが大きいから賞金レースに入ってない僕ら専用なんだよね。ただスキルが無くても一度だけ再生する事は出来るよ」
「なるほどね〜。ネタ集め的に報道側での参戦もありだったかもですね」
「ははは、君の事を知ってたらスカウト出来たかも知れないのか。かなり残念だよ」
「いや、ソーイチはそれでも【ユーザータクティクス】を選んでくれるはずなんで安心して下さい」
ユサタクが焦った様子で俺を隠す。
「まあ、僕達としても一緒に働くよりそれをお茶の間に映したい意欲あるし諦めるよ」
「それなら良かったです」
安堵の息を吐くユサタク。
「それより今渡したのは編集前だし、何より放映前のデータだからクラン内で楽しむ様にしてくれよ」
「勿論です。この後お疲れ会やるんでその時見ます」
「それなら安心だ。一応データの複製や録画に対してプロテクトを掛けてるから大丈夫だけど念の為ね。万が一バグとかで出来ちゃうと大変な事になるから」
「気をつけます」
流石に色んな意味でリスクが高いので向こうとの約束に応じた。
「じゃあ、データも渡せた事だしこれでお開きにしようか。パース君も謝罪出来たみたいだしね」
「ええ、何度も謝って貰って逆に恐縮ですわ」
「あらら、相変わらずだね〜。もっとテレビの時みたいにイケイケでいいのに?」
「そういう性分なんで仕方ないですよ」
肩をすくめながら答えるパース。
「パース君の性格的に多分罪悪感がまだ残ってるだろ?」
「ええ、まあ」
「じゃあ、視聴者プレゼント用のサインを【コピー】する為のポーションを幾つかお詫びに提供するのはどうだろう?これならソーイチ君と番組両方にお詫びが出来るよ」
「それはええですね。喜んでくれるファンも増えるし」
「クラン的にもソーイチのレベルアップに貢献して貰えますし良いですよ」
「との事だがどうだい?」
「確かに、皆さんの役にも立てそうだし良いですね!少ないですが今の手持ち全部です。」
そう言って6本の【見習いMPポーション】を差し出した。
「おお!これだけあればプレゼント出来る人が100人増えるわ。ありがとうな」
「じゃあ、私からは用紙を追加で渡そうかな」
ハジメさんも便乗して白紙の束を渡してきた。
「1000枚有るから、サインなり新聞だったりに使用してくれたまえ」
「こっちも助かります。貰ってばっかりで恐縮なんで、撮影中にMP回復したので皆さんサインだけでも受け取ってください」
そう言って貰ったばかりの用紙からスタッフの人数分【コピー】して渡していく。
「あ、ありがとうございます!家宝にします!」
「視聴者より先に貰っちゃったね。娘にも自慢出来そうだよ」
パースやハジメさん含めスタッフ全員から喜んで貰えた様で嬉しくなる。
「じゃあ、話もまとまった事だし俺達はこれで失礼するよ」
「今日は良い経験でした。また機会があればよろしくな〜」
「こちらこそ、出演頂いてありがとうございました」
「また、何かあればよろしくね」
そう言ってみんなと別れ、スタジオから出ていった。
tips
スタッフに渡ったサイン
ハジメプロデューサー:宣言通り高校の娘さんに自慢をするが、そのせいで娘が激怒。ご機嫌取りのためソーイチにお願い出来ないか勘案中。
パース:番組でアシスタントのひかりに自慢をしたせいで未だに恨めしそうな目で見られているが、気にせず部屋に飾ってある。(全財産の大半を支払って額を購入)
その他スタッフ:自分達まで貰えると思ってなかったので狂喜乱舞するも、視聴者プレゼントが終わるまで自慢出来ず、心が落ち着かない日々が続く。
ブックマークや評価・誤字報告していただきありがとうございます!!
今後とも本作をよろしくお願いします。