54.メイキング映像と撮影開始
「もうすぐ本番やのにええの?」
「実は司会のパース君がトラブルで遅れてるみたいでね。後10分くらいかかりそうなんだよ」
「トラブルって大丈夫なんです?」
「もう解決はしたんで大丈夫。でもせっかく2人に時間作って貰ったのにこんな事態になってしまい本当に申し訳ない!」
今までのフランクさから打って変わって真剣な面持ちで謝罪するハジメさん。
「10分くらいなら大丈夫ですよ。そうやなユサタク」
「まあな、ただ、次回からは時間厳守でお願いしますよ」
「ありがとう!今後こんな事が起きないよう改善していくよ。で、話は戻るんだがパース君が来るまでの間、プレゼント用のサインを書いてくれないか?勿論お詫びも兼ねてポーションも提供するし報酬も追加するから」
サイン書くだけじゃなくてポーションまで支給されると聞き、思わず聞き返す。
「コッチとしては大助かりやからええけど。10分くらいでそれは貰いすぎな気もするな〜」
「うちとしては少ないくらいだと思うけど・・・。どうしても気になるならサイン中も撮影して良いかい?メイキング映像として動画サイトに載せたいし」
「それならええですよ」
ハジメさんからの提案に魅力を感じた俺は引き受けると即答する。
「じゃあ決まり!メイキングの方もちゃんと報酬出るからね!」
「ええ!?お詫びも報酬も多いから、メイキング受けたのにまた報酬アップって・・・」
どんどん釣り上がる報酬に思わずツッコミを入れてしまう。
「気にしない、気にしない。番組の為にもなるんだし追加報酬を出すのは当然の事だよ。という訳で紙もポーションも用意してるから一杯【コピー】しちゃってくれ」
「じゃあお言葉に甘えて・・・」
「じゃあ、メイキング動画開始、3・2・1・スタート!」
「ええっと、ソーイチです。これからプレゼント用のサインを書いていきます」
いきなり始まったメイキング作成に戸惑いつつ、用意された用紙にサインを書いていく。
デザインはラノベ作家【物部創一】のサインを黒で、MJOの【ソーイチ】としてのサインを赤で書き、二つのサインが繋がっていくイメージで書き上げていく。
「MJOならではのサインを書いてみたんやがどうや?」
「すごいセンスだね!両方のソーイチ君の個性が発揮されて僕も欲しくなるよ!」
「確かにこのサインは良いな!俺にも後で書いてくれ。クランメンバー全員に自慢するから」
「ええけど修羅場になっても責任取らんで」
軽口を叩きながら、1枚ずつ【コピー】をしていく。
「あれ?ソーイチ君は複数枚コピーのアーツはまだ覚えてないのかい?」
「ソーイチのポリシーでな。折角のサインだから【コピー】するにしても1枚ずつ心は込めたいってこういうスタイルになったみたいだ」
「良いね!プレゼント出来る枚数は減っちゃうけどその考え方好きだな〜」
「そう言って頂けると助かるわ」
時折ポーションを飲みつつプレゼント用のサインを【コピー】していく。【見習い司書】のレベルが上がり少しした頃、息を切らせながら司会のパースさんがスタジオへ入って来た。
「遅刻してしまい本当に申し訳ございません!!開始直後の貴重な時間をトッププレイヤーのお二人に浪費させてしまって何をお詫びすれば良いか・・・」
「ストップ!ストップ!!入室と同時にシームレスで土下座はやめてくれ!」
「これから一緒にテレビ映るのにやりにくくなるしマジでやめて!」
俺とユサタクの姿を確認すると同時に土下座へ移行しようとするパースを慌てて止める。
「で、でも〜」
「まあまあ、ただでさえ時間も押してる事だし一旦はこれで切り上げないか?どうしても謝罪がしたいなら撮影後改めてしたら良い」
謝罪し足りない様子のパースに対しハジメさんは代案を言う。
「せやな。とりあえず目的を先に達成しよ」
「確かにそうですね。切り替えます」
真っ青な顔をしてたパースは一旦目を瞑ると、次の瞬間、MJO最新情報局の陽気な司会者の顔になっていた。
(たった数秒ですごい切り替えの速さやな。このメンタル管理は見習いたいな)
感心しながら眺めている間にインタビューの準備が着々と進んでいく。
「今回ソーイチの衣装なんだがサプライズを用意したんで画面外から登場するように出来ないか」
「カメラ位置変えるだけなんで大丈夫ですけどサプライズって何ですか?」
ユサタクの提案にスタッフの1人が問いかける。
「じゃあソーイチ、一旦外に出て装備をテレビ用に変えてくれないか?」
「ちょっと勿体振り過ぎな気もするけどええで」
そう言ってスタジオから出た俺は装備をマグナスのコスプレ衣装に変える。
「着替え終わったし入るで〜」
「みんな期待してるし、カッコ良く頼むぞ」
ユサタクの無茶振りを受けつつスタジオに入り直す。
その後リクエスト通り、クラン内で好評だったポーズを決めて辺りを見回す。
「「うおおおお!!」」
「「キャー!!」」
「凄い反響やな。でもカッコええやろ?」
「最初は乗り気じゃなかったのに、すっかりソーイチもノリノリだな」
プロデューサーからスタッフまで全員が俺のコスプレ姿に歓声を上げる。気を良くした俺はポーズを変えながら自慢気にしてるとユサタクが呆れながらツッコミを入れる。
「凄いじゃないか!色んな意味で神回確定だよ!」
「司会者やってて良かった!!好きなキャラが目の前にいる!な、泣きそう」
大はしゃぎのハジメさんと涙ぐむパース。スタッフ達も興奮が収まる気配が見られない。
「俺大ファンなんでわかるけど、衣装のクオリティが半端ないですね!【ユーザータクティクス】のメンバーが作ったんですか?」
「いや、外部に依頼したんだよ」
「同じクランなら兎も角、外部は色んな意味で危ないんじゃないですか?」
「大丈夫。実はこの衣装作ったのは『ファン学』イラスト担当のツムグ先生だから」
「え!?これ作ったんツムグちゃんなん?言ってや!」
衣装を製作したのは10年間コンビを組んでた子と知り、黙ってたユサタクに詰め寄る。
「いや、本人からギリギリまでバラすなって言われてたし」
「ええ〜、嫌われたんかな」
「それはない!ソーイチの装備は全部自分が作るって意気込んでるくらいだし」
「それならええけど」
嫌われてない事に安堵している間にもイラスト担当お手製の衣装という事実にスタジオ内のどよめきは収まる気配を見せない。
「みんな落ち着いて!デカいサプライズだったけど一旦落ち着こう!」
ハジメさんが手を大きく叩き全員に向かって声をかける。
「みんな、このサプライズを見て僕達は何をするべきか?それはテレビの視聴者に驚きをお裾分けする事だよ。だから早く始めよう」
ハジメさんの言葉に自分を取り戻したスタッフ達は、猛スピードで準備を終わらせた。
「お待たせしました。撮影準備完了です!」
「よし、じゃあ始めるからソーイチさんは合図と同時に舞台袖から切り込む感じで登場お願いです」
「わ、わかった」
いよいよ本番が始まるのを実感し、緊張から少しどもってしまう。
「じゃあ本番開始前、3・2・1・スタート!」
スタッフからのカウントダウンが終わり、撮影が始まった。
tips
パース
MJO最新情報局の司会者&インタビュー担当。
高いテンションと偶に見せる素のギャップが人気。
ソーイチ&『ファン学』のファン過ぎて、緊張がマックスまで到達し腹痛からのログアウトが今回の遅刻の原因である。
次回は 幕間7.MJO最新情報局4月1日放映分 になります。実際のテレビ風に表現出来るよう頑張ります!
ブックマークや評価・誤字報告していただきありがとうございます!!
今後とも本作をよろしくお願いします。