53.スタジオ到着とプロデューサー
「ストップ!そろそろ時間だから撮影会は終わり!」
「「「ええ〜!!」
いつまでも続くかと思われた撮影会に終了宣言を行うユサタクに対し、クラン全員からブーイングが飛び交う。
「静かに!そもそもソーイチのコスプレはテレビ出演用に用意したんだ。それで収録に遅れるのは本末転倒だぞ」
「俺もリクエストのポーズ取るの楽しくなって来てたけど、元々は似合ってるかの確認のために試着したんやったな」
いつの間にかノリノリで撮影に応じてたが、元々の目的を思い出し頭を掻きながらユサタクに追従する。
「じゃあ、一度装備したし装備の着脱はシステムでできる様になっただろ?現地には通常の服で移動するから元の服装に戻しておいてくれ」
「オッケー」
システム欄から装備を初期のものに戻すと周りから残念そうな声が上がる。
「もう出発なのは仕方ないですけど、装備は戻さなくても良いじゃないですか〜」
みんなの不満をモチョが代弁する。
「無理だな。あの衣装は相当目立つから普段使いは無理だ。一度テレビで披露されたらソーイチの前に今みたいな人だかりが出来るぞ」
「偶にならええけど毎回囲まれるのは嫌やからな〜」
「うう〜、それなら仕方ないですけど〜」
俺達の意見に渋々納得するモチョ含めたクランメンバー達。
「さあ!いつまでも駄弁ってないでもう行くぞ」
「りょーかい。俺は場所わからんから先導任せたで」
「リーダーとソーイチさん、撮影頑張って下さいね!」
「ファイトっす!」
メンバーからの声援を背に俺達は待ち合わせ場所へ歩いて行った。
「そう言えば今回って住民の施設とか借りるんか?」
「いや、番組側が所有してるホームでの撮影だな」
「そうなん?正直プレイヤーの中で家持ちは俺らみたいな農家系プレイヤーだけやと思ってたわ」
まだ3日目後半だと言うのに、既にスタジオにもなる物件を所持してる事に驚く。
「実はMJOと契約してるテレビ番組は賞金レースの参加資格を失う代わりに撮影用のホームを運営から用意されてるんだよ」
「なるほど、撮影場所が用意出来てなかったら野外撮影みたいに周りに誰か居る状態での撮影になるな」
「それに現実の姿じゃない分、リアルの公開収録より遥かに観客からの邪魔が入るリスク高いだろうしな」
「ああ〜、昔ネトゲの公開放送見たけど出演者のキャラが見えなくなるレベルで人だかり出来てたしな」
当時の動画のごちゃごちゃした様をげんなりした目で視聴していた思い出を話す。
それからも撮影事情について話し込んでいるとふと気づく。
「スタジオって住宅街にあるん?」
「ああ、町の北側はゲーム的に重要施設が多いしな。ゲーム進行に関わりが薄い南地区の住宅街に各番組の土地を用意したみたいだぞ」
「じゃあこの辺張ってたら有名人とか追いかけ放題ちゃうか?」
「そう言えばそうだな。いずれパパラッチとか出てくるかもしれないし対策出来ないか運営に意見として出してみるかな?」
「通るか?パパラッチから情報を守るのも含めて賞金レースに組み込んでるかもだぞ」
「ああ、うちや円卓みたいな上位クランはそういう輩にどう対処するかも競争の要素の一つって事か」
「あくまで俺の想像やけどな」
運営が同じ地区に撮影用ホームを用意したという一点から、勝手に想像を膨らませる。その後も妄想全開で話し込んでいると遂に目的地に到着した。
「よし!着いたぞ。ここがMJO最新情報局のスタジオだ」
「そこそこ大っきい家やな〜」
「そりゃスタジオ兼用なんだから大きいよ」
外観について感想を言いつつ中に入っていく。
「お待ちしておりました!【ユーザータクティクス】のユサタク君とソーイチ君だね」」
「1週間振りかな?この人はMJO最新情報局のプロデューサーのハジメさんだ」
「はじめまして、ソーイチです」
入室した途端に盛大に歓迎してくれたハジメさんに挨拶をしつつ用意された席に座る。
「今回は出演してくれてありがとう!色んな意味で話題のソーイチ君の初出演という事で番組に箔がつくってもんだよ」
「ははは、期待に添えるよう頑張ります」
もう全身で歓迎のオーラを放つハジメさんに引き気味で答えながら、気になってた事を質問する。
「そう言えば視聴者サービスのサインってあれ【コピー】前提ですか」
「そうだね!よくサイン付きシューズとか印刷してるのあるじゃない?」
「ああ、ありますね」
「手書きも最高なんだけどそれは現実の方に取っておいて、MJO版は既製品のサインのイメージでお願いしたいんだよ」
サインなのに【コピー】を使用する事に抵抗を覚えて居たが、イメージする物を聞き少しは納得出来た。
「因みに上限無しって言ってましたが、最低何枚【コピー】すれば良いですか?」
「ああ〜、正直何枚でも良いよ」
「本当ですか?」
「うん、正直ソーイチ君に余ったMPの使い道&レベル上げ用に依頼しただけだから、ログアウト前とかに作成してくれるだけで良いよ。上限無しは何枚でも引き受けるって覚悟を見せただけだったんだが、誤解を与えてしまった様だね」
「いえ、こっちも早とちりでした。でも、【コピー】するにはまず手書きしなあかんけど、何回かに分けてたらサインにブレが出ますけどええんですか?」
「そのブレは逆にファン心に刺さるから気にしないで良いよ」
「ああ、コレクター的な奴ですね」
「うん、全種揃える猛者も居るかもね」
文字のブレを俺は問題として居たがハジメさんはそこをバリエーションだと捉えてる様でその手腕に感心していると、
「インタビュアーが来るまで暇だし、サイン第一弾をここで書いてみない?」
ハジメさんはここでサインを書かないか?と提案して来た。
tips
ハジメプロデューサー
元々はラジオのディレクターだったが趣味が高じて、数多くのゲーム番組を立ち上げた名プロデューサー。
中でも大規模VRMMOの数だけ存在する「最新情報局シリーズ」は根強い人気を博している。
ブックマークや評価・誤字報告していただきありがとうございます!!
今後とも本作をよろしくお願いします。