52.段取り確認と試着
「帰って来ていきなりやな」
「ごめん、打ち合わせが長引いてな。ただ、交渉のおかげで質問の量は絞る事が出来たぞ」
「それならええけど」
「という訳でこれが台本だ。大雑把だがわかりやすいと思うぞ」
そう言って1枚の紙を俺に差し出す。
「台本というよりレジュメやな」
少し小言を漏らしながらも内容を確認していく。
撮影時の流れは、
①登場からの挨拶
②インタビュー
A:MJOを始めた理由
B:実際にプレイしての感想
C:物部創一は今年は作品を出すのか?
③ソーイチからの情報提供
④〆の挨拶
の通りになっている。
「これ、俺の事しか質問されてないんやけど、ユサタクもゲストやんな?」
「あくまで俺はフォロー役だからな。ソーイチの横で補足や茶々入れるくらいだよ」
肩をすくめながらユサタクは答える。
「まあ、MJOのきっかけとかはユサタクやし、色々横から口出しは出来るか」
「そこ以外はアドリブになりそうだけどな」
「まあええか。それよりリアル質問はありなん?下手したら出版社とか絡んでくるんやけど」
少し問題になりそうな項目について聞くと大きなため息をつきつつ答える。
「そこは俺も抗議したんだがな・・・。」
(あ、これガチで抗議して通らんかったパターンやな。)
げんなりした様子のユサタクに打ち合わせが長引いた理由を察した。
「こうなったら次回作云々は色々理由をつけて絶対に断言しない方が良いだろうな」
「ゲーム参戦を理由に1年は出さんって言うのもありやと思うがそっちが無難か」
ややこしそうな話題なので玉虫色の回答を選択する。
「後、ここには書いてないんだがソーイチのサインを視聴者プレゼントにしたいとオファーがあったんだがいけるか?」
「それってMJO?それともリアル?」
【メモ】スキル持ちの俺は両方対応出来るので、番組サイドがどちらを求めてるか確認する。
「リアル5枚とMJO内では上限なしだそうだ」
「上限なし!?それって【コピー】しろって事?」
「ああ、視聴者全員サービスみたいなノリでやりたいみたいだからな。【コピー】込みは最初から織り込み済みだ」
「う〜ん、せめて単発コピーにするか。複数コピーは気持ち的にアウトやし」
感謝の気持ちを伝えるサインを3枚同時に仕上げるのに抵抗を感じる俺は、ギリギリ出来る妥協点を伝える。
「枚数は減るが仕方ないか」
「そこは諦めてって伝えといて。後リアルサインっていつ書いたらええんや?」
「宅配で色紙は送るからそれに書いておいてくれ。回収はうちのスタッフがソーイチの家まで行くから」
「りょーかい。じゃあ届いた日の夜には終わらせるわ」
「発送まで余裕はあるが頼んだぞ」
「オッケー。書き終わったらリアルの方に連絡いれるわ」
「よろしくな。それとリアルサインの報酬なんだが、出演料に色付けて貰えるらしい」
「サービスのつもりやったのに貰えるんか」
「仮にも人気作家のサインだからな。ただ、MJOの方は無料配布予定なんで紙代にちょっとプラスくらいだけど」
「レベル上げとファンサ共存出来るしそれでええよ」
「向こうには商談は成立したと伝えとく」
「商談ってえらい大袈裟やな」
「そう言うな。こういうのは形式が大事だからな」
「そんなもんか」
正直、こういう場での対応や言葉回しに違和感を感じるが、経験者のユサタクの言う事を信じる事にする。
「さて、実際の流れを把握した所で、お待ちかねの衣装の話に移ろうか」
「そーいえばコスプレするんやったな」
また一つ嫌な事を思い出して苦々しい顔つきになる。
「そんな嫌そうな顔をするなよ。衣装見た感じかなり再現度高いぞ」
「作者的にありがたいけど着る側からしたら微妙やな〜」
「文句ばっか言ってないで、試着してみろって」
そう言って衣装の入った袋を渡してくる。
「じゃあ着てみるけど鏡ってどこにあるん?」
「この周りにはないな。今回は俺がスクショ撮るからそれを見てくれ」
「それでええか」
「因みにオリジナルデザインになるから初回は手動で着替えてくれ」
「じゃあ、小屋で着替えるから待ってて」
試着の為に小屋に入り、着替える前にまず衣装全体を眺める。
(見ただけでクオリティの高さが伝わってくるな!この衣装の製作者ってクラン外のプレイヤーらしいけど『ファン学』の事知り尽くしてるやろ!)
衣装の出来の良さを見て感動しながら身に纏っていく。そして仕上げも仮面を被り、2本の短剣を腰に下げた俺は似合っているか確認する為に小屋から出ると、
「着替えたけどどんな感じや?ってなんやこれ!?」
「いや、ソーイチが衣装に着替えてるのがバレてな。一目見ようと押し寄せて来たんだ」
クランメンバー全員がワクワクした様子で待ち構えて居た。
「どうや?衣装のクオリティ最高やろ!」
どうせならと衣装全体が見れる様に一回りしてからみんなに目線を合わせる。すると少しの静寂の後、
「ソーイチさん、サイコーに似合ってますよ」
「カッコいいですね〜」
「ソーイチさん、マグナスが初登場した時のポーズお願いします!」
「じゃあ私は基本の戦闘ポーズがいいな〜」
純粋な賞賛からポーズのリクエストまで、様々な声援を俺に浴びせかけてきた。
「褒めてくれるんは嬉しいけど、ポーズは恥ずいって」
「良いじゃないか。どうせアバターなんだし、これも良いネタになるだろ」
「ネタか。それを言われたら断れんやん」
照れながらも、ネタ集めの為、希望されたポーズを取っていく。
「そうだ、どうせなら全員の集合写真撮りましょうよ!」
「良いね!ホームページに載せちゃおうぜ!」
こうして撮影会は番組側との待ち合わせ直前まで続いたのだった。
tips
ソーイチのコスプレ衣装
『ファン学』に登場するマグナスのコスプレ。
仮面含めて上から下までベースは黒で統一されているが、速度上昇の銀色のルーンが随所に散りばめられている。
双剣を逆手に持ち、速度上昇のルーンにより圧倒的な速度で敵を翻弄していく。
(今回は短期間の納品だった為、原作の様な効果は一切ない)
ブックマークや評価、誤字報告していただきありがとうございます!!
今後とも本作をよろしくお願いします。