28.初めての読書と2つのお願い
農地へ帰りながら先程の物々交換を思い出す。
(タダのつもりで持って行ったのにめっちゃええアイテムと交換できたな。畑に蒔いても効果あるみたいやけど、モチョに渡すのがいいかな?料理とか酒で使ったら味良くなりそうやし)
料理人と錬金術師を兼任するモチョなら色々活用できると譲ることを決める。その中でも聖水から生み出される料理や酒を想像していると満腹度が実装されていないのにお腹の虫が鳴いた気がする。
(腹減ってきたな。2日目終わったらおやつにどら焼きでも食べよかな?)
ご飯の事ばかり考えながら歩いていくと、
《アーサー様のパーティーがプレイヤーで初めてレアモンスターを撃破いたしました》
《アーサー様のパーティーがプレイヤーで初めてレアモンスター【片眼のブラックウルフ】を撃破いたしました》
と立て続けにワールドアナウンスが流れた。
(レアモンスターとかおるんか。さっき借りた図鑑に載ってるんかな?)
新たな要素について考察しながら自分の農地まで歩いていく。
数分後に到着した俺は早速チケットを使いユサタクに頼まれた農地をモチョの隣の畑に設置し魔力草の種を10粒蒔く。
農作業を終えた俺は約束までの時間潰しに借りたばかりの本の中から【ノアの歴史】を選んで読み始める。
この本はまだ一面草原ばかりだった所から町を作り発展していく様子が描かれたノンフィクション(ゲーム内の設定なので表現があっているのか知らないが)物語であった。そこでは後の町長が司書の知識を基に様々な指示を出していく。農家がアーツで開墾し、大工が家や城壁を組み立て、魔術師と聖職者が結界を張っていく。また襲撃してくる大規模なモンスターの群れを相手に団結して戦う戦闘職達と本当に一致団結の結果生まれた町なんだと読み進めていくうちに実感する。
「文字だけやのに絵が浮かぶくらいの臨場感やな。でも町が生まれた時の様子は描写してるけど、どこからノアへ辿り着いたかは情報が無いな〜。島には他に町が無いのも含めてやっぱり秘密があるんかな?」
物語に感動しつつも、ノア以外の町の存在についてますますわからなくなってくる。それでも読み進め約束の時間が迫った頃1冊全て読み終えた。
「経験値はキャラ100のジョブ150か。新聞の倍の経験値やけど本によって違うんかね?それよりコール来る前にメモしとくか」
経験値の確認をした後に今の知識をメモにまとめて行く。その時、
ースキル【休憩】のレベルが2に上がりましたー
【休憩】のレベルが上がった。
(本読んでたから【瞑想】は上がらんかったか。これはスキルレベルに差が出てきそうやな)
【瞑想】の今後に思いを馳せてるとユサタクからコールが入ってきた。
『お待たせ、そっちは大丈夫か?』
『ああ、用事終わったし大丈夫や。それより話したい事ってなんや?』
『それなんだが、うちのチームの運営からソーイチへ2つ依頼があってな』
『運営からの依頼ってどんな用件なん?』
『1つ目が【ユーザータクティクス】のホームページ内でMJOに参加してるメンバー一覧にソーイチの情報も載せられないか聞いてくれと言われてな』
『あれ?まだ載せてなかったん?』
『ああ、ソーイチは農家と司書というスタートダッシュに不利な職で行くと言ってただろ?そのまま情報を載せてたらうちのファンやアンチからソーイチが色々言われたかもしれないだろ?』
『足引っ張るな〜とか言われたかもしれんな』
『だから外部からの参戦って理由で安定するまでは掲載しない事にしてたんだよ』
『なるほど、ところが俺が不遇やのに大活躍したんで話が変わったってわけか』
『ああ、これなら少なくともうちのファンからは文句が出てこないし、情報を載せても作家・物部創一の名前にも傷付くことはないだろ』
『そこまで気を使ってたんやな』
『こっちから誘ったんだぞ、それくらいは当然だよ』
『で、どうだ?メンバー紹介にソーイチ載せてもいいか?』
『チームメンバーなんやし当然オッケーや』
『そう言ってくれると助かる』
『それで2つ目の用件はなんや?』
『それなんだが、まず今日はリアルの方で何時に寝るつもりなんだ?』
『どういう意味や?終わったら飲みにでも行くんか?』
予想外の方向からの質問に意図を聞き返す。
『いやいや、序盤は本当に大事だから少なくとも2週間はリアルでは飲まないよ』
『じゃあ、俺の寝る時間を知る必要が・・・って新聞の件か?販売してるのそっちやからスケジュール立てなあかんしな』
『それもあったな。ただもっと重要な事なんだ。何も聞かずとりあえず時間を教えてくれ』
『まあええけど・・・。今日はリアルで12時には寝たいし、色々込みでゲーム内で明々後日の21時にログアウトの予定やな』
『じゃあ申し訳ないんだがラスト2時間程時間もらえないか?』
『別にええんやがいい加減理由を説明してくれ』
いつまでも理由を話さないユサタクに少しイラつきながら再度問いかける。それに対しユサタクは、
『勿体振り過ぎたな。ソーイチにお願いしたいのはゲームチャンネルで放送してる【MJO最新情報局】に出て欲しいんだよ』
『えええええええ!!』
テレビ出演という無茶振りを仕掛けてきた。
tips
聖水
様々な分野で役立つアイテムだが、神聖な泉で湧き出る天然物と高位の聖職者のスキルによって生み出された養殖物の2種類がある。効果自体は両方とも同じであるが、アイテムの説明欄の表記がそれぞれ別の物となっている。
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今後とも本作をよろしくお願いします。