226.ラクレスの長話とお祭りの始まり
「ゴホン。急遽開く事となった深夜の催しにも関わらず参加してくれた住民及び渡り人の諸君、そして無茶振りに付き合ってくれた職員達にまずは感謝を。俺は冒険者ギルドのギルドマスター、ラクレスだ」
壇上の人物が予想以上の大物だとわかり、騒めく渡り人とイケおじボイスにうっとりしているモチョ。
「今回職員達に無理をお願いしてまで催しを開いたのは、この世界の復興の為集まってくれた渡り人の諸君に食事が必要不可欠なものとなったからである。正直な話、職員の中からは『そんな事で急に残業なんですか!?』という意見も確かにあった」
そう言ってラクレスが傍の方にチラリと目線を移すと、先程まで準備に追われていたフレン達が、あからさまに『怒ってます』というポーズをしている。
「ははは。まだまだ怒りは収まってないようだ」
「ははは。マスターはいつも鬼畜すぎなんだよ!」
「そうだそうだ!」
職員達の怒りポーズを見て演出だと気付いた住民達から、笑い声や野次がラクレスに向けて投げかけられている。
(って野次言い放ってんのクロードやん!ヨナ達パーティーメンバーも居るし。まあ、クロードも食いしん坊やったし出店に参加するのは納得か。でも、せっかく出会えたんやし進捗状況を交換するか)
野次軍団の中に予想していなかった人物の出現に驚き・納得し・そしてこの後の予定を組み込む。だが、その様子がぼ〜としてるように見えたのか、ユサタクから注意喚起のコールが送られてきた。
『おい、せっかくギルドマスターがいい感じの演説してるんだし、聞いとけよ』
『あっ、野次飛ばすクロードに夢中で聞いてなかった』
『マジか。Bランクパーティーが野次飛ばしてるのかよ……。って、彼らには確かにアース関連頼んでるんだよな。後で合流出来ないか聞いといてくれ』
『オーケー。とりあえず今はラクレスの話に集中するわ』
『佳境に入ったぽいしな』
こうして少しの情報交換を交えた後、俺達は壇上の演説に集中した。
「……この町の料理を食べるということは、この町の、この世界の文化を味わう事だ。まだまだ一部の者達としか接点のない我々を繋ぐ一つの楔、それが食事なのだ。だからこそ、食が必要になった直後の真夜中にこんな催しを開催する事にしたんだ」
(料理は文化か。確かに取材旅行でも観光名所以上に、その土地の食事が参考になる時もあるもんなぁ)
正直、ただのゲーム的なイベントとしか考えてなかった真夜中の出店の開催について、納得のいく開催理由を語られて思わずハッとさせられる。その後もラクレスからの含蓄ある話がしばらく続いた。
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(な、長い……。地元の校長先生の朝礼より長いんやけど)
初めはウンウンと頷いて聞き入っていたのだが、偉い人特有の病気【長話】が発動、次第に周りの目が死んでいくのを感じる。その気配は準備を担当していたギルド職員にも届いたのだろう。それを対処すべく代表としてフレンが鬼のような視線でラクレスを睨みつけた。
「おっと。いつまで話してんだこのジジイとフレンからキツイ視線が飛んできてるな。私からの長話はこれで終わらせて貰う」
「長すぎだぞマスター!」
「料理が冷めちゃうって!」
「す、すまない。もう始めるから落ち着いてくれ!」
その言葉に会場中を安堵の声で埋め尽くす。これには流石のギルドマスター様もやり過ぎたと感じたのか顔を引き攣らせながら咳払い。そして会場全てに視線を巡らせたラクレスは大きく息を吸い込んだ。
「ゴホン。そ、それでは【真夜中の交流会】を只今より開始する。参加者の面々は存分に我々の文化を味わってくれたまえ!」
ドン!
ラクレスの開催宣言と同時に炸裂音のような何かが鳴り響き、それと同時にフレン達が先程張り巡らせていたヒモから眩い光が発せられた。
「うわっ、眩しい!?あのヒモ仕切りじゃなくてイルミネーションかよ」
「そう見たいっすね。豆球が付いてないんで気づかなかったっす」
「多分、魔力を光に変換してるんだと思うが、シマシマに光るのはどういう理屈なんだ?」
「もう!イルミネーションなんかどうでもいいじゃないですか!それより出店です!文化交流です!」
「はは、確かに文化交流の時間やな」
先程の演説から文化交流という名の大義名分を得た腹ペコモチョは、急かすように背中をグイグイと出店コーナーの方へ押し出す。
「じゃあ、これから買い出しタイムだ。同じ出店に全員で並ぶのは効率悪いから、各々バラけて買いに行ってくれ。俺は食事エリアで場所取りしてるから」
「オーケー、いい感じに分けられそうなん買ってくるわ」
「早く早く、人気なところはすでに列出来ちゃってますよ!」
「モチョも急ぐのはいいけど、よそ見はダメっす。危ないっすよ……ああ!」
「きゃっ、すいません、すいません!」
「遅かったか……」
こうして小さなトラブルもありつつ、俺達は各々食べたい料理を買いに、各々の食欲と好奇心の赴くまま四方八方の出店に散ったのだった。




