212.イタズラ親父とアース米の交渉
「頂いた試作品は全て担当の者へ渡しておきました。ただ、どれも出来が良いので差し替えに時間が掛かるみたいなんです」
「となると依頼報酬にある図鑑は……」
「ええ。改訂版の魔物図鑑を、本日中にお渡しする事は難しいとの事です。申し訳ございません」
「いやいや、そこは提出するやつを1つに絞れんかった俺の責任や。それに図鑑は司書ギルドでいつでも読めるし、完成品を気長に待つとするわ」
「ご理解頂けて助かります」
図鑑作成の顛末についてフレンから説明を受けながら、俺は彼女から提供されたお茶とお菓子を楽しむ。
「さて、本題に移りましょう。今回、私を名指しで指名した理由はなんなのでしょう?」
「忙しい中ごめんな。実はギルドマスターから課されてた試練をクリアしてな。それの報告先がフレンやったから呼び出したんや」
「試練ですか?……そんな話あったかしら?」
「ええ!?ラクレスから聞いてない?クラン全員が【見習い開拓者】に転職出来るようになったら、ご褒美に開拓者系の依頼を出すって話」
「ああ、その事ですか。ソーイチさんが試練なんて仰々しく言うので、てっきりマスターが無茶振りしたのかと勘繰っちゃいましたよ」
「えっ、ラクレスって無茶振りするタイプなん?印象的にどっしり待ち構えるタイプやと思ってたわ」
「確かに厳格そうな見た目ですよね。でも意外と茶目っけがあって、気に入った冒険者はマスターから、お願いを受けてるんです。例えばクロードさん達も色々な無理難題を吹っ掛けられてたみたいですよ」
「マジか……。なあ、フレンの上司にこう言うのもなんやけど、イタズラ親父な性格で良くギルドマスターなんて重要な職を担えるよな」
「き、気持ちは痛いほどわかります。でもマスターは現役・引退後併せてたくさん実績を積み重ねて来た猛者ですし、何より目を掛けた相手はことごとく成功しているので、その審美眼も評価されてるようです」
「へぇ〜、じゃあウチらもラクレスから無茶振りされるくらいの人材になれるよう、精進せなあかんな」
「あはは、それくらいの気持ちの方が冒険者として成功しそうですね。って、また話が逸れちゃいましたね」
意気込む俺の姿を微笑ましく見つめるフレンだったが、話がまたまた逸れている事に気付き少し顔を赤らめる。
「えっと、【ユーザータクティクス】全員が【見習い開拓者】に転職でしたよね」
「ああ、ラクレスが提示した期間はまだまだ残ってるけど、前倒しでクリアしたわ」
「ほぇ〜。相変わらず渡り人様の成長力はスゴいですね〜」
「ちゃうちゃう。うちがスゴいんや」
プレイヤーの異常さに驚くフレンに対し、ウチこそが特別だとアピールする。
「ははは、実績を考えたらソーイチさんの言う通りですね」
「そうやろ?」
「ただ、せっかく試練をクリアして頂いたのに申し訳ないのですが、依頼の調整がまだ終わってないんですよ……」
「ああ、半分くらい前倒しでクリアしたもんなぁ。しかも開拓系の依頼となると、場所の選定や調整の手間も掛かると思うし」
「ええ、どこを開拓するか色々な意見が飛び交い、議論は難航してるんですよ。でもソーイチさん達には関係のない話ですし、ご褒美を後回しと言うのも情けない話なんですよねぇ」
「なるほどなぁ。……あっ、それなら頼みたい事あるんやけど」
「頼み事ですか?」
話の流れから、今こそアース米関連のおねだりをするチャンスだ悟った俺は、興奮を抑えながら提案する。
「無茶振りなんは承知の上なんやけど、アース米の種と栽培許可って貰えへんかな?」
「アース米ですか?」
「ああ。昨日【暁の狼】の打ち上げに混ぜて貰ったんやけど、そん時飲んだアース酒が俺好みでな。未知の作物でもあるし、是非とも手に入れたくなったんや」
「なるほど。クロードさんのクランなら、他の町の特産品を用意できる高級店でも呑めますもんね」
「えっ、奢って貰ったんやけど、やっぱメチャクチャお高い店なん?」
「……私は入店許可があったとしても、懐事情的に入れないお店ですね」
「マジか……」
アース米の交渉をしていたはずなのだが、フレンの反応を見て改めて高級店を奢って貰ったのだと、少しビビる。
「ま、まあクロード達には出世払いでお返しするとして、アース米の件はどうなん?」
「そうですね……。原則としては町を解放するまでは、その土地のものは報酬に出さないと決められてるんです。でも他でも無いソーイチさんのお願いですからね……」
「あっ、そんな決まりあったんや」
「ええ。アース米のような作物は再生産可能ですが、特産品などは一点物がほとんどですしね。報酬の偏りによる不公平感から、渡り人様との関係悪化が心配なのですよ」
「なるほど」
先のマップのアイテムを制限する、ゲームでは当たり前の事情にも理屈を付けてるところに、作家として感心する。だが、それとアース米を確保したい気持ちとは話が別だ。俺は確実に手に入れる為に、アピールを続けていく。
「でもアース米は作物やし、増産出来るやん?ウチのクランでも購入できる種は全部育てて少しマンネリ化して来たし、ここらで新要素をちょい足ししたいんよ」
「確かに作物なら……。でも……」
俺にアピールは確かに効いてるようだが、それでも迷うフレン。俺は祈りながら彼女の決断を待つのであった。
次回は1月7日(水)午前6時に更新予定です。
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