211.情報制限と作業終了
「載せへんって……。どうやったら出会えるかって情報は、ある意味一番有用やろ?それを載せへんとか、図鑑の資料的価値が減るんとちゃう?」
「おっしゃる通りだとは思います。でも一般に貸し出しする本に出現方法まで記載するのは危険だと判断されたようです」
「危険?……ああ、実力不足の冒険者がイケると思って出現させた上で、全滅&町への被害を危惧してるかんじ?」
「ええ、その通りです」
冒険の道標である図鑑に載せない事を少しだけ不満に思っていたのだが、その理由を察し納得する。
「正直な話、ベビースライムの群れからの総攻撃を対処しながら、戦闘に参加しないベビースライムリーダーを見つけ出すという作業自体は、そこまで難易度が高いものではないんです」
「まあフルパーティーやったら、5人が攻撃捌いて1人が観察役でいけそうやもんな」
「ええ。おそらくEランクの冒険者でも、連携次第では不可能ではないでしょう。ただレイヤースライムの討伐となれば話は変わります」
「クロード達の物理攻撃をも耐え切れる防御力に、第二形態の質量攻撃や第三形態の鞭連打。この3つを危なげなく対処することができる冒険者は、そのランクには少なそうやな」
ふと俺の脳裏に、思慮不足なキャラが祠や封印を破壊して酷い目に遭う、パニックホラーの導入が頭に浮かんだ。
「幸いレイヤースライムの出現条件が特殊すぎて、偶発的に起きる事はないでしょう。それなら出現方法は隠した上で、脅威や対処法だけを伝える。つまり情報を制限する事こそが最善だと判断された訳です」
「あんな手の込んだ回りくどい事する奴、俺以外する奴おらんしな。リスク・リターンを考えたら納得のいく判断や。ただ、ウチやクロード達のクランが情報を独占する形になるけど、そこは大丈夫なん?」
判断としては妥当オブ妥当なものであるが、それ故に調査隊参加者が持つ手札が優位すぎる事に疑問を覚える。
「そこはご安心ください。後日、守秘義務の契約はクラン全体で結んで頂きますが、個人で討伐する分には問題ないです」
「マジか!」
「ええ。ただ、出現をさせた上で討伐失敗してしまった場合、とても大きなペナルティーを受ける事になります。ですからレイヤースライム出現・討伐を実行に移す場合は、しっかりと準備を整えた上で挑んで下さいね」
「う、うす」
そう言って凄む受付さんの圧力を全身で受けた俺は頷く事しか出来なかった。
「はっ、すいません。最後はお説教っぽくなっちゃいましたね」
「いや、町の為考えるなら当たり前の事しか言ってないし、気にせんといて。俺としても気が引き締まるキッカケになったし」
「そう言って頂けると助かります」
自分でも圧力を掛けすぎたと自覚があったのか、俺の言葉を聞いて胸を撫で下ろしていた。
その後は、横道に逸れることなく説明は進んでいき、無事に図鑑を書くための前情報を全て把握する事が出来たのだった。
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「う〜ん。図鑑作るの初めてやから、コレといった出来にならんな」
説明が終わり受付さんが退室してから30分。最初はレポート内容を上手く散りばめるだけで良いと高を括っていたのだが、書けば書くほど内容に違和感を覚えてしまう。
(この書き方やとあっさりしすぎてるよな……。次は癖を強めた文章を書いてみるか)
そうして書き上げては首を傾げ、また書き上げる。そんな作業を2時間続けていると、気がつけば5つのパターンの試作品が出来上がっていた。
「あかん、書きすぎて何がええのかわからんくなってきた……。どれでもええ感じするし、逆にどれも駄作に感じるなぁ。どうしたら……」
コンコンコン
「お待たせしました。ってあら?」
途方に暮れていた俺を天は見離さなかった。突如響き渡るノック音の後フレンがようやく来てくれたのだ。
「これ全部、レイヤースライムの図鑑の試し書きですか?」
「ああ。どれもしっくり来なくてな。ひたすら書き直してたら5つも作ってたわ」
「あらあら。どれも問題ないというか、良く出来てると思いますけどねぇ」
フレンは5種類の試作品を見比べて可笑しそうに笑う。
「そうか……。もう俺では判断出来なくなってるし、一番良さそうなの選んでくれへん?」
「どれも良い出来なので、逆に悩んじゃいますね……。うん、せっかく色々と用意してくれたので、ウチのマスターや司書ギルドの上役に見せちゃいましょう」
「まあ、管理サイドの人間が判断するのが一番か。じゃあ書き上げた5つ、全部提出でお願いするわ」
「かしこまりました。では報酬については後ほど受付にて受け取ってください」
「了解。本題が終わったら貰いに行くわ」
2時間以上考え抜いて書き上げたおかげで、なんとか図鑑作成の依頼をこなす事が出来たのだった。
次回は1月6日(火)午前6時に更新予定です。
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