162.依頼内容とフリーパス
「……アレ?そういえば依頼の報酬ってどんな感じなん?」
「ご、ごめん!まずは依頼書見せてからだよね!」
よく考えたら依頼内容について一切触れてなかった事に気付きルーカスに尋ねると、彼もド忘れしていたらしく、慌てて依頼書を差し出した。
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【新聞の印刷業務】
指定された記事の複製を作成する(上限2,000枚)
※【初級MPポーション】100枚当たり1本支給
必要技能:【スキャン】【メモLv10】
推奨技能:【スキャンLv3以上】
【報酬】(100枚当たり) 100AGP 100CGP 支給したポーションの余り
【期限】本日の22時まで
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「こんな内容なんだけど……」
「ふむ。前の印刷業務に比べて、ゴールド無しに加えて支給ポーションも少し減ってんな」
「うん……。大討伐が迫っているせいか、ポーション類が高騰していてね。正直売り上げや補助金だけじゃ厳しくて、こんな報酬になっちゃったんだ」
「ノア・タイムスの購読料金、激安やもんな。そりゃ報酬も減るわな」
「で、でも領主様や各ギルドマスターと相談して、ポイントは多めに設定してるから……。ゴールドやポーションは割り切ってくれると助かるかな」
「ポイント多めか……。確かにAGPやCGPの方が俺的には嬉しいし、喜んで受注させてもらうわ」
俺は報酬に納得し、依頼書に受注のサインをする。それを受け取り大判のハンコを押したルーカスは、補足の話をする。
「これは受注者限定で伝えてるんだけど、実はこの依頼書を部屋のドアにかざせば、作業部屋に自由に出入りできるんだ。だから紛失や他人への譲渡は勘弁してくれよ」
「ええ!?こんなペラペラの依頼書が、この部屋に入るための鍵なん?」
「うん!裏面に文字がびっしり書いてるだろ?この依頼書は【古代語】と【エルフ語】で書かれた魔道具なんだ」
「うっ!?両方スキルセットしてるのに、情報量の圧で1ミリも理解出来ん。というかエルフ文字なんてこの世界来て初めて見たわ」
普段は死蔵しているスキルを使える良い機会だと思い依頼書の裏を確認したのだが、俺の能力不足なのか全く理解が出来ない。それでも初めて目にしたエルフ語に少し興奮する。
「古代文字やエルフ関連の文献って、図書館でも重要度高いらしいからね。読みたいならガンガン本読まないと!」
「マジか……。どうせ今日はここ缶詰する予定やし、先に本借りてこよかな」
「回復中の暇つぶしって大事だもんね。僕は席の準備をしてるから、その間に借りてきなよ」
「ああ。パパッと行ってくるわ」
重要度の高い【古代語】と【エルフ語】の文献。それらに一歩でも近づくために、俺は図書館へと駆け込み、本を大量に借りてきた。
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「ポーションよし!紙束よし!グローブ、よし!暇潰しの本よし!準備は完璧!」
「そのようだね。じゃあよろしくお願いするね」
「おうよ」
全ての準備を終えた俺はウエルカムドリンク代わりにジュースと支給されたポーションを飲み干し、【5枚刷り】のアーツを連打。【デュアルグローブ】の効果もあり、あっという間に100枚分の【コピー】を作り出す事が出来た。
「流石にグローブ使うと早いね〜」
「この性能ヤバいな。なあルーカス、個人的に持っておきたいんやけど、この魔道具買える場所教えてくれへん?」
「あぁ。それなんだけどね……」
獲得経験値こそ変化は無しだが、やはり2倍の効果はすごい。俺はなんとか手に入らないか、聞いてみたのだがルーカスの反応が芳しくない。
「【デュアルグローブ】を作れる職人は、もう居ないのさ……」
「居ないって、製作者もう亡くなってるん?」
「うん。先の大戦に巻き込まれてね」
「マジか……」
町解放クエスト以外では関わらないと思っていた過去の大戦。その爪痕がこんな所にも残っていたのかと驚く。
「現存するグローブの数は15個。この部屋にある分だけなんだ」
「マジで貴重品なんやな。こりゃ買うのは諦めるしかないか」
「ソーイチ君にはお世話になってるし、希望を叶えてあげたいんだけど、流石にねぇ」
「そっかぁ。じゃあ【デュアルグローブ】使えるのは依頼の時だけか……。残念やけど諦めるしかないわな」
「貴重品だからレンタルも無理だしね……って、そうだ!」
事情が事情なので、渋々グローブを諦める事に。
そんな俺を労るような眼差しで見ていたルーカスだったが、突如声を張り上げる。
「ねえ、ソーイチ君。この部屋でいつでも入れて、グローブも使い放題の権利欲しくない?」
「うん?それって依頼無しの私的利用でもオーケーって事?」
「うん、私的に使ってもオッケーだよ」
「それなら権利めちゃくちゃ欲しいけど……。でもその権利、ゲットするにキツい条件あるんやろ?」
【デュアルグローブ】や発表前の記事など、大事なもので溢れている部屋に出入り自由は流石に高待遇すぎる。俺はどんな無茶振りが飛んでくるのかヒヤヒヤしながら条件を尋ねる。すると、
「うん!さっきの分も含めて1000枚。今日中に1000枚印刷してくれたら、フリーパスを進呈するよ!」
案の定、4桁枚数の印刷という予想通りの無茶振りが返ってきた。
次回は11月13日(木)午前6時に更新予定です。
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