159.椅子運びと雑談とサングラス
ポン・ピカ・ガラガラ ポン・ピカ・ガラガラ
拷問椅子から解放された俺は、ユサタクの椅子係というか、【心眼(序)】検証実験のお手伝いに精を出していた。
(運びにくいな!操作性悪い上にブレーキとか無いし、1区画分ピッタリの移動も地味にキツい。よく運搬担当の人は俺に違和感すら感じさせずにスムーズに運べたな)
自分が運ぶ側になって初めて技術が凄かった事を知り感心する。そして俺も同じ技術を得るために、慎重にユサタクの座る椅子を押し続けた。
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ソーイチ:1ターン目終了!思ったより運ぶのむずかったんやが、揺れんかったか?
ユサタク:いや、想像していたよりは揺れなかったぞ。
ソーイチ:そりゃよかった。
被験者3人のST・MPも尽き、しばしの間の休憩時間。俺は木陰に座り込みクランコールと洒落込んだ。
ユサタク:ところでソーイチは次ターンまでの待ち時間、何するか決まってるのか?
ソーイチ:そうやなぁ。まずは【見習い記者】が後ちょっとで卒業できそうやから、レベル上げ&教会ダッシュやな。
セキライ:もう卒業っすか!?めちゃくちゃ早いっすね!
ソーイチ:【メモ】使いまくったおかげやな。あれって経験値効率めっちゃええし。
ゼロ:【メモ魔】なしでもバフ込みで4倍弱でしたっけ?他は等倍〜2倍とかなので効率いいですよね。
ユサタク:まあ、その分低いステータスと序盤の難易度で調整してるんだろう。
フワフワ:ソーイチさんのプレイングで忘れがちですが、司書系って不遇ジョブNo1ですもんね〜。
アマネ:依頼書作りや新聞などをソーイチさんが発見しなかったら、今でも不遇ポジションのままだったのかもしれないですね。
ソーイチ:そんなに褒められたら照れるわ。
この話題になると、いつも褒めてくる仲間達に赤面する。俺はそこから逃れるために、更なる予定を語る。
ソーイチ:それより話戻るけど、【記者】に転職したら次はノア・タイムスに顔出そかなって。
アマネ:ああ。見習い卒業で依頼増えてるかもしれないですしね。
ユサタク:より重い責任のもありそうだな……。
ソーイチ:やる気無くす事言うなよ……。俺はなるべく責任とは無縁でいたいんやから。
プレッシャーをかけてくるユサタクに、俺は泣き言をぶつける。
ユサタク:ははは、がんばれ。それと言うまでもないかもしれないが、【心眼(序)】の記事を書くんじゃないぞ。あれは最低数日間は隠すつもりだからな。
ソーイチ:流石にそんなアホな真似せんわ。実験もあるし、よっぽどウマい依頼がない限りは受けへんし。
ユサタク:それなら良し!
ソーイチ:あっ、記事で思い出したけど、俺の記事のせいで迷惑掛かってないかの確認もせなあかんな。
ゼロ:新聞契約ができなかったプレイヤーが売店に殺到するという予想ですね。
ソーイチ:そう!俺のせいで業務に支障が出てへんか気にるし。
ユサタク:たしかにソーイチの記事が原因で事件でもあったら大変だ。もし尻拭いを依頼されたら実験は無視して手伝うんだぞ。
ソーイチ:了解。一報入れてから手伝うわ。
自意識過剰かもしれないが、あらかじめイレギュラー対策の心構えはしていくべきだろう。ユサタクからの許可ももらいノア・タイムスへの対応の方針が決まった。
その後も色々な話題で楽しく話していたのだが、ある時フワフワから素朴な疑問が投げかけられた。
フワフワ:ところでソーイチさんってまだ目隠し装備してるんですか?
ソーイチ:ああ。デバフ無視できるし【瞑想】+1レベの効果狙いで着けっぱなしやな。
フワフワ:でしたら、向かう前に外した方が良いと思いますよ〜。
ゼロ:たしかに目隠しを着けっぱなしは不審者一直線ですからね。
セキライ:ええ〜。呪術最強さんや琉球王国秘伝の使い手みたいでカッコいいじゃないっすか。
ソーイチ:◯条さんに、◯水さんか……て、数十年前の漫画やん!よく知ってたな!?
セキライ:おじいちゃんの家で昔読んだっす。
アマネ:そのキャラは知りませんが、コスプレしても住民はわからないでしょ。
セキライ:言われてみれば通じないっすね。
フワフワ:この世界にコスプレって概念があるかもわかりませんしね〜。
ソーイチ:じゃあ目隠しは外すのは確定。ただ目をずっと閉じてるのも不審者レベル変わらんよな。
ゼロ:それより目を瞑りっぱなしという奇行は、他プレイヤーに【心眼(序)】のヒントを与えてしまう可能性もありますよね。
ユサタク:条件的にすぐにはバレないと思うが、注意は必要だしな。
アマネ:今日の実験も南口付近の第1農地ではなく、きのこ小屋で目隠ししている第2のホームでやってますもんね。
フワフワ:もし第一で実験してたら条件が漏れてたかもですし、念の為にここでやって本当に良かったです〜。
ゼロ:さて実験の苦労話は置いといて、重大な課題ですし目を閉じっぱなしでも違和感のない方法を考えましょうよ。
ソーイチ:重大って俺の外出ファッションの話やろ?大袈裟すぎるで。
ゼロ:今回はそうですね。ただ、このクラン全員が遠くない未来で【心眼(序)】を覚えるんです。
ゼロ:スキルのON・OFFで熟練度に影響するかの検証も出来てない現状、なるべくONにした上で目を閉じているのを誤魔化すのは、クラン全体の課題と言っても過言ではないです。
ソーイチ:なんか急に話がデカくなっとんなぁ。
アマネ:ですね〜。って、そうだ!良い装備があるんです。
不審者にならない為の対策から、クランの命題にまで格上げしている流れに驚く。そんな中、露店担当のアマネが何か思い出したのか、クラン倉庫からメガネの様なものを取り出した。
ソーイチ:これ何?モノクロでよくわからんけどメガネ?色の濃さ的に色ついてる?
アマネ:ええ。これは漆黒のサングラスって言います。これで誤魔化せばいいんじゃないですか?
ゼロ:なるほど。レンズが大きく、レンズの色も濃い。これなら他人から目元を隠すことができますね。
セキライ:これいいっすね!ソーイチさんの銀髪とサングラスの組み合わせ!ますます五◯先生っぽいっす!
ソーイチ:まだ言うか……。でも、サングラスか。それなら元から色ついてるなら、モノクロの世界の違和感無いかもしれへんし、コレええやん!思いついてくれたありがとう、アマネ。
アマネ:あはは、どういたしまして。
俺の感謝の言葉にニヤけながら頭を掻くアマネ。
ゼロ:これで問題も解決ですね。【心眼(序)】を隠すためにも、これから【ユーザータクティクス】のメンバー全員、サングラスを着けましょう。
ソーイチ:このファンタジーの世界でグラサン軍団か。オモロいけど逆に目立たへんか?
ユサタク:だが有効だしな……。それなら暇つぶしに言い訳考えるか。
ベイクドモチョチョ:面白そう!賛成〜〜!
こうして《クラン全員がサングラスを掛けた。一体なぜ》という、会議というか大喜利大会が開かれたのだった。
少し体調を崩してしまいました。
次回は30%の確率で11月10日(月)午前6時に更新予定です。
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