153.ゲームをしないプレイング
『MJOに興味ないって、そんな事ある?MJOの参加者って一部の招待枠以外じゃ、超々倍率での募集に勝ち取ったやる気モリモリの人だけの筈やろ?』
『そ、そうですね』
参加ハードルの高いゲームという事前知識から、寝太郎くんのようなプレイヤーがいるとは想像すらしていなかった。俺はその真意を知る為に質問を続けていく。
『プレイして嫌いになったなら理解できるけど、最初から興味なしなんやろ?』
『完全にゼロではないですよ。特に体感時間の延長は最高ですね!そのおかげで開始から映画50本は観ましたし』
『ああ〜。そっち目当てか。それならゲーム自体に関心薄いのも分かるわ。というか寝太郎の参加経緯がバレたら外野がめんどくさいし、あくまで俺の心の中に留めとくわ』
『あ、ありがとうございます』
1本2時間として、およそ100時間。MJOに興味がないと言いながら休憩系スキルが高い理由に納得できた。
そして彼のプレイスタイルが落選者達に広まれば、面倒な事態も考えられるので、答える時に躊躇したのだろう。
『ところで抽選に当たった場合、どんなメール来るん?俺の周りって招待枠ばっかやし興味あるんやけど』
『う〜ん。実はこのゲームに参加したきっかけって、福引きで特等を当てたから、なんでわからないです』
『福引き!?更にレアケースやん!というか何処でやってたん?」
『去年のTKゲームショーですね。で、スタンプラリーの報酬で手に入れた福引券でガラガラ回したら、虹色の球がポロって』
『マジか……。あのイベントでPRしてたらしいし、福引きの景品に入ってたんやな。というか特等って寝太郎くん、ラッキーボーイにも程があるやろ』
『ははは。でもイベントで当てちゃったので、雑誌に載っちゃって……。なので絶対に内密でお願いします!』
『オ、オーケー。流石に俺のせいで闇討ちや炎上の被害者出したくないし、絶対言わんと誓うよ』
『ありがとうございます』
思った以上に闇討ちの可能性は高いらしく、改めて他言無用の念を押された。
『ところでソーイチさんには本当に感謝してるんですよね』
『そういえば挨拶の時に言ってたな。俺なんかした?』
『まぁ、直接何かして貰った訳じゃないんです』
『今日が初対面やもんな。じゃあ感謝までのエピソード、聞かせてもらえる』
面白そうな話が聞けそうだとワクワクしながら、理由を尋ねる。
『個人的な話なんですけど、実はサービス開始の日に寝坊しちゃって、イン出来たのがゲーム時間で1日目の夜だったんですよ』
『あらら。それじゃあギルドも門も閉まってるし、なんも出来へんかったんとちゃうか?』
『そうなんです!それで少しはあったモチベーションもガタンと落ちちゃって……。で、不貞腐れながら掲示板を巡回してたら、僕見つけたんです』
『見つけた?』
『ええ。ソーイチさんが辿った依頼書作成でのランクアップのルートを。それを見てピカッと閃いたんです!』
『俺の攻略ルートで閃くって……。まさか』
『ええ。ソーイチさんが編み出した休憩スキル利用した町中でのレベリング。あれならサブスク漬けの引き篭もり&放置プレイでも、いい感じにゲームも遊べるじゃないかって。だから即キャラデリして、改めてメインを【見習い農家】に、サブを【見習い司書】のキャラで再スタートしたんです』
『プレイングの見本があるとはいえ、思い切りが良すぎやろ……』
大胆というか熱心でないからこそ出来る、割り切ったプレイングにある種の感動を覚える。
『これでダメだったらゲームで遊ぶ事を諦めてサブスク一本に絞るぞって、暴走した意気込みでしたけどね。でも選択がハマったおかげでサブスクと休憩スキルで回復させて、その分を依頼書作りや農作で消化する、今のサイクルが生まれたんですよ』
『放置回復&アーツぶっ放しって、今回の実験みたいな行動を延々と取ってたんやね。自分から進んで』
『さすがにソーイチさんみたいに拷問椅子は無しですけどね』
『ははは。そりゃそうか』
『そうですよ〜』
拷問椅子で話のオチが付き、互いに笑い合う。その後も雑談を続けていると、気がつけば取材開始から1時間以上も話し込んでいた。
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『いや〜今日はええ話聞かせて貰ったわ。まさかサービス開始からの一番アツいタイミングで、プレイ時間の大半をサブスク視聴にぶち込んでるプレイヤーがいるとは思わんもん』
『でも、8倍も映画やマンガが見れるなら、誰でもやるでしょ?』
『ゲームで飽きたタイミングならわかるけどな……。まあ、これ以上は価値観の違いになるし終わりにしよ。休憩系トップって結果も出しとる訳やし』
『そうですね。僕は変わらず引き篭もり続けますよ』
こうして脇道というか休憩所系プレイヤーへの取材は終わった。
『ところで、今のペースなら休憩系のPPゲットは確定やし、ちょっとだけ賞金ゲット出来るかもしれへんな』
『あっ、ポイントは貰えないと思います』
『なんでや?休憩部門では多分ダントツやで?』
『いや〜。そろそろ大学の春休み終わりますし、友達と今晩ボーリング&ダーツバーでオールするんですよ。なのでリアル1日は二日酔いとかでゲーム出来ないと思います』
『マ、マジか……』
まさかの友人とのリアル飲み会!俺やユサタクの様なこのゲームに全てをかけてるプレイヤーには思いもつかない【まとも】な用事!
サブスク特化のゲームスタイルや現役大学生の徹夜飲み会といい、俺とは対照的な若さ溢れるオーラに慄くのであった。
次回は11月4日(火)午前6時に更新予定です。
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