152.実験開始と寝太郎へのインタビュー
「経験値の確認OK。【消音】【盲目】状態でのサブスク及びコールログの閲覧と書き込みの動作確認OK。【拘束】状態でのスキル発動確認OK。がぶ飲み君でのポーション摂取確認OK。全て正常に作動しています」
「なんとか時間に間に合ったな」
「せやな。あの寸劇のせいで変な空気になった時はどないしようと思ってたけど、いい感じに始められそうや」
「ははは、確かにな」
リアクションというかクレーム系コントが微妙だったのか、一時は変な空気になってしまった。
俺達は気まずい状況から抜け出すために全力でチェック作業に没頭、その頑張りのおかげで雰囲気は真剣さを帯びていき、リハーサル含めた全作業も開始前に終える事ができた。
「じゃあ時間やし始めよか」
「そうだな。……ゴホン、これより【瞑想】強化実験を開始する。これから先のコミュニケーションはコールでの報告と、スキル発動時の肩ポンだけになる。いいな」
「オーケー」
「よし!ではセキライ、ソーイチに耳栓と目隠しを装備してやってくれ」
「はいっす!」
すでにバンドにより全身を拘束されている中、セキライの手によって無音・暗闇の世界へ突入する。
(ゲーム内って理解してても視覚・聴覚のカットはドキドキするな。あぁ、この心情・経験は絶対ネタにするからな!)
作家魂を胸に俺は深呼吸を2回、その後目隠しの裏で目を閉じた。
・
・
・
ー【瞑想】が発動されました。これよりサブビジョンを起動しますー
事前に設定しておいた通知アナウンスが流れた後、暗闇から一転、煌びやかなサブスク選択画面や各システムオプションが目の前に浮かび上がる。
俺は思考入力により、先ほどまでの心情をザッと書き留めると、次にユサタクへコールを送った。
『こちらソーイチ。無事【瞑想】状態に突入したで』
『よし。まずはMPとSTの消費作業に移る。鍬を渡すから肩を叩くリズムに合わせてアーツを発動させてくれ』
『了解。新兵器パート2のお出ましやな』
今回の実験用に導入されたアイテムは、実は拷問椅子だけではない。【瞑想】状態中でのアーツの発動ミスを防ぐ為に、念じるだけで鍬やジョウロなどに変形する【万能農具】ではなく、耕作や水やりに特化した農具をそれぞれ準備していたらしい。
『農具持ったし、いくで!』
『よし、開始!』
ポン・ピカ・ガラガラ ポン・ピカ・ガラガラ
肩を叩かれ、アーツを放ち、運ばれる。時に農具を変えながらこの一連の動作をSTが尽きるまで行う。
『次でSTガス欠や』
『よし、次はMPだな。作家モードにジョブチェンジ頼む』
『オッケー』「作家モードへチェンジ!」
お次はサイン作成。事前に音声登録していたコマンドを叫び、ジョブを変更する。
『ジョブ変更を確認。腕動かんから手元にサイン色紙お願い』
『ああ、すぐ持っていく』
『頼むで』
現在バンドで腕を固定されているので、アーツの誤作動を防ぐ為にも手元まで色紙を持ってきてもらう。
ポン・ピカ ポン・ピカ ポン・ピカ
農作業と同様に肩ぽんと【コピー】発動を熟練した餅つきのようなテンポで放ち続ける。俺には確認できないが、目の前にはサインの山が出来ているのだろう。
『今思ったんやけど、このサインの作り方って機械印刷とどう違うんや?スイッチ押してピカって流れはぶっちゃけ人間印刷機と変わらんし』
『う〜ん。サインの企画のページにはアーツで作成すると告知済みだし、そこは問題ないんじゃないか?』
『確かにその通りかもしれへんけど、情緒がないというか……』
『そういうもんか。まあ、時間はたっぷりあるんだ。待機時間中に追加のファンサービスを考えるのも1つの手だぞ』
『ふむ。それはええ時間の使い方やな。っと、これでラストや』
『よし、じゃあ1ターン目はこれにて終了だ。次回は8時30分開始の予定だから、それまで自由に過ごしてくれ』
『はいよ。なんかあったらコールするわ』
相談事を話している間にも作業は進み、10分程で全てのMP・STを消費しきった。そして次に来るのは実験のメインパートである、1時間以上の待機時間である。
(うんうん。ジョブレベルもいくつか上がってるし、幸先ええな。で、当分暇な訳やけど何しよか?ファンサについて?寝太郎くんへの取材?出来ること多くて逆に悩むわ)
まずステータスを開き成長具合を確認、報告後に何をしようかと悩む。その結果、知識欲が勝利し、寝太郎くんへのインタビューに決定。早速彼にコールを送った。
・
・
・
『という訳で、新進気鋭(自称)の記者として、色々インタビューさせてもらうで」
『はい!よろしくお願いします!』
『じゃあ最初の質問やけど、休憩系のレベルが全て高いけど、何か秘訣でもあるの?』
『秘訣ですか?そんなのないですよ』
『あれ?裏技とかは……』
『ええ。自分的には変わった事してないと思うんですが……』
彼の一番の謎から質問を投げたのだが、どうも要領を得ない返答だ。
『真っ当な手段しか取ってないとか、それこそず〜とログインした上で、ほぼ目瞑って移動しないって矛盾したプレイングしか無いと思うんやけど』
『あ、それ正解です!』
『うえぇ!?マジで今回の地獄の実験みたいなプレイングを延々としてたん!?』
『流石にぶっ通しって訳ではないですけどね』
まともな感性をしていると思っていた相手から出た驚きのプレイング。俺は彼の評価を内心書き換えながらインタビューを続ける。
『いやいや。それでも楽しいゲームのオープニングやで?町探索や冒険に攻略とか、やってみたい事なかったん?』
『え〜と。う〜ん。【ユーザータクティクス】みたいなトッププレイヤーには言いづらいんですが……』
躊躇うように一旦言葉を止める寝太郎。
『……』
『…………』
『……参りました、白状します。実は……』
『実は?』
返答が来るまで辛抱強く無言で待ち続けると、根負けしたのかポツポツと話始める。
ただその内容が、
『実は僕、MJOにほとんど興味がないんですよね……』
『ええ!?興味がない!?』
激戦の末に参加権を勝ち取った者とは思えない、衝撃的な発言であった。
次回は11月3日(月・祝)午前6時に更新予定です。
ブックマークや評価・誤字報告していただきありがとうございます!!
今後とも本作をよろしくお願いします。




