144.初めての取材と次の約束
コンコンコン
「どうぞ〜」
「失礼します。ノア・タイムスから参りました、ソーイチです」
「あら、今回の担当記者さんってソーイチさんなんですね?」
まず受付で用件を伝えた、そのまま取材場所である第3会議室に向かう。そしてノックをしてから入室し挨拶をすると、既に待機していたフレンが目を丸くして驚いた。
「ビックリした?実は【見習い記者】のジョブが開放されてな。で、ルーカス社長に相談したら、いつの間にか取材から紙面作りまでセットで依頼されたんや。だから今からするのが、初取材って訳やな」
「なるほど、そうなんですね。ソーイチさんがこの世界に来てから10日程しか経ってないのに、もう取材まで任されてるなんて凄いですね!」
「はは、ありがとう。とりあえず取材までの経緯はこんなもんやな。それよりマニュアル貰ったとはいえ、初取材は緊張しまくりでな。だから本番ではお手柔らかにお願いするわ」
「ふふ、わかりました。今回はソーイチさんを優しくリードしてあげますね」
お茶目にウインクしながらフレンは笑って言った。
ゴーン、ゴーン
「取材開始の鐘が鳴りましたね。ソーイチさん、こちらの席にお座り下さい」
「あ、はい。失礼します」
和やかな談笑モードから一転、フレンの雰囲気がサッと取材モードへと切り替わる。俺はその変わりっぷりに面を食らいながらも指定された席に座り、机にマニュアルとメモを広げた。
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「本日はお忙しい中、ありがとうございます。今回取材を担当させて頂くソーイチと申します。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。私は冒険者ギルドの受付兼広報担当のフレンです」
まずはマニュアル通りの挨拶から始まりテンプレに沿った言葉をいくつか交わす。
「さて、舌も回ってきた事ですし本題に移りましょうか」
「そうですね。なんでも聞いて下さい」
「ありがとうございます。今回はこの町の代表であるセイラ様より告げられた【アースの町解放】、その公示から1日経過した訳ですが、冒険者ギルドの業務では何か変化はありましたか?」
「そうですね。やはり【一番の変化】は、【依頼受注数の大幅な増加】ですね」
「やはり増えてますか」
「ええ。元から渡り人の方々は積極的に依頼を受注されてたのですが、あの宣言以降は受注が【3〜5割増し】で増えています」
「なるほど」
「おかげで素材の納品が増えて【解放後に必要な物資もどんどん集まって】いますし、【魔物の討伐で魔素も安定】してきています」
マニュアル通りに質問をしていく中で、重要そうなワードを話す時、フレンがアクセントを少し加えて話しているのに気付く。どうやら重要なワードを話す際に抑揚を付ける事で、俺がメモしやすい様にアピールしてくれているようだ。
(聞き取りやすい話し方に、メリハリの付いた発音、これが熟練の技なんかね?)
俺は感心しながらも、引き続き取材を進めていく。
「依頼の受注数が大幅に増加したのは素晴らしいですね。では、逆にトラブルは何かありますか?」
「今回の依頼では【渡り人の中でも一定水準以上の戦力を保持しているクランの方々は、一足早く参加していた】んですが、その事についてのご意見・クレームが多く寄せられてるんですよ」
「確かに、我々が一丸となって挑む依頼に対して、公示から数日前の時点で抜け駆けしている者がいるとなると不公平感が出てしまいますよね?それらのクレームに対してギルドとしてはどういったスタンスで説得していくつもりなのですか?」
(なんて、第三者目線で質問してる本人が抜け駆けの第一人者って言うのは、半分ギャグやろ)
真剣な眼差しで取材していくが、その第一人者が自分達のクランだという皮肉さに、心の中で少しにやけてしまう。その心を読んだのか、ちょっとこちらに強い視線を向けながら咳払いを一つする。
「こほん。我々ギルドとしては、必要であれば、これからも【こちらが実力・実績を認めた冒険者】に対しては【優先して仕事を割り振る】、その事実を丁寧に伝えていくつもりですね」
「なるほど。あくまでもスタンス自体は変えるつもりは無いとの事ですね」
「ええ。この【世界の命運を賭けた依頼】ですからね。強さも勿論必要ですが、更に【信頼できる相手】に仕事を重点的に任せるスタンスは曲げられませんので・・・」
「なるほど。それは仕方ありませんね」
プレイヤー目線だと厳しい意見かもしれないが、それでも世界の復興に燃える意思が込められたコメントに、取材の域を超えた願いの様なものを感じた。
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その後もマニュアルに沿った質問を投げかけ、フレンが答える。まるで餅つきの様にこれの繰り返しをテンポ良く行いながら取材を進めていくと、あっという間に予定されていた終了時間になっていた。
「ふぅ。今日は取材にお付き合い下さりありがとうございました。アースの町解放という重大な依頼がどう影響していくのか、読者の皆様にお届けする事が出来そうです」
「いえいえ。こちらこそ冒険者や住民の皆様へ、私たちの声が届くのはとてもありがたいですよ」
「なるほど、Win-Winってやつですね。それなら今後もお互いの為になるような関係でいられる様、誠意を持って記事を書く事をお約束しますよ」
「ふふふ。そこまで言っていただけたのなら、あなたが書く記事を読むのが楽しみですね。頑張って下さい!」
締めの雑談を交えた後、握手を合図に今回の取材を終えた。
「はい!では取材モード終了ですね。ソーイチさん、初めての取材いかがでしたか?」
「もうちょい緊張するかと思ってたんやけど、想像してたよりは大丈夫やったわ」
取材開始時と同じくフレンのモード切り替えの早さにに驚きつつも、取材の感想を語る。
「ふふ、さすがソーイチさんですね」
「まあな〜。ってあれ?」
「え、どうかしました?」
(そういえば前線や中継の村作りとかの【見習い開拓者】関連、ギルドに質問する予定やったな。せっかくやし、ついでにアポ取るか)
「急に変な声出してごめん。実は【ユーザータクティクス】からギルドに質問したい事があるの思い出してな。忙しい中悪いんやけど、近いうちに時間作ってもらう事出来る?」
「そうですね・・・。でしたら2日後の14時から18時の間なら時間作れますけど」
「おお!それなら最短のスタートでお願いするわ」
「かしこまりました。では、その時間を空けておきますね」
「ありがとう!お礼と言っちゃアレやけど、うちでとれた果物で作ったお菓子もた〜ぷりと差し入れに持ってくわ」
「まぁ!それはそれは。とても楽しみです!」
「喜んでくれてるみたいで良かったわ。正直ここ来てからいっぱいお世話になってるやろ?そのお礼に何か持っていきたいと思ってたんや」
「律儀ですね。お菓子も含めて、【ユーザータクティクス】のご来訪を楽しみにお待ちしてますね」
こうして初めての取材を無事終えただけでなく、さらにクランメンバーの来訪の予約と、大きな予定を2つ同時に終えることができた。
次回は10月11日(土)午前6時に更新予定です。
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