143.スライムでも出来る超取材マニュアルと準備完了
「い、今から!?いやいや、初めての記者活動をぶっつけ本番とか無理やって。しかも取材開始まで30分しかないやん!」
ルーカスからの急な無茶振りに対して、俺は驚きつつも抗議をする。
「大丈夫だよ!取材相手のフレン君は冒険者ギルドの広報も担当している。だから新米記者相手のインタビューには慣れてるよ。それに君とも顔馴染みだし優しくリードしてくれるよ。それに・・・」
「お話中、失礼します。社長、こちらが頼まれていた書類です」
ルーカスの話が途切れたタイミングで、見知らぬ社員が書類を数枚ルーカスに手渡し、ささっと去っていった。
「グッドタイミング!ソーイチ君が来社したと聞いて時にね、社員君にお願いして用意して貰ったんだ」
「へぇ、わざわざ準備したって事は、取材に関係する書類っぽいな。一体何なん?」
「これは今回の取材のためだけに作成した、【スライムでも出来る超取材マニュアル】だよ!」
「単細胞でも出来るってか。どれどれ・・・」
自信満々なルーカスの言葉を受けて、マニュアルを読んでみる。1枚目は取材の手順が、顔合わせ時の挨拶から始まり、今回の焦点はどこなのか?などの対話のスムーズな進め方や、今回の取材内容に関連する単語の簡単な説明まで添えられている。
「凄く丁寧に作られた取材マニュアルですね。情報屋として、とても参考になりますねぇ」
「確かにルーカスが鼻高々に自慢するだけの出来やな。というかマニュアル通りに問いかけて、後は返答をメモするだけで良い感じに取材が進めれそうやわ」
「凄いだろう?」
「せやな。今回の取材の下準備って意味やと、これ以上のマニュアルはないんちゃうか?」
「うんうん。これはうちのエースが作った資料だからね」
「ここのエースが作った資料か。そりゃ見やすい筈や」
本当に進めやすい手順が書かれている資料を見て、流石はノア・タイムスのエースだと感心する。
「下準備に関しては依頼を受けた者が作るのが基本なんだよ。だけど初めての取材の時だけは、先輩社員達が作るのが慣例になってるんだ。ソーイチ君もいずれ後輩のマニュアルを作る日も来るかもね」
「うわっ、これに匹敵するマニュアル作成とかキツいなぁ・・・」
「ソーイチさんなら大丈夫ですよ!それより時間もないですし、2枚目見ていきましょうよ」
プロスに促されて、俺は2枚目に目を通していく。
「ふむ、こっちは記事のデザインを何種類かリストアップしたサンプル集か。見出しや取材結果をどの位置に、どういった配分で割り振ったら良いのか?ってデザイン系の悩みが、これがあるだけで大分やりやすくなるな」
「サンプルがあると、実際に記事を書く時に余計な事を考えなくて良いから便利だよね。もっとも取材した内容を枠内にきっちり当てはめて記事を書くのは、少しだけテクニックがいるんだけどね。ソーイチ君に出来るかな?」
「仮にも今日まで要約作業を頑張ってきたんやで?そこはパッと出来るに決まってるわ」
「ははは、すごい自信だね!」
ゲーム開始からほぼ毎日行なってきた要約作業、そして自分の文章力を分析し、自信を持って出来ると答える。
そんな中、横で紙面のサンプルを覗いていたプロスはある問いかけを投げかけた。
「あの〜、紙面のサンプルを見てて思っていたのですが、どれも3割ほど空白がありますよね?これはソーイチさん以外の方が記事書くんですか?」
「確かに謎にスペース空いてんな」
「ああ、そこはソーイチ君の自己紹介を書くスペースだね」
「自己紹介!?そんなもんの為に3割もスペース空けたん!?」
「落ち着いてください。よくよく考えてみたら今回依頼で書く記事って、渡り人が書いた記事が、初めて掲載される記念すべき記事ですよね?それを読者にアピールするのは無駄じゃないですよ!」
意外な空きスペースの使い道について疑問に思っていると、ピンときたプロスが有用性について教えてくれた。
「ピンポン!その通り!この世界に来た渡り人が書いた記事が、世界で初めて紙面に載るんだよ?その作成者の紹介やPRもセットで載せたいじゃないか」
「ですよね!私もソーイチさんの自己PR読んでみたいです!」
ルーカスやプロスは鼻息荒く、力説する。
「あ、圧が強いな・・・。でも3割位なら軽い自己紹介と取材の感想とかで埋めれそうや」
「取材を記事に起こす作業も減るし一石二鳥だろう?」
「確かにそうやなぁ〜。正直に言えば少し恥ずいけど、作業効率アップと貴重な経験ゲットって考えたら引き受けるべきなんやろうな」
全国紙(ゲーム内だが)で、自分をアピールする事に少しだけ照れるも、これも小説のネタになると自分を納得させた。
こうしてマニュアルに全部目を通した後は、タイムリミットギリギリまで、ルーカスに簡単な質問を投げ掛けつつ、マニュアルを何度も読み返した。
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「さて残り10分切ったね。ソーイチ君、準備は良いかい?」
「ああ。このマニュアルで手順も把握したし、なんとか取材やれる気がするわ」
「それは良かった。ところでソーイチ君はギルドまで転移できるかい?無理なら送ってくけど」
「あれ、どうやろ?登録してたっけ・・・?」
「ノア・タイムスの皆さんお忙しいですよね?私が転移できるので、ソーイチさんを送りますよ」
「確かに忙しい中、ルーカスに送迎までお願いするの申し訳無かったし、助かったわ。プロス、マジでありがとう!」
「私からも礼を言うよ。ははは、君が記者になる前に借りができちゃったね」
「そんなに褒めないで下さいよ〜。それよりササっと転移しちゃいましょう!」
「はは、確かにそうやな」
顔を赤らめながら照れるプロスにニヤニヤしつつも、時間がないので同意する。
「それじゃあ行ってくるわ」
「ルーカス社長、本日はお世話になりました!」
「ああ。2人とも頑張るんだよ」
こうしてルーカスに別れの挨拶をした俺は、プロスの転移に相乗りし、冒険者ギルド前に降り立った。
「送ってくれてありがとう。名残惜しいけどプロスとはここでお別れやな」
「ですね。ソーイチさん、本日はルーカス社長への紹介や、更に記者のお話に同伴も許可して頂いて、本当にありがとうございました!このご恩は必ずお返しします!」
「そんな気張らんでええのに。まぁ、レベル上げとかスキル検証の付き合いくらいは頼むかもしれんな」
「ええ、その時が来るのをお待ちしてます。では、時間も迫っているのでこれで。ソーイチさんの初めての取材頑張ってくださいね」
お礼と激励の言葉を告げた後、プロスは転移の光を残し、彼女の次の目的地へと旅立った。
俺はそれを見送ると、軽く身だしなみを整えて、冒険者ギルドの中へと入っていった。
時間をシビアに設定しすぎたせいか、全員1.5倍速位で話してそう(汗
次回は10月4日(土)午前6時に更新予定です。
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