136.外道戦略と反対意見
セキライ:ウチに有利って一体なんなんっすか!?
ゼロ:いや、リーダーの新ジョブ忘れたのか?
アマネ:理屈はわかります。わかりますけど・・・
ベイクドモチョチョ:いや〜、外道ですね!
メープル:うんうん、外道だね
ソーイチ:酷い!?俺はただ思いつきを話しただけやのに・・・
ユサタク:いや、言われるのは仕方ないだろ。それより念の為、ソーイチが考える町滅亡ルートについて説明してくれ
ソーイチ:OK
俺発案の外道戦略について、少し引いているメンバー達。その反応に俺は少し傷つく。もっとも冗談混じりだともわかっているので、まずはユサタクの指示に従いこの戦略について解説を始める。
ソーイチ:まず大前提の話なんやけど、今回の賞金レースって全員協力が目的じゃなくて、如何に抜け駆けして相手よりポイント集めるのが目的やんな?
ベイクドモチョチョ:まあ、レースってライバルに差をつけるの大事ですもんね。
ソーイチ:で、その順位付けにはPPを如何に稼ぐかが重要なんやけど、ぶっちゃけ町の状態はPPのプラス査定にはなっても、ライバルに決定的な差を広げれるって訳ではないやん。
メープル:まあ、防衛成功にしても滅亡にしても、獲得PPに差はつくとしても、全プレイヤー貰えそうですよね。
ソーイチ:で、町が滅んだ時に圧倒的に有利になるのって、自前でフィールドに拠点を作れる俺らって事にならんか?ってのが今回のメインテーマになるんや。
ゼロ:【開拓者】と【屯田兵】ですね。
アマネ:た、確かに・・・?
ソーイチ:それに町滅亡したら2つのジョブのデメリットも踏み倒せるしな。
ベイクドモチョチョ:あぁ〜!通常【屯田兵】や【開拓者】の能力を好き勝手使用したら町からペナルティがあるけど、町が滅んだら無視できるって事ですね!
セキライ:町がなくなったら、刑罰って概念すら無くなりそうっすもんね
ミコト:でも、その為にこの世界で唯一人の住む町を潰すってのは流石に・・・
セキライ:罪悪感がマシマシっす。
ユサタク:だが、レース勝つだけなら悪くないのか?
ソーイチ:提案しといてなんやけど、仲良い住民も多いし実行する気はないんや。ただラノベ作家としては、通常とは違うプレイに惹かれたりもするんよ。
ベイクドモチョチョ:絶対正規ルートじゃないですもんね。
ユサタク:レアルートか・・・。これはゲーマー心も少しくすぐられるな。
今回の外道戦略、その有用性とレアルートという響きにみんなが葛藤し始める。そんな中、ただ一人反論したのが、
『ちょっと待ってください。ソーイチのアイデアには問題があります』
クラン随一の冷静さを誇るゼロであった。
ソーイチ:問題?最序盤の大討伐で町滅ぼすのは難易度は高いかもやけど、それ以外になんかあるか?
ゼロ:大有りですね。この外道戦略のキモは【開拓者】の能力を使って唯一の拠点持ちになる事ですよね?
アマネ:まあ、私たち以外にも【開拓者】がいたら、町が沢山できて差は広がらないですしね。
メープル:でも【開拓者】の転職方法って【オモイカネ】にも情報売ってないよね?それなら大丈夫じゃない?
ゼロ:甘いですね。今回【開拓者】を見つけたのはリーダーのユサタクです。リーダーのジョブ遍歴はワールドアナウンスや他チームの監視などで丸裸ですよ。
セキライ:ああ〜。【斧戦士】も【木こり】も見習い卒業のアナウンス鳴り響かせてたし、【農家】も情報販売会でバレバレっすね!
ゼロ:そうなんです!しかも僕達のせいで、トップ層には【農家】プレイヤーが増えています。という事は自動的に【屯田兵】は見つかってしまいます。
ソーイチ:【農家】と【戦闘系ジョブ】の見習い卒業やっけ?そりゃすぐに見つかるわな。
ベイクドモチョチョ:まぁ私たちみたいなメインが生産系には転職無理ですけどね・・・。
アマネ:ですね・・・。
ゼロ:ジョブ格差は置いておくとして。【屯田兵】が見つかれば他プレイヤーには【フィールドの私有地化】という概念が広がります。そしてジョブ名や同時にアナウンスが流れた事実から【開拓者】に注目が集まるのは火を見るよりも明らかです。
ミコト:そうなると【開拓者】もすぐ見つかりますね。
ベイクドモチョチョ:明日から大討伐開始!とかだったら情報は独占できますけど、始まるまでに結構時間ありますしね〜。
ユサタク:フワフワが見つけた【聖女】みたいに特殊条件がないのが痛いな。
ゼロの解説を聞き、外道戦略の根本から破綻している事に俺を含めた全員が気づいていく。
ゼロ:おそらく、運営は町が滅ぶ事も想定した上で、【開拓者】の転職条件を比較的簡単に設定したのでしょうね。
ユサタク:最悪の事態になってもゲームが破綻しないようにか。
アマネ:確かに【木こり】は面倒ですが、他2つはサブジョブを増やしてく間に自然とクリアしますしね。
ゼロ:ええ。なので独占不可能な時点で、今までの功績や住民との友好関係をドブに捨てるリスクしかない外道戦略は、現状レーストップ層の我々が取る戦略ではないんですよ。
ベイクドモチョチョ:うんうん。納得しましたよ!
ユサタク:逆を言えば、ポイントレースで出遅れたチームは選択肢に上がるかもだし、そこは注意が必要だな。
外道戦略を取る事が、俺達にとって無意味な戦略かを解いてきた言葉にモチョは納得し、ユサタクは他チームへの行動に注意が向く。
ゼロ:ですね。とはいえ独占以外にも、他の町周辺の間引きをしている高レベルの住民部隊の存在や、ノアの町が滅ぶレベルの魔物の群れ相手に耐え切れる町を作れないという技術的な問題もあるので、今回の大討伐では気にしないで良いでしょう。
ソーイチ:ああ〜。ここより遥かに魔素が多いとこで戦ってる部隊いるんやっけ?
ミコト:それが本当ならプレイヤーが束になっても敵わないでしょうね。
ユサタク:町の規模も四方の高い塀に加えて、結界とかもあるだろうしな。ペーペーの【開拓者】や他生産者じゃこの設備以上は無理だな。
ゼロ:ええ。なのでプレイヤー達の能力が住民達に追いつく直前が危ないかもしれませんね。
アマネ:実行リスクが大分減りますしね。
ユサタク:【開拓者】持ちのプレイヤーが増えたら数クラン合同でやるかもしれないな。
ゼロ:ですから我々がこのままトップを走り続けるのなら、逆に町の防衛側の策を考え続けるべきでしょう。
ソーイチ:さんせ〜い!って俺の考えた外道戦略が却下されて、いつの間にか正義の戦略やる事になってる!?
ベイクドモチョチョ:ははは、悪い事はしちゃダメだって事ですよ!
ユサタク:確かにモチョの言う通りだな。外道戦略は下位の戦略。俺達は正々堂々と王道でやっていくぞ。
俺の驚きの声に笑うモチョ。そして外道戦略を取るか悩んでいたのを忘れたかのように、しれっと王道宣言をするユサタクであった。
tips
ノアの町滅亡
今回のメインテーマであった【ノアの町】の滅亡。
実は事前にレベル上げ・情報収集・裏工作を入念に行えば不可能ではない。
事実、1年後に販売される製品版MJOにて【†漆黒の殲滅者アキラ†】が【ノアの町滅亡させてみた】という動画を投稿したのを皮切りに、【ノアの町滅亡RTA】という地獄のようなRTAが一部界隈で流行ったという珍事件も起きた。
次回は8月9日(土)午前6時に更新予定です。
ブックマークや評価・誤字報告していただきありがとうございます!!
今後とも本作をよろしくお願いします。