130 7日目の残業とDランク
ログアウトをした俺は予定通りシャワーを浴びる。
「出来たら湯船でゆったり疲れ落としてから寝たかったな〜。まあ好奇心に負けた俺が悪いか」
少し愚痴を呟きつつも髪や体を洗い、仕上げに数秒間の水シャワーで体を引き締めてから俺は浴室から出る。後は湯冷めしないよう、汗が引くまでテレビを見たり喉を潤したり、まったりした時間を過ごした。
そんな時間を楽しんでいる内に汗も引いてきたので、俺は湯冷め対策用の薄い毛布を片手に、ログインの準備を始めた。
「さてと、ちょっと早いけどそろそろINするか」
こうして俺は自分の好奇心のための残業ログインをした。
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見渡すとまだ薄暗く、日が登るのにまだまだ時間はありそうだ。だが、そんな早い時間にも関わらず、ユサタクは既にログインし一人でのんびり畑仕事をしていた。
「おはよ〜さん。ユサタクずっと居るけど、ログアウト小まめにしてるか?」
「いきなりだな。まあ休憩は適当にしてるし問題ないだろ。それよりソーイチこそ早いな。まだギルドが開くまで結構あるぞ」
「今日は昼前にはログアウトするつもりやし、ボーナス云々考えずINしたわ。って、それより今日の納品分は準備できてるん?」
世間話はそこそこに、本題であるクランクエストの状況について尋ねる。
「ああ、ソーイチがログアウト直後に確認したが、クリア出来るだけの在庫はあったぞ」
「そりゃ良かった。じゃあ後はチケットをギルドに提出すればええだけやな」
最速で残業をクリア可能と聞きホッと安心していると、少し曇った顔のユサタクが尋ねる。
「実はソーイチがログアウトしてから気づいたんだが、一つ確認していいか?」
「うん?どないしたん?」
「今日の予定では、今朝クリア分のCGPチケットを合計8枚提出するって言ってたよな。あれって溜めていいやつなのか?使用期限とか枚数制限とか」
「ゔう!!確かにクランクエスト1回につき2枚までは1人に片寄らせていいとは聞いてたけど、それ以外はなんも・・・。そやっ!チケットに注意事項とか書いてないかな?」
俺は祈るような気持ちでチケットの表裏を入念に確認する。
「うぅ〜、どこにも有効期限とか提出制限は書いてないな。左下にIDナンバーみたいなのが割り振られてるから、同じクエスト由来のチケットをズルで大量使用とかの誤解はされへんとは思うけど」
「ほう、ギルドでの説明やチケットには枚数制限とかの注意事項が書いてないのか。それなら沢山出しても多分大丈夫だな」
「というか無理やったら受付でゴネるかも」
「おいおい。友好度下がりそうだし、それだけは勘弁してくれ」
クレーマーモードに入ると言うと、ユサタクは苦笑いしながら制止する。
「まぁこれ以上ここで話しても無駄だし、チケットについての考察は切り上げるか。で、開館までは時間あるがソーイチはどうする?大収穫クエ一緒にやるか?」
「せやな〜。まずは新聞読んで、要約【コピー】して、果樹園のお世話して・・・そっち行くんはその後やな」
「オーケー。じゃあ先に行ってるぞ」
ユサタクはそう言ってギルド農地へと転移していった。それを見送った俺は本日の新聞を手に取り安楽椅子に座り、リラックスしながら読み込んでいく。
その後はポーション片手に要約のコピーを100部作成し、果樹園にて余分な枝をアーツを使い剪定していった。
(ふぅ〜。剪定終了!じゃあSTの続く限りギルド農地での収穫作業と洒落込むかね)
全ての作業を終え、深呼吸を一つ。そしてギルド管理農地へ転移し、クランメンバーに合流して開館15分前まで大収穫クエを進めて行った。
「お〜いソーイチ、そろそろ時間だぞ」
「もうそんな時間か。じゃあ農業ギルドに向かうかな。って、そういえば今回クエスト達成の報告は誰がいくん?確かクランクエストって2人以上でせなあかんかったよな。最速目指すんやったら俺は依頼クリアとは別で並びたいんやけど」
「確かにその方が効率的だな。じゃあ報告は俺とそこで休憩中のセキライで行くか。と言う訳で構わないよな?」
「はい、OKっす!」
「ありがとう。じゃあ俺とセキライは依頼達成の窓口に並ぶから、ソーイチはすぐ報告出来るように、通常の窓口の方へ並んでいてくれ」
「オーケー。もし早めの受付になったら使用枚数とかの質問で時間稼ぎしとくわ」
「質問するのはアリだが、遅延目的でするのは他のプレイヤーの迷惑だからやめておけ。クランの評判が悪くなる」
「確かにそうか。じゃあ最悪並び直し覚悟でいくかね」
「その方がいいだろう」
開館後の行動を話し合った俺たちは、パーティーを組み農業ギルドへと転移をした。
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「人多いな〜。まだ開店まで10分以上やで」
「前までは5秒前に行っても3人並んでるかどうかって感じだったのに、えらい違いっすね」
「そりゃ、俺たちが農業のメリットを布教したからだろ。人が増えるのは当然だよ」
「まぁ、言われてみれば当たり前の現象か」
到着して周囲を見渡すと、農業ギルドの入り口には既に10人以上の列が。俺達はその状況に驚きながらも、取り止めもない雑談をして暇を潰す。そして職員がギルドが開館を告げるや否や、並んでいたプレイヤー達は受付や販売窓口へと散っていった。
「じゃあ、手筈通りよろしく頼むで」
「ああ、そっちも頼んだぞ」
「すぐにチケット渡しに行くっすよ」
こうして2人と別れた俺は、予定通りメインの受付窓口へと並ぶ。幸い後には誰も並んでこなかったので、ユサタクが来るまで存分に時間を稼げそうで一安心する。
(誰も後ろに並んでなくてよかった〜。それにしても通常と依頼専用の窓口が2つずつとか、めっちゃ増えたなぁ。初日は1つの窓口で全部賄えてたのに・・・。この変わりっぷりには、プレイヤー初の農業ギルド登録者としては感慨深いってもんやな〜」
ギルドの盛況ぶりに古参ぶった想いに浸っていると、前の人の対応が終わり俺の番となった。
「お待たせしました。・・・ってソーイチさんじゃないですか」
「よっ、アレン。景気良さそうやな」
「お陰様でこの盛況っぷりですよ。それより本日はどのようなご用件ですか?」
「ああ、実はな・・・」
俺はCGPチケットを取り出しアレンへ提出する。そしてチケットをまとめて出して大丈夫なのかどうかを尋ねた。
「ああ。10枚くらいまでは大丈夫ですよ?」
「ほんまに?良かった〜〜。前にクエスト1つに付き2枚までしか使ったらあかんって言ってたやん。だから有効期限とか、不正を疑われるかもって不安やったんや」
事前に説明もなかったので、まず大丈夫だとは考えていたが、実際にOKが出るとホッと一安心。それは兎も角、1つのクエストで2枚までしか使えないとも聞いてたので、判別できるのかも併せて聞いてみる。
「ほら、チケット裏の右下に10桁の数字がありますよね?こちらの番号で、どのような経緯で入手したのかを管理できるようになってるんですよ。だからソーイチさんはズルしてないって事がわかるんですね」
「ほぇ〜、やっぱりシステム的に区別つくようになってるんやね」
「ええ。ただチケット提出を溜めすぎますと、照合に時間がかかってしまいます。ですので次回からはこまめに提出してくださると助かります」
「気を付けます・・・」
アレンは苦笑いしながら釘を刺されたので、俺は小さく丸まり返事をする。そんな話のオチがついたタイミングで、
「お話中失礼します。もうチケットは提出完了しましたか?」
依頼専用の窓口に並んでいたユサタクから声をかけられた。
「あら、ユサタクさん。まだチケットは受け取ってないですけど」
「良かった。たった今、クランクエストをクリアしたのですが、その分のチケットもソーイチに渡しておきたかったんですよ」
「あらら、また増えましたね」
「ご迷惑おかけして申し訳ないです・・・」
「いえいえ。ソーイチさんの後ろに誰も並んでないようなので、今ならチケット追加しても大丈夫ですよ」
「そう言っていただけると助かります。・・・じゃあソーイチ、俺達は戻るから手続きは頼んだぞ」
「ああ。チケットありがとうな」
ユサタクとセキライは軽く手を振った後、再び大収穫の依頼場所へと戻っていった。
「さてと。それでは手続きに移りましょうか。今回提出されたCGPチケットは8枚ですので、ソーイチさんの生産者ギルドのポイントに4000CGPを付与いたします。まずはギルドカードの提出をお願いします」
「はい、どうぞ」
アレンはギルドカードを受けとると、まずチケットを裏返し、不正がないかチェック。その後サイドテーブルに置いてある魔道具を操作していく。
「ふむふむ。今回でランクが上がりそうですね。ランクアップには別の魔道具が必要ですので、少しだけ席を外しますね」
「ああ。いってらっしゃい」
アレンはカードとチケットを手に取り、更新作業のために離席をする。いよいよランクアップが目の前に近づいて来たことで溢れるワクワク感を抑えながら、目を閉じて5分程じぃ〜と待つ。
「大変お待たせしました。問題なく手続きが完了しましたよ」
「と、言うことは・・・」
「ええ。たった今からソーイチさんの生産ギルドランクはDへと昇格でございます」
「おっしゃあああああ!」
周囲に他プレイヤーがいるのも忘れ、歓喜の声をあげ、
《ソーイチ様がプレイヤーで初めて生産職ランクがDとなりました》
その雄叫びと共にワールドアナウンスも響き渡るのであった。
次回は6月21日(土)午前6時に更新予定です。
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