129:Dランクへの道と残業への決意
プロス達からの要望で始まったサイン会。感謝の気持ちマシマシで書かれたサインは通常では行っていない相手のデフォルメイラストもサービス。その結果、黒百合は全身黒鎧の姿からはまず出ないであろう黄色い悲鳴を甲高くあげ、プロスは嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「あ、ありがとう!!これは絶対に家宝にしますから!プロス、額縁ってあったかしら!?」
「家具屋さんが町にあったので、明日見に行きましょう!って、ソーイチさん私も大事にしますよ!」
「ははは。そこまで喜んでくれると、書いた甲斐があるってもんや」
「じゃあもっとも〜っと喜んじゃおうかしら?」
「お、お手柔らかに。って、それよりもう遅いけど時間は大丈夫なん?」
「確かに良い時間ね。お宝もいただいた事だし、これで失礼するわ」
「ですね!ソーイチさん、また何かありましたら一緒にパーティー組みましょうね!」
そう言って大事にサインを抱き抱えた2人はホクホク顔で転移していった。
「ふぅ〜。最後の最後でサイン会とは・・・。喜んでくれたのはサイコーやけど、超疲れたわ〜」
「お疲れ様。でもこの忙しさは人気者の証だ。有名税と思って甘んじておくんだな」
「厳しいな〜。でも今日の予定全部クリア出来たし、やっと安心して寝れそうや」
「なんだかんだ、リアルじゃ深夜2時過ぎだからな。体調崩さないように、ぐっすり寝ろよ」
「オーケー。仮眠はログアウトの度にしてるけど、本睡眠も大事やしな〜。・・・って、落ちる前にクランで共有せなあかんお話はないか?」
「そうだな・・・。しいて言えば、今日のクランクエのチケットを渡すくらいかな?」
そう言ってユサタクはCGPチケットを2枚差し出す。
俺はそのまま仕舞おうとすると、
「あれ?いつのまにかチケット6枚になってる」
意外とたくさんのチケットを持っていることに気付く。
(これ全部使ったら次のランク行けるんちゃうか?)
そう考えた俺はギルドカードを取り出す。
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NAME:ソーイチ
冒険者ランク E(1,150/5,000)
戦闘職ランク G(0/50)
生産職ランク E(1,110/5,000)
(登録ギルド:司書・農業・付与)
所属クラン:ユーザータクティクス (20/20名)
クランランク E(1900/5000)
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(おお!後1回クランクエストクリアで生産がDに上がるやん!)
次へのステップアップが近いのを確認した俺はウキウキした声でユサタクに尋ねる。
「ユサタクちょっとええか?」
「どうした?」
「生産のランクが後ちょっとでDに上がりそうやねんけど、最速達成のアナウンスってもう鳴った?」
「お、それはめでたいな。それより生産ランクのアナウンスか。多分まだ鳴ってないとは思うが・・・。うん、念のためにワールドアナウンス監視スレで確認してくるか」
そう言って目を瞑るユサタク。
(数分掛かりそうやな〜。暇やし回復した分消費するかなって、うぉ!?)
手持ち無沙汰になった俺は自然回復したMPを使い、【魔力付与】で充電を始める。すると5秒もしないうちに魔力電池がピカッと光った。俺は慌てて確認すると魔力電池の詳細に充電完了と表示されていた。
(クエスト分の充電、もう終わったんか!これクリア報告したら戦闘ギルドのランクもFに上がるよな。これはもうちょっとだけ残業しろって流れか?)
ランクアップ間近だったり、クエスト達成だったりと、リアルで少し夜更かしするだけで出来る事が増える事に気付き、寝るつもりだった気分が変わっていく。
そんな中、公式掲示板からアナウンス情報を探っていたユサタクが目を開けた。
「調べて見たが、やっぱり生産職ランクのDランク最速アナウンスは流れてないみたいだ」
「おおう、そうか・・・」
「うん?ソーイチ的には朗報のはずだが、なぜ微妙な顔してるんだ?」
「いやな。今の状態やと8日目のクランクエストクリアでランクアップはできるんや。でも、最速目指すんやったらちょっとだけ残業が必要やな〜って気付いてしまったんや」
「ああ〜。確かにギルドも閉まってるし、オープンと同時にランクアップでも寝るの4時過ぎるよな・・・」
俺の悩みを察し、ユサタクも頭を抱える。
「リーダーの俺が言うのもアレだが、無理して最速称号取る必要はないんだぞ?たとえ8日目もINしたとしても、最速で生産ランクのDランクになれるとは限らないんだからな」
「確かに俺と同じようにギルドの開館待ちの奴はおるかもしれん。でもなぁ〜。ちょっとの残業で誰も見たこともない世界を観れるかもと思うと、ついつい夜更かししたくなるんよ」
「まぁ、俺もゲーマーだから気持ちはわかる。それならソーイチはDランクに到達まで残業ってことでいいのか?」
「そうなるわな・・・。というか、ログアウトの後シャワー浴びるつもりやったし、熱冷ますついでにログインってのもアリちゃうか?」
「う〜ん。湯冷めして風邪引く未来しか見えないんだが、大丈夫なのか?」
「そんな長時間やるつもりないから多分いけるやろ」
「それなら良いんだが・・・」
「そやからチャチャっと残業終わらせて、気分良い状態で快眠ポッドでぐっすり寝るわ」
「あのクソ高いベッドか。それなら体調は問題ないか」
「そうそう。と言う訳でまずは7日目の開館時間までにIN出来るようシャワー浴びてくる」
「おう、いってらだ」
健康と好奇心、2つを天秤にかけて好奇心を選んだ俺は、もうちょっとだけ残業することを心に決めつつログアウトしたのだった。
tips
快眠ポッド
短時間の睡眠で肉体疲労のみを取る事を目的とした睡眠ポッドとは違い、快眠ポッドは精神・肉体の両方を究極に癒す事を目的とした睡眠装置である。
ポッド内は、登録者が最も心地よく眠れる温度に保たれている上に、快眠を促すハーブフレイバーが満ちている。また、入眠後は体が固くならないように上質なマッサージ機のように緩やかに動くことで全身を癒す。まさに究極の睡眠を追求した一品と言える。
夢のような機械ではあるが、本体価格だけでも2,000万円以上、さらに月々のメンテナンス費用も高額と個人で持つ者は限られている。
良い子は睡眠時間を削ってのゲームはやめましょうね。
次回は6月7日(土)午前6時に更新予定です。
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