幕間13.MJOスタッフのプチ打ち上げ(1日目を終えて)
ここは【ミックスジョブオンライン】運営会社の休憩室。
リリース初日を大きなトラブルやバグの発生など発生せず無事に乗り切れた事を祝い、主任の佐藤とその部下の中村は柿ピー・ポテチと発泡酒で祝杯を挙げていた。
「くぅ〜。リリース明けの酒は染みるな〜!!」
「お疲れ様です。今回のタイトルは新技術投入や賞金付きって話題性もありましたし、ミスは絶対許せない環境でしたよね。無事に1日目を乗り切れて本当によかったですよ」
「ホントだよ!いくら理論が完璧で、治験でも問題がなかったとはいえ、3万人が一斉に8倍の時間加速を経験ってのは初の試みだからな。半日経ってもどこにも異常が出てないってだけで、俺は涙が止まらないよ」
「いやいや、目からっからじゃないですか。全然涙出てないですよ」
「ドライアイだから仕方ないだろ。心では涙ビュービューよ!」
乾いた目で一気飲みする主任とちびちび飲み進める部下の中村。はじめの方は今日までの仕事の辛さを肴に呑み進めていたが、次第に現在のMJOについて話題が入れ替わっていた。
「それにしても中村クン、超大型VRMMOの初日が過ぎたのに、ちょっと絵的に地味じゃね?」
「そうですね。話題になる出来事は結構ありましたけど攻略方面がね・・・。まさかトップ層の大半が【見習い農家】にジョブチェンジするとは想像もしてなかったですよ」
「全くだよ!本当なら4月3日の空腹度の解放を機に食糧不足、そこからの農家増加って流れだった筈なのに、どうしてこうなったんだ」
「そりゃ【ユーザータクティクス】による検証と情報開示のせいでしょ」
「やっぱりそう思うか?」
「ええ」
中村の返答を聞き、ため息混じりで2缶目のプルタブを開ける。
「はぁ〜。当分は売り切れねえくらいに用意してた3万地区の農地、数日中に完売しそうだな。賞金レースだから売り切れたら土地追加ってのは出来ねえぞ」
「先行者利益や独占も込みでレースやってますしね。でも土地不足に関してはすぐに解消すると思いますよ」
「なんでだ?」
ちょっとした問題点を挙げるも、余り問題視せずに淡々と返す中村に訝しむ主任。
「ほら、農家系と戦闘系で解放されるジョブ、あれが解放されたら解決でしょ」
「ああ〜。それがあったか!」
「あのジョブの特性で土地問題は解決できる筈ですし、上手く行ったら生産過多な現状のリソースをメイン以外に逸らせるかもですよ」
「確かにこのまま3万分の畑で薬草関連を増産されたら、最初の町解放ってヌルゲーになりそうだよな。そうならないようにプレイヤーのリソースは削れるとこは削りたいよ」
「まあ、食品納入が捗って、シークレット解除とスタンピード早まれば、低レベルで挑む事にもなりますし、難易度的にはどちらに転んでも大丈夫とは思いますけどね
「そうだな。ただ、どうせ転ぶなら絵的に映える方が良いな〜。」
「ははは、テンプレみたいな悪役ムーブのプレイヤーも殆ど居ないし主人公!ってキャラは出てないですもんね。だからこそ町解放とスタンピードの両イベントは派手になって欲しいですね」
「だな。それより悪役ロールか・・・。ネット小説じゃあ定番なんだが、今回みたいなプロゲーマー・配信者達がメイン層だとな。団体さんは自分とこの看板背負ってプレイしてる分、良い子ちゃんプレイはしゃーないか」
「ええ。そういう破天荒プレイヤーは、来年発売される製品版で楽しませて貰えば良いんですよ」
安定思考が根強い現状を嘆く主任に、苦笑いしながら矛先を別に逸らす話題を提供する中村。
「製品版か。大会終了後にマルチ用に販売って需要あると思うか?俺は大会中に売り出す方が良いと思うんだがね〜」
「どうでしょう?賞金レースだけを考えるなら、販売版を使い、極端なプレイングで実験して、そこから賞金レースに投入ってやり方は少し興醒め感ありません?」
「賞金かかった状態での緊迫した駆け引きやアドリブもMMO系レースの醍醐味だし分からんでもない。ボスやイベントバトルの準備段階で『このボスの弱点〜だよ』ってネタバレはマジで冷めるしな」
「ですよね!それに同時リリースだと、今以上に修羅場が待ってますよ」
「バグ対応や問い合わせが今の倍じゃ効かないくらいに膨れ上がるか・・・。じゃあ無理だな!」
「ええ。なのでA案の半年後にレース無しの公式サーバーを解放、レース終了後に簡易版マルチサーバーを販売ってやり方が僕好みですね」
「賞金レースでハラハラドキドキを提供。半年後に憧れていたMJOを公式の大規模サーバーでわいわいプレイ。そこから更に半年後に自由なプレイングをレース後にマルチサーバーでってか?上手くいけばサーバー代とかでウハウハなんだろうな」
「ええ。その為にも今回のレースは絶対に失敗出来ないですよ!」
「そのレースの初動が地味なんだがな」
「あらら、話が一周回っちゃいましたね」
結局話は元通りになり呆れ半分で中村はため息をついた。空気が少し重くなりかけたが、お酒の高揚感により、その後は推しプレイヤーへの期待や今後の物語を楽しそうに駄弁る2人。この宴はポテチの最後の一欠片を頬張り、残りの酒を飲み干すまで続いた。
「さてと、愚痴も程々にしてそろそろ寝るか。明日以降は特にヤバいかもしれんからな」
「2日目以降になると完徹プレイヤーも出るでしょうね。そうなると今まで以上に予想外の問題が浮かび上がる可能性が増えますよね」
「ああ。今後のMJOの為にも事故ゼロは絶対条件だ。だからこそ管理AIだけに頼り切るんじゃねーぞ」
「了解です」
プチ飲み会で出たゴミを片付けつつ、明日からやるべき事の再確認を行う。そしてそれが終わると気力・体力を回復させる為、2人は仮眠スペースへと歩いて行った。
tips
製品版ミックスジョブオンライン
現在賞金レース真っ只中のMJO
実は同年の10月に一般ユーザーも参加可能な公式サーバーの解放、翌年のレース終了後に簡易モード搭載型のマルチサーバー解放が予定されている。
これは「せっかく創った世界が1度のレースでおしまいはもったいない!もっとレース以上の良い世界や、逆に最悪の末路を辿った世界を私は味わいたいし、みんなにも味わって貰いたい」という社長のポリシーから生まれている。
マルチサーバーのイメージはマ◯ンクラフトやA◯Kの個人管理を参考にしています。
次回は4月12日(土)午前6時に更新予定です。
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今後とも本作をよろしくお願いします。