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118.実験と真のテーマ

「実験?一体俺に何させるつもりなんや?」

ユサタクの言葉の中にある不穏なワードに反応し、俺は真意を尋ねる。


「そう疑いの目でこちらを見ないでくれ。ただ【瞑想】スキル上昇のアイテムをフル装備した上で、長時間【瞑想】し続けて欲しいだけなんだ」

「スキル上昇!それって今座ってる【木漏れ日の安楽椅子】みたいなアイテムが他にもあるって事なん?」


特別依頼達成で手に入れた【木漏れ日の安楽椅子】。このアイテムと同様のスキル上昇アイテムが他にもあると言うユサタクの言葉に驚く。


「ビックリしたか?実は【効果付与】というスキルを上げ続けた結果、ランダムで初級スキルを上昇させるアーツが生えたと知り合いのクランから聞いてな。野次馬根性で見に行ったんだが、確かにスキルアップの効果がついていたよ」


「ほぇ〜。そりゃすごいな!それってクランの財産ほぼ畑につぎ込んだウチに買えるんか?」

せっかく稼いだお金も農地の半独占購入などで昨晩使い切ったはずである。いくら日々の収穫で安定収入があるとはいえ、スキルレベル上昇ついたアイテムを揃えるのはキツいのではと思う。


「チッチッチ、心配するな。そのクランは実験もかねて片っ端からアーツを掛けていったんだが、【瞑想】スキル上昇がついた装備は、目隠しや耳栓などの戦闘中に絶対使えないアイテムにしか付かなかったそうなんだ」

「うわぁ〜。視覚と聴覚潰すとか完全にネタ装備やな」


「まあな。で、【瞑想】ってレベル上げても効果地味だしネタ装備って事で、在庫分に限り安く買い取る事が出来たんだよ」


「うまいこと需要と供給が噛み合ったってわけやな」

「ああ、そうだな」

高そうな装備の入手経路には納得した。


「ところで念の為に言っとくけど、昼から冒険するから、今日は無理やで」

「わかってるよ。まだまだ【瞑想】付き装備を買い集めたいし、実験はソーイチのリアルすやすやタイム後のログインからになる」


「すやすやタイムってなんやねん。まあネタになりそうな実験やし引き受けるけど」

「そう言ってくれると助かるよ」

俺が了承したのをみて、胸を撫で下ろすユサタク。そんな中、追加の紅茶とアップルパイを用意していたモチョがユサタクにある問いを投げかける。


「そういえば、【瞑想】のレベル上げって、目を閉じてるでしょ?だと安全の為にも動かないわけですから【待機】や【休憩】も発動しますよね。その時に回復したSTやMPってどうやって消費するんですか?」


「言われてみればそうやな。MPは電池抱え込んでの充電でいけると思うけど、STは畑仕事でしか消費で出来へんし目閉じた状態じゃ消費無理やん。ST回復するたびに【瞑想】中断してええんか?」


モチョの素朴な疑問のおかげで、この実験の問題点が明らかになった。だが、


「ふっふっふ。目を瞑った状態でのMPとSTの消費、その対策こそが今回の実験の真のテーマなのだよ」

ユサタクはわざとらし過ぎる笑い声と共に、問題点に対策ありと自信満々に答えた。


「真のテーマね〜。確かにスキルのレベルアップ実験の答えが装備で固めてのゴリ押しは芸が無さすぎとは内心思ってたけど」

「それより、どうやったら目を閉じた状態で回復し続けるMPやSTを、怪我なく消費できるって言うんですか?」


「それはな、おんぶ戦略を実験用にカスタマイズしたやり方なんだよ」

「ええ!?あのネタ戦略を使うんですか!?」

「めっちゃ驚くやん。おんぶ戦略とやらはそんなに酷いんか?」

おんぶと戦略、関係のない2つのワードが、シュールな笑いを誘う。気になった俺は一体どんな戦略なのかモチョに尋ねる。


「どこから話そうかな・・・。う〜ん、まず休憩スキルの発動条件のおさらいからにしましょうか」

説明が長くなりそうに思えたのか、そこで一旦区切り、紅茶を一口飲んだ後続きを語り始める。


「まず【瞑想】は先ほどから散々言っていた通り、一定期間目を閉じると発動しますよね」

「ああ、そうやな」


「で、残りの【休憩】と【待機】は座るなど、その場に留まった状態で一定期間移動しない場合に発動します。まあ【待機】はちょっとの移動ならオッケーですけど」

「ああ、確かそんな効果やったな。で、それがおんぶ戦略とやらに関係あるん?」


「大アリです!この移動っていうのは、正確には“自ら”移動しない事なんです。それによって・・・」

「仲間におんぶで運んでもらう戦術が考えだされたんだよ」

「ああ〜!〆のセリフ取らないでくださいよ!!」


決め台詞でも用意していたのだろうモチョが、横入りでセリフを奪い取ったユサタクにキレている。


だが、そんな事より、

(そういえば、ログイン初日に冗談半分でそんな戦略考えてたな〜。というかマジでおんぶ狩りする奴居たんか!?)


冗談半分で語っていたネタ戦術が、実際に使われていたと聞き、世界の広さというか変人はどこにでも居るもんだと感心する。


「って、おんぶ戦略とやらを活用するって事は、俺は数時間誰かにおんぶして貰いながら過ごすって事か」

「確かにそうなりますね」

「いや今回はその改良版。これを用いて行うんだ」

そう言ってユサタクは底面に4つのキャスターが取り付けられた台車のような物を取り出した。


「なんか嫌な予感がするけど、一応聞くわ。これ何?」

「よく聞いてくれた!これは今回の目玉アイテム、待機状態の人間を椅子ごと移動させるために使用する、名付けて【休憩スキル育成台車】だ!」

「やっぱり・・・。これで【瞑想】などの休憩系スキルを発動中の俺を移動させた上で、畑を引っ張って移動して、目隠し状態でも安全にアーツを使用を出来るようにする。と、そういう訳やな」

「そういう訳だな!」

呆れ半分で実験内容を声に出して確認すると、自信満々に同意された。


「確かにいけるとは思う。でも目を瞑った状態じゃアーツがズレるかもしれんし、回復状況とかも俺には把握出来へんやろ?」


「そこは問題ない。回復状況から各ジョブのレベルアップまでの経験値調整まで、全ては実験データを取るメンバーで把握する。本番ではソーイチは【瞑想】中はサブスクや掲示板を楽しんで貰い、アーツを使って貰うタイミングは観測班から送られるコールや台車を引く奴が送る合図などを基にアーツを放って貰う、という流れになるな」


「そういえばサブスクとかあったな〜。それなら積んでたアニメや動画見ながらいけるし、ST消費もタイミング教えてくれるんやったら問題なさそうやな」

「だろ?」

「ただ、今話したのって結構重要なポイントやと思うが、何故先に言わん。モチョが疑問に思わんかったら本番まで言わんつもりやったんか?」

「ええ!?そうなんですか?」

面白い事ほど勿体ぶるユサタクの性格から、言い忘れていたのではなく、黙っていたのではないかと問いかける。


「バレたか」

「バレたかって当日まで秘密にするつもりだったんですか!?」

「ああ。無茶振りというか、サプライズで実験を開始した方が、小説のネタになるだろうと思ってたんだ」

「う〜ん・・・。言われてみれば、この手のサプライズって巻き込まれ系主人公の話の導入て感じしますもんね」

「なるほどな〜」


自分の愉悦だけでなく、俺の為の行動というのであれば納得できる。というか、聞かなかった場合のいざこざから生まれる生きたネタを本来なら仕入れる事が出来たと思うと、逆にサプライズを味わえなかったのが残念にも思えてくるから不思議だ。


「よし、ネタの事まで考えてるんやったら、これ以上聞くのは無粋やな。というか現時点でも一日中、安楽椅子に目隠しと耳栓をつけた状態で座り、鍬と魔力電池を手に持ちながら、台車に運ばれるって絵面もオモロそうやし」

「ははは、確かにそうですね!」

「という訳で改めて今回の実験、協力させて貰うわ」

真のテーマもわかった事だし、俺は改めて【瞑想】スキルアップ実験(というか台車運搬実験?)の実験体になる事を宣言したのであった。



おんぶ戦略は7話に、サブスク関連は46話に掲載してます(これを活かすのに70話以上かかってしまいました^^;)


次回は3月15日(土)午前6時に更新予定です。


ブックマークや評価・誤字報告していただきありがとうございます!!

今後とも本作をよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
廃人の形振り構わない奇行を実行する事を「小説のネタになる」で受け入れるのは才能溢れ過ぎですね、 そりゃ売れっ子作家ですわwwwww
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