99.意外な出会いと迷路
【魔力付与】の講習は、先程受けた【種化】と同じく少人数用の部屋に案内された。ただ違っていたのは、講習を受けるのは自分だけではなかった点である。
「俺以外にも講習受けるメンバー居たんやね」
「僕もびっくりです。リアルは23時前なのでガチ勢はフィールドに夢中だし、エンジョイ勢はそろそろ寝始める時間ですし」
先に座っていた白いローブを身に纏った優しげな目をした青年に話し掛け、互いに自己紹介をする。名前を聞いてびっくり、相手は【円卓の騎士】サブリーダーのマーリンだった。
「いや〜。ウチの最大のライバルのサブリーダーとお会いできるなんて光栄やわ〜」
「それは僕のセリフですよ!PP最大保有のソーイチさんと、ここで会えるとは思ってなかったです。良かったらフレンド登録しませんか?」
「勿論ええで」
マーリンからの申請に承諾し、ゲーム初めてのクラン外のフレンドが出来た。
その後の雑談の中、気になっていた事を尋ねた。
「確かマーリンって【付与魔術師】やったよね?見習いでも取れるこのスキルはとっくに取ってると思ってたわ」
「僕たちは戦闘メインのクランですからね。時間のかかる講習は基本的に後回しなんですよ」
「へぇ〜。じゃあ、逆に今回受けたんはなんでなん?」
「ははは。それはあなた達のせいですよ」
「え!?」
苦笑いしながら答えるマーリンに驚く。
「ちょうど冒険者ギルド内で行われている情報販売、基本的に掲示板に情報を落とすあなた方が売り込む情報、その内容を把握できるまでは、町で待機になったんですよ」
「なるほど。そういう事やったんか」
俺達が手に入れ、販売に踏み切った情報販売会、それが巡り巡ってこの出会いに繋がった事に、感慨深い何かを感じた。その後、少しの雑談をしていると、講師が部屋へと入ってきた。
講師の挨拶が行われて講習が始まったのだが、【種化】の時と違い、簡単な説明が行われた後、実際に講師による実技の見学であった。
彼が剣に【魔力付与】を行うと、うっすらと光の膜が包む。
「見ての通り、武器に使用すると武器自体が魔力で覆われる。こうする事により、物理攻撃に耐性のある魔物に対しての有効打を得られる。他にも様々な使い方があるが、それは自身の試行錯誤によって見つけてくれ」
どうやら、この講師は実戦での発見に重点を置くタイプのようだ。それでも幾つかの使用方法を教えてくれたので、それをまとめていく。
【魔力付与】 戦闘・生産[付与(他魔術系ジョブでも等倍の経験値入手可)
消費MP 10以上
獲得基礎経験値 消費MP×(1+スキルLv/10)
武具に使用すると無属性の魔力を纏わせる事が出来る。(威力が変わらないので最低限でよし)
魔力電池の充電(1MP/秒)
水に流し込むと【魔力水】というアイテムになる。
話終えた講師が、スキルボードを用意している間、申し訳なさそうな顔のマーリンにメモのコピーを頼まれた。承諾した俺は【4枚刷り】のアーツを使用し、その内の1枚を渡す。
そんなやり取りをしている間に講師の準備も終わったようだ。
「お待たせ。これが今回スキル習得に使用するスキルボードだ。今回のスキルは魔力の通り道をイメージする力が求められるので、それを意識しながらやってみてくれ」
(説明も少なかったし、今回は小テストじゃないっぽいな)
そう考えつつ、俺とマーリンは目を瞑り、スキルボードに手をつく。そしてシステムアナウンスに従い、スキル習得を開始すると、頭の中に複雑な迷路が浮かび上がった。上部にある説明を読むと、
スタート地点からゴール地点までの道筋を辿って行って下さい。挑戦料は1回当たりMP10、ミスするごとに迷路の難易度は低下します。
と書いてあった。
(小テストの次は迷路かい!スキルボード関連ってもしかしてミニゲーム集なんか?)
そんな事を考えつつも、迷路に注目する。まずは勢いで解いていくが、半分にも満たない所で行き止まりになった。その後もミスを重ねて行ったが、6度目の挑戦でなんとかクリア、無事スキルを取得する事ができた。
(あぶな〜。ポーション飲んでなかったら詰んでたな!)
内心ヒヤヒヤしながらも、目を開きステータスを確認、無事スキルが追加されているのを確認し終えた所で、先に終わらせていたマーリンが話しかけてきた。
「お疲れ、ソーイチさんはどうだった?」
「MP残ってる間になんとかクリアできたわ。そっちは割と余裕っぽいな」
「ああ。僕の趣味があの手の脳トレ系なんでね。初回クリア出来たよ」
「初回!?まじか!?」
あの巨大迷路をクリアしたマーリンの実力に驚きを隠せない俺。
「2人共、おめでとう!無事スキルを取得できたみたいだな。このスキルは万能というか、色々な行動の基礎になるものなので、研鑽を積んでいってくれ」
「「はい!!」」
「よろしい!じゃあ、帰っていいぞ」
講師からの許可が出たので2人で部屋を出る。その後受付まで戻り、早速魔力電池の充電の依頼がないか尋ねる。すると、
「お疲れ様です。すでに魔力電池の依頼書、ご用意してますよ」
と、2枚の依頼書を差し出した。
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【魔力電池の充電】
500MP分の魔力電池を満タンまで充電(魔力電池は貸し出し)
【必要技能】魔力付与
【報酬】 3000ゴールド 150BGP 75AGP
【期限】 依頼受注後より1週間
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「ふむ。少し安いですが、町中だけで稼げるのは悪くないですね」
「せやな。ポイントは負けるかもやけど、依頼書作成より稼げるし、早速受けるわ」
俺達は、揃って同じ依頼を受注した。
tips
少し先の【円卓の騎士】アーサーとマーリンのコール
『お待たせしました。販売会はどうでしたか?』
『農業系の情報や特殊アイテムの販売等、盛り沢山だったよ。すぐにでも転職すべきだと僕は思う』
『そこまでですか・・・』
『というか、転職可能な仲間達が大急ぎで【見習い農家】への転職と農地を制限いっぱいまで購入してるよ』
『わかりました。私もすぐに向かいます』
『よろしく。それより、そっちはどうだった?』
『無事スキル獲得です。それと・・・』
『なんだい?勿体ぶって』
『ソーイチさんがいましたよ?』
『マジで!?』
『アーサー、ロール崩れてますよ』
『し、失礼。それより彼も付与魔術師に?』
『ええ。後、フレンドになってきました』
『ええ!!』
以下自慢するマーリンと悔しがるアーサーの会話が続く。
次回は6月12日(水)午前6時に更新予定です。
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