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脱出転生サイドストーリーズ  作者: 等々力 至
テノエ=ソライダフの恋人
15/16

#15:交差する告白

「ありがとう、ショウ。あなたほどの男性に求められるなんて、女としては、とても幸せなことなんでしょうね」

 他人事のように答えて離れようとしたが、彼の両腕の輪は更に狭くなった。殆ど彼に抱きしめられているのと変わらない。

「テノエ……」

 彼の気持ちが昂っているのがわかる。あいまいな言葉の選び方だったようだ。もっとはっきりと言わなくてはならない。


「ごめんなさい、ショウ。あなたとはお付き合いできません」

 私がキッパリと告げると、彼の力が緩んだ。その隙に彼の腕から逃れる。安心したと同時に少し名残惜しく感じた。


「どうして?」

 彼は落胆というよりも、意外そうな表情を私に向けた。自分の告白が断られたことが信じられないようだ。そう思うのも仕方ない。王谷(おうや)翔偉(しょうい)のアプローチを断る女性など極めて稀に違いない。


 このような場合、相手に誤解の余地なく、拒絶の意志を伝えるには、変えることのできない属性を理由にするのが正解だ。

 例えば、ショウの場合、プロアスリートはダメとか、身体の大きな人は好みじゃない、と告げればいい。個人の好みの問題であれば、細かい説明は要らないし、後から執着されることも少ない。

 これまでそうしてきた。

 だから、今回も同じようにすればいい。けれども、私の口から出たのは違う言葉だった。


「ショウ、右腕の調子はどう?」

 話題をそらすにしては白々しいが、一番気になっていたことでもあった。この質問は意外にも効果があったようで、彼の勢いが少し収まる。

「大丈夫、まるで魔法だ。腕が新品に変わったみたいだ。これは君の能力(ちから)だよね?」

 彼の問いに私はゆっくりと頷いた。


「やっぱり!」

 ショウの声が大きくなる。

「テノエはただの美人じゃ無いと思っていたんだ。最初会ったときに『訳ありだよね』って聞いただろ。やっぱりそうだった。君だったんだ。君は僕の人生において絶対に必要なんだ」

 彼は勢いを取り戻し始めた。


 一方、私は大きく気持ちが揺さぶられた。まるでKO寸前のボクサーだ。もし天命なんてなければ、私は喜んで陥落しただろう。

 けれどもそれはできないことだった。


「ありがとう……私にはもったいない言葉ね」

「そんなことない。もし僕に足りないところがあるなら、絶対に改めてみせる。だから、ずっと僕の側にいてくれ」

「ごめんなさい。それは無理」

 彼が言い終わらないうちに答えると、少し眉をしかめた。気を悪くしただろうか?


「でもね、心配しないで。もしあなたが怪我をしたら、その時はアメリカにいても治しに行くから。だから……それは私と付き合わなくても大丈夫だから」

 それが機嫌取りに聞こえたのか、彼は少し苛立ったようだ。


「別に君の能力だけが目的じゃない。確かにそれが決定打だった。それは否定しない。でも、それだけじゃない」

 ショウはまた距離を詰めてきた。


 この状況はお互いにとって危険だ。これ以上言って通じなければ、自衛の為守護者(クースト)を出さなくてはならない。だが、ショウを相手にその手段はとりたくない。私は一歩下がって彼に告げた。


「ショウ、笑わないで聞いて……私……処女なの」

 どうしてこんなことをわざわざ男性に言わなくてはならないのだろう。

 気まずさのあまりショウの目をまともに見ることができない。そして、この言葉は諸刃の剣でもある。こういうことを話すと『つまり俺にもらって欲しいんだな』と勘違いする男もいる。

 だが、誠実な男性ならわかってくれるはずだ。

 そして、ショウは誠実な男性だ。私はそれに賭けた。改めて彼と目を合わせる。


 すると、ショウは納得したように頷いた。

「なるほど、そうかそうか。わかったわかった。大丈夫大丈夫、大丈夫だよ。テノエのポリシーは最優先で尊重する。僕は結婚するまで決してそんなことはしないよ。約束する」


 彼は満面の笑みでそう言った。さっきまでの野性的な匂いも消え去っている。

 どうやら危機は脱したようだ。

 いや、そうじゃない。


「ちょっと、ショウ、私、結婚するなんて……」

「当然、結婚は大学卒業後で構わないし、その前に社会経験が要るなら2、3年は仕事をしていいし、気に入った仕事ならそのまま続けてもいい」

「ショウ!」

 勝手に話を進めるので、私は声を荒げた。


「私は誰とも結婚もお付き合いもできないの!」


 すると、ショウは真顔になった。

「ん、それってどう言う意味?」

(しまった)

 私はほぞをかんだ。ショウはわざとそういったのだ。


「今の言い方だと、テノエ自身の事情で結婚も交際もできないって意味にも聞こえるけど」

「……そうよ、私の理由でそういうことはできないの」

 こうなれば、話せることは全部話すしかない。


「この能力はね、ある天命を果たすために授けられた力なの」

「ギフテッド(Gifted)ってやつだよね、聞いたことがあるよ」

「これがそういうものかどうかわからないけど、これは私が処女でなくなったら消えてしまうものなの」

 正確には『消えてしまうかもしれない』だが、ここは強めに言った。


「そうなんだ」

 ショウはとりあえず納得したようだ。

「だから、私はその天命を果たすまで、男性とは一切お付き合いできないの」

「キスもできないの?」

「できない。誰かとキスをしただけでこの能力を失う可能性も0じゃないから。でも、手を繋ぐとか、ハグくらいなら大丈夫。水着を着てならジャグジーだって一緒に入れるよ。つまり、線引きとしては、性的な要素のある接触は一切ダメ。だから仮に男の人と付き合っても、そういう要求には絶対に応じられないの。男の人はそんなことには耐えられないでしょう?」

「普通はそうだろうね」


「それに私は嫉妬深いと思うから、相手にも同じことを求めると思う。だから浮気なんて決して許さないかもね……男の人と付き合ったことがないからどうなるかわからないけど」

「テノエ、じゃあ確認するけど、その条件を飲めば、付き合うことも、結婚もできるんだね」

「まあ、そうなるけど」


「わかった、その条件を飲むよ。だから、僕と結婚を前提に付き合ってくれ」

(えええええええええっ!)

 無言のまま、私は心の中で絶叫した。

※次話で章末話となります。更新は2023年10月22日 23時です。

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