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脱出転生サイドストーリーズ  作者: 等々力 至
テノエ=ソライダフの恋人
11/16

#11:戦闘(2)

 テノエは肩で息をしていた。

 そして、彼女の目の前には(エコー)が倒れている。ヤモリ魔人の全身には何度も地面に叩きつけられた痕が残っていた。


(なんて泥臭い戦いだったんだろう……)

 ある種の感慨にテノエはふけっていた。

 (エコー)との戦いは実に原始的だった。格闘技の心得の無いテノエにできたことは、力いっぱいに相手を掴み、持ち上げ、地面に叩きつけることだけだった。

 そして、彼女はそれを愚直に繰り返した、まるでウェイトトレーニングのように。


 (エコー)は朦朧としながら、テノエを見上げた。

(いったい、何が起こった?)

 嫌というほど地面に叩きつけられたせいか、身体が全く動かない。全身くまなく骨折しているようだ。気づけば股間の大砲もとれて無くなっていた。

(くそっ、まさかこんな細い女に……どうして……)


 そして、(エコー)の視界に彩月(あやづき)が入ってくると、ヤモリ魔人の疑念はさらに増した。

(こいつ、なんで動けるんだ?)

 おもいきり殴り飛ばし、確かな手ごたえがあった。だから、到底立っていられるはずはないのに、何事もなかったように、テノエに普通に話しかけていた。


「テノエさん、とどめ刺さないんですか? コイツ、まだ生きてますよ」

「ごめん、ちょっと疲れちゃって……息、整えさせて」


(こいつら……オレに勝った気でいやがる……のか?)

 ヤモリ魔人は悔しくて、悔しくて仕方なかった。

 地元では負けるという経験などなかったのに、この2人の女に会ってからというもの、ロクなことがない。だから、全部を払拭したい気持ちがあって、東京(ここ)までやってきたのに、結局、返り討ちにあってしまった。


「とりま、潰しますね?」

 彩月は一言断ると、紫の層壁(パープルレイ)を放った。淡い紫色の光がゆっくりと降り注ぐと、ヤモリ魔人の身体に圧力を加えはじめた。


「……なあ、助けてくれ」

 体全体にかかる圧力になんとか抗しながら、ヤモリ魔人はテノエに問いかけた。

「オレは別に誰も殺しちゃあいない……だから……オレを殺すのはやりすぎ……だろ?」

 男にとって、金以外で女に頼みごとをするのは、これが初めてだった。


「でも、アナタは魔族だから、このまま生かしておくと、これからも多くの人を傷つける。そして、誰かを殺してしまうのも時間の問題」

 テノエの淡々した答えに、ヤモリ魔人は恐怖した。

「待てっ! オレが誰かを殺すかも知れないって理由で、まだ誰も殺していないオレを殺すってのか?」

 身体を潰される痛みに耐えながら、(エコー)は叫んだ。


「そうよ、ヤモリ魔人さん」

 テノエは静かな口調で答えた。

「だから、そのヤモリ魔人ってのをやめろ。オレは何も望んでこんな姿になったわけじゃねえ!」

「そうね、そうかもしれないわね」

 テノエはヤモリ魔人の言い分に同意した。

「でも、その姿で多くの女の子に危害を加えたんでしょう」

「待てよ、多くって言ったって、たった9人だ。女をヤったって、この国じゃ死刑にはならないはずだ」

「そうね、でもそれがどうしたの?」

 魔族覚醒した人間はみな同じことを言う、テノエはヤモリ魔人の言うことにこれ以上取り合うつもりはなかった。テノエが彩月に目配せすると、パープルレイの圧力が高まった。


 そして、テノエは息を整えながら、消去魔法の準備を始めた。

 普段ならそんなに時間がかからない魔法だが、身体強化魔法でかなり魔力を消費したせいで、魔力を集めるのに少し時間がかかりそうだ。


「おい! 今すぐ、コレをやめさせろ!」

 ヤモリ魔人は最後の力を振り絞って「恫喝」した。それはこれまでで最も威力のあるものだったが、もうテノエには響かなかった。


 無言のまま、テノエは消去魔法を放った。

 ヤモリ魔人は断末魔の叫び声すら上げる間もなく、身体が光の粒に変わっていき、その姿を地上から永遠に消した。すると、周囲を覆っていた灰色の光の幕が徐々に薄れていった。

 魔族結界が消え始めていた。


 彩月とテノエはお互いの様子をチェックしあう。

「彩ちゃん、まだ、顔が少し腫れている」

 テノエは治癒魔法を彩月にかけた。魔族結界が消えれば、周囲は元の原宿に戻る。その時に彩月のような美少女が顔を腫らしているのは体裁が悪い。

「テノエさんだって、髪ボサボサ」

 彩月は小さく笑いながら櫛を取り出すと、少し背伸びをして、テノエの髪を()かし始めた。


 そして、お互いの身だしなみが整ったところで魔族結界は解けた。


 周囲の喧騒が聞こえ、彼女たちの周囲に原宿の風景が広がった。そして、道行く人々が何事もなかったように二人の近くを通り過ぎると、彼女たちはその人波に紛れるように歩き始めた。


 彩月は指でグラスを傾ける仕草をして、テノエに話しかけた。

「このあと、軽く行きません?」

 ようやく因縁の魔族を倒したのだ。彩月が打ち上げをしたい気分もよくわかる。

「そうしたいのやまやまだけど、彩ちゃん、この後、バイトじゃないの? 私もトレーニングがあるし」

 テノエは申し訳なさそうに言った。


「えっと……今日はシフト入れてませんけど」

 彩月は面白がりながら、テノエの顔を覗き込んだ。

「でも、トレーニングがあるなら仕方ありませんよね~~誰かさんも待ってるし」

「そ、そんなことないよ。じゃあ行こうよ。私がおごるから」

「さっすが、テノエさん。太っ腹! いい店見つけたんですよ、行きましょう」

 彩月はテノエの腕を嬉しそうにとった。

※次話「#12:結婚相手に求める条件l」は、2023年10月22日 17時頃掲載します。

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