第6話 加工女、去る!
~営業第一課~
AMは、プレゼンだけで終わり昼休みに突入した。
俺は、約二十年ぶりに嫁さんに作って貰った弁当を取り出し、ニンマリしていた。
そこへ、「一美ちゃん、一緒に食べよう!」と塔子ちゃんと鈴木さんが笑顔で弁当を持って来た。
慣習として、おっさんは自席で(コンビニ)弁当を食うか外食し、女性陣は(自作)弁当を会議室で食べる。
「いいよ」と言いながら机の上を片付けようとしたところ、北村女史まで「私も、ご一緒させてもらっても?」と、もじもじしながらこちらを見ている。
この女、普段は自席で食べているんだよね~、どうした心境の変化だろうか?
「そうね。だったら会議室へ行きましょう!」
と和やかに提案する鈴木さん。さすが気遣いの人。
ゾロゾロと女子4人(1人は虚構)で会議室へ向かう。
なぜか恨めしそうに見ている田中係長。
磯谷は何か言いかけた様だが、いつも外食だろう?
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さて、会議室、ここは昼休みの間だけ女子のまったりスペースになる。
まぁ、規則は無いのだが、暗黙のルールと言うか男子禁制が慣習となっている。
もちろん、俺は初参加だ。
空いている席に4人で陣取る。
会議室の再奥、窓際の良い席は総務課が、中央は隣課の営業第二課が陣取り、すでに食べはじめていた。
営業二課の桂木主任が、こちらを見て反応した。
「あら、北村さん、珍しいわね。貴女がこんなところに来るなんて。確か女子会とか、馬鹿にしていなかったかしら?」
あゝ、そうだった。
この二人は同期で同い歳のライバルだった。
俺から見たら二人ともかわいい後輩だが、二人の仲の悪さは周知の事実だ。
成績は北村女史の方が一歩リードしているが、桂木主任は結婚している。
桂木主任は、結婚せず仕事に集中していれば自分の方が上だと思っているらしい。
対して、北村女史がどう思っているかは知らない。
北村女子は、普通に席に着いて弁当を広げ始めた。
え! まさかの無視!?
「あはははっ、さ、食べよう! ね! 一美ちゃんも」
と気苦労の人、鈴木さんが俺を見て言う。
「そ、そうだね」
俺は、嫁さんが持たせてくれた懐かしい子供用の弁当箱を広げた。
中身は、小さいおにぎりが二つに、色とりどりのお惣菜、卵焼き、ゆでた人参、ブロッコリー、たこさんウィンナーに焼き魚だ。
オーソドックスだが、これが口に馴染む。
「「「わぁ~、美味しそう!」」」
俺の弁当を覗き込む3人娘。
「近い、近い!」
完全に女子扱いされているな・・・俺。
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弁当が食べ終わった頃、奥から総務課の松田奈々さんが近寄って来た。
「ねえ、ねえ、塔子、この子を紹介してよ」
松田奈々さんは、塔子ちゃんの友達だ。
ひょっとすると同期なのかもしれない。
総務課の花と言われるくらい可愛く、人気を塔子ちゃんと二分している。
「あっ、奈々ちゃん! 知っているでしょ、佐藤課長よ。佐藤一美ちゃん」
「「「「「「「「「「 え~! 」」」」」」」」
「ねぇ、塔子、その設定は、ちょっと無理じゃ無い?」
設定って。
まぁ、確かにゴリ押しではそろそろ限界かなとは思っている。
課内は良いとしても、人事を管理している総務課や次長、部長はな~。
・・・もってあと半日か。
「もう、奈々ちゃんてば、一美ちゃんは一美ちゃんなの!」
いや、そのゴリ押しは流石に無理だろう・・・。
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昼食が終わり、連れだって廊下を歩いていると、次長にバッタリ出くわしてしまった。
「お疲れ様です。次長」
とニッコリ笑いかけてみる。
「あ、あゝ、お疲れさん」
(誰だっけ?あんな娘居たかな?まぁ、皆と溶け込んでいるから…良いか)
何事も無く通り過ぎる事が出来た。
やはり、美人は得かも?だよな。
△△
PM、部下達を指導しつつ、溜まっていた決裁を処理し、書類の整理に追われる。
夕方になり、一通りの整理が付いた。
「これは重要、こっちは廃棄、私物は持って帰るしかないか…」
今一度フロアを見回す。
26年か~。
長いようで短かったな。
ちょっと泣けてくる。
「一美ちゃん、ど、ど、ど、どうしたの? どこか痛いの?」
田中係長(独身)が、ドギマギしながらこっちを覗っている。
「あゝ、ちょっとアクビしただけ(嘘)、なんともないよ、ありがとう」
「そ、そう? だったら良いけど…」
「うん。」とうっすら微笑み返し。
田中係長は、まだ何か言いたそうだ。
一呼吸も二呼吸も置いて意を決した田中係長が口を開く。
「あ、あの~、この後、食事でもどう?」
「はぁ? いやお前、鈴木さん狙いだろ!」
「 え!~↘ 」迷惑そうな鈴木さんの声が響く。
「え、あ、うっ、その、え~と」
「普段、俺を誘ったことなんか無いだろうに!」 ぷんすか
「う、う、うう、すんません」
「はぁ~、まぁ、その勇気は認めてやる。次回は頑張れ!」
“しゅん”と落ち込む田中係長。
なんだか心配になって来たな。
俺、居なくて大丈夫か?
できれば、後一日でも・・・。
“トゥルル~、トゥルル~”
内線電話だ。
ゲートの受付から、竜二が迎えに来ているとの知らせだった。
「さて行くか! 今日一日ありがとうな、皆!」
「「「「「「「 え! 」」」」」」」」
俺は、荷物を持ち席を立つ。
「か、一美ちゃん、明日は? 明日も来るよね?・・・」
北村女史が珍しくこんな台詞を言った。
北村女史が出勤を願っているのは、…悔しいが“一美ちゃん”の方だな。
月曜日の次は火曜日、火曜日の次は水曜日、いつも通り日にちは進んでいく。
一美ちゃんに明日は来るのだろうか?
塔子ちゃんは、涙ぐんでいる。
おいおい、“俺”に惚れているんじゃなかったのか?
「ふふふっ、バカ言うな。こんな姿でいつまでも来られる訳ないだろ?
まぁ、元の姿に戻っていたら来るけどな。」
「荷物、下までお持ちします!」
「そうか? 悪いな磯谷。お言葉に甘えるゎ。力が無いんでなこれでも」
「見たまんまです」
ドッと課内で笑いが起こった。
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磯谷と一緒にエレベーターに乗り込む。
就業時間中なだけあって、エレベーターはがら空きだった。
つまり閉鎖空間で二人きりだ。
磯谷は、チラチラこちらを見てはため息をついている。
そして、遂に会話は無かった。
1Fゲートでは、竜二が待っていた。
なんかちょっとお洒落にしてないか竜二?
竜「一美ちゃん!」
一「待たせた? 悪いな竜二」
磯「え!誰?」
一「あゝ、家の次男だ」
磯「そ、そう、なの・・・」
竜「・・・」
磯「あの~、一美ちゃん? そのLaインとかって交換しない?」
一「馬鹿だな。もう俺の番号知っているだろう?」
磯「はははっ、そうか! 課長の番号なんだ。でもその設定ってまだ続けるの?」
俺は、笑顔でもって回答した。
一「ふふふっ、じゃ~またな! 皆にもよろしく!」
磯「はい、課長! 明日もお会いできる事を願っております!」
なぜかビシっと敬礼する磯谷。
俺は、振り返らず回転ドアをくぐった。
第1部完です。
番外編をほんの少し更新します。