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9話 アクアステラ

 討伐を終えたリオンたちは、イースリットの街の、その中央に位置する教会へと転移していた。

 

 教会の中に突然現れた、疲れきった5人の冒険者に、最初は驚きに声を上げた老神父様だったが、それが勇者パーティと分かるや否や、まるで天使が舞い降りたかの様な感動でもって、リオンたちを迎えてくれた。

 

「おお……何と美しい……。急ぎ、アブレコ領主代行に使いを出しましょう!」

 神父様は何かに目覚めたかのように元気になると、歳の割に大きな声で人を呼び始めた。

 

「いえ、私たちは……」

 否定するユリアスに、テスリナが腕を回し、見上げた。

「ユリアス様?テスリナのお父様に会ってはくれないの?」

 瞳を潤ませたテスリナの訴えに、3人は顔を見合せ、ため息をついた。

 

 領主代行を待っている間、リオンは老神父様を掴まえ、質問攻めにしていた。神父様は頬を染め、何でも答えてくれた。

 イースリットは商業の街だけあって、教会はフェイヒューと呼ばれる、富を司る竜を信仰していたらしい。しかし、竜は今は無き王家の紋章でもあるし、魔物と同じく討伐対象である為、今ではフェイヒューも、人の姿をした彫像へと置き変わったのだという。


 魔物被害の多いこの街で、竜の話を聞くとは!リオンはその因果に、興味を持って神父の話を聞いていた。もしかしたらこの街の近くにも竜がいるのかもしれない。

 

「言ったろ?リオン。魔物が増え続ける原因を探れば、竜に行きあたるって」

 退屈そうに教会のベンチで横になっていたユリアスが、茶々を入れる。

 

「それは、ダンジョンに竜が現れる事が多いからだろ?竜が魔物を餌にしているであろう事は、ミミを見失ったあのダンジョンで分かった。魔物を退治してくれるのなら、我々にとって竜は有難い存在では無いのか?」

 神と崇められる竜は多い。竜は何時から我々の敵になったのだろうか。

 

「でもな、リオン。俺は竜に倒された勇者パーティを幾つも知っている。俺の部下もそうだった。敵を見誤ればこちらが殺られる。話し合おうなんて、妙な気は起こすなよ!」

 今までの勇者パーティは皆、魔物を倒し続け、そして最後には竜に挑み散った。……そう、挑んだのだ。

 これは竜の警告ではないだろうか。リオンは、神と崇められた竜が、我々人間に、奢るな、と言っている様に思えて仕方がなかった。

 

 しばらく後、領主代行だという、はつらつとした紳士が教会に現れ、一行は教会の隣の神職者の住居へと招待された。


 中々に立派な応接室に通され、これが教会なのかと、3人は困惑しながら、勧めるがままに豪華なソファに腰掛けた。

 目の前にはこのイースリットの街を治めるアブレコ領主代行。その後ろには、神父様がにこやかに立っていた。

 

「ほう、それでは休暇をとる為に、わざわざ我が街にいらして下さったのですか?そうですか……ユリアス様、勇者パーティの皆様、心より歓迎致します」

 領主代行は聖女テスリナの父親だ。元は商人だったであろう彼の腰の低さは、少々鼻についた。早速イグニートが突っ込んだ。

 

「全然歓迎って顔をしてないぞ、リオン。挨拶は済ませたんだ、もう出よう。このままいたら、また討伐に駆り出される事になりそうだ」

「いえ、心から歓迎を……我々は前回までの、役立たずの勇者パーティとは違い、今回の勇者様御一行には、多大なる期待をしておりますから」

 慌てる領主代行を、ユリアスは面白そうに笑った。

 

「ハハッ!図星か。イーグニート、本当の事を言ったら失礼だろ?……ああ、すまないね、うちのメンバーが正直で。だが、私たちも、だが、テスリナもダンジョンからの転移で消耗している。とりあえず休ませてくれ。……という訳で、我々は街で宿をとるからお構いなく」

 ユリアスが体の沈むソファから立ち上がると、アブレコ領主代行も慌てて立ち上がり、扉を塞ぐように立ち塞がった。

 

「いえいえ、公爵様のご子息を、宿屋になどお泊める事は出来ません!今、私の屋敷に部屋を用意させております故、そちらをお使い下さい!……どの道、今晩は晩餐会となります。そちらの方が便利かと」

 これにはリオンも、慌てて立ち上がった。

 

「俺たちは休暇を取るつもりでここに来たんだ。立て続けに5つのダンジョンを潰した。今もダンジョンを1つ攻略してきたばかりだ。そろそろ解放されたい」

 リオンは、手の抜けない性分なんだな、とユリアスに笑われながらも、しっかりとダンジョンを潰してから、ここに転移していた。

 聖女のヒールによって体力は戻る。しかし、それだけでは癒されないものもある。

 

 でも領主代行は、リオンたちの心の疲労など、考慮してはくれない。

「しかし、討伐は勇者パーティの義務では?こうしている間にも、街の外では、商隊が魔物に襲われております。我が街に来たからには、是非、一刻も早い対応を……」

 イグニートが体を乗り出した。

 

「なるほど。では、お前達の義務は接待という訳だ。こうやって勇者パーティの神経と体力を削っておいて、ダンジョンで失敗すれば、死者にも関わらずこき下ろす。仲間の死を嘲笑ってはしゃぐ、低級のゴブリンとあまり変わらない脳をお持ちのようだ」

 話を途中でブチ切ったイグニートに、領主代行は顔を赤くし、続く言葉を飲み込んだ。

 

「おいおい、イグニート。それは言い過ぎじゃないか?この人は、俺たちの意向を汲んでくれる、いい人かもしれないだろ?……ね?」

「はい!勿論ですとも!不快な思いをさせるつもりなど、微塵もございません!何なりと意向をお伝えくだされば……!!」

 ユリアスは垂れた目を更に眇めた。

 

「良かったな、リオン!しばらくは目をつぶってくれるそうだ。おい!ポーターくん!旅の支度はアブレコ領主代行が面倒を見てくれるそうだから、頼んだよ」

 リオンたちのソファの後ろで待機していたマッチョなポーターが、軽くなったバックパックを下ろし、嬉しそうに頷いた。

 

「こちらも優先したい用事があるんだ。それが済めば、魔物は早急に対処する。だから少しの間、放っておいて欲しい」

 頭を抱える領主代行に、リオンは退室しながらも、きっちりと礼をし、部屋を後にした。

 

 しかし、教会から出れば人垣が出来ていて、リオン達は早々に足止めを食らった。

「勇者様!東のダンジョンから魔物が溢れ、うかうかと商隊も出せません!」

「わしの家は街の外にあるんじゃ……恐ろしくて夜も眠れん。助けておくんなまし」

「勇者様!どうか……」

「勇者様!!」

 

「街を守るべき騎士は一体何をしているんだ……」

 ユリアスが深いため息を着いたその時、人垣を割って、数人のカストロの騎士が現れた。

「ユリアス様、こちらへ!馬を用意しております!」

「噂をすれば……リオン、行くぞ!」


◇◇◇

 

 その頃ミミたちは、イースリットの街から1番近いダンジョンを訪れていた。人目があるから、と徒歩で向かった所為もあって、ダンジョンに着いた時には既に陽は陰ってしまっていた。

 

 なるほどダンジョンか……と、記憶の戻ったミミは不気味な洞窟を見て思う。この世界では、魔物の住処となってしまった場所の事を、全てダンジョンと呼ぶらしい。

 

 そういえば、とミミは思い出す。

 星の欠片は、大抵ダンジョンの中にあった。ゲームを進めていない私は、ダンジョンには入れず、星の欠片を手にする事は出来なかったけれど、攻略サイトで調べて、どうにか手に入れられないかと、めっちゃ考えたものだ。

 イースリットにある星の欠片は、このダンジョンの中にあった。検査の為に掘られた人工の坑道で、ほぼ直線。手が届きそうで、やきもきしたものだ。今、その憧れのダンジョンが目の前にある!

 

「ダンジョンの中に入れば夜も昼も同じだ。行くぞ!!」

 大型犬サイズの小竜に姿を戻したライゾは、急に元気になると、ドスドスと先頭を切って洞窟へと入って行った。

 ミミも暖簾のように垂れ下がった植物を掻き分け、親父ぃ、やってる?みたいに、酒場気分でウキウキと中へと突入した。しかし……。

 

「隊長!暗くて見えません!」

 この坑道には、光る苔は生えてなかった。ライゾは入口にいた何かを捕食したようで、ボリボリと咀嚼音を鳴らしながらギラリと光る金の目をミミの方に向けた。

「はあ?何言ってやがる」 

「ああ、忘れていました。人間は夜目が効かないのでしたね……しかし、ランプとなると高級品」

 アンスールが思案顔でミミの横に並んだ。


「……あ!!」

 それならば!と、ミミはしゃがみこみ、ロウソクが三本刺さってある燭台を、地面にドン!と出した。

 

 書庫の片隅を寝床にしていたミミは、暗い夜はいつもこれで本を読んでいたのだ。

 慣れた手つきで、火付け石を使って灯りをともし、ドヤる。

「ミミ、ロウソク持ってるよ!」

 

 だけど、ライゾは顔を近づけ、ニヤった。

「すげーけどな、ミミ。これ、持ち歩けるのか?」

「はっ!」

 銅製の燭台はとても重い。持ち上げて見るも、安定が悪く、腕がプルプルと震える。ライゾにぷッと笑われた。

 

 でもアンスールはそれを片手で軽々と持ち上げ、細部まで鑑賞し始めた。

「竜の装飾がされてありますね。ミミ、これはどこで手に入れたのです?」

「ミミ、お前……盗んだのか?」

 ライゾが失礼な事を言うから、ミミは膨れた。

 

「救出したの!これはね、教会の隣の古い神殿にあった物なんだよ!でも火事で燃えちゃいそうだったから、ミミの謎空間に仕舞ったの」

「火事……それならば、返さなくては泥棒になってしまいますよ?」

 アンスールに諭された。でもミミは胸を張った。

 

「大丈夫!神官様が全て処分するはずだったのに……って言ってたから。ミミ、ちゃんと貰って大丈夫?て、身振り手振りで確認したよ!」

「なるほど、処分ですか。神殿を丸ごとね……。詳しく話してくれますか?」

 声が怖い。ミミはオドオドしながら話し始めた。

 

「ミミね、いつも神殿の地下の書庫で寝てたんだけど、お仕事終えて帰ってきたら、何か変な匂いするし、おかしいなって思ってたの。でも、クッキーが沢山落ちてたから、今日のご飯は豪華だなって、頑張って拾いながら中に入ったんだよ。そしたら、急に扉に火がついて、建物が勢いよく燃え始めちゃって……ミミ、大変だ!って、そこにあったもの全部、ミミの謎空間に仕舞ってから、外に出たの……」


「ミミ……よく生きてたな。お前、神官に恨みを買った覚えは?」

 ライゾが深刻そうな表情でミミを見てる。ミミは首を傾げた。

「捨て子だから?」

 アンスールは途端に驚愕の表情を見せた。今日のアンスールはちょっとおかしい。

 

「捨て子……神官がそう言ったのですか?」

 コクリとミミが頷くと、アンスールは今度はめちゃくちゃ凶悪な顔をした。ロウソクの効果も相まって、かなりホラーだ。ミミは思わずライゾに縋りついた。ライゾも体を寄せていた。

 

「ミミ。私は今、猛烈に腹が立っています。あ……ミミに、ではないので安心してください。ですが、どうにも抑えられそうもありません。少し1人にしてくれますか?」

 ミミに、じゃないなら……。ミミはガクガクと頷いた。

「ライゾ、ミミを頼みますよ」

 そう言うなり、アンスールは姿を竜へと変え、洞窟の奥へと突進して行った。


 明かり問題はライゾが燭台を運んでくれる事で解決!それからミミとライゾは、ギャ――!とか、ギュ――!とか、プギャ――!とか……断末魔が絶えず響き渡る坑道内で、魔物さんの慣れ末……落ちている魔石を拾いまくった。

 ここの魔石は、凄く大きい。魔物が立派な証拠だ。(涙)

 その方が拾いやすかったのか、ちびっ子に姿を変えたライゾが、時々つまみ食いするから、採取は競走だった。


「俺も暴れたかったのにな……」

「ライゾって、意外に空気読むんだね」

「お前、言うようになったな……」

「あ……この石、綺麗」

「石は食えんから要らぬ!バリボリ……」

「あ――また食べた――」


 採取しながら集中する事、数時間。1本道を下り続け、かなり坑道の奥までやって来た気がする。

 アンスールはきっちりとした暴れん坊の様で、ここまで1度も魔物の姿は見なかった。安心したのか、気が付けばライゾは、先に行っちゃって見えなくなっていた。

 

 ふと横を見れば、地下なのに光が差し込む隙間がある事にミミは気が付いた。近づけば、隙間は閉じる。

 ミミは星の欠片が坑道の横穴にある事を知っていた。床に置いてある燭台を引きずって隙間のあった部分に近づけた。

「もふもふだ……」

 隙間を作っていた壁は、触れば柔らかく、ほのかに温かい。


 体を引いて見れば、そこが丸く開けられた坑道の横穴で間違いない。どうやら生き物が自身の体で、穴を塞いでいる様子。生きている様で、呼吸に合わせ、体が静かに上下する。その律動で隙間が開閉するみたいだ。

 

「あ……また」

 今度は大きく隙間が空いた。ミミは勇気を出して、その隙間に体を滑り込ませた。

 

 目の前が突然開け、ミミは目を見張った。


 そこは、あまり広くはない空間だけど、上を向けば月が見える。壮大な縦穴だった。

 そのほとんどには水が溜まっていて、青白く光っていた。よく見るとそれは、水の上のお花畑だった。淡い青の光を放つ花。アクアステラだ!

 

「綺麗……」

 お花畑の中央は丸く空いていて、暗い水面に月を映している。その水面が揺れると、波紋が広がり、お花たちを揺らした。


 ミミはその素敵な風景をずっとみていたくて、座り込んだ。近くにあるもふもふにからだをうずめ、ふう……とため息をつく。手を伸ばせば、アクアステラの星型の可愛らしいお花が、すぐそこにある。

 

 暖かくて幸せだった。

 疲れきったミミは、花びらを優しく撫でながら、しばらくじっとその景色を眺めていた。


「魅力された?」

 耳元で柔らかい男の人の声がした。ミミはうとうとしながら、うんと頷いた。

「お月様の吐息が水面を揺らすの。お花さん達、とっても気持ちよさそう」

 

 ふふふと男の人は笑う。

「月の吐息ね。それも素敵な表現だけど、実際揺らしているのは、星の欠片だ。ほら、水面が揺れた時に一瞬、その天辺が見えるだろ?星の欠片は法力を産む。法力を放出する時に、水面を揺らすのよ」

「あ……また揺れた。お花は星の欠片が大好きなのね。……でもこれだと、ミミが星の欠片を持っていったら、このお花畑は枯れてしまう?」

 うーむと男の人は唸った。

 

「そうだね。出来れば諦めて欲しい」 

「分かった。他の場所を当たるよ」

「残念ながら、他も一緒よ。ミミと言ったね。どうして星の欠片が欲しいのか、聞いてもいい?」

 ミミはこくんと頷いた。

 

「ミミ、フラン様に星の欠片を持って行ってあげたいの。フラン様の苦しみを少しでも和らげてあげたい」

「ミミ、それは酷な事。苦しみを長引かせるだけだからね。フラン様に必要なのは安らかな眠り。私たちにもどうにも出来ない事よ」

 ライゾも同じ事を言った。ミミは込み上げてくる涙を必死に堪えて微笑んだ。

 

「それならミミは、たくさんのお花を持って行ってあげるよ。フラン様が気持ちよく眠れる様に」

 ほう……と、もふもふは息を吐いた。

「優しい子ね。それならば、星の欠片ごと全て、持って行きなさい。この花が枯れることがないように……」

 

 次の瞬間、風と一緒にお花たちが舞い上がった。虚空で一瞬止まると、今度は、小さな竜巻となり、ミミの手の中に吸い込まれていく。ミミは慌てて両手を広げた。

 シュルルルル……。

 

 すぐに風は収まった。ふわりと膨れたミミの髪も、スカートも落ち着く。

 そして、ミミの手の中には、星の欠片がちょこんとのっていた。

 

「綺麗……」

 星の欠片は、大きな金平糖のようにトゲトゲとしていて、月の明かりを受けて、キラキラと輝いていた。

 

 でも、ミミが顔を上げれば、綺麗だった場所は、ただの水の溜まった坑道に変わってしまっていた。

「嘘……。ふあっ!」

 

 更には、今までミミの背中にあったもふもふまでもが消え、ミミは後ろに転がった。背中に残った温もりは、すぐに地面の冷たさに馴染む。

 ミミは星の欠片を両手に囲い、月を仰ぎながら、全てが夢だったのかな、と涙を流した。

 

 でも、涙を拭おうと上げた手は、優しく止められ、代わりに綺麗な布が涙を拭ってくれた。目を開ければ、美しい女の人が親しげに微笑み、ミミの事を覗き込んでいた。

 

「汚い手で擦っちゃダメ。それに、泣かないの!人間が来るの。だから仕舞っただけで、あなたの中にお花畑は何時でも一緒にあるわ。あ、私はフェオ。獲得の竜よ。さあ、急いでそれも仕舞って!」

 さっきまで話をしていた男の人の声だ。

 

 星の欠片を仕舞い、もう一度目を擦ってから確かめようとした手は、やはり止められた。よく見れば、若干手がゴツイ。

「オネェ……さん?」

「フェオよ!」


 その時、ミミの名を呼ぶ声が聞こえてきた。それは、横穴の入り口で止まり、こちらに向かって投げかけられた。

「ミミ――!!ミミ?……そこにいるのか?」

 

 この声は……!!ミミは慌てて起き上がった。

 すぐ横にある穴の向こう側に松明の明かりが見えた。そして、顔を覗かせたのは、リオンだった!


「ミミ……ミミ!!」

 松明を投げ捨て、ガチャガチャと甲冑を鳴らしながら、こちらに来る。ミミは驚いて近くにいた女の人?……フェオの後ろに隠れた。

 リオンは歩を弛め、ミミたちの前で止まった。


「すまないが、その子と話をさせてくれないか?」

 リオンがフェオに伺いを立てた。ミミの連れだと思ったらしい。フェオは着ているユルいローブを揺らし、腕を組んだ。

 

「話をするって言う風には、とても見えないわ。こちらは丸腰よ。対等に話し合いたいのなら、それなりの誠意を見せたらどう?」

 リオンは頷き、ガチャガチャと甲冑を取ると、兜を下に落とした。

「綺麗……」

 ミミの心の声かと思ったら、フェオの呟きだった。


 リオンは更には剣も腰から抜いて、投げ捨てようとする。続いて入って来たユリアスが、急いでその手を止めた。

「リオン、この男は危険だ」

「男?」

 ウンウン。やっぱりそこで引っかかるよね!


「今はそんな事はどうでもいいだろ!ミミを無事にこの手に……」

「良くはない!リオン、言っただろ?敵を見誤るなと!」

 やっぱり気になるんだ……。

 ユリアスの呻きに、イグニートが頷いた。

 

 3人はまだ、一緒に行動している!仲良しな様子に、ミミは頬を緩め、手を振った。

「ミミ、どうして手を振るんだ?こっちにおいで。また一緒に旅をしよう」

 結局、リオンは剣を投げ捨て、両手を広げた。ミミは首を振る。心臓が何故かドキドキし始めた。

 

 一緒に行けたら、どんなに楽しいだろう……。でも、ストーリーが進めば、困った事になるって事、知ってるのはミミだけだ。

 ……あれ?そもそも、なんで3人は争うんだっけ?

 

 ストーリーでは、ミミが死んだ時、ミミの死体の周りには、ミミのアイテムボックスの中身がぶち撒かれてあった。

 その中に、竜を従えられるという重要アイテム、『竜王の証』があり、その所有を巡って3人が争いを始めて……。

 そうそう、最終的に聖女が、それを推しメンに渡す事で、3領土の争いが始まったのだった。

 

 あ……そういえばアンスールがいつか、ミミがそれ持ってるって言ってたような……。

 それよりも、今ミミは、リオンを前にして、何よりも聞きたい事があった。

 

「リオン、怪我は大丈夫?潰れてない?」

 ミミが言うと、イグニートがふっと笑った。

「多少、潰れたかもしれないな。メンツが。だが、体に不具合はない。……ミミ、喋れるようになったのか?」

 ミミは、ほっとして、嬉しくなって、フェオの後ろでぴょんと跳ねた。

 

「うん!ライゾがルーンを書き換えてくれたんだよ!ミミ、ずっとイグニートに御礼を言いたかったの!ありがとう!!」

「それは何の御礼だろうか……もっと聞かせて欲しいものだ」

 そう言いながら、イグニートも腰の剣を投げ捨てた。それを見て、チッと舌打ちしながらも、ユリアスが剣を捨てた。


 ほお……と、フェオが男らしく感嘆の声をあげた。

「話の分かる人間がいるとは!これは驚きだ!……ミミ、さあ、行きなさい!」

 

 ミミは肩を掴まれ、前に押しやられた。

 背中を不意に押され、トトっと、数歩前に出る。ふらりと膝を着きそうになった時、それをすくい上げてくれる腕があった。……リオンだった。

 

 リオンはミミを優しく抱き寄せ、ミミの肩に顔を埋めた。

「ミミ……この腕の中に君がいる……本当に良かった。君を1人、置いて行くなんて……本当にごめんよ……」

 リオンはミミの肩で泣き始めた。

 だからミミも、リオンの胸で泣きじゃくったの。

 ごめんなさいって何度も謝りながら……。

 

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