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6話 アンスール

「ライゾーさん。倉庫の精霊の皆さん、ありがとう」

 ミミはコアラの様に大きな木の枝に腰掛け、木の幹にしがみつき、小声でお礼を言った。

 夜の森は寒い。ガタガタと体は否応なしに震える。

 ミミは藁が恋しかった。でもここは高い木の上だ。たとえ藁があっても、鳥さんくらいのスキルがないと、巣は作れない。ミミは鳥さんを心から尊敬した。

 

 顔を上げれば、星がすぐ近くに見える。

 思い出すのは、あの日、ベッドの上に流れていたリオンの髪だった。まるで天の河の様に煌めく髪。そして、あどけなくも見えたリオンの綺麗な寝顔。あの日、リリは初めて一端の人となったのだ。

 

 もう、勇者パーティの3人に会う事はないだろう。でもミミは、夢のような、あの数日を忘れる事が出来なかった。


「ユリアス、リオン、イグニート……3人が争う事がありません様に」

 ミミは流れ星に祈った。


「ちょっと、ミミ!この状況で願う事がそれ!?違うくない?」

「シッ!静かにしろ!見つかるぞ!!」

 ピアと小さなライゾーさんがミミの肩の上で、ペチペチと無言でやり合う中、ミミの足元を、松明を持ったカストロの騎士が、幾度もうろついては、何処かに消えて行った。

 

 どのくらいそうしていただろうか……。真夜中になり、森が静かになった所で、ミミはホッと息をつくと、ようやく木から滑り降り、ぴょんぴょん跳ね始めた。

「何をしておる?」

「こうすれば暖かくなるの!」

「うむ、寒かったんだな。その底なしの体力は何処から来るのか……。これは、装備をどうにかせんと、何処にも連れて行けんな」

 ライゾーさんが鬼コーチの様にふんぞり返り、横で一緒に跳ねていたピアが頬をふくらませた。

 

「ライゾはまず、大きくなりなさいよ!!転移魔法使った途端、法力不足で縮むとか、有り得ないからね!!」

「仕方ないだろ?脱皮したばかりだったんだから。この体では餌も取れんし……」

 餌?


 ミミはピタリと止まり、ライゾーさんにそっと食べかけのクッキーを差し出した。

「ライゾーさん、これ……」

 ライゾーさんは、ブルブルとめっちゃ首を振った。

 

「いやいや、それはお前が食え。っと言うか、ライゾだ、覚えろ!確かに人間の食い物は美味くて好きだが、魔力が補えねば意味がないんだ」

「魔力?」

 ミミは首を傾げる。

 

「ああ。竜は堕天使フラン様の切り離された良心。だから、フラン様から剥がれ落ちた魔を食らう事が、生きていく上で必要となるんだ」

 ミミは、ふあ!っと驚きの声をあげた。

 

「フラン様は本当にいるのね!この世界に!!」

「ああ。今も人の闇に身を投じ、苦しんでいる。人の闇は深い。故に、浄化しきれない闇が体から剥がれ落ち、魔物となる。そして、魔物はまた、人を襲い、悲しみが闇を生むのだ」

「完全に悪循環ね」

 ピアの呟きに、ミミはポロリと涙を流した。

 

「フラン様を助ける事は出来ないの?」

「助けるとするなら、安らかなる死を与える事だな。……っと、ミミ、泣くな!!」

「あーあ。ライゾが泣かした――……ん?」

 ピアのそれを合図に、突然、ライゾーさんがミミの髪に隠れた。


「……ミミ?」

 その時、ガサリと草が揺れ、暗がりから女の人が現れた。ギルドの受け付けのお姉さんだ!!

 目を丸くするミミに、お姉さんは抱き着いてきた。

 

「泣いてるの?怖かったのね、可哀想に……さぁ、見つかる前に逃げるわよ!こっちに!」

 お姉さんはすぐにミミの手を引き、走り出した。


 それから無言で走り続ける事、数分。ミミたちは森を抜け、湖の畔を歩いていた。

 月が雲に隠れているのにも関わらず、辺りがとても明るく感じるのは、きっと星屑が湖にも映っているせいだろう。まるでミミたちは銀河の中を歩いているみたいだった。


 湖畔を周り、しばらく歩くと、小さなログハウスが見えてきた。そして小屋が近くになるにつれ、ウグ……ウグ……とカエルの声が聞こえてくる。

「カストロの騎士って弱いのね」

 ピアの声に振り向けば、声は猿轡を噛まされた騎士様のうめき声で、小屋の横にある納屋の中に、ぐるぐる巻きにされた数人の騎士様が見えた。


「うるさいったらありゃしない。明日には山に捨てに行くか」

 月明かりのない夜に妖しく光るギルドのお姉さんの目は、本気だった。途端にうめき声が止まった。


 小屋の扉の前に来ると、扉は向こうから開き、中からギルド長が顔を出した。

「おお、ミミ。無事で何よりだ。さあ、入れ!」


 小屋の中は暖かく、ミミはお姉さんの手によって、すぐにふわふわの毛皮に包まれ、暖炉の前に座らされた。

「小鳥……ヒナみたい……抱き潰したいくらい可愛い……」

 物騒に聞こえちゃうのは何故だろう?ミミは震えながら辺りを見た。


 暖炉とテーブルセットしかない部屋だ。隣に寝室が見える。ここは多分、狩りをする時に使う山小屋だろう。その窮屈な部屋の小さなテーブルに、ゴツいギルド長と知らない男の人が座っていた。

 

 息を飲む程美しい男の人だ。軽そうな装備から出た線の細い手足は透けるほど色白で、長い銀の髪のかかった整った顔には、切れ長の翠の目が片方だけ見えた。


「マリサ、その辺にして、温かい飲み物を飲ませてやれ。ミミ、お前、ずっとギルドに貼られていたクエストを見てただろ?パーティメンバーの保護ってやつだが……。実はな、このタイミングであれを受けてくれるお方が現れた」

 ミミはビクリと体を跳ねさせた。寒いと思ったのか、お姉さんがミミの手に、温かいカップを握らせた。

 ミルクをチロッと飲み、顔を上げれば、見知らぬ男の人がジロリとミミを睨んでいた。

 

「嬉しくないようだね。では君が、1人でこの困難をどう乗り切るつもりだったのか教えて頂こう」

 唄うような声で問われるのは流暢な叱咤だ。ミミは大きな目を見開いたまま、固まった。

 

「おいおい、こんな子どもにキツい言葉をかけるもんじゃねぇ。ミミ、騎士団に追われるには理由があるんだろ?まずはそれを話してくれないか?」

「騎士団などどうでもいい。私はお前が、お前を保護しようと手を差し伸べる者から逃げる理由を知りたい」

「そりゃ、あんたが怖いから……」

 ギルド長の言葉を、男の人は目力だけで黙らせた。ミミは震えながら口を開いた。

 

「ミミ、採取がしたいの」

 これは迷いもない本音。これから起きるかもしれない3貴族の争いの話をしようにも、ミミが死なない限り、ストーリーが進まない可能性が高い。だからミミは、ストーリーが進まないよう、勇者パーティから逃げ、採取で暮らしていくしかないと考えていた。

 

「……採取」

 途端に男の人は明らかに失望した様子で立ち上がった。

「この話はなかった事に。失礼する」

 そう言い、呆気にとられたギルド長を置いて、小屋から出て行った。

 

「……まぁ、今回は縁がなかったって事で」

 まるで娘のお見合いに失敗したお父さんの様な言葉を言って、ギルド長は隣の寝室に消えた。

「ミミ、あの人は考えたいだけよ。きっと明日には最善の策を考えてきてくれる。だから、今日はここでゆっくり休みなさい」

 そう言い、お姉さんも後を追うように隣の部屋へと入って行った。

 隣の部屋からは、いつまでも抑えた話し声が聞こえていた。


 ミミはそれから少し寝ると、陽の登る前に起き出し、外に出た。

 朝靄の漂う湖畔は、幻想的でとても綺麗。ミミは寒さに負けない様に、猛烈に体を動かしながら湖畔を歩いた。ミミの怪しい儀式風ダンスに反応してか、魚が時折飛び跳ね、ライゾーさんのお腹に収まった。

 

「ミミ、踊りながら何処に行くつもり?」

 ピアが眠そうに、虚空からちょっと顔を出した。 

「あのね、この湖では時計花が採れるんだよ」

「ああ、採取ね。ごゆっくりどうぞ!」

 ピアは欠伸をしながら消える。寝床がアイテムボックスの中なんて、羨ましい。

 お腹がいっぱいになったのか、ライゾーさんもミミの髪の毛の中で眠りについた。

 

 前世の記憶を辿り、静かな湖畔をちょっと歩けば、湖の中にセンターラグサイズの小さな浮島が見えてくる。ミミはブーツと灰色のワンピースを脱ぎ、下着姿になると、お腹に力を入れ、水の中に入っていった。

 足は冷たさに痛くなるけど、すぐに痺れて感覚がなくなるから構わない。ミミは前世の記憶で、この湖が浅い事を知っていた。

 でも、実際水に入ってみると、水草が絡み、前に進むのはとても難しかった。ミミはびしょ濡れになって、もがきながらようやくお花のある浮島にたどり着いた。

 

「そうか……島自体がお花の本体だったんだね」

 震えながらも、緑の浮島に幾つか生えてるピンクの時計花に手を伸ばして撫でた。……綺麗。

 

 時計花は1度咲けば、時間を告げる様に開いたり閉じたりを繰り返すも、何ヶ月も枯れる事がない。そのせいか数が少なくとても貴重だ。

 ミミはとりあえず近くにある元気そうな1本を慎重に手折ると、ボックスに消し、次の1本を厳選し、手を伸ばした。

 でも、その手は白い手によって止められた。

 

「全部採るつもりか?」

 いつの間にか、昨晩の男の人が横に立っていた。男の人は頭まで濡れてて、白み始めた空にキラキラと輝いて見えた。

 ミミは首を振る。


「お花さんの後世の為、後はこれだけにする。1番綺麗だから」

 男の人が手を離してくれたので、ミミはそっと綺麗なお花を手折る。嬉しくて自然と笑顔がこぼれた。

 心の声はうへへだけど、男の人はミミの笑顔を見て、何かを思い直したようにため息をついた。


「……手が氷の様だ。このままでは凍傷になる。背中に捕まれ」

 そう言い、ご機嫌なミミを半ば強引に背負って岸まで歩いて行った。

 そしてブルブルと震えの止まらないミミを置くと、すぐに乾いた木を集めてきて、ミミの髪の中からライゾーさんを引っ張り出した。

 

 ポカ!

 頭を叩けば、寝起きのライゾーさんの口からは火炎が飛び出す。

 ライゾーさん素敵!

 ミミは思わず火に手をかざした。

「グァァァ――何をする!!」

 ライゾーさんは上手い具合に火炎を吐き、薪に火をつけてくれた。

 

「それでもお前はそいつを護っているつもりか?」

「うぐっ……」

 殴った相手を見て、すぐにライゾーさんは口を閉じたけど、薪が赤々と燃え始め、ミミは幸せ気分になった。

 

「私には、お前が何故、命を懸けてまで採取するかが分からない」

 男の人は静かに、着ていた服の水を絞りながら呟く。ミミは流木に座って、手を炙りながら、首を傾げた。

 

「綺麗なものは採っておきたくなるものじゃない?ミミはどうしてみんなが綺麗なものに気が付かないのかが分からない。世界には綺麗なものが溢れているのに……。さっきのお花はギルド長さんとお姉さんにあげようと思って頑張ったの!喜んでくれるかなぁ……」

「まあ、価値ある物だ。喜ぶだろうな」

「そうだとミミも嬉しい!」

 ミミは早く渡したくて、ぴょんと立ち上がると、ニコニコ笑顔で男の人に頭を下げた。

 

「じゃあ、渡してくるね!ありがとう!」

 ミミは無言で頷く男の人に手を振って、湖畔に置きっぱだった服とブーツを身につけた。空は明るくなっている。小屋まで急いで駆けていった。


 小屋を覗けば、昨晩遅くまで策を練っていたからか、2人はまだ眠っていた。ミミは水桶に残る水をコップに注ぎ、採ったばかりの1番綺麗なお花を挿してから、こっそり小屋から出た。

 

 ついでに納屋に行って、騎士様たちを揺り起こしす。

「あのね、ミミの事、ほんの少しだけ見失ってくれるなら、この縄を解いてあげる」

 騎士様たちはウンウンと大きく頷いた。ミミは早速縄の結び目に手をかけ、解こうと頑張り始めた。

 でも完全に温まってないミミの手はかじかんでて、全然上手くいかない。

「むーん……」

 縄は荒くて血が出てくるし。


「手をのけろ」

 その時、ミミの後ろから再び白い手が伸びてきた。

「声をあげるなよ。娘との約束を破れば、命がないと思え」

 騎士様たちは男の人の美しさに目を丸くしながら、首を縦に降った。

 男の人は腰に下げた細いナイフで縄を切ると、次々に騎士様を解放した。ミミは嬉しくてぴょんぴょん跳ねた。


 解放された騎士様は、ミミの頭を撫でてくれた。その1人がミミに羊皮紙を押し付けてくる。

 受け取った羊皮紙からは香油入りの塗り薬の匂いがした。

 ミミは騎士様のほっぺにキスをすると、赤くなった騎士様たちに手を振って、スキップ混じりに森に向かって駆け出した。

 

 もう少し奥まで行ってから、また木に登ろう。カストロの騎士様が飽きるまで何度も。そう思ってた。……でも。

 ミミは、森の中に入って気付いた。振り向けば、何故か男の人が無言でついてきていたのだ。

 

「お前の行動が、全く理解出来ない。理解出来るまで同行させて貰う」

 そう言い、男の人はミミを追い越し、前を歩き始めた。

 

「お兄さん、ありがとう!!」

 ミミは嬉しくなってお礼を言った。

 すると、男の人は立ち止まり、ミミの方を振り返った。片方しか見えない青い目が不機嫌そうに側められる。

 

「アンスール、私は知識の竜だ。さあ、お前の欲しい物を言え。採取場所に連れて行こう」

 そう言い、アンスールはグッと首を擡げた。

 途端、体が霧に包まれ、次の瞬間には翠の体を持つ竜へと姿を変えていた。

 

 その姿が本当の姿なのか分からないけれど、4本足で、とても走りやすそうなスタイル。アンスールは羽の生えたフェンリルみたいな竜だった。

 アンスールはきっと自由に姿を変えられるに違いない!!ミミはすごいすごいと跳ねまくった。

 

「アンスール!ミミね。次に行きたい所、決めてるの!連れて行ってくれる?」

 ミミはモーリアン様の落とした星の欠片を集めたいと思っていた。そして、フラン様に沢山持って行ってあげたかった。

 フラン様の物語はルーンキャッスル・ストーリーに出てこなかった。でも、星の欠片というアイテムはあったのだ。

 

「場所指定とは……まあいいだろう。では、どちらだ?」

「右!!」

「東か?」

「うーん……。右だったんだよね……マップの」

 アンスールは呆れた様に首を振った。

 

「乗れ。近くの街に行くぞ」

 ミミはアンスールの背中に乗り、その首元のふわふわに体を埋めた。

「先ずは地図と、旅に耐えられる装備を揃えに行く。捕まれ」

 風の様になめらかに、アンスールは駆け出したのだった。

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