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5話 ルーンキャッスル・ストーリー

 その頃、ルーンキャッスル公国の首都にあるカステロ公邸はちょっとした騒ぎとなっていた。勇者パーティが欠けた状態でルーン城に戻ってきたからだ。

 

「出来損ないのポーターのせいで、リオンが竜の下敷きに!こんなに消耗して……死にかけてたのよ!!」

 大仰に泣き真似と分かる素振りで騒ぎ立てる聖女、エレーンの前には、無傷の剣士リオンが、不機嫌極まりない様子で座っていた。

 

 そのまま、半ば連行される様に連れて来られた勇者パーティの男メンバー3人は、ルーンキャッスル公国の君主であるカストロ公アーロンの執務机の前に立たされ、不貞腐れた表情をしていた。


「父上!今すぐ、失ったメンバーの捜索に行かねばならないというのに、何故この様な場所に連れてこらねばならないのか、教えて頂きたい!」

 自身の父親だからか、ユリアスは若干喧嘩腰で、執務机に手を着いた。カストロ公は執務机に両手を組み、厳しい表情で3人を見据える。

 

「何度も言ったはずだ。何の手違いか、お前達の向かったダンジョンは恐ろしく遠く、到着まで3週間は下らない。再び転移させようにも、あの場所に(ソーン)を刻んだ者はこの首都にはおらんのだ」

「近くまで転移させて貰えば、そこから馬で行けるはずだ。父上、何故許しては下さらないのですか?」

「それはお前にも分かっているはずだ、ユリアス。ポーターの替えなど、幾らでも用意出来る。お前達、勇者パーティに見合う者を、今すぐにでも……」 

 ここでリオンが、カストロ公の話を遮り、1歩前に出た。

 

「陛下、申し上げますが、替えがきくのは俺たちも同じ事。今まではパーティメンバーが1人でも欠ければ、すぐに次の勇者候補パーティへと権利が移されたはずです。なのに、今回に限って続行とは、些かおかしくはありませんか?」

 カストロ公は、うむと唸る。

 

「それは、欠けたのが戦力に全く関係の無いポーターだったからだ。お前達にも分かるだろ?あのガキ……失礼、小娘でなくてはならない理由などないはずだ!」

 カストロ公は少し声を荒らげた。リオンは冷静に公を見下ろす。


「分かりませんね。ミミは我がパーティに欠かせないポーターです。行かせてくれないのであれば、勇者の名を返上させて頂きます」

 ドン!

 カストロ公はテーブルを叩き、不満を隠しもしない。


「勝手は許さん!お前達には国を守る義務があるはずだ!ダンジョンからは魔物が溢れ、国民は今も苦しめられておるのだぞ!」

 スっとリオンは息を飲むと、真っ直ぐにカストロ公を見た。


「俺は仲間を見捨てた勇者として、名を残す気はありません。それに、魔物退治はなにも、勇者パーティでなくても出来るのです。確かに経験値を、優先的に貰えるのは嬉しいですが、たとえ勇者でなくなったとしても、俺は人助けを辞めるつもりはございません。ですからどうぞ、次の勇者候補へと、ご連絡ください」

「レイハルト家の異端児め……優秀な我が息子の晴れ舞台に泥を塗るつもりか!!」

 目くじらを立て、がなり立てるカストロ公に、今度はイグニートがスっとリオンの横に並び口を開いた。

 

「私もリオンと同意見です。カストロ公アーロン殿、我々の意向は伝えたので、これにて失礼致します。……ユリアス、お前なら何処でも活躍出来るはずだ。悪いが、パーティは解散だ。リオン、行こう」

 踵を返した2人を、ユリアスが慌てて追う。

「ま……待てリオン!俺は抜ける気はないぞ!」

 リオンの腕を取り、カストロ公へと向き直った。


「父上、今すぐ早馬を現地にいるアダン騎士団長の元へ向かわせて下さい。兄上なら確認の為、ダンジョンに潜るでしょう。竜は討伐済みですから、必ずミミは生きているはず。見つけ次第、丁重に保護すると誓ってください!」

「それはいつになる事やら……」

 リオンが首を振る。


「リオン、私たちが行くより、騎士の情報網を使った方が速い。頼むから……」

 ユリアスはリオンの顔を覗き込み、いつになく真剣な顔で説き伏せた。だが、イグニートは頷かない。

「確かにそうだが、カストロでのミミの扱いは、お前も知っての通り。ミミの命をカストロの騎士などに預けられん!」

 イグニートの唸るような抗議にリオンも頷いた。

 

 ……と、ここでようやく 、3人のやり取りを見ていたカストロ公が、ため息と共に妥協した案を出してきた。

「……分かった。勇者リオン・レイハルト殿。ミミというポーターの保護を、今すぐ手配させる。それでどうだ?」

 リオンはキッとカストロ公を睨んだ。

「勇者パーティの一員として丁重に、だ」

 カストロ公は更にため息をついた。 


「……分かった。丁重に保護させる。これでこの話は終わりだ。1日を無駄にした。明朝には次なるダンジョンへと向かうがいい。ブラス!聞いていただろ?至急、早馬を手配しろ!それと、新しいポーターを!明朝の勇者パーティの出発には必ず間に合わせろ!」

「はっ!」

 

 その後、近衛隊長に恭しく執務室を追い出された3人は、早々に屋敷を出ると、ユリアスに促され厩舎へと来ていた。

 

「ギルドに捜索を依頼しに行くぞ。うちの騎士よりギルドの方が速いだろう。下手に逃げ回って監視されるより、籠の鳥の方が便利な場合もある。最大限に権限を利用させて貰おう」

 ユリアスは適当な馬を引っ張り出すと、手馴れた様子で鞍をつけ、リオンに渡した。

 

「本当にお前は調子がいいな、ユリアス。屋敷を出た途端に元気になるとは……」

 イグニートは呆れ顔だ。ユリアスは笑い飛ばす。 

「俺は金も権力も、自分の好きなものの為に使いたいだけだ。今の俺にはそれしかないからな!」

 

 馬を受け取ったリオンは、ユリアスが更に適当な馬に引っ張り出すのを止め、腕をしっかりと取った。

「ユリアス、お前の忠告は正しかった。今ではお前とパーティを組めた事を神に感謝するくらい、頼りにしている。俺たちは今は決められた道を進むしかないが、早々に魔物を片付け、ミミを助けに行きたいと考えている。頼む、手を貸してくれないか?」

 ユリアスは照れた様に頷き、馬に鞍を回した。だが、その顔はすぐに曇る。

 

「分かったよ、リオン。だが、あの聖女は首にしてくれよ。俺は見たんだ。彼女がミミを竜の下に投げ込むのを。俺は仲間を裏切るような奴と組みたくない」

「それは俺も同意見だ」

 何処からか黒い馬を引いて来た。ユリアスは鞍を放った。


「あいつは勇気を振り絞り、自らの手でボス部屋の扉を開けた。私はそれを見ていたんだ。なのに……。不甲斐ない、あいつが無事だといいが……」

 イグニートが黒馬に鞍をつけながら嘆く。


「こんな事になるのだったら、ミミの装備を整えておくべきだったな。可愛い装備だって、用意出来たのに……」

 ユリアスが心底残念そうに呟く。

「ああ。聖女の嫉妬心を煽らない為とは言え、あの格好のままでいさせた事を死ぬほど後悔しているよ。洞窟の夜は寒いだろうに……ミミに毛皮を出すだけの勇気があればいいんだけど」

 リオンも辛そうな顔だ。イグニートも肩を落としていた。

「食事を出す勇気もな。……リオン。お前はリーダーだ。ミミのステータス画面が見れるんじゃないか?あいつの様子が少しでも知りたい」

 

 眉を顰める仲間たちに頷くと、リオンはミミのステータス画面を開いて見せた。青い画面が浮かび、ミミの体力と魔力と攻撃力が、細長いゲージで記されてあるが、今はどれも減った様子はなかった。

 

「無事の様だな……安心したよ。しかし、ミミの能力値は俺たちと変わらないんだな。ダンジョンでの経験値が分配されたからか?」

 ユリアスが関心した様に呟いた。リオンが眉をひそめて首を振る。

 

「ミミは最初からそこそこ強かった。恐らく教会で酷い扱いを受け続け、無自覚のうちに鍛えられたのだと思う。おかげで、こんな状況でも体力が減らないのだろうけど……」

「胸が痛むな」

「ああ。ただ……今はこれ以上、分からない。何があったのか、アイテムボックスが開けないんだ。まあ、俺のボックスも開けないから、普通にバグだろうがな」

 途端、ユリアスが目を見開く。

 

「リオン、お前、アイテムボックスなんか持ってたのか?すごいな!」

「いや、枠は5つだけだ。大した事じゃない」

「5つも!大したもんだ。ポーターでさえ、10枠が限界なのに!」

 

 ……と、ここでユリアスはふざけた様子でリオンの肩に腕を回すと、顔を覗き込んだ。

「なあリオン。お前、ミミのボックスを覗いたんだろ?何が入ってたんだ?」

 リオンは辺りを見回し、他に人がいない事を確認してから、口を開いた。

「あまりにゴミが多くて、全部は見きれなかったんだ。……そう、見切れなかったんだよ。ミミのアイテムボックスには限界がなかったから」

 

◇◇◇


 それから1週間後の事だ。

 ノースウッドから1番近い町、ニアホレストのギルドに、新しいクエストが貼りつけられた。

 

 依頼主は匿名。場所は竜の巣と言われるノースウッド最奥の洞窟で、クエスト内容は行方不明のパーティメンバーの保護を目的としたものだった。

 薄桃色の髪をした15歳(童顔)の少女。特徴欄には口数が極端に少ない事が書き加えられていた。

 

 もし、竜が生きていたら……。

 破格値の付けられたそのクエストに、いつもはイキり散らかす冒険者も警戒し、手を付けられずにいた。


 駆け出し冒険者のミミは、ギルドの建物に入ると、真っ先に放置されたままのクエストの張り紙に目をやった。

 まだある!

 ミミは、ほっと小さく息をついた。でも、安心するのと同時にちょっと嬉しくて、ぴょこぴょこ跳ねながら、ギルドカウンターを目指した。

 きっとこの依頼はユリアスに違いない!ミミはそう思っていた。

 

 ミミは、この依頼が貼られる数日前には、勇者パーティが次のダンジョンへと向かったと、風の噂で聞いていた。

 どうやらリオンは無事だったらしい。

 ミミは胸を撫で下ろすと同時に、不安も感じていた。

 なぜならミミはこの数日で、前世の事を朧気ながらも思い出していたからだ。

 

 

 ミミの前世の名は花音。中学生の時、住んでた田舎のおばあちゃん家の裏山の崖から転げ落ち、死んだと思われる。

 そして、この世界で、2度目の人生を生きる事になったらしいんだけど……。

 

【ルーンキャッスル・ストーリー】

 私のいた、日本という国の、アドベンチャーゲームの名前だ。

 どうやら私はその世界に転生したらしいのだ。


 転生って本当にあるのね!

 私は驚くと同時に、自分の立ち位置を理解した。


 ルーンキャッスル・ストーリーはルーンキャッスル公国の、3つに別れた領土を、主人公である『聖女』が、推しの貴族と共に統一していくという、陣取りゲームだった。

 

 解像度の低いオープンワールド内を、ドット絵で描かれる、ユルいエンカウント戦闘をしながら、領土を広げていくのが基本の行動だ。その間に、推し貴族との絡みシーンも挿入されていた為、盛りすぎて中途半端な印象のゲームだった。


 主人公になれる『聖女』は5人。プレイヤーはその5人の中から主人公となる『聖女』を選ぶと同時に、これから推していく公爵領を決めなくてはならない。

 選択肢が多いからか、このゲームには割と長い前置き(チュートリアル)がついていた。

 

 ミミというキャラは『聖女』の1人で、プレイヤーが強制的に最初に触るキャラだった。

 世界観と操作方法を学びながら、3貴族の主要人物である、リオン・ユリアス・イグニートという3人のイケメンキャラの自己紹介を聞く為だけのキャラで、最初のダンジョンで死んでしまう……。


 そう、ミミはこの世界の、悪役令嬢でも、チートキャラでもなく、チュートリアルキャラだったのだ!

 

 小さな顔に大きな鳶色の瞳。淡いピンクのゆるふわヘアーをした、あざとさ満点の女の子。

 物語は、そんなミミという愛されキャラの死をきっかけにして、3領土の主要キャラ3人の仲に亀裂が入る所から始まり、プレイヤーの選んだ『聖女』が巻き込まれていく形で進行するはずだった。……のに?

 ミミはどういう訳か、この世界で生き残ってしまっていた。


 どうして生き残ったのか……。理由は分からないけど、私は、自分がミミに転生した理由なら、何となく想像出来た。

 

 ミミはチュートリアルの為だけのキャラだった為に、地味に打たれ強かった。

 ストーリーを進めなければ死ぬ事もないし、何よりも、アイテムボックスが無限だった!

 

 前世の私は、ストーリーを進める事なく、チュートリアル途中のミミのまま、オープンワールド内を、ただただ採取だけをして、楽しみまくっていたのだ。

 


 ムフフ……とミミは両手に抱えたお花に顔を埋める。

 アイテム集め放題の世界に転生するなんて……。

 なんて幸せなのだろう――!!

 ミミは神様に感謝していた。

 

 でも、生活は普通にしなきゃいけない。

 収入は必要だからと、ミミは集めたアイテムの一部を泣く泣くギルドに売る事にしていた。


 ミミは長い回想から覚醒すると、舐められないよう、ふん!と小さな胸を張ってギルドカウンターに座るお姉さんに声をかけた。

「お姉さん!ミミ、今日もいっぱいお花摘んで来たよ!」

 

 まるでお花が歩いて来た様な姿に、厳しい事で有名なギルドの若い受け付け穣の頬が緩んだ。

 ミミがドサリと、いい香りのするハーブをカウンターに乗せると、受付嬢は手を伸ばし、ミミのふわふわの頭に着いた葉っぱを優しく取ってくれた。そして素早くハーブの本数を確認し始める。シュタタタ……と音が聞こえて来そうな手際の良さだ。

 

「ミミ、採取ご苦労様。これが報酬の5000フィーだよ」

 すぐに、チャリン!と置かれる銀貨5枚!

 5000フィー!相場の倍近い金額に、冒険者らが息を飲む音が聞こえた。

 

「お姉さん、ありがとう!」

 ミミはぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜んだ。見れば、顰め面がデフォルトの受け付け穣も、ぎこちなく微笑んでいる?周りの冒険者たちがざわめいた。

 

「ミミの持ち込む薬草はどれも摘みたてで質がいいから、高値で取り引きさせて貰っただけだ。また頼むよ!」

「うん!ミミ、また、いっぱいとってくるね!」

「そこそこにね。無理はいけないよ……ミミ?ちゃんとご飯は食べてるかい?」

 ハッ!とミミは思い出した。集中すると周りが見えなくなるのは悪い癖だ。

 

「忘れてた!」

「仕方ないねぇ。ほら、私のおやつあげるから……」

 受け付け穣が、何故か恥ずかしそうに、何処からか袋を取り出し、差し出してきた。ミミはプルプルと首を振る。

「お姉さんのおやつよ?貰えない」

「いいから食べなっ!ほら、そこ、座って!」

 

 パァァとミミは顔を輝かせた。

「ありがとう!!」

 ミミは満面の笑みで、貰った袋から大きなクッキーを取り出すと、お姉さんの隣に座って、早速モヒモヒと食べ始めた。

 お姉さんはめちゃめちゃうっとりとした表情を浮かべ、ミミを見つめていた。それを見、冒険者らは、化け物でも見たかのように顔を青くしていた。


「ミミ!帰ったか。ちょっと上に来い!」

 その時、ギルドのカウンターの奥の階段から、ギルド長の厳ついおじさんが顔を出した。ミミは残念そうなお姉さんに手を振ると、ギルド長室へと急いで上がった。

 

 ニアホレストのギルド長は怖い顔をしてるけど、面倒見がいい事をミミは知っていた。寝る場所を探して町を彷徨っていたミミを拾ってくれたからだ。

 宿賃の払えないミミは、今、このギルドの荷物部屋に寝泊まりさせて貰っていた。

 

 ギルド長はミミを執務室に押し込むと、部屋のドアを閉めるなりミミに詰め寄ってきた。

「ミミ!まさかとは思うが、お前、勇者パーティのポーターじゃないだろうな?」

 ミミは嘘が付けなくて、モジモジと下を見た。ギルド長は、ジーッとミミを見つめ、はぁ……とため息をついた。

 

「やっぱそうか……。やたらと勇者メンバーの事を聞いてくるから、おかしいとは思ってたんだ。しかし、ルーン石も持たない少女が勇者パーティのメンバーだとは、思いもしないだろう?……ミミ、実はな。先程カストロの騎士にミミというポーターを見なかったかと聞かれてな。ミミ、お前、勇者パーティを抜けて来たのか?」

 ミミはプルプルと首を振る。

「抜けてないよ。リオンが怪我して、ミミは洞窟に置いて行かれたの」

 ギルド長は怖い顔に、更に深いシワを刻んだ。

 

「そうか、置いて行かれたか。その服装……納得だ。ミミ、どうやらカストロ騎士団にとってお前は、邪魔な存在らしい。保護したいと言う割には、物々しい雰囲気だったからな」

 ミミは目を丸くする。騎士様がミミを?


「ミミ、俺はもう少し探って見る。だから、しばらくはここにいろ」

「うう……ミミ、採取クエストしたい」

「気持ちは分かるが、しばらくの辛抱……」

 コンコン!と音がして振り向けば、扉はもう開けられていた。

 

 開け放たれた扉を背に立っていたのは、アダン様。ユリアスのお兄さんだった。

「ギルド長。これはどういう事かな?先程貴殿は、ポーターなど知らんと言ったではないか」


 ギルド長はミミを庇うように前に立ちはばかる。

「ミミは採取クエストの常連で、ポーターだとは知らなかった」

「苦しい言い訳を……。まあいい。ミミ、帰るぞ。ユリアスが待っている」

 アダン様がミミに手を伸ばした。ミミは首を振ってギルド長の影に隠れた。


 ミミはもう、貴族と関わるつもりはなかった。

 もし、ストーリー通りに事が進んでいたら、3貴族は争う事になるからだ。

 今、カストロ公爵のお世話になってしまったら、ミミはいずれ、リオンやイグニートと敵対する事になってしまう。それだけは絶対に嫌だった。

 

「ほお?否定する事を覚えたか。しかし、これは陛下からの命令だ。こっちに来い!ミミ!」

 ミミは無意識にビクリと反応してしまう。

 でも!ミミの首に今、描かれているのは希望(カノ)だ。もう、束縛(ニイド)ではないの!

 

 ミミは勇気を振り絞って首を降ると、ギルド長室の窓に駆け寄った。同時に素早い動きでアダン様が動いた。ギルド長を押しのけ、ミミの腕へと手を伸ばす。

「うひゃっ!」

 腕が乱暴に引っ張られ、ミミは悲鳴をあげた。

 

 その時、ミミのふわふわの髪から、小さくなったライゾーさんが眠そうにモゾモゾと顔を出した。

 アダン様は目の前に現れた謎の生き物に警戒し、手を引いた。

「ん?!……トカゲか……」

 眉を顰める。

 

 その一言で、ライゾーさんの怒りがマックスになった!

「なにぃ!?トカゲだとぉ!?」

 

 ガォォォ――!!

 小さなライゾーさんの慎ましい口から、火炎が放射された!

 

 小竜の口から放たれる火炎は小さく、アダン様の皮の装備をチロッと焦がした。アダン様はすぐにバタバタと手で火を消してしまう。でも、ミミにはそれで十分だった。

 

 ミミはギルド長室の窓枠を伝って、外へと身を乗り出していた。ここは2階だ。落ちたら無事では済まされないだろう。でも、モーリアン教会の聖女たちに鍛えられたミミは、頑丈さに自信があった。

 

 足が滑る……。すぐ近くに、アダン様の手が伸びていた。

 するとその時、すぐに耳元でピアの声が響いた。

 

「みんな――!緊急事態よ!手を貸して――!!」

 ふお!?

 途端に、体が軽くなり、ミミの体は宙に浮いた。

 アダン様の手が宙を掻く。

 

「あ、こらっ、小娘!!誰か――!射落とせ!……殺しても構わん!!」

「ミミ!?あは……はははっ!!」

 アダン様のがなり声とギルド長の爆笑が遠のいていく。

 

 パタパタパタ……。

 右腕には鳩サイズのライゾーさん。左腕には、倉庫の精霊の皆様が……何匹いるの!?

 うんしょ、うんしょと掛け声が聞こえる様な可愛いスピードでミミは浮上していた。


 ミミは微妙な速度で、そのまま大空へと飛び立って行ったのだった。


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