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42話 奪還

 夜になりミミは、カストロに帰還した騎士様達とユリアスに別れを告げ、青年ライゾと一緒にフラン様の屋敷へと戻って来た。

 皆の溜まり場となったウィン様の屋敷のいちばん広いリビングに入ると、何やら空気が重たい。

 

 カノさんに会いに行ったアンスール達が帰ってきた様だけど、出来れば彼女を連れて帰ってきます!って、揚々と出掛けたのに、カノさんの姿はここにない。

 ミミは落ち着かず、部屋の片隅に座った。青年ライゾは苦笑すると、ミミの横の壁を背に、足を組んで様子を伺うことにしたようだ。

 

「では、そのまま何もせずに、帰って来たと言う訳ですか?」

 オセル様は王子様の様な顔を歪め、少し怒った表情で、中央のソファーに座るアンスールとスルトさんを見下ろしていた。

 

「ああ、寝所には力の竜ソウェルの気配もあった。カノが手を伸ばしてくれれば、助けようもあったが、フラン様の前で喧嘩する訳にもいかんだろ?」

 スルトさんは大きな体を縮め、申し訳なさそうに話す。その横でアンスールは、肩を落として俯いていた。

「まさかカノが闇に飲まれていたとは思いもよりませんでした。あの様子、カノがはフラン様から剥がれ落ちた魔を直接取り込んでいたのかもしれません」

 流れ落ちた銀糸の髪でその表情は見えないけど、意気消沈した様子に、ミミは作戦が失敗した事を悟った。

 

「直接、だと?」

 療養中のオセル様は、更に顔の影を濃くする。

「彼女は大胆な行動を起こす事が多かったが……そんな事、できるものなのか?」


 堕天使フラン様は、人の闇の集まるカラドコルグの山の上で、闇を喰らい、それを自らの体の中で鎮め、浄化している。でも、それでも浄化しきれない闇は、魔となってフラン様の身体から剥がれ落ち、カラドコルグの溝を流れる突風に舞うのだという。それを取り込んだ森の生き物が魔物になると、最近教えて貰ったのだけど……。

 カノさんは、生き物が魔物になる前に、魔を滅したかったのかもしれない。とても優しい竜さん……ミミは胸が苦しくなる。

 

「平和な時代になり、闇が減り、魔が剥がれ落ちる事は少なくなっていた。だから、カノがフラン様の元に残ると言った時、私はそこまで深く考えず、眠りについてしまったのだが。ついていてあげるべきだった」

 アンスールがとても悲しそうに再び両手で顔を覆った。

 ミミは、立ち上がると、アンスールの隣に座り、そっと体を寄せた。アンスールが泣きそうに思えたからだ。

 アンスールの手は、無意識にミミの頭を撫でる。


「アンスール様は片目を人間に与えたのです。眠りについて当然です」

 オセル様はそう言うけど、アンスールは納得しない。だからか、ライゾが腹を立てたように腕を組んで、ミミの隣にドカりと座った。


「残ったのはあいつの意思だ。それをお前らは侮辱するつもりか?竜は全にして個、個にして全。もし何かあったのなら、俺たちに相談すべきなんだ!!」

「確かに、手を貸すべきではない。それが普通の状態であればだが……」

 オセル様は辛そうに眉を顰める。

「でも、普通ではなかったのなら……?」

 

「あのぉ……竜は魔石を食べると聞いたのだが、魔を直接取り込むのとでは、何か違ったのでしょうか?」

 突然、部屋の隅で何かを書き記していたヴィクトル・ヴォイスさんが話に加わって来た。

 

 ヴィクトルさんは、イグニートを助けようとした事が考慮され、その処遇については観察中になっていた。今は療養中のオセル様が彼の監視役なんだけど、2人はとても話が合う様で、よくリビングで討論をしているのを見かける。というか、議論が止まらず、ウィン様にリビングを追い出される事もしばしば。

 今もオセル様に話しかけたのだろうけど、皆の注目を浴びてしまい、ヴィクトルさんは目を泳がした。オセル様はいつもの調子でヴィクトルさんにきらきらとした目を向ける。

 

「我々が魔物の体の中で結晶化した魔……魔石を食らう分には問題ありません。そういうように創られたという事もありますが、我々には魔を放出するすべがあるからでしょう」

 ヴィクトルさんはなるほどと頷く。

「では、魔物もまた、魔を放出しているという事でしょうか」

「それは考えた事もなかったですね……」

 さすが、抽出器を作ったお方。オセル様が考え込んでしまった。ヴィクトルさんはそれを見て、饒舌にも話し始める。

 

「私は常々魔法とは、怒りや悲しみなど、様々な感情の昂りを放出する事だと考えていました。だとすると、魔というのはそういった極度に振り切った昂りではないでしょうか。ですので、魔物は戦う事で魔を放出していると考えられます」

「なるほど。ならば、カノが取り込んだ魔の量は、放出前の状態であり、桁違いに多かったという事か!」

 オセル様は納得したみたいだけど、2人の会話に、アンスールはますます落ち込んでしまった。


「カノは責任感が強い。だから魔を取り込む事を辞める事が出来なくなったのだろう。苦しかったろうに……」

「そうだな……」

 スルトさんまで落ち込んでしまった。

 皆にとってカノは、とても大切な存在なのだ。


 だけど、ライゾは何故か怒りだす。

「アンスール、甘やかすな!竜は自分の世話は自分で出来る筈だ!いいか、この話はもう終わりだ。要らぬ心配をさせるな。明日にはアイツらが合流する。今はそっちに集中すべきだ」

 アンスールが、ハッと気付いた様に、ミミを見た。

「そうですね。余計な事を話しすぎました。……ミミ、もう寝る時間ですよ」


◇◇◇

 

 ――ミミも眠りについた、その日の真夜中の事。

 ファリアス城の中では、密かに幽霊騒ぎが起きていた。

 

 奇しくも城内では、カストロ公爵の死の原因が、ルーン城での幽霊騒ぎにあるという噂が届いたばかり。

 愛されキャラのイグニート様を偲ぶ、城の使用人達は、幽霊が恐ろしいと思う反面、いささか複雑な心境でこの幽霊騒ぎを楽しんでいた。というのも、領主バンデロ様が亡くなってしまってからと言うもの、屋敷の使用人には休暇が与えられず、心身共に極限の状態だったからだ。

 

「噴水の辺りを黒い服を着た大柄な魔導士が彷徨くのを見たわ……私の姿を見て慌てて消えたのよ!」

「水を汲んでたら、いきなり真後ろに現われたわ!その慌てようったら、まるで生きているようだった」

「勇者リオン様が滞在して下さるのは心強いですが、ずっと独り言を喋りながら、散歩をしておいでで……お姿を消して、きっと、そこにいらっしゃるのね!」


 イグニート様が、霊になって戻って来て下さったに違いない!!

 

「流石、大魔導士イグニート様だ!」

 騎士団長がワクワクと顔を輝かせ、

「次は何処に現われて下さるだろうか……。しかし皆さん、お会いしたい気持ちも分かりますが、驚かさぬ様、気をつけるのですよ――!」

 執事長が使用人に注意を促す。

 

 噂を聞いた城の使用人から騎士団、臣下達まで、キローガが眠った後に、こっそりと黒焦げ遺体の安置された部屋に集まる始末。

 料理長に至っては、調味料のビンを磨きあげ、遺体の周りに花と一緒に並べ始めている。

 

「誰も怖がってくれないのだが?」

 その様子を柱の影から見守りながら、イグニートは呟いた。横でリオンがクスリと笑う。

「別に脅かしに来た訳じゃないだろ?……見ろよ。好き嫌いの差がとても顕著にあらわれてる。ここにいるのは、お前を特に慕ってくれている者たちなんだろう。良かった……信頼出来る者がこんなにもいてくれて……」

 皆が慕ってくれるのは嬉しい。しかし、その理由を考えると、心が痛い。

 

「……キローガの奴め。使用人を使い捨てにするつもりなのか?休暇も与えぬとは、城に幽閉しているのも同じではないか」

 ギリッと歯噛みするイグニートに、隠れるのが苦手な2人のサポートに来ていたピアが、集めた情報を披露する。

 

「噂によると、キローガは屋敷の使用人が逃げ出すのを待っているらしいの。逃げ出せば大手を振って殺せるからね」

「バンデロ様を殺したのがハガルであると、外に知られる訳にはいかない。誰に見られていたかも分からないだろうから、全員、死ぬまで出すつもりはないのだろう……」

 リオンは疲れた様子の使用人達を見回し、眉を顰める。

 イグニートを見れば、悲しみに涙を流し始めた使用人たちから目を離せない様子。その黒い目に怒りの火が灯っているように思えるのは、気の所為じゃないだろう。


「それは、誰かが立たなければいけないという事か……」

 イグニートの余裕のない顔など、中々見れるものではない。

 リオンが無言で頷くと、イグニートは何かを覚悟したように遠くを見た。そこに領主バンデロ様がいるかの様に。


「そうか、分かった。では、(ソーン)も刻み終えた事だ。幽霊は一時退散する。リオン、後は任せられるか?」

 振り返ったイグニートは、意外にスッキリとした顔をしていた。

 イグニートが覚悟を決めたのなら、手助けは惜しまない。

 永遠の転移石を握ったイグニートに、リオンは微笑みかけた。

「ああ、任せてくれ。俺ももう少し皆と話したいと思っていた所なんだ。せっかく集まってくれたのだしね」

「程々にしてくれよ……転移(ライド)


 リオンはイグニートの消えた空間に笑みを送ると、棺に近づいた。

「俺も一緒に祈らせてはくれないか?」

 


 次の日の朝。

 目覚めたキローガは、イグニートの意思だからと偽り、葬儀を簡潔にスッキリと済ます事に決めた。

 ただただ、めんどくさかったのだ。

 

 すぐに神官を呼びつけ、城の片隅にある小さな神殿に、2体あった遺体のうちの1つ……イグニートかもしれない遺体を運ばせた。

 同時に使用人を使い、城の端っこに穴を掘らせる。棺を城の外に出して、事を大きくする事はない。ここに埋めちまえばいいのだ。

 これも又、イグニートの意思だと言えば、誰も咎めないだろう。 

 

 さあ、これで簡単に済ませられる!

 そう思って挑んだ葬儀だが、いざ始まってみれば、神官は長ったらしい祈りの儀式を、短くはしてくれない。キローガは神官に促され、渋々、棺に形だけの祈りを捧げる事になった……のだが。

 棺を見れば見るほど、喜びが湧いてくる。


 俺は領主になった!!

 イグニートは死んだ。勇者パーティは解散だ!

 

 領主であった親父にとって、勇者パーティに選ばれた息子たちは誇りだった。領民も、臣下も、騎士も……皆が、兄と弟を褒め讃え、俺になんか、目も向けなかった。

 

 ……でも実際、そいつらが魔王を倒したか?

 奴らはこんなに簡単に死んじまうんだよ。偽善者ってだけで、何の役に立ちはしなかった!

 

 俺は奴らとは違う。

 俺は竜を従えてるんだよ!特別なんだ!

 ……今まで俺を見下した事、後悔するがいい。

 

 思わずニンマリとしてしまうのを抑えられない。まあ、どうせ誰もいないんだからと、キローガはニヤケ顔のまま立ち上がった。

 だが、後ろを振り返ると、そこには、忌々しい事に、沢山の人が集っているじゃないか。


「いつの間に……」

「なあこれ、城中の使用人が集まってんじゃね?」

 神殿の椅子にだらしなく座っていたハガルが、スッと立ち上がり、横に並んで耳打ちした。キローガの驚いた顔を見て楽しんでいるのだ。

 

「臣下もいるな。騎士や文官まで揃ってるぜ。イグニート坊ちゃんは余程信頼が厚かったらしい。お前が殺したくなる意味が分かったぜ」

「うるさいなぁ……どうせすぐに忘れるさ」

  

 皆、キローガが神殿から出て行くのを待っているようだ。神殿の扉の前まで……いや、外まで、しっかりと道を開けてくれている。

 その視線が不快にも刺さるように感じるのは、多少なり負い目を感じているからなのか?

 俺が殺した訳じゃないのに……。

 

「ふん!勝手にしろ……」

 ムカつきながらも歩き出したキローガの目の端に、まだいたのか、勇者リオンの姿が映った。リオンだけじゃない。ユリアスも来てるじゃないか!

 わざわざ貴重な転移石を使ってまで、死体に会いに来るとは泣けてくる。……どいつもこいつも、偽善者ばかりで嫌になる。

 キローガは足を止めた。

 

「勇者リオン様、ちゃんと会うのは初めまして、だな。……ああ、もう違うか。残念な事に1人欠けたから、勇者パーティは解散になるんだったな」

 悔しがる2人の顔をみれば、多少はスカッとすると思ったのに、奴らは咎めるように俺を見るだけだ……ムカつく。どうせ腹の中じゃ、勇者パーティが解散されてほっとしてるに違いない。なぜなら、勇者パーティは必ず死ぬからな。

 

「お前たちも良かったな。イグニートが死んだお陰で、生き延びられたんだから。あの、戦うしか脳の無い弟でも、少しは役に立ったって訳だ。感謝するがいい!さあ、葬儀は終わった。早々に去れ!」

 ムッとリオンが眉を顰める。そうそう、これが見たかったんだ。キローガは嬉しくなる。

 

「一応言っとくが、これからは点数稼ぎにファリアスのダンジョンに挑戦することも許さない。お前達は勇者パーティでも何でもないからな。ここはファリアスの領土で、領主は俺だ。お前たちにはもう、この土地に入る権利はないんだよ!」

「魔物はどうするんだ?放っておけば、ダンジョンから溢れるぞ。民の安全は守れるのか?」

 リオンがようやく口を開いた。

 キローガは、ハガルの肩に腕をかけると、ニヤリと笑った。

「さあな。神にでも祈るだろう。……まあ、俺を敬えば、助けてやらん事もないがな!そうだろ?魔導師ハガル様」


 途端、リオンは震える程の激しい殺気を放った。走って逃げたくなるほどの殺気だ。……ハガルの髪が逆立つ。

 だが、竜に変わるかと思ったその瞬間。辺りが急に騒がしくなった。


「キローガ様!!第1騎士団が攻めて来ました!!」

「はあ!?」

 第1騎士団だと?伝令の伝えた言葉に、思わず間抜けな返事を返してしまう。……と、首筋に冷たい物を感じた。


「降参しろ。そうすれば……」

 だが、リオンの発した言葉は途中で遮られる。何故なら、俺には竜がついているから。

 俺がされているのと同じ様に、ハガルの刃……多分、竜の爪だな?何故そこだけデカくなったかは知らないが、リオンの首筋に伸びたそれが、リオンの言葉を遮っていた。


「降参するのはそっちだな。お前たちが何を連れて来たかは知らないが、ここは俺の目のかかった城だ。落とせる訳がない」

 ハガルが笑う。

「……だ、そうだ。剣を引け」

 キローガの首に当たるのは、自分のまるっと顔が写るほどの大剣。生きた心地がしない。冷や汗の雫が落ちた時、リオンは剣を引いた。と、同時に俺は抱え上げられていた。


「……!!」

 一瞬で空中へと舞い上がる。

 腹に食い込むのは、トカゲの様な醜い手だ。


「ハガル!どうした!?」

 突然竜になるとは!

「喚くな!みろ!」

 

 下を見れば、城の門を既に突破したのか、中央広場まで戦闘が及んでいた。

 戦っているのは城の近衛と騎士団と……あの装備。うちの騎士団じゃないか!!しかもその中心にいるのは見覚えのある男。騎士になど興味のなかった俺でも見知っている堂々とした佇まい。

「第1騎士団隊長クリストス……。死んだのではなかったのか……?」

 少なくとも、スルトの洞窟から帰ってきた奴らは、そう報告した。156名の尊い命が失われたと!

 腹芸のできる様な奴らじゃないから、油断していた。

 クリストス率いる元騎士団に、リオンとユリアスが加わり、見るまに城の騎士たちが押され、敵?に寝返っていくのが分かる。

 ……とそこでいきなり、ハガルが大きく羽ばたいた。


 急な旋回に吐きそうになりながら目を開ければ、口から大きな氷の粒を吐き出していた。

 それは雹となり、戦場となった広場の端の方に、ドドドと突き刺さる。


「あんまり当たってないぞ!!うぇっぷ……」

 数人が怪我をした程度だ。

「うるさいなぁ」

 敵味方構わず降ってきた雹に、味方の騎士は逃げ惑っている。その反面、敵はこちらには見向きもせず、騎士ばかり追い回している。これじゃ、俺のゲロの方が威力があるだろう。

 

「ハガル、薙ぎ払えよ!」

「出来ねぇ……」

「は!?」

「出来ないんだよ!!聞け!あいつだ!」

 後方で指揮を取る者がいる。そいつをハガルの大きな爪が指さした。

 

「敵兵の鎮圧が先だ!竜は絶対に攻撃するな――!!徹底しろ!」

「黒ローブ。魔道士か?……まさか」

 死んだと思っていた者がこれだけ出てきたんだ。アイツも化けて出てもおかしくない。

 そう思って見ていたら、相手も見られている事に気が付いたのだろう。おもむろにフードを下ろした。

 

「……イグニートだ!!クソっ!墓から出てきやがった!」

 思わずキローガは叫んだ。

「んな事ある訳ねぇだろ……」

 分かっていても、つい口から出てきたんだよ!それよりも。

 

「何をしている!!殺れよ!」

 ハガルはずっと空中で様子を見てばかり。攻撃しても、敵をかすって追い払うだけで、確実に当てようとしない。

 

「出来ねぇって言っただろ?」

「何でだよ!」

「あっちが攻撃してこねぇからだよ!」

「はあ!?」

「竜は人間の様な、か弱い生き物を一方的に虐殺するような事はしない。手を出されれば追い払うがな。……プライドが許さないんだ」

「……何言ってんだ?前も殺ったろ?」

「それは攻撃してきたからだっ!これだけ仕向けても、手を出さねぇとか、有り得ねぇ!……クソっ!あの中に1匹でも竜がいれば、ついでって事で殺れたかもしれねぇのに……」

「意味分かんねぇ!」

「そういう風に出来てんだよ!!っクソ!これじゃ、奴らを追い出す事も出来ん!」

 何度威嚇射撃をしても、敵はハガルを無視し続ける。


 だが、ここで諦めるのはまだ早い。敵である騎士は、かき集めてもせいぜい100名ほど。城の中には近衛はじめ、私の息のかかった側近に近衛や歩哨、大臣らに、その大臣の精鋭護衛兵らがいる。寝返った騎士らを差し引いても、敵の何倍の数にもなるだろう。


「焦るなハガル。城の入口を見ろ。そろそろ援軍が来るはずだ」

 遅いけどな。何してんだ?

「あ、出てきたぞ。……フライパン、持ってやがる」

「ハガル……そりゃ、料理長だ」

 上を向き、こっちに何やら喚き散らしている。なんだ?と思って見ていたら……。

 続いて出てきたのは大臣。それも1人じゃない。

 次から次へと、拘束された俺の部下たちが、使用人に蹴り出されてきたじゃないか!


「おいおい、お前んとのこ使用人は近衛より強いのか?」

「寝返ったというのか……?」

「おお!料理長、強ぇ――」

「んな訳あるか!!中にも敵が忍び込んでたんだよ!いつの間に!?」


 近衛を追い立てた冒険者風のそいつらは、こちらに見せびらかす様に、城中央の広場に俺の部下を集め始めた。その人数でどうやって?と、思う程、少人数だ。

 しかし、瞬きをした瞬間、何故部下らが降伏したかが分かった。城から最後に出て来たのが、リオンとユリアスだったからだ。

 

 嘘だ……何故彼らは一瞬にして城内に入ったんだ!?

 そして、そこに騎士団を鎮圧したイグニートが、これまた一瞬にして合流する。

「転移石か……」

 ハガルが呟くが、そんな貴重な代物をこんな風に使うなんか、正気じゃねぇよ!

 

 ……と、3人が集めた俺の部下の前に並び、イグニートがいつも身に付けていた黒ローブを脱いだ。

 存在感のある佇まい。高貴な服を着ているだけで……それだけで、大臣らはひれ伏した。


「勇者パーティめ……」

 ハガルは高く飛び立った。領主の俺を連れて何処へ行くというのだろう……?


 だが、抗う言葉も出ない程、キローガは打ちひしがれていた。

 眼下に広がるのは、俺の領土だ!俺の物なのに!!

 

 ほんの数分の事だった。

 奴らは、あのクソみたいな人数で、俺の城を略奪した。

 

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