4話 覚醒(自称)
翌朝、万全の状態だという勇者パーティは、野営地を片付けると準備を整え、洞窟の奥へと進んだ。
野営地からほんの数分歩いた先。
そこには、ボス部屋です!って書いてある様な、大きな扉が、勇者パーティの前に立ちはばかっていた。
「ミミはここで待っててね。エレーン、今日は一緒に入って貰うよ。君の力が必要になるかもしれない」
「分かりましたわ。任せてちょうだい」
エレーンは何故かミミにニヤリと笑いかけると、イグニートの腕に巻きついた。
ミミは待つのが得意だ。4人が扉を開け、ボス部屋へと入って行くのを見送ると、謎の胸の痛みに首を傾げるも、すぐに近くをキョロキョロと見回し始めた。
ここには綺麗な石が沢山ある。明るい苔が多いからよく見えるし、植物も色々生えていて、ミミは採り甲斐のある宝物たちに、ワクワクと飛びついていった。
中の様子が気にならない訳じゃない。でも、ミミは待っていろと言われたから、中から聞こえる竜の咆哮に時々ビクッとしながら、まずは綺麗な石から拾う事にした。
綺麗な石の次は綺麗な葉っぱを根っこから抜いて、枯れてしまわない様に綺麗に纏めて採取する。次は怪しいキノコを引き抜いて、明るい苔は丸くまるめて……それでも戦いは終わらない。
この辺の植物は網羅した。ちょうど扉の前に来たミミは、心配になって扉を見上げた。
ミミの心臓が、トクトクといつもよりも雄弁に鳴り響いていた。ミミは初めての気持ちに戸惑う。
ミミは可愛い双葉が、知らないうちに引き抜かれてしまった時の様な気持ちを、人に対して抱いた事がなかった。好きなものがミミの前から無くなってしまう事が、とてつもなく怖くなった。
ミミは、いてもたってもいられなくなり、中を覗いてみる事にした。
言いつけを破るのは初めてだ。心臓がドキドキと大きな音をたて、首の傷がとても熱く感じた。
でも、ミミは勇気を振り絞って、少しだけ扉を開けると、溢れ出す轟音に震えながら、そっと中を覗いた。
……ふお!!
ボス部屋の中は、天井の高い四角い遺跡の様な空間で、幾つもの松明が左右に燃えていてとても明るかった。
そのほぼ全体を使って、大きな灰色の竜と戦っているのが、勇者パーティのメンバー3人だ。
小竜ってこんなに大きいの!?
モーリアン教会の1番小さな礼拝堂位はあると思う。今は翼は畳んであるけど、それでも迫力は十分。灰色のウロコを持つ身体は硬そうで攻略不可能に思えた。
竜の大きな口の鋭い牙を長い大剣で防いでいるのはリオンだ。そして、リオンが引き付けた隙に、物凄い速さで容赦ない閃擊を繰り出すのは、双剣を持ったユリアスだ。ユリアスが剣を使うのをミミは初めて見た。
硬い鱗のない頭部に、剣が刺し込まれると、悶え、項垂れた竜の眉間へと、短剣1本で素早く数発を打ち込みダメージを与えた。
たまらずもたげた首の下には、リオンが入ると、その顎目掛けて下から刺し貫く。竜が苦しみ、逃げを打って翼を広げた所で、ユリアスは竜から距離をとると、素早く背中の弓を番い、竜の翼をその場に縫い付けるように射った!竜は怒り狂い、火炎を吐こうと大きな口を開けた。
「今だ!!」
直後、獣の顔面目掛けて超ド級の火球が放たれた。イグニートだ。
ドォォォ――ン!!
グォォォォ――!!
外で聞くよりも遥かに迫力のある爆発音と咆哮。続く地響き。
ミミはその轟音に扉に張り付き、耳を塞いだ。
途端、自分に何が起きたのか分からなかった。
気が付けば、首根っこを捕まれ、ポイ!と体が投げ出されていた。
ミミが驚いて両膝両手を着き、顔を上げた時には、既にミミの上には暗い影が迫っていた。ミミの上に竜が倒れて来ていたのだ!
ドォォォォ――ン!
グッとミミの背中に重さが掛かる。ミミが潰れるほどの重さだ。でも、苦しくない。
視界に甲冑の輝きが見え、ミミは自分の上にリオンがいる事に気が付いた。
「うッ……」
リオンが唸る。
爆音が収まると、ミミはユリアスに引っ張られ、リオンの下から引き出された。
「リオン!!大丈夫か!?」
ミミがいなくなった事で、目の前のリオンが押し潰されていく。その姿に、さっきまでの覇気はない。
「ヒールします!」
ミミはエレーンにドンと押され、尻もちを着いた。ガクガクと震えが止まらない。
「大丈夫だミミ。リオンはタンクだ、補正がある。これくらい大した事じゃないだろう」
ユリアスがリオンの横に膝を着くと、エレーンはリオンを隠すように間に入り、すぐさま決断を下した。
「危険な状態です!今すぐここを離脱します!」
「消耗しているだけだ。回復さえ貰えれば、この位、動かせるだろ?リオン……」
イグニートがリオンの兜外そうと手を添えた。そのタイミングでエレーンが叫んだ。
「急ぎます!手を……転移!!」
次の瞬間。
ビュン!という音と、 ミミの目の前から4人の姿が消え去った。
みんなのいた空間を埋めるように、竜がドスンと倒れた。
ミミの好きなものは……。
ミミはボス部屋の中に落ちている綺麗な石を拾いながら考える。
綺麗な石。可愛いお花にふわふわした苔。ぴょこっと出た双葉に、古い本。
ミミは自分の好きなものは何でも、謎空間にとっておく事が出来た。今まではそれだけで十分幸せだった。
でも今のミミは、何よりもリオンやイグニートやユリアスが好きだった。
リオンやイグニートやユリアスは謎空間にしまっておくことが出来ない。だからこんなに苦しいに違いない。
ミミは目を擦り、鼻を啜った。でも、喉の奥が痛くなるだけで、涙はもう出なくなっていた。
待っていたら迎えに来てくれたりしないかな……。
ミミは首を振る。
ミミは言いつけを破り、みんなに迷惑をかけてしまった。不穏分子は排除するべきだってユリアスが話していたのを、ミミは確かに聞いていた。
ミミは顔を上げる。
今、ミミが竜に食べられてしまっても、気に留める人は誰もいないだろう。
それでもミミは、また誰かに、そこにいていいよ、と言って欲しかった。
ミミはここでようやく、見ない様に努めていた竜に目をやった。
魔物ならば、倒された時点で黒い石の欠片となって消えるのに、この竜は消えなかった。という事は、生きてるかもしれない。大きすぎて転移魔法から漏れてしまったのだろう。
今、動き出せば、ミミの命はない!
この死活問題を解決すべく、ミミは決死の思いで立ち上がった。竜に近付くと、恐る恐るその長い爪の先に触れた。
おお!!
途端に竜は、流れ出た血諸共、霧となり、ミミの指先に吸い込まれ、謎空間へと消えていった。
ミミは嬉しくてぴょんぴょん飛び跳ねると、この部屋の扉を閉めに走った。
バタン!と扉を閉じてしまえば、ボス部屋も快適空間だ。
寝て起きれば、きっと元気になる!
泣き疲れていたミミは、そう願うと、ボス部屋の隅の瓦礫の間に丸くなって、泥のように眠った。
どのくらい眠っていたか……。ミミは頬っぺをペチペチと叩かれ、目が覚めた。
目を開けると、目の前に羽虫が飛んでいた。ミミは無意識に、両手でパチン!と叩いた。
「あっぶなっ!!ちょっと、いきなり何すんのよ!!起きなさい!!」
羽虫が喋った!これは珍しい!!
ミミは起き上がると、人差し指を伸ばし、羽虫の前でぐるぐると回した。
「いやいや、今どきこんなのに引っかかるトンボがいると思う?トンボじゃないけどね!!」
そう言いながら、羽虫はポトリと落ちた。
両手に乗せて持ち上げてみると、羽虫は人の形をしていて、目を回しながら、ぐぬぬ、不覚!と呟いている。ミミは早速謎空間へと……。
「ちょっと待って!!今、倉庫の中に戻さないで!!」
羽虫がミミの指にしがみついた!
倉庫?ミミが首を傾げると、羽虫はミミの手の上でプンスカ怒り始めた。
「そうよ!あなた達がアイテムボックスって言ってるあの空間、あれはね、この世界の倉庫なの!あなた、その倉庫の中に大変なバグを入れたでしょ!?お陰で倉庫内は大混乱。倉庫番の精霊たちのクレームを受け、この私、倉庫番長のピアが出てくる羽目になったって訳!」
大変なバグ?大変な……。
思い出すものは1つ。ミミは白々しく斜め上を向いた。
「あなた……全部態度に出るタイプね。分かってるなら、今すぐ出しなさい!!」
ミミは慌てて首を振った。ようやく手に入れた快適空間を無くしたら、ミミは生きていられない!
ミミの必死の形相に、羽虫……倉庫番長のピアもちょっと不思議に思ったのか、辺りを見渡し、ため息をついた。
「もしかして、あの竜、ここにいたの?」
ミミが頷くと、呆れた、と呟いた。
「ここ、ボス部屋じゃない!そりゃ人間に狩られるわよね。あなた、ポーターよね?メンバーは?」
ミミが首を振ると、ピアは目を細め、パタパタと飛んでミミの顔に近付いてきた。両手でミミの顎を上にあげると、イグニートが、束縛のルーンだと言った傷を見た。
「同じ種族を隷属をさせるとは、人間の愚かさにはほとほと呆れるわね。竜を瀕死状態に出来る程強い人間がいたのには驚いたけど、女神の加護を受けたあなたを隷属させ、挙句の果てにこんなの場所に1人、置いていくなんて、尊敬にも値しない馬鹿野郎ね」
ミミはプルプルと首を振った。リオンたちは馬鹿野郎ではないの!!
「何か言いたそうね。口を聞けないって不便ね。ルーンを何とかして消せないかしら……。そうだ!竜なら出来るかも!」
ピアは突然、手を打った。
「よし!ここはこの私、ピア様が直々に竜に交渉してあげるとしよう!大丈夫よ、竜は命を助けてくれたあなたに恩を返す義務があるの。ミミ、今すぐ竜を出しなさい!!」
お仕事!?ミミは反射的に両手を前に出した。
うおおおお!!
ミミの両手から霧が噴射され、見る間に竜の形をとってゆく。
グオオオオオ――!!
竜は叫びながら出てくると、大きな羽を羽ばたかせながら、ギャオ――スと伸び?をした。ミミはその羽ばたきと咆哮で、数メートル、見事な後転を繰り返した。
仰向けになったミミの上に、ポトリとピアが落ちてくる。
「◽︎%△&×$!?」
何かを叫びながら、ドスンドスンとボス部屋の中を暴れまくる竜に、ミミは素早く体勢を整えると、ピアを握りしめ、部屋の隅の瓦礫に隠れた。
「余程痒い様ね。これじゃあ、交渉する前に潰されちゃうわ。ちょっと落ち着くまで待ちましょ」
痒い?ピアもお手上げの様だ。
でも、よく見ていると、確かに竜は、しきりに身体を壁へと擦り付けている。擦り付けた部分を見れば、ウロコの様な皮がパラパラと剥がれ落ちているじゃない?
脱皮!?これは脱皮に違いない!!
ウロコらしき物がキラキラと光って見えて、ミミは思わず立ち上がると、ワクワクと竜に近付いていった。
「きゃー!あなた、チャレンジャーね!嫌いじゃないわ!」
ピアの声援?を受け、ミミはブンブンと振り回す尻尾を避けながら、竜の太ももに近付くと、竜のウロコ的なのを拾い上げた。松明に掲げると……。
これ、最高に綺麗っ!!
竜のウロコは、手のひらサイズのひし形で、灰色なのに光にかざすと七色に光って見えた。それが辺り1面に散らばっている!ミミは竜の怖さも忘れて夢中で拾い始めた。
サイズ違いや色違いもあって、とても綺麗!ミミは時折止まっては、ふあぁ……と眺めながら、どんどん謎空間へと消し続けた。
さらに拾いながら進んで行くと、目の前に大きな竜の尻尾があって、落ちる前の綺麗なウロコが、プラプラとミミを誘う様に揺れているじゃない?
ミミは、そっと近き、ウロコをペリリと剥がした。
ウロコは綺麗に剥がれ、下からすべすべした青い肌が見える。
うぉ――!何これ、最高に気持ちいい!!
それからミミは、夢中でウロコ剥がしに励んだ。
夢中になる事、数時間……?気が付けば、竜は静かに横たわっていて、ミミのされるがままになっていた。
はた、と手を止めたミミに、竜が首をもたげ、何か言いたそうに目を合わせた。その目は金色で、ミミの頭より大きかった。
「もう終わりか?」
喋った!!
固まるミミに、竜はまだ剥ぎ残しのある首の下部分をミミの前に向けた。そこのも取って欲しい様だ。
と、その時、何処からかピアが飛び出て、ダイレクトに首にアタックを決めた。
「グアッ!!何をする!!」
ミミはその声と鼻息に驚いて、瓦礫の影に避難した。
途端に竜がキョロキョロと探し始める。
「おいおい、何処に行きやがった……まだ痒いのに……」
痒いの?でも、1度怖いと思ってしまえば、近づくにはかなりの勇気がいる。
「ちょっと!!無視しないでくれる?」
そこでピアが飛び付き、竜の鼻先にとまったところで、竜はようやく首を止め、ピアを見た。
「なんだ?また精霊か……今日はよく精霊と会う日だ」
頭の両側に目があるから、すんごい寄り目だ。
「そうでしょうね。倉庫をぐちゃぐちゃにしてくれて、どうもありがとうっ!!」
「どういたしまして」
竜はニヤリと笑った。
「お礼を言った訳じゃないわよっ!」
ピアはキィ――っと飛び上がった。
「ふん!まあいいわ。それより、あなたに話があるのよ!ねえ、もし、あなたが賢い竜ならば、命の恩人には借りを返す義務があるって事くらい、もちろん知ってるわよね?」
ピアがホバリングしながら目の前に仁王立ちするのを見て、竜は眉的な筋肉を顰めた。
「ああ、もちろん知ってるぞ!竜は律儀だからな。……だが、俺はあれきしの攻撃では死なん!」
「死にかけてたじゃん。倉庫に法石がなかったら危なかったと思うけど?」
「脱皮の時期だったからだ!竜は新しいウロコをつくるのに物凄ーく力を使うんだ!!そこを狙われただけで、俺が弱かった訳ではない!!」
「でも、死にかけてたよね?」
「…………」
竜は急にしおらしくなり、顔を背けると、チラリとピアを見た。
「…………で?まさか、お前が俺を?」
ふふん、とピアは不敵な笑みを浮かべると、ミミに方に飛んで来た。ひょっこりと顔を出し、様子を伺っていたミミの顔の横に来ると、両手を掲げてアピールをし始めた。
「じゃじゃーん!なんと!この、可愛らしい女の子があなたの命の恩人なのです!」
ぐう……と、竜は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「先程の掃除人間じゃないか……」
掃除人間!!
「そうよ!でも、この子があなたを倉庫に送ったお陰であなたは助かったんでしょ?」
「ふむ……確かに」
グイッと竜はミミに顔を寄せた。
「掃除人間よ、何が望みだ?」
目の前にある竜の牙に、ミミは固まり、ガクガクと震えた。
ピアはそれを見て、あ……っと手を打つ。
「そう言えばこの子ね、喋れないみたいなの!ほら見て、ここよここ!!」
ピアの両手でミミの顎が再び持ち上げられる。竜は大きな目をミミの首に近づけ、唸った。
「フゥム……ルーンか。赤子に付けるには少々酷な文字だな」
「でしょ?まずは話を聞く為に、これをどうにかしてくれない?賢い竜ならもちろん出来るでしょ?」
ふっと竜は鼻で笑った。満更ではない様子だ。
「仕方あるまい。ちょっと痛いが我慢しろよ」
そう言い、竜はミミの首に尖った爪を1本伸ばした。
「動くなよ」
そう言い、竜はしかめっ面でミミの喉元に爪を当てた。チクリとした痛みがミミを襲ったけど、ミミは涙を流しながら、言いつけ通りじっとしていた。そして、更に切り裂かれるような痛みが……!
熱い!!ミミはグッと目を瞑り、動かない様に耐えた。
「ちょっと!!大丈夫!?」
ピアの震え声が聞こえる。
「小さ過ぎる……だが、俺に不可能はない……はず。すぐに回復を!」
「精霊たち!緊急事態よ!出てきてちょうだい!!」
――思えば私は、昔から集める事が好きだった。
綺麗な石ころ、珍しいお花、変わった色の羽虫に毛虫、うじゃうじゃ孵るカエルの卵。
集めては怒られ、捨てられてしまう。
その所為か、幼少期の私は、既に諦める事を覚えていた。
小さい頃住んでいたのはかなり田舎な村で、おじいちゃんおばあちゃんと3人で暮らしてた。
お父さんとお母さんはいたけど、どっかの都会に住んでいて(多分、大人の事情)私はどちらかの実家に預けられてたんだと思う。
たまに顔を出す両親だが、どう接したらいいか分からず、いつものように拾ってきた小石を、綺麗な順に並べていたら、「私たちがいなくても大丈夫そうね!」って、両親はあまり来なくなった。
要するに、置いて行かれたのだ。
寂しくなんてない。だって慣れてるんだもん!そう言い聞かせながら、過ごした幼少期……。
どうして急にこんなネガティブな事を思い出したかって?
それはですね。今まさに、ミミは置いて行かれた状況だからです!
「ふあ!何か、思い出が怒涛のように押し寄せてきた……」
まるで走馬灯を見ている様に!!
目を開けると、ミミは綺麗な毛皮の上で横になっていた。目の前にピアが飛んでくる。
「喋った!書き換えたルーンがちゃんと機能した様ね!!」
ミミは声が出た事が嬉しくて、起き上がるとぴょんぴょん跳ねようとした。でもくらくらしてまたゴロンと横になった。目の前にぬっと竜の顔が近づいて来た。
「無理をするな。ちょっとズルをして、ルーンの形をを束縛から希望へと、変化させただけだからな」
あれは字が似てるから、と呟きながら、竜は尖った爪でミミの首を指さした。でも、ミミはもう怖くなかった。
希望!嬉しくてにこにこが止まらない。
なんだか体も軽くなった気がして、ミミは今度は慎重に体を起こした。
「馴染むのには時がかかるかもしれんが、お前の勇気がそれを可能にしたという事を覚えておけ。気を抜けば、また、束縛に戻るぞ」
ミミはビシりと顔を引き締め、頷いた。
「まあ、カノには知恵の意味もある。今から色々と学ぶにはいい文字だろう。もう自由に言葉を発せられるはずだ。まずは言うべき事があるだろ?」
ミミは頷くと、両手を組んで竜に微笑みかけた。
「ありがとう!!」
言いたい時に言えるって素敵!
「ウグッ……中々破壊力のある笑顔だ。いいだろう、では引き続き、俺のうろこを取る事に専念するように!」
竜はそう言うと、だらりと横になり、喉元を見せた。
おお!キラキラしてる!!ミミがぴょこぴょこすると、竜の鼻に座ったピアがミミに人差し指を突き出した。
「ミミ!まずは考えている事を素直に口に出す事!喋る練習よ!」
竜も欠伸をしながら、ふむ、と言う。
「言葉は経験によって研ぎ澄まされる。多くの言葉を紡ぐがいい。俺は聞くのは好きだ。存分に喋るといい」
それからミミはたどたどしいながらも頑張って、勇者パーティのみんなとの出会いと、その素晴らしさを伝えた。でも、話せば話す程、聞き覚えがある様な気がしてならない。
「――でね、ミミはこのダンジョンのボス部屋に残されてしまったって訳だけど……」
何故かその次に起こる事まで想像出来てしまうのだ。
「ふっ……話す事がそれとは、俺に喧嘩を売っているのか?……まあいい。もう痒い所はないようだし、俺もそろそろ帰るとするか」
ミミが首を傾げていると、竜は大きな体を起こし、ン――ンと伸びをした。
途端にミミは寂しさを感じた。竜やピアがいなくなれば、ミミはまた1人になるのだ。
でも、ミミが眉を下げたのを見て、ピアはウインクをすると、竜の鼻先に飛んで行った。
「ねえ、まさか竜ともあろうものが、命を助けられたというのに、この程度の恩返しで満足する訳ないわよね?」
竜はピタリと止まる。
「…………で?次の望みは何だ?」
そう言い、ミミに顔を向けて来た。
次……。
次があるのなら、ミミの望みはただ1つ。ミミはもう、置いてけぼりは嫌だった。
「ミミも連れて行って欲しいの!お願い!!」
そう言葉にすれば、前世でも後悔し続ける事はなかっただろう。ミミは2度目の人生で、ようやく言葉を取得したのだ!!
竜はグッ……。と喉を鳴らした。
「…………まあ、いいだろう。人間はすぐに育つ。赤子のうちだけなら、面倒を見てやるのも、いい暇つぶしになるかもしれん」
ミミはぴょんと跳ねた。
「やった――!!ピア、ありがとう!!」
「礼を言う相手を間違っているぞ。そうと決まれば、こんな狭い場所にいる理由もない。人間が来る前に移動するぞ!」
そう言い、竜はミミの前に首を差し出した。今度は裏側じゃなくて、フサフサのたてがみの生えてる、上の方をだ。
「さあ、捕まれ。移動するぞ。我が名はライゾ。旅する竜だ」
ミミはたてがみに掴まると、ピアに手を伸ばし、優しく握りしめた。
ピアは満足そうに頷くと、ミミの手の中で、ゴ――!と腕を伸ばし、叫んだ。
シュン!!
途端、ミミの目の前の景色が変わった。




