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35話 竜族委員会

 ライゾの活躍により、空撃のあった次の日の夕方には、カストロに残したウイルドも転移してきて、ようやくニイドの元にウイルドが12頭揃っていた。

 

「いい?しばらくの間、お散歩以外はここを動いちゃダメだからね!ちゃんと守れたら、ご飯がもっと美味しくなるんだよ!みんな守れる?」

 ミミはウイルド達の前に立ち、一生懸命に上手く隠れながらも、ご飯(魔物)を捕る方法を説明していた。ハガルに見つかったら大変だからね!

 その甲斐あって、ウイルドの横に並んでいたニイドが、真っ先に頷き、それを見たウイルドたちも頷いてくれた。

 

 ここはウィン様の屋敷の裏にある廃坑の中。ウィン様の食料庫だ。

 前世のゲームでは、そのとてつもない広さ故に、底なしの洞窟と呼ばれ、稲妻を放つ最強の竜、ウィンと戦う前のレベル上げに使われていた場所だ。

 

 聞けばウィン様は、魔物が繁殖しているこの廃坑で食事(魔物)を摂って、強さによりいっそう磨きをかけているらしい。優しいウィン様は、今回、その餌場を、ウイルドの住処兼餌場として解放してくれたのだ。


「ミミ、散歩って、何処に連れて行く気なんだ?」

 小竜になったままのライゾがミミの髪の毛の中から顔を覗かせ、面倒くさそうにウイルドを見た。でもミミは、この廃坑の地下の秘密の場所に、皆が喜ぶ場所がある事を、知っていた。

 

「あのね、この坑道のもっと下に、めっちゃ広い空間があるんだよ!そこに行こうと思うの!」

「もっと下?……前から思ってたんだが、ミミ、お前行ったこともないダンジョンに、異様に詳しいよな」

 

 訝しげなライゾに、イースがアイテムボックスから出てきて、ミミの代わりに抗議し始めた。

「そんなの当たり前でしょ!ミミは女神モーリアン様の加護を受けた子だから」

「そんなのどうして分かるんだ?」

「星の導きよ。ライゾは星の欠片を持っていないから分からないだろうけど、私の持っていた星の欠片は、ミミの所に行きたがっていたわ」

 ライゾは、ほぉーと辺りを見渡す。

 

「という事は、この洞穴にも星の欠片があるって事か?」

「うん、あるよ!」

 大きく頷いたミミに、ライゾはニヤる。ミミは慌てて否定した。

「でもね、ここは皆の食卓だから、採るつもりはないの!」

「ミミ、それは星の欠片が決める事よ。星は優しさが好きなの。ミミに惹かれるのは必然」

 イースが優しい笑顔でミミの頭を撫でるから、ミミは恥ずかしくなってイースの胸に飛び込んだ。

「まあ、その通りだな。確かめに行ってみるか?」

「そうね。じゃあ、ここに(ソーン)を刻んでおきましょ。見つけたらすぐに戻れるようにね」


◇◇◇


 カストロ・ファリアス・レイハルトの3領土の中心にそそり立つ山、カラドコルグ。堕天使フランの眠る山である。その山際の森の中には、竜達の建てた無骨な城があった。人々が魔王城と呼ぶその城には、この世界の未来を憂う竜たちが住んでいた。


 城へと続く道などない。オセルは馳せてきた白馬から降りると、そそり立つ崖を見上げた。城はその中腹の断崖を削るように建っている。

「全く……止められたからいいものの、ウイルドを使って人間を攻撃するなど。兄弟であるというのに、ウイルドを何だと思っているのか……」

 自らを竜族委員会と呼ぶその者らの考えと、自分の考えに差異が生じる様になったのは、ミミという小娘に会ってからだ。

 

 それまでのオセルは、人間の事を数だけ多い下等生物だと思っていた。しかし、ミミやウィン様に習い、人と距離のない付き合いをしてみれば、その弱さゆえだろうか、柔軟なコミュニケーション力を持ち、集団の中にいて個を尊重する姿は、交わっていて心地よいものだった。

 竜族にはない感覚に戸惑う事もあるが、自身の主張を譲らず、堂々巡りな会話を繰り返す竜族と過ごすよりは、明らかに有意義な時間といえた。

 要は、人間が好きになりつつあるという事だ。

 

「これも女神モーリアンの導きか……」

 オセルは竜へと姿を変えると、城の尖塔を目指し飛び立つ。……月が綺麗な夜だ。今日も流れ星は降って来る。だが、女神モーリアン様の星をどれだけ積んでも、フラン様が救われる事はないだろう。人が増えすぎたからだ。

 それなのに、竜族委員会の者たちは、闇に焼かれ続けるフラン様を、苦しみから解放しようとはせず、闇を更に増やす様な真似ばかりする。

 

 それは恐らく、自身の保身の為。奴らは恐れているのだ。

 闇を狩る為に遣わされた竜族が、フラン様亡き後、どれだけ生き続けられるのか分からないから。

 自らの保身の為に、フランさまが守ろうとしている人間を手にかけるだと?……勘違いも甚だしい。


 オセルは石を積んだだけの簡素な城の周りを回ると、尖塔のひとつに降り立ち、人へと姿を変えた。この城の内部へは、サイズ的に人でないと入る事が難しい。

 常々脆弱過ぎると嘲笑しているにも関わらず、竜は人の姿を好んでとる。それが何故なのか今なら分かる気がする。

 いくら竜が焦がれても、竜は人間の様な繊細な生き物になれないからだ。だから、余計に人が目障りなのだろう。


 城の内部は洞窟の中の様に暗かった。夜目が効くから松明など必要としないのだが、人との暮らしを知った今、それを寂しく感じるのは仕方の無い事だ。

 オセルは城の上階にある会議室を目指し、狭い回廊を進んだ。回廊には幾つかの扉がある。その向こうには、それぞれ、竜の部屋が設けられていた。

 

 今、この城の中に居を構える竜は13頭。だが、起きている竜は少ない。無関心を装うのには、寝るのが1番だからだ。

 今現在起きているのは4頭。今日も無益な会議を繰り返している事だろう竜族委員会のメンバーを思い出し、オセルは笑いが込み上げるのを感じた。誰かの為にではなく、自分の為に起こす行動に、何の相談がいるというのだ?


「おや、私の見間違えかな?竜族委員会を抜けた奴の姿が見える」

 この声はダエグ。変革の竜だ。退屈な日々を送る事に飽きたのか、人間を減らすよう、最も声高に提言していた竜族の1頭だ。私の気配を感じ、誰よりも先に報告を聞きに来たのだろう。水色の短髪をかきあげながら、こちらに近づいてきた。

 

「間違えではありませんよ。委員会を抜けた事をご報告にまいりました。もしお望みならば、ご忠告も致しますが?」

「わざわざそれを言いにこの城に来たと言うのか。呆れてものも言えんな。……まあ、委員会を抜けた理由なら、分からん事もない。お前はフラン様の意に沿ぐわぬ事はせんだろう?例えそれが竜族にとって死活問題であってもな」

「お分かり頂けて有難く存じます。では、これにて失礼させていただきます。部屋を引き払わなくてはいけませんので」

 踵を返すオセルの腕を、ダエグが引いた。痛いな……無駄にガタイだけはいいのだ、この男は。

 

「待て。お前にはハガルを追わせていたはずだぞ。その報告をまだ聞いてない」

「ああ、それならば問題ありません。ハガルは人を襲うという使命を諦め、恐らくはファリアスに逃げ帰ったと思われますから」

 

 あれだけの打撃を与えたのだ。無事ではないはず。プライドの高いハガルが竜族委員会に泣きつく事はないだろうし、スルトが門を閉じたので転移石でここに飛ぶ事も出来ないはず。奴の行く場所はファリアス城しかないだろう。

 

「まさか、お前が追い返したのではないのだろうな……ウイルドはどうした。動かなかったのか?」

「レイハルト上空には姿を現しませんでしたね」

 地下にはいたがな。


「チッ……ニイドめ。いつも肝心な時に逃げやがる。今こそ人間どもに我々の威厳を示す時だというのに!」

 顔を歪ませ、悔しがるダエグ。ライゾにこの顔を見せてやりたかった。奴なら、腹を抱えて笑っただろう。

 オセルは内心笑いながら、その腕を振り払った。


「威厳……そんなものが何処にあるのです?」

 さて、去るか。私は今まで、竜族の在り方についてこの者らを説き伏せようと意地になっていたようだ。今となっては、如何に無駄な時間だったかと分かる。

 こいつらは結局、人と比べ、自分らが優位に立ちたいだけなのだ。


「我々は竜族なのだぞ!!」

 しかし次の瞬間、オセルは首筋を押さえつけられ、床に押し付けられていた。

 

「か……はっ」

「捕まえたか!?」

 暗がりから出てきたのはパース、秘密の黒竜だ。何を考えているのか分からないのは、黒竜の特徴なのか?……ああ、アルシズ、保護の白竜も後ろにいるのが見えるな。力の竜ソウェルはいないようだが……。

 

「残念だな、オセル。お前がウィンの所に身を寄せているのは分かっているんだぞ。そこに竜王の証を持つ人間がいるのもな」

 脅迫か?こいつらはとうとう、同族争いまで起こそうというのか……バカバカしい!!


「飲ませろ!」

「……っ!」

 男3人にグッと喉を押さえつけられ、オセルは無理やり口を開かされた。なんて力だ!!口に流し込まれたのは……血?

 吐き出そうと藻掻くも、それは喉を伝って身体へと流し込まれていく。震えがするほど濃い闇が体を巡っていく。熱い……血が滾りそうだ。


「どうだ?フラン様の血の味は」

 フラン様の血だと!?フラン様に傷を付けたというのか?

「……なんと馬鹿な事を……カノは……」

 フラン様には希望の竜、カノがついていたはずだ。彼女に何かしたのなら、許してはおけない!

「今は自分の心配をしたらどうだ?散々俺たちに説教をしてくれたな。闇に焼かれるがいい。オセル、口煩い竜め……ぬ!?」


 ゴゴゴゴゴ……。

 地響きと共に城が揺れ始めた。

 壁が、床が崩れ始め、体が傾く。

 オセルを押さえつけていた竜たちが慌てふためいている。

「どうした!これは!!」


 ふっ、馬鹿どもが。この城が、私の土魔法で創られているという事を忘れたか?

 

「ヤバい!崩れるぞ!」

「くっ!石が降ってくる!……やってくれたな、オセルめ!!」

 城を留めていた魔法が解け、天井から石が降り注ぎ始めると、アイツらは竜へと姿を変え、這う這うの体で逃げ出した。ざまぁないな。

 

 その時、床が抜け、オセルの体は宙に投げ出された。

 だが、飛ぼうにも、もう……。

 この城に眠る竜を叩き起こし、全てをぶっ壊してから転移しようと思っていたが……少々力が足りぬようだ。不甲斐ないが、助けが必要だ。

「ピ……ア……」

 精霊に頼むなど、ミミに会うまでは考えもしなかった。出来る事なら、彼女ともっと……話してみたかった……。


「大変!」

 一瞬、見えた精霊の姿は、次の瞬間にはイースと取って代わっていた。途端、時が止まったかの様に、その場が凍てついた。落ちてくる岩ごとだ。

「……面白い事になってるわね」

 イースは笑いながら転移石を出すと、私の手を取り転移(ライド)を唱えた。


◇◇◇


「ふお!!」

 イースが突然消えたと思ったら、突如、オセル様と共に戻ってきた!……と、オセル様はそのまま苦しそうに床に伏せ、喉を掻きむしり始めた。

「ダメ!!」

 ミミは慌ててオセル様に飛びついた。口元だけでなく、喉からも血が溢れ始めていた。

 

「ミミ!早くヒールを!!」

 喉を引っ掻くオセル様の手を、イースは握る。でも、力が強くて抑えられない。

 

「ニイド!手伝って!!お願い!」

 オセル様の体をニイドとイースの二人がかりで押さえてもらい、ミミはその首に手を置くとヒールを唱えた。


 でも、いくら治療しても、同時に体が壊れていく。治癒の速度が間に合わない。こんな事は初めてだ。

 苦しみで歪んだオセル様の顔は、どんどん黒くなっていくし、涙がこぼれ落ちるのを止められない。

 

 ……と、その時、ライゾの落ち着いた声が耳元に聞こえた。

「ミミ、焦らなくてもお前なら治せるだろう。ま、いつもよりは頑張らないとだかな」

 のんびりとした様子に、ミミは落ち着きを取り戻し、気合いを入れ直した。

「うん!ミミ、めっちゃ頑張るよ!」

「ああ、頑張れ。……って、何があったんだ?」


 ライゾはオセル様を覗き込むと、塞がったばかりの首についた血をペロリと舐めた。イースは眉を顰めるも、何かを思い出したかのように暗い微笑みを浮かべた。

「この人、竜の城を壊してたの。笑えるでしょ?」

 城を!?何故かライゾも笑い出す。

 

「ハハッ!寝てる竜を起こしに行ったのか!!こりゃ最高だな!!そりゃそうと、イース。凍らせて進行を遅らせた方が良くないか?闇をまんま食らった様だ」

「やってる……って、ライゾ、分かるの?」

「昔、カノが試したんだ……。死にかけたがな」

「ああ……あの子ならやりそう」

 

 カノ!ミミの首に刻まれたルーンの竜だ。

「ミミ、ほら、頑張って!闇に負けちゃうわ!」

 ピクリと止まったミミを、イースは叱咤してくれる。今は全力でオセル様を治さなきゃと、ミミは慌てて気合いを入れなおした。

 そのお陰か、オセル様がうっすらと片目を開けた。

「ライゾ……ここがバレてる。来るぞ」

 口の端をあげ、それだけを告げると、オセル様は穏やかに目を閉じた。息は荒いが、少しは良くなってるみたい!

 

 それなのにライゾは、オセル様の額をペチッと叩いた。

「何匹来るか位は教えてろよ!」

「……」

「死んだふりをしやがって……。これじゃあ、あっちの奴らを呼ぶにも情報が足りん!ピアに情報交換は頼むとして……それまで守りを固めとく必要があるか。ニイド、お前、昨日はなかなかの守りを見せてたな。あれをまたやれるか?」

 ニイドはススーっとミミの後ろに隠れた。

 

「ぼくはミミを守っただけ……」

「だが結果的に、多くの人間も守ったろ?あれをまた頼む!今度はウィンの屋敷のあるこの辺一帯を全部だ」

「一帯……全部……」

「お前も見ただろ?ここにはミミの仲間が沢山住んでるんだ。頑張って守れば、その分、飯が美味いぞ」

「それ、さっきミミが言ったよ」

 不貞腐れた様なニイドの声に、ミミは少し嬉しくなった。ニイドが皆と打ち解け始めてる!ライゾもそう思った様で、笑い始めた。


「ハハッ!なら、後でみんなと楽しく食事が出来るよう、今、頑張るんだな。皆で食う飯ほど美味いものはないんだぜ。自分が守った奴らと一緒に食う飯なら、尚更美味いぞ!」

「皆と、ぼくが?一緒に?」

 ニイドはパァァと表情を明るくすると、ミミの後ろから身を乗り出した。

「分かった。ちょっと外に行ってくる。ぼく1人じゃ広すぎるから、ウイルドにも頼んでいい?」

「ああ、いいぞ。行ってこい!……ピア、ウィン様に説明を……って、もうしたか」

 

 坑道から出ていくニイドを見送ると、今度はピアが飛び出し、ふんぞり返った。

「あったりまえじゃない!!ウィン様、こっちの事は任せなさいって言ってたわ。ミミたちは隠れてなさいって!……大丈夫?この人……」

 ピアはオセル様が気になる様子で、ミミの手元を照らしてくれた。オセル様を見れば、顔色は悪いものの、苦しさは和らいだようで、息が落ち着いてきていた。

「ミミ、絶対、オセル様を治す!!」


 ミミはその後、作り置きしていた虹色の法石を、幾つも自分とオセル様のステータス画面に投入した。闇に勝つ為だ。

 それでもオセル様が回復したのは、次の日の朝で、その間ずっと外からは、何かを叩く様な音が聞こえていた。

 

 でもね、ミミはちっとも怖くなかった。

 ここはどこよりも安全な場所。みんなが守ってくれてるから!

 

 ミミはみんなに感謝しながらも、疲れに抗えず、目を閉じたのだった。

 

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