31話 勇者パーティ
ミミにお友達が増えました!可愛いおじさんです!
「ミミ……浮気したわね」
洞窟の中、黒竜のお腹にくっついて、ニイドと並んで眠っていると、イースが戻って来て呟いた。
すぐに皆がなだれ込んで来て、洞窟の中は大騒ぎとなった。
「ミミ!今助けるからな!!」
「ニイド!ミミに何をしたのです!」
「ミミに手を出したら、ただじゃおかないからな!」
「待って――!!ニイドをいじめちゃダメ!!」
ミミは叫んだ。
イースが冷気で落ち着かせてくれたので、ミミは頑張ってみんなにニイドの事を説明した。
その間ニイドは、大人しくなったウイルド兄弟の後ろで震えていた。
「はっ!まさか竜族委員会の仕業だったとはな!」
「ニイド、もっと詳しく教えてはくれませんか?」
「待て、その前に……ミミ、お腹が空いたんじゃないか?」
リオンの言葉に、ミミは顔を輝かせると、大きく頷いた。
ミミが行方不明になっていた時間は、かなり長かったみたいで、外に出ると、お日様は高く上っていた。
「ミミ、寿命が縮んだわい……」
寿命!!見張りだったティール様にミミは謝ると、次に素敵な法石が出来たら、真っ先にあげようと決めた。
ミミはその後、ビクビクしているニイドと一緒にお昼ご飯を食べながら、ルーン城で仕入れてきた新しい情報を皆が交換するのを聞いていた。
今、カストロ領内では、相次ぐ魔物被害に加え、竜討伐という、いわゆる戦争状態である為、兵を出す事の出来る貴族が権力を掲げ、市民らは増え続ける税に苦しめられているという。この状況は過去最悪で、ユリアスは悲痛な顔をして頭を抱えていた。
「剣闘士マッケンリーは、闘技場に金を落とした貴族の名前を全て覚えていましたよ。ライゾの擬態を利用し、ランベールの指揮の元、死霊騒ぎを拡大させることとしました」
アンスールとランベールさんの立てた計画がこれだ。
ルーン城では、小さなライゾがランベールさんに擬態して死んだフリをし、イースが運ぶという、偽死霊作戦を行ったらしい。なんと、ライゾは旅をする過程で、変身技術を磨いていたという。……多分、逃げる為だと思うけどね!
現在、ルーン城は閉鎖され、ランベールさん初め、城の常駐騎士の皆さんは、死んだ事になっているとの事で、ひとまずこれで剣闘士さん達は安全だ。
ずっと一緒だったライゾがここに居ないのはとても寂しい。でもミミは、ライゾが必要とされているのがとても嬉しかった。
ご飯を食べ終えたミミは、みんなの輪の後ろに行くと、話を聞きながら法石を作り始めた。石ころが無くなった為、新素材として採用したのは、以前ライゾから剥がした綺麗なウロコだ。ミミもみんなの役に立ちたかった。
「ユリアス、大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとうございます。そうだな、俺もそろそろ決着をつけようと思う。まずは兄上と話をしてきます。この討伐についても、あまりに報告が遅いから怪しんでいるかもしれない」
ユリアスは優しい面持ちの中にも、しっかりと火を灯していた。どこか吹っ切れた様な凛々しさが、とても素敵で、ミミは嬉しくなる。
「ユリアス様。アダン様の事ですが、それはないでしょう。我々の前に壊滅状態となった3部隊は、完全に見捨てられた状態ですし、今頃アダン様は自身を守る近衛隊のみを連れ、首都に帰路をとっている事でしょうね。聖女と共に……」
報告するナタンさんにユリアスは、酷い……と頭を抱えた。
「兄上についてはいつもの事だが、聖女が来ていてそれか?……で、他の3部隊は今何処に?」
「現在はニアホレストの町の近くに留まっております。怪我人は多数いると聞いておりますが、支援は愚か、首都に戻る事も許可されず、厳しい状況にあると聞いております」
「戻れぬとは!何故だ!?」
ユリアスは声を荒らげた。
「アダン様は、自身の隊が負けたと言う事実が外に漏れるのを恐れているのでしょう。ニアホレストのギルド長が、内々に面倒を見て下さっていますが、それも限界かと」
「ミミ、ニアホレストに行きたい!!」
ミミは立ち上がった。ユリアスの部下さんが怪我をしているのなら、すぐに向かわなきゃ!
「言うと思いましたよ、ミミ。では、死人が増える前に移動をするとしましょう」
アンスールの言葉に皆が腰を上げた。
それから数時間の後、ミミ達はニアホレスト近くの騎士団の野営地に到着した。
時計花の浮島の浮かぶ美しい湖の畔には、怪我人なのか死体なのか区別がつかないくらい、くたびれた騎士団の人達がゴロゴロと転がっている。とてもじゃないけど、野営地と言えない状況に、ユリアスは呆然とし、リオンに頭を叩かれて、ハッとした。ユリアスは自分でも頬を叩き、気合いを入れた。
「ミミ、イグニート、治療を頼む!誰か近くにアダンの手の者が監視していないか確認してくれ」
「では、私が行きましょう」
アンスールが動こうとしたのを、ナタンさんが止める。
「それは、相手の顔をよく知る我々に任せて下さい」
ナタンさんはすぐにテキパキと部下を方々に散らした。
それを見たアンスールはすぐにアイテムボックスを開く。
「では我々は救援物資の調達を。ピア!ウィン様に連絡を」
「空からの監視の目も欺かねばならんじゃろうな」
ティール様の忠告にユリアスは頷くと、フェオとリオンとスルトさんに目を向けた。
「簡易的でいい。屋根のある場所が必要だ。頼めるか?」
「任せろ」
フェオたちは、上腕二頭筋を叩き、逞しく頷いた。
それからミミとイグニートとで、手分けしてヒールを始めた。どの怪我人も虚ろな目をしていて、元気がない。どこから手をつけたらいいの?
「ミミ――!!」
その時、土煙を上げ、湖畔を駆けてくる女性の姿が目に入ってきた。
「ふお!!ギルドの受け付けのお姉さんだ!」
あまりの勢いに、固まるパーティメンバーを押しのけ、お姉さんはミミをぎゅうーっと抱きしめると、涙を流した。
「ミミ、無事だったのね。良かった……」
ミミはお姉さんの胸の中から顔を上げて、しっかりとお姉さんの目を見詰めた。
「うん!!お姉さんがミミを助けてくれたから、ミミは生きてるんだよ!……ありがとう!」
この言葉は、ミミがずっと言いたくて温めていた言葉だ。ようやく言えた!
ミミが嬉しくて笑みを浮かべると、お姉さんは顔をぐちゃぐちゃにして感動に打ち震えていた。
「ミミ!ちゃんと喋れる様になったのね!ああ……!!なんて可愛いの!!」
ぎゅうぅぅぅ――っ!
「おい、マリサ。そのくらいにしとけ。……ミミ、久しいな。どうやら、そいつと上手くやってる様で安心したよ」
ギルド長さんも駆けつけ、ミミの頭をなでると、アンスールをチラリと見た。アンスールは不敵に笑うと、ギルド長さんに深々と礼をした。
「あなたという存在が私に、人間にも愛すべき点があるという事を思い出させてくれました」
ギルド長さんは、ハハハと笑った。
「遠回しな言い方だが、悪くない。さあ、こいつらを助けるんだろ?手伝ってくれ、勇者パーティの皆さんよぉ!」
やはり冒険者ギルドの情報は、何処よりも早かった。アンスールは苦笑すると、先ずは温かい食べ物の用意を始めた。
ミミはその日、怪我人の完治は諦め、全ての怪我人に行き渡る様なヒールを施した。
「男なら怪我くらい気合いで治せ!」
それがギルドの受け付けのお姉さん、マリサの助言だった。そのお陰でミミは、イースが不在でも法力不足にならずに、多くの怪我人の治療が出来たのだった。
ミミが野営地を一周した頃には夜も深けていて、焚き木の前でみんなの報告を受けるアンスールの横にミミはヨロヨロと座った。すぐにウトウトし始める。
「ライゾったら、魔力が足りないからって、マッケンリーさんの顔だけを擬態したのよ。おかげで悪い貴族が失神したわ」
気が付けば、イースがアイテムボックスを通じ、戻って来ていて、アンスールに報告をしていた。
「顔は自分達が傷つけた最強の剣闘士。体は空飛ぶ小さな竜ですか……。これ程恐ろしいものはないでしょうね……」
報告を聞いたアンスールが頭を抱えながらも、微笑んでいた。
他のメンバーも目処が立ったのか、ミミたちの座る焚き木の周りに集まって来た。
洞窟に残した黒竜の世話を終えたニイドが、焚き木に加わった時、イースが何気に尋ねた。
「ねえ、ここの壊滅状態って……ニイドがやったの?」
ニイドは皆に注目されて、ビクビクしながらも首を振った。
「ぼくじゃない。ハガルが暴れた。……ぼくは戦いたくなかったから、ウイルドを洞窟に隠したんだ」
「ハガルとは?」
ナタンさんの問いにはイグニートが答える。
「悪い黒竜だ」
その端的な説明に皆が苦笑する中、ナタンさんは、なるほど、と頷いた。
「人間にも、善人、悪人がいるように、竜にも悪い竜と、良い竜がいるのですね。思いもよりませんでした」
「ナタン、今更だが、ここにいる者たちは竜だよ」
ユリアスがニヤニヤしながらナタンさんに告白した。
「……え?」
ナタンさんは目を見開くも、すぐに納得したように焚き木を囲む仲間を見ると、最後にミミを見た。
「ミミ様、あなたを助けてくださったのは、ここにいらっしゃる竜様だったのですね。そしてその竜様は、私たちも助けて下さった。ミミ様が最初に話していた、お礼を言うべき者の意味が今、分かりました。竜様方、皆を助けて下さり、本当にありがとうございました」
ナタンさんがぐるりと見回すと、アンスールが笑いだした。
「竜様か……肩苦しい言い方はよして下さい、ナタンさん。それに、正確に言いますと、我々がミミを助けたのではなく、ミミが我々を助けてくれたのですよ」
「ふお!」
ミミは驚いてアンスールの膝の横でぴょこんと跳ねた。アンスールは再び笑った。
「なあ、ここらでパーティの編成を考えるべきだと思うんだが、どうだろう」
突然リオンが立ち上がった。
「今、ですか?」
「今だからだ。連絡を潤滑に行う為、各部隊の長たる者を、勇者パーティに入れる必要があると思うんだ。先ずはマッケンリーを剣闘士の長として参加申し込もう。ユリアス、ルーン城のランベールの参加は可能だろうか?」
ユリアスは顎に手をやり思案する。
「カストロの騎士団は、入隊時に騎士団パーティに入る事が義務付けられてるよ。でも、死ねば、その名は消える。ランベールは頭が切れるから、城の騎士は既に退会済みだろうな。勇者パーティに入れても問題ないだろう」
「では、ピア。すまないが、ライゾに伝えてくれるか?」
「はぁ――い!」
ピアが虚空から現れ、首を傾げるナタンさんの鼻をつついて消えた。リオンは少し笑うと、精霊が見えずにキョロキョロしているナタンさんに向き合った。
「ナタンさん。あなたにも入って頂きたいのだが、どうかな?」
ナタンさんは嬉しそうにも不敵に笑った。
「この様に打ち捨てられた状況下ですよ。怪我が悪化し、亡くなる者も多いでしょうね。……という事で、私は騎士団を殉職させていただきたいと思います。ユリアス様、よろしいですか?」
さすがユリアスの後任だな、と皆が笑う。ユリアスは笑いながらも頷いた。
「よく喋る死人だな。ナタン、他にも殉職者がいないか当たってくれるか?集めて臨時のパーティを組んでおき、有事に備えれれば心強いけど」
「殉職者パーティとは、冥界の王も真っ青ですね。了解致しました」
ピコン!と久しぶりにミミの頭の中で音がした。
ナタンをギルドパーティに加えますか?
皆が頷き、ナタンさんは騎士の礼をした。
すると、ピアが再び出てきて、オッケーよ!と指を立てた。
「では、剣闘士パーティの長マッケンリー、ルーン城の騎士の長ランベール。それと、ウィン邸の騎士の長クリストスを勇者パーティの一員として迎える!ピア、後の説明は頼めるか?」
「ウオ!これは!?」
突然見えてきた精霊に驚くナタンさんを置いて、リオンはアンスールはじめ、竜さん達に向き直った。
「俺たちはこれから、人を正しき道に戻す戦いをしようと考えています。人には竜程の力はありません。しかし、人にしか出来ない事もあるはずですから。竜の皆さん、どうかこれからも見守ってくださいますか?」
「見守るなど……我々にも活躍させて貰いたいものですね。なにせ我々竜は、人の為にあろうとする、天使フラン様の使徒ですからね」
頷いた皆のその顔は、今までにないくらい輝いていて、ミミは嬉しいのと同時に、少しだけみんなが遠くなった気がしていた。




