表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/46

29話 死霊

 ここはノースウッドの森の中のカストロ騎士団の野営地。ミミとライゾが初めて出会ったダンジョンのすぐ近くだ。ミミがどうしてここに来たかって?怪我人がいると聞いたからだ。

 

 ライゾの手によって、最も近くのソーンであるルーン城の王様の執務室に転移したミミと傷だらけの剣闘士の皆さんは、そこに住む騎士様達にとてもよくしてもらった。だからミミは、お礼に騎士様たちの同僚の人達の怪我も治したいってお願いしたのだ。

 だって、ミミは見てしまったのだ。厳しい前線とやらに出ている騎士団の話を聞いたユリアスが、とても悲しい顔をするのを!


 すぐに勇者パーティは転移石を使って、この前線へと飛んだ訳だけど……。

 

「ミミ様。ありがとうございます」

 目の前の騎士様はミミの手を取り、恭しく掲げると高貴な人にする様な仕草で額につけた。

「しかし貴方がもっと早くにいらして下さっていれば、我が同胞は……」

 すると、隣の真っ青な顔の騎士様がその手を優しく払った。

「我々にそれを言う資格はないだろ?この御方を我が領土から追い出したのは、他の誰でもない、我々だったのだから……。ミミ様、生きていて下さって、本当にありがとうございました」

 

 そう、この騎士様たちは、以前、このニアホレストで、ミミを追っかけまくっていた騎士たちだった。実はその時、騎士様たちにはミミの拘束命令だけでなく、見つけ次第処分!って命令も出ていたらしい。

 

「ミミも優しい竜さんや精霊さんに助けて貰ったんだよ!今、ミミがここに駆けつけられたのも竜さんのお陰なの。だから皆が御礼を言うとすれば、きっと竜さんたちにだと思う!」

 ザワりと騎士様たちがどよめく。何故なら騎士様たちは、正にその竜のせいで死にかけたからだ。

 でもミミはどうしても竜さん達の素晴らしさを騎士様たちに分かって貰いたかったんだけど……。


 でも、しゅんとしたミミの手は、1日経った今でも炭で黒くなったままの騎士様の手によって、優しく持ち上げられた。ユリアスの後任だと紹介されたナタンさんだ。

 ナタン様は、ミミの目を真っ直ぐに見つめて話し始めた。


「ミミ様。我々は今、たくさんのものを失ったばかりで、竜に対してあなたの言うような感謝を心から口にする事は難しいでしょう。しかし、我々は今、生きてここに立っております。これから竜の事を知る機会は、いくらでもあるのです。ミミ様、貴方が我々に考える時間を下さった事を我々は真摯に受け止め、二度と過ちを繰り返しさないよう、尽力すると誓います。ですからどうか今は、あなたに生かされた我々の、心からの感謝の気持ちを、受け取って下さい」

「ふっ!難しい事を言ったところで、無駄だ。お前たちは上官を裏切る事は出来んだろう?ミミを連れて来いと言われたらどうするつもりだ?」

「それは……」

 ナタンさんは目を逸らした。

 

 でも、ミミは知っていた。騎士様たちには従わなくてはいけない上司がいる事を。

「ミミなら大丈夫だよ!またすぐに逃げるから。ね?ライゾ!」

 ライゾはケッ!と火を吐いた。

「お前が普通の生活ができるのは、いつの事やら……夢のまた夢だな」

 

 ここで何故か、騎士様たちは、涙を流し始めた。

「その様な不自由な生活を、我々が強いているんだよな……」

「なのに天使様は我々の無礼をお許し下さって……なんと慈悲深い」

「「天使様ぁ――!」」

 ここで何故か騎士様たちは拝み始め、ミミの前で先を争うような争奪戦が始まった。なんだかとても元気そうだ。

 

「みんな元気になった!!」

 ミミは嬉しくてぴょんぴょん跳ねた。でも、グラりと傾げてそのまま地面に……。

「ミミ、少し休もう」

 すぐにユリアスがとんできてミミをキャッチしてくれる。そして、騎士様たちを優しく睨みつけた。

 

「ほら、お前たちも今くらいは大人しく休め。傷は治っても失われた血はすぐには戻らないぞ」

 騎士様たちは何故かニヤニヤすると、更に睨みつけるユリアスから視線を外し、白々しく背中を向けた。ユリアスは諦めた様にため息をつき、ミミを引っ張ってそのまま近くのテントの中に抱えて行った。


「ミミ、本当に体は大丈夫なのか?こんなに立て続けに法力を使って……」

 ユリアスはミミをふわふわの毛皮の上に下ろすと、優しく抱きしめた。その温かさにミミは、まだ昼間だと言うのに目を開けておくのが難しくなる。

 

「大丈夫だよ。イースが見てくれてるから……。それより、ごめんなさい」

 ユリアスはミミにケットを掛けながら首を傾げる。

「どうして謝るんだい?」

「ミミがもっと早くに来ていたら、助かる人がいたかも……」

 ユリアスは、はぁとため息をついた。

 

「ミミ、ヒールが使えるからといって、自惚れてはいけない。人は全能ではないんだ」

 いつも優しいユリアスの意外な言葉に、ミミは驚いてコクリと頷いた。素直なミミに、ユリアスは頭を掻くと、自嘲するように微笑む。

「ミミ……こんな、何も出来ない俺が何を言うんだって思うだろうけど……俺はね、それは彼らの運命だったと考えるようにしているんだ。でないと、後悔と自分の不甲斐なさに押し潰されてしまうからね」

 

 ああ、そうか。ユリアスはミミの心を軽くしてくれようと、必死に想いを伝えてくれているんだ。

 ミミはユリアスの心遣いが嬉しくて、手を伸ばしてユリアスの頭を撫でた。ユリアスは、ミミはやっぱり大人だなと呟くと、ミミの肩に頭を乗せて息を吐いた。

 

「ミミ……俺は悔しくて悔しくて堪らないんだ。俺は、自分が勇者になれば、あの利己主義な父上であっても、竜討伐の様な大きな戦いは全部、俺たち勇者パーティに任せてくれると思っていたんだ。そうすれば騎士の無駄死にをなくせる。そう思っていたんだよ。だけど……実際、俺は無力で……こんな……」

 ユリアスは静かに嗚咽を隠す。

 

 ユリアスは本当に優しい人だ。でも、それはミミだけじゃなくてみんなが知っている事。

 ミミはテントの外にも、息を潜めて同じ様に嗚咽を隠す人たちがいる事に気が付いていた。

 だから、ミミは頑張って伝えようと思った。

 

「ユリアス、あのね。ライゾがね、ミミの強さは、皆がいる事だって教えてくれたの。でもそれって、ミミだけじゃなくて、皆に言える事だと思うの。ユリアスの強さも、きっと皆がいる事。ミミはユリアスの力になりたいと思うし、きっとパーティメンバーの皆だってそう。多分だけど、騎士団の皆だってね!だからね、ユリアスは無力なんかじゃないよ!ユリアスの強さは、皆がいる事だから」

「皆が……か……」

 ユリアスはここで、本格的に泣き始めた。ミミはちょっとオロオロするも、頑張ってユリアスの背中をさすった。


◇◇◇


「ほぉ……ユリアスが戻って来たか」

 その頃、カストロ伯爵家現当主、アーロン・カストロは、執務机の上で手を組み、暗い笑みを見せていた。


 目の前には、現在ルーン城を任せている伝令騎士長ランベールが真っ直ぐに立っていた。この男、右脚の怪我で走る事も出来んというのに、こんな場所に自ら現れるとは!情報の価値は速さで決まるというのに。

 

「で?今は何処に?」

 カストロ公はイラつきを隠しもせず、ランベールに凄んだ。ランベールは冷静沈着な男で、表情を変える事がない。お陰で私はいつも馬鹿にされているような気分にさせられるのだ。今も妙に神経を逆撫でされる。

 

「はい。ノースウッド最短の町、ニアフォレストです。早馬での伝達ですので、到着したのは1日前となります。故に現在はノースウッド付近の討伐前線におられるかと」 

「ほう……メンバーは皆、一緒だったか?」

 カストロ公はなんでもない風を装い、 1番聞きたかった情報を切り出した。

「はい。その様に聞いております。確認の為に人を送りますか?」

 

 なんという幸運。勇者リオンの目さえ誤魔化せれば、2人纏めて始末出来る。……いや、2人とは言わぬ。どちらか1人でも片付ける事が出来れば!

 直ぐにその手の者を用意しなくては。

 

「いや、帰ってくるなり討伐とは、些か働きすぎでは無いかと思っただけの事。そうか、これは食事会でも開かねば……。いや待て、あいつらは出立式典の舞踏会に欠席しておったな。あの約立たずのポーターの所為で……」

 あれだけ贅を尽くした会を設けたと言うのに、主役抜きとなった場は白け、私は大恥をかかされたのだ。

 リオンの事だ。ミミを連れてこの首都に姿を見せる事はまず無いだろう。

 

 カストロ公は忌々しげに髪をかきあげると、ランベールを見上げた。

「ふっ。そうだ、私自ら歓迎してやろう。永遠の転移石を使うぞ。準備を」

 来ぬのなら行くしかない。

 

 しかし、ランベールは無表情のまま、申し訳ありませんと、胸を叩いた。

「陛下。恐れ入りますが、それは少しお待ち願えないでしょうか」

「どうした、(ソーン)を刻んだ者がおらんのか?」

 カストロ公は首にするぞとばかりにランベールを凄んだ。転移するには、行きたい場所の(ソーン)に触れた事のある者が必要だ。そのくらい用意出来ぬの様では、伝令長は務まらない。

 

「いえ、それは問題ないのですが、実は先日よりルーン城に死霊と思われる魔物が出現するようになり、現在、調査中なのでございます」

「死霊だと?何をふざけた事を!」

 カストロ公は執務机を叩いた。こんな馬鹿げた事は聞いた事がない!

 

 しかしランベールは顔色1つ変えず、淡々と報告を続けた。

「処罰は覚悟の上。ですが、現在城内部は不可解な現象が多発しており、陛下の入城を許可する訳にはいきません。誰もいないはずの城の中に明かりが灯り、真夜中になると足音と共に人影も多数目撃されております。さらには一昨日、行方不明者が出てしまい、安全とは言えない状況にございます。この様に危険な場所に陛下をお入れするなど出来かねます」

 

「ふむ……」

 それが本当ならば、確かに危険だ。

 しかし今を逃しては、二度とミミを見つけられないかもしれぬ。

 カストロ公は嘘ならばただではおかんぞと、ランベールを睨みつけた。

 

「警護を厚くする。それなら問題なかろう。こちらの準備が済み次第、城に向かうぞ。それまで聖水でも撒いておけ」

「はい。かしこまりました。、では、神官をお連れする様、手配致しましょう」


 ――二度と失敗は許されぬ。だが、これさえ片付ければ……。

 カストロ公はニヤリと空を見つめた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ