25話 ウイルド
それからの勇者パーティの快進撃は凄かった。
今年の3人の勇者様は、今までの誰よりも強く逞しく優しい。そして美しくもあった。勇者パーティは神出鬼没で、たった1ヶ月足らずで、レイハルト領のダンジョン全てを攻略してしまったのだ。それも、男3人だけでだ。
今までの悪い噂は嘘のように消え、人々は勇者を称え始めた。
実際は、ダンジョンの半分はミミの仲間、アンスール、ティール、フェオの3人で攻略していたのだが……。
「いい傾向ですね。レイハルト領では、今やリオンは時の人。もう誰も、イグニートを暗殺する事は出来ないでしょう」
レイハルトの主要都市、レイハルから買い出しを終え、戻ってきたアンスールは、街で仕入れてきた情報を集まった仲間に話して聞かせた。
ミミの元に集まった竜さん達は今、ウィン様の屋敷を拠点としていた。今は、客間のひとつを皆の寛ぎの場所として使っていて、皆、食事の後はここに集まって話すのが日課となっていた。
「凄いわ!イグニートちゃんは、この短期間でヒールが使える様になったのね!聖女要らずで、しかも、ミミのアイテムボックスも使えるからポーター要らず!過去最強のパーティじゃない?」
「人間だというのに、中々やりおる。攻略スピードは竜のわしらの方が遅い位じゃ。ミミとライゾのおかげで、転移放題だから、もっと呼ばれると思っておったのに」
討伐組のフェオとティール様が言うのだから、3人は物凄く強くなっているに違いない。
「ピアとイースがいるから、おじいちゃんは来なくていいの!呼ばれなかったけど」
イースは少し寂しそうだ。
「アンスール様。何故、我々、竜の手柄にしないのですか?」
何故かずっとこの屋敷に居座り、すっかり執事の様になってしまっているオセルが、皆に紅茶を振る舞いながらたずねると、アンスールはしたり顔で頷いた。
「今はその時ではないと考えている。……と言うのも、実はファリアスで黒竜が多数目撃されたらしく、冒険者たちはこぞってファリアスへと向かっていたらだ。我々が姿を現すには都合が悪い」
「黒竜……イースではないという事は、ニイドかの?」
ティール様がウィンのお菓子に手を出し、叩かれた。
ニイド……。ミミは、首に刻まれていたルーン文字を思い出し、思わず小竜ライゾを抱きしめた。ミミの膝の上でウトウトしていたライゾが、ケホッと火を吐いた。オセルは嫌そうな顔をする。
「ティール様、それは恐らく、ウイルドです。ですが、ニイドがルーンを刻んだウイルドでしょう。ただの兵と成り果てた我らが兄弟ですね」
紅茶を入れ終わり、立ったまま自分の分をすすり始めたオセルに、ティール様がいきり立った。
「ウイルドじゃと!?」
目覚めたライゾが、目を擦りながらミミに説明してくれる。
「ミミ、ウイルドは何もルーンを持たない竜だ。我々はフラン様より切り離された良心だと、前に教えた事があるだろ?しかしここ数年、疲れ果てたフラン様からは、無が生まれ始めた。それはウイルドと呼ばれる竜となり、ただ、空腹を満たすだけの獣と化す。今まで、冒険者が討伐してきた竜のほとんどがそれだ。魔物と大して変わらん」
ライゾが教えてくれるのを、ミミは悲しく聞いていた。フラン様の苦しみが聞こえるようで……。
「しかし、ウイルドは竜になる前の幼獣の状態で管理される決まりとなっていたのでは?」
アンスールは不服そうだ。
「はい。今までは、我々竜族委員会の者が凶暴にならぬよう、穏やかに育てておりました。しかし、大きくなったウイルドを制御するのは難しく、ニイドの手を借り、従属させていたのです」
「もしかして、ニイドが失敗して、逃がしちゃったの?」
顔を青くするフィオに、オセル様は首を振った。
「ニイドは竜族委員会を裏切ったのです。彼はウイルドを従属させたまま、勝手にカストロの公爵に取り入り、何らかの取り引きをした模様です」
フェオは息を飲んでミミを見た。ミミの持つ、竜王の証が目的だと悟ったのだろう。
「何らかの、とは?」
アンスールは確認の為に、オセルに詰め寄った。
「分かりません。しかし、ニイドは常々、もっと人間の数を減らすべきだと言っておりました。数が減れば、人も竜の有り難さが分かるだろう、と」
アンスールがオセルに厳しい顔を向ける。
「どうして今まで話さなかった」
「竜族委員会が貴方に知らせぬよう、通達したからです。貴方に教えてしまえば、必ず阻止されたでしょう。竜族委員会は人に対して怒りを覚えています」
「しかし、制御出来ぬ様なものを世に送り出してしまっては、竜への憎悪が増えるばかりだ。この世界に闇が満ちてしまうぞ!」
いつもは穏やかなアンスールが、珍しく声を荒らげた。オセルは無表情のまま、項垂れた。
「はい。私もそう判断したので、この事をアンスール様にお話しようと考えました。私はここにいる間、人と過ごすうちに、敬われるよりも心地よい環境というのを経験しました。この居場所を失うのは、正しくないと思います」
ミミは思わず立ち上がり、オセル様の前に行くと、オセル様を庇うように、両手を広げた。アンスールが、それを見て顔を緩めた。
「すいません、オセル。あなたを責める様な事をしてしまいましたね。話してくれてありがとうございます。しかし、事は深刻かも知れません。……というのも、実は、ようやくファリアスの次男、キローガが、領主バンデロの死を公開しました。じきに葬送と、新しい公爵の就任式が大々的に行われるでしょう。諸侯らはもちろん、公爵らも招かれるでしょうね」
「ファリアスにはハガルがおるな。ニイドと奴の関係が気になるところじゃが……。イグニートは必ずファリアスに戻らねばならんじゃろうて」
「すいません……」
アンスールとティール様にオセルは素直に頭を下げた。
「いえ、話してくれた事、感謝しますよ。……では、これより」
「もう会議はたくさんだぞ!!」
ライゾが叫ぶのを、アンスールは鼻で笑った。
「ふっ!分かっております。ライゾ、そろそろ我々も動く時が来たようです。皆さん、良ければ、今から私の眼を取りに行くのを手伝ってはくれませんか?」
「?」
ミミは首を傾げる。アンスールの眼って、着脱式なの?
ミミの疑問を他所に、竜さん達は盛り上がっている。
「ふっ。それはいい考えです」
「腕が鳴るな」
「アンスール様の完璧なお顔が早く見たいわァ!」
「ふふっ……という事で、どうでしょう。ここらで少し仲間を増やして起きたいのですが?」
アンスールの提案に、盛り上がりは最高潮!
「分かりましたわ、アンスール様。ぜひ、私を貴方の……いえ、ミミの仲間をしてくださいまし」
驚くミミの頭の中に、ピコン!と音がなり、ウィンをギルドパーティに加えますか?と文字が浮かんだ。
ミミは嬉しくてぴょんぴょんし、皆が頷いた。続いて、スリサズの文字も!
「ミミ、そろそろイースと俺をおなじチームにしてくれてもいいんじゃないか?」
「スルトさん!ありがとう!」
ミミが頷くと、皆が歓迎する様にその腕をを叩いた。そして……。
「出来れば私も加えて欲しいのですが、実は私、竜族委員会のパーティに入っております。これを抜ければ、この先の委員会の動きが分からなくなるやも知れません」
オセル様が少し寂しげに申し出た。
「その気持ちだけで十分ですよ、オシラ。お前には、ぜひ、この場所を守っていて欲しい」
ウィン様の領土はいつの間にかみんなの拠り所となっていた。それはオシラ様が守ってくれるのなら、とても心強い。オシラ様は、嬉しそうに腰を折った。
「かしこまりました」
次の日、アンスールとフェオとティール様とスルト様は、カストロのお城へと旅立って行った。
オシラ様はウィン様と少し話をすると、すぐにどこかへ消える。ウィン様は何事もなかったかのように、屋敷で刺繍を始めた。
ミミは落ち着かず、ウィン様の屋敷の裏で、謎のキノコを採取していた。ミミの石ころは全部、抽出器にかけて無くなってしまっていたからだ。ミミは新たな素材を求めていた。
ふと顔をあげれば、屋敷の隣の建設中の建物で、元騎士団とスルト様の親衛隊の皆さんが休憩しているのが見えた。作っているのは皆の住まい。スルト様の親衛隊の皆さんは、スルトの洞窟内の建物を全てを作った凄腕の大工さんでもあったのだ!
元騎士団の皆さんや、親衛隊の皆さんが、ミミを見つけては手を振ってくれる。ミミは嬉しくて手を振り返した。
皆がいる……。ようやく、ミミにも自分のお家が出来た気がしていた。
だけどもミミは、釘を打つ子気味良い音を聞きながら、何故か寂しさを感じていた。
ミミは、もっとみんなの役に立ちたかった。
「ミミ、元気がないな。どうした、言ってみろ」
ライゾは何時だってミミの気持ちを聞いてくれる。
「ミミはどうしたら置いて行かれなくなるのだろう」
ふん!とライゾは笑う。
「行きたいと言わん限り、無理だろうな」
「でも、ミミが行ったら邪魔になっちゃうよ?みんな強いもん」
ミミはイジイジと地面をつついた。
「お前は自分を低く評価し過ぎている。お前は凄い。もっと自分を信じて自由にやりたい事をやれ」
意外な言葉にミミは顔を上げて小竜ライゾを見た。
「ミミは凄いの?」
「ああ。お前ほどひたむきな心を持った人間を俺は知らない。だから俺も……皆もじっとしていられなくなるんだ。さあ、ミミ、どうしたいのか言ってみろ!」
ミミは嬉しくなって、ぴょんと跳ねた。
「ミミ、カストロのモーリアン教会に潜入したい!」
「ふっ……それはまたいきなり……面白い!」
ライゾが目を丸くする。
「ミミがいた教会の地下には、モンペイさんみたいな逃げたくても逃げられない人がまだいるの。ミミ、ずっと気になっていたんだよ!」
「助けたいと?」
「うん!」
ミミは大きく頷いた。
「なるほど……カストロか。少し遠いな。ミミ、まだ虹色に光る法石はあるか?」
「頑張って作る!!」
「よし!やってみろ!出来たら連れて行ってやる!」
「お――!!ライゾ、大好き!!」
ミミは心の底から幸せだった。ミミにもまだ出来ることがある。そしてそれを叶えてくれる、頼もしい竜さんがいる!
ミミは抽出器を取り出し祈りを込めると、謎のキノコを放り込んだ。




