22話 最強の仲間
「何度見ても、レイハルト城は優雅な城だな。天気さえ良ければ最高だったんだが……」
リオン、ユリアス、イグニートの3人は、ミミに貰った転移石を使ってレイハルト公爵領首都近くの村に飛んでいた。そこから民に請われるがまま、魔物を討伐しつつ移動する事、5日。レイハルトの城下街レイハルの城門へと到着していた。
仰ぎみるは、美しいレイハルト城。贅を尽くした豪華な白い城は、豊かな領土の象徴だった。
「おい、次!冒険者か?」
レイハルに入る城門の検問の列が進み、リオンは渋々兜を取った。途端に周りから感嘆の声が上がる。
「これはこれは、リオン様はじめ、勇者パーティの皆様。お疲れでございます。……馬を御用意致しますか?」
徒歩で来るとは思わなかったのだろう、困惑した様子の門兵が気を使ってくれた。
「いやいい。街をゆっくり見て回りたい。到着した事だけ、兄上に報告しておいてくれ」
「かしこまりました」
門兵は敬礼すると、すぐに動いてくれる。リオンは急いで兜を被ると、門をくぐった。それを見て、今更だろう……とユリアスが笑う。
「いいのか?まずはオラン・レイハルト伯爵に挨拶だろ?」
「構わない。聖女が来るまでの少しの間滞在するだけだ。忙しいのにわざわざ時間を取らせることでもないだろう。それに俺は仰々しいのは苦手なんだ」
淡白なリオンに、イグニートは頷いた。
「では、まずは物資の調達をすべきだろう。アイツらは、あちら側で臨時のパーティを組んだ様だ。何処かに滞在するのだろうが、何も持って行かなかったからな。足りないものをピアに聞こうと思う」
イグニートの言うアイツらとは、" 死んだ "騎士団メンバーの事だ。
「じゃあ、まず壁に耳のない宿屋に落ち着こう。雨も降ってきたしな。リオン、何処かいい場所を知らないか?」
ユリアスは勇者パーティが来たと聞き、集まって来た人々に、にこやかに手を振っていた。足早に立ち去ろうとするリオンの肩に手を回すと、それだけで、おば……お嬢さん方は嬌声を上げるのだ。
リオンは嫌そうに肩に乗った手を振り払う。
「こっちだ。冒険者の集まる、いい食堂がある。まずはそこに行こう」
「大衆に紛れるってのも、いい手だ」
ギルドに寄り、魔物被害の情報を確認をした後、冒険者に人気だという大衆食堂で食事をとったリオン達は、食堂の厨房を抜け、勝手口を出ると。裏口から隣の宿屋に入った。
『ありふれた豚亭』は、大衆食堂の隣にある、何とも陰気な宿屋だった。だがリオンは、この宿屋の奥の部屋を自分の部屋として、長年貸し切っていた。
宿屋の主人はリオン達が入って来ても、顔を上げる事すらしない。リオンは勝手に階段を上がると、2階の1番奥の部屋の鍵を開けた。中々に広い部屋だが、家具と呼べるものはベッドは1つしかない。
「いい場所だな。遊び人のリオン様は、ここよく来ていたとみえる」
ユリアスがニヤる。
「勝手な想像するな。向かいと隣の部屋も借りている。好きに使うといい」
リオンはそう言うと、雨で濡れた甲冑を脱ぎ、床に胡座をかくと、ピア!と呼び掛けた。ピアがクルクルと飛び出す。
「忙しいところすまないが、あちらの様子を教えてくれないか?」
「まあ!勇者様は優しいのね!竜たちはそんな優しい言葉なんてかけてくれないのよー」
リオンが苦笑いをする。イグニートが濡れて重くなったローブを脱ぎ捨て、横に座った。それを見て、ピアは腰に手をやって、ふむと頷いた。
「さて、何が知りたいの?って、騎士団の事ね?」
イグニートの素晴らしい筋肉をチラリと見たリオンは、羨ましそうに目を逸らすと、ベッドの下のチェストから羊皮紙とペンを取り出した。
ピアによれば、現在騎士団はウィン・アップル伯爵の使用人として召し抱えられているとの事。スルトの洞窟を離れてから1週間と経たないうちに、一体何があったのか……。100を超える人数を、纏めて雇って貰えるなど、奇跡だろう。
しかも、情報の早いギルドで噂になっていないところをみると、この大量雇用の出処はバレていない様だ。
まあ、商隊の多いこの領土では、クエストの数も半端ない。冒険者の雇用など、気にもしないだろう。
それでも騎士団は、暫くは大人しく隠れておいた方が無難だろうと、果樹園から出る事なく過ごしているらしい。故に足りない物資は多い様で、買い出しを申し出たイグニートに、喜びの声を上げているという。
「近くにミミはいるのかい?」
リオンが聞き出せなかった事を、ユリアスは自然に切り出してくれる。
「ええ、騎士たち……じゃないわね、農夫たちに、必要な物を聞きまくっているわ。ふふふ……今のミミを見たら、みんな惚れちゃうわよ?」
「ん?どうしてかい?」
ユリアスが興味を持ったらしく、横に座った。
「なんと!ミミはドレスを着てるの!可愛いらしい水色のドレスよ!ウィンの屋敷で、ちゃんとした休息をとったから、肌はすべすべぷくぷく、髪はサラツヤ!美しくなったミミにはとてもよく似合ってるわ!本当に可愛いくて、ライゾまでデレまくってる」
「それは心配だな……」
「ふふふっ!あ、必要な物が纏まったみたいね。言うわよ!」
リオンは必要な物をメモると、耳を赤くしながら、ミミの欲しい物はないのか?と聞いた。
「首を振ってるわ。ミミは今、ウィンの屋敷でね、生まれて初めての "普通の暮らし" をしてるの!多分、必要な物なんて、思いつかないんじゃないかしら」
「そうか……。それは良かった」
「じゃ!また何かあったら呼んでね!」
ピアはくるりと回って虚空に消えた。
3人はため息をつく。
「もうクッキーくらいじゃ喜んでくれないかもしれないな……」
「俺たちにもっと力があれば、ミミにも望む暮らしをさせてやれるはずだ」
「もっと精進せねばならんな」
3人は立ち上がり、濡れた装備を再び付けると、身支度を整えた。
だが、部屋を出ていこうと、3人が扉の方へと向かったところ、ユリアスが急に、ヒッと息を飲んだ。
……いつからそこにいたのか、黒髪黒装束の女性が扉の前で3人を真っ直ぐに見ていた。
「えっと、君は確か……イース、だったよね?」
さすがのユリアスも声が固い。
ミミと一緒にいた時は、もう少し明るい顔をしていた彼女だが、今はまるで幽霊の様に無表情だ。
「ミミが心配してたから見に来たの」
「そうかい。今から街に買い出しに行こうかと思っていたんだけど……雨だけど、一緒に行くかい?」
「そうね。日光出てないし、行くわ」
それから3人と竜(死霊)は街を周りながら、不審に思われない程度に買い物を始めた。自分たちの分も含めるとかなりの量になるが、3人は名家の出だ。お金には困っていないし、ミミのおかげでアイテムボックスは無限だ。
「何か欲しい物はないかい?」
コミニュケーション力があるのかないのか……イースは大人しくユリアスにエスコートされていた。無表情のイースに慣れたのか、ユリアスも楽しげだ。
「髪を隠す物が欲しいわ。瞳は仕方ないけど、ミミみたいになりたいの」
真っ黒なドレスにマントまで着込んでいるのにも関わらず、イースはかなりの美人だと分かる。黒髪も魅力的なのだが。
「君はミミとはタイプが違うだろ?君はそのままの方が素敵だ」
さすがユリアス。女性にかける言葉選びが素晴らしい。だけど、イースは首を振る。
「嫌よ。ミミみたいに……あ!あれがいいわ」
イースが突然指さしたのは、魔術士が好んで被る、大きなとんがり帽だ。それも黒くて……間違いなく似合うだろう。
「気に入ったのかい?」
ユリアスもそう思ったのか、頬が緩んでいる。
「うん。あれなら髪を全部押し込めるわ」
「分かった。あれにしよう!」
そこそこ高価なとんがり帽を購入してイースに渡すと、彼女はいそいそと髪を纏め、帽子にしっかりと詰め込みながら被った。見慣れるてくると、表情はないが、嬉しさは伝わってくる。
「ありがとう」
少し照れた様に下を向くイースを見て、ようやく打ち解けた気がした。
「よく似合っているね」
ユリアスの言う通り、恐ろしく似合っている。リオンは大きく頷いた。
「ふふっ。これでミミに見えるかしら……」
それはどうかな?
「閣下――!」
その時、向こうから大きく手を振り駆けて来るものがいる。その服装から、レイハルト城からの使いだとすぐにわかった。
「どうした?」
かなり慌てた様子の使いが息を整えるのを待って、リオンは話しかけた。使いは大きく息を吸い、敬礼した。
「リオン様、レイハルト公爵がお呼びです。至急、城まで御来城ください!」
リオンはため息をついた。
「父上の耳に入ったのだな。仕方ない……」
「勇者パーティの皆様もご一緒にとの事。馬車を御用意しております故、暫しお待ちを!」
しかし、馬車が来て、その扉が開けられると、使いはイースを見て、顔を顰めた。
「リオン様、この娘は?」
「ああ……ん――」
なんと説明するべきか迷うリオンの服の裾をイースが握りしめた。それだけで使いはイースをミミだと勘違いした様子。
「……まさか、その娘は……」
目を丸くし、キョロキョロと周りを見回した。
「すいません、私では判断が……」
「人に聞かれると困るのかい?そうだね、ミミを見つけたら捕まえろとでも言われてるのかい?」
ユリアスが意地悪にも、使いの肩に手を置き、顔をのぞき込む。使いは顔を青くした。
「も……申し訳ございません!まさか一緒におられるとは思わず!」
その通りという事だ。
「ならば尚更、一緒に連れて行かねばならないな。さあ、乗りなさい」
イグニートが馬車に乗り、イースに手を差し伸べた。
「うん!私、馬車初めて!」
イースはミミの真似をしてぴょこぴょこしている。だが、その顔は無表情のままだ。
「俺たちから離れてはダメだよ。怖いオジサンに連れ去られてしまうかもしれない。……さあ行こうか」
ユリアスが馬車に乗り込むと、リオンも使いを睨みつけ、馬車に乗り込んだ。
扉がしまった途端、ユリアスが吹き出す。
「君はこの為に俺たちについてきたのだね?」
イースは大きな帽子の影からニヤリと笑っていた。上がった口角だけがチラリと見える。
「ミミは今、レイハルト領にいるのよ。私たちはね、ミミを追われる身ではなく、自由にさせてあげたいの。それには、1度姿を見せて、レイハルト公爵の対応を見なきゃだめだから」
リオンは少し厳しい顔をイースに近づけた。
「期待はしない方がいい。危ないと思ったら必ず逃げてくれよ。俺は……応戦出来るか分からないから」
顔を背けるリオンをイースはじっと見つめる。
「ボックスに戻るのは簡単だし、私、強いから心配無用よ」
「頼もしいな。逆にレイハルト公爵が心配になるくらいね」
ユリアスの軽口にリオンは顔を顰める。でも、イースはちゃんと分かってくれた様だ。
「リオン、心配しないで。私はミミの悲しむ事は絶対にしない」
「ありがとう。……君が仲間で良かった」
リオンは、ほっとしたのか、少し口元を緩めた。イースはスっと目を逸らした。
「その言葉、まだ早いわよ」
見えなくても分かる。イースは嬉しそうにそっと帽子の鍔を引いて顔を隠していた。




