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21話 竜の性分

 その日の夜更けの事だ。

 何度か眠っていた事もあって、ミミは月明かりの下、暖かいテントの中で目が覚めた。

 

 さすがの竜も、長い1日に疲れたのか、皆、寝静まっている。

 ミミは起き上がって、ブルーのライトで起こさぬよう、そっとテントから出ると、薪の前に丸くなって眠る、見張り役の小竜ライゾの横に座り、水面のようなステータス画面を開いた。

 

 ミミのそこそこの体力(HP)と攻撃力(ATK)が青いゲージで表されている。そしてその下に、ひっそりとマジックポイント(MP)が、黄色い帯で表されていた。

 この世界、普通の人には法力がない為、このゲージは出ない。だからあまり知られていないけど、MPは法力を使う人にとってはかなり重要なゲージだった。

 

 そしてミミは今、自分のゲージの下に無限のマークを見つけたのだ!

 ミミは嬉しくてぴょんと跳ねた。そう、ミミはとうとうMPをカンストしたのだ!!

 

「先に回復速度を上げたのは正解ね」

 イースが出てきて、ミミの横から画面を覗いた。

「うん。流石イース!MPの回復速度なんて知らなかったよ」

 

 MPは空になればなるほど、回復速度が上がる。イースは最近、ミミの体調を見ながら、ミミが法力不足手前になると教えてくれるようになっていた。

 おかげで、ミミは法力不足にならず、かつ、回復速度を最大まで上げる事に成功したのだ。


「私もみんなを癒したかったからね。色々試したのよ」

 イースはミミに、大変な努力の結晶を教えてくれた。だからミミも応えたいと思った。

 

「あのね、ミミもいい事教えてあげる!ミミの作った法石を水面に入れると、みんなが成長するんだよ!見て!」

 ミミはステータス画面を横にスライドして、以前、法石を入れた、イグニートのステータス画面を開いた。

「パーティメンバーなら誰でも開けるのね……これ、フェオの力でしょ?中々のチートっぷり」

 イースが呟く。ミミは仲間が褒められるのが嬉しくて、うんうんと頷いた。

 

「ほら、イグニートの画面にもMPが出来てるでしょ?これ、ミミが法石を入れたら、新しい枠として出てきたんだよ」

 イースが顔を寄せる。

 

「本当だ……魔法使いは基本、魔石を杖にはめ込んで、呪文で発動させるからMPは必要ないのだけど……。イグニート、法術なんて使えるの?」

「今は使ってないみたいだけど、きっとイグニートなら使えるようになると思うの」

「なるほど。使ってないのにこの値の大きさは……ミミが頑張ったおかげって訳ね。経験値が皆にも入るって凄い。本当にアンスールも凄い事をやったわね……」


「うん!フェオもライゾもだけど、竜さんはみんな凄い!」

 ミミはライゾを起こさない様に、ぴょこぴょこと喜んだ。

「そうね……私以外は」

 イースが目をそらすから、ミミはその手を握った。

 

「イースがミミを助けてくれるから、ミミは法力不足にならずに皆をヒール出来たんだよ。だから、イースはもっと褒められていいと思うの」

 ミミはイースに、ステータスのことは黙ってなさいって言われたのだ。だから黙ってたけど……。

 

「ミミ、皆がいい人だって思わない事ね。竜だって裏切る者もいるの。だから、アンスールもフェオも力を使う場所を、わきまえているでしょ?」

 ミミは眉を顰める。

「難しい……」

 イースは黒い瞳を細めてクスリと笑った。

 

「ミミはそのままでいて。ライゾは何処でも火を吹きまくっているし、気にしないの!さあ、法石を作るのでしょ?」

「うん!ミミ、ガチャ大好き!次に虹色の法石が出来たら、イースにあげるね!」

「いや、ライゾにあげて……あ、やっぱ、このままの方が可愛いから、あげないで」

 

「こら、お前らコソコソと何の相談だ?」

 ここでライゾが目を開け、ミミとイースはくすくすと笑った。

 それからミミは、抽出器を出すと、おしゃべりしながら楽しく法石を作りまくった。

 

「ミミ、法力は減らなくても疲れるのよ。その位にして寝なさい」

 イースに言われて気が付いたけど、ミミは心地よい疲れを感じていた。ミミは素直に薪の前に丸くなる。すると不思議と眠くなる。

 皆と一緒にいると、どんなに寒くても、心が暖かいからよく眠れるのだ。

 幸せに包まれるってこんな感じなのね。

 

「困った子ですね。こんな所で寝てしまうなんて……」

 夢見心地の中、アンスールが優しく抱き上げてくれた気がした。


 次の日、朝早く目覚めたミミは、イースとライゾの3人で、薪用の枝を探しながら森をさ迷っていた。

「キノコ!!栗!!どんぐり!!」

「ああ、もう薪はいいから、好きに拾え」

 ぴょんぴょん跳ね回るミミに、ライゾが諦めた様に笑った。


 ウィンの森。

 そこはミミにとって、楽園だった。

 

 レイハルト領は、北は大きな森に、南は海に面したとても自然に溢れた土地で、3領土で1番の商業都市でもあった。商業都市と言っても、カストロの様に都会ではなくて、農地で生産された特産品を売る小さな町の集まりだ。豊かさ故の、のんびりした感じがミミは大好きで、レイハルト領にはよく足を運んだ。


 その中でもウィンの森は、最もレアな植物の多い場所で、ミミは1度行ってみたいと思っていた。

 そう、思っていただけで行けなかったのだ。

 

 ウィンという竜は異様に強く、死なないと言われていたチュートリアルキャラのミミでも、怖くて近寄れなかったのだ。


「ウィンさんは本当にいないの?」

 ミミは生け垣の先、こんもりした丘の上に立つ、お菓子の家の様な可愛らしい建物を、恐る恐る仰ぎ見た。いや、お菓子の家じゃなくて、お菓子の屋敷だ。

 

「いないな。あいつは俺が来ると、いつも何かしら用事を思い出して何処かに出掛けるんだ」

「コミュ障?」

「いや、単に俺と気が合わないだけだ」

 

 ミミは首を傾げる。

「ライゾと気が合わない人なんているんだね」

「ミミお前……俺は気難しい竜だぞ。お!ミミ、このキノコは上手いぞ!採りまくれ!」

「りょ!今日はキノコスープだねっ!!」


 沢山の収穫を終え、キャンプに戻ると、ちょうどアンスールが薪の上に鍋をかけていた。アンスールの隣には、騎士団長のクリストスさん。アンスールは鍋をかき混ぜながらも、2人で何やら話し込んでいた。

 ミミはニコニコと鍋にキノコを入れた。


 すると、ふと、クリストスさんが顔を上げる。

「ミミ様はいつもこのような食事を摂られているのですか?」

 アンスールが頷く。

「ご馳走は無理でも、もう少しまともな食事を用意してあげたい所なのですがね。残念ながら私にはそう言った知識がありません」

 

 そういえば、ミミがご馳走という物にありつけたのは、勇者パーティになった最初の日の宿屋の夕食だけだ。前世でもご馳走に縁のない老夫婦に育てられたミミは、ご馳走をあまり知らない。

 

「ミミは、アンスールとイグニートの作るご飯が大好きよ!」

 イグニートのスパイスのおかげで、アンスールの料理の腕は格段に良くなったと思う。それに、竜の食事は魔石だから、この食事はミミの為に作ってくれているって亊だ。ミミは感謝を込めてアンスールの腕に抱きついた。アンスールはミミの頭を撫で、目頭を押えた。


「竜王の子たる者が何たる屈辱。世が世なら王城で贅を尽くした生活を送ったであろうに」

 

 アンスールの謎の呪文?に、クリストスさんが驚愕したように、鍋をかき混ぜるアンスールの腕をとめた。

「お待ちください。それは……!!」

 ミミも焦ってアンスールの腕を取った。

「ヤバいキノコだったの?」

 

 アンスールは2人に苦笑すると、テントの方をそっと見た。

「大丈夫ですよ、ミミ。そろそろご飯にしましょうか。ティール様を起こして来て下さいませんか?」

「りょ!」

 ミミはほっとして、ぴょんと立ち上がると、テントを覗きに駆け出した。


「ティール様!ご飯……」

 ミミがテントを覗くと、そこはもぬけの殻。ティール様は朝のお散歩に行かれた様だ。

 薪の方を振り返れば、2人はまた、話に夢中になってる。ミミはティール様の捜索に出る事にした。

 

 野営地にしている森を出て、リンゴのなる木を囲う低い生け垣の所まで行ってみる。ティール様はリンゴが好きみたいだったから。

 果たしてティール様はすぐに見つかった。生け垣の向こう側、綺麗に整地された果樹園の中で、誰かと言い争っていたのだ。


「1個貰っただけじゃろ?そんなに怒らんでもよかろうに」

「1個?そんな訳ないでしょう。この木には10個は実っていたはずですわ!今すぐお出しなさい!」

 ミミはティール様の所に駆けて行った。

 リンゴの木の影から見えてくるのは、明るい金髪のグラマーな女性。中世ヨーロッパの貴族のお手本みたいなドレスを着た美人さんに、ミミは見惚れるも、慌ててアイテムボックスを開いた。

「待ってて、今、確認します!!」


 ミミがアイテムボックスを開いたのは初めてだ。どういう順番で並んでいるか分からないから、画面をどんどんスライドさせながら確認する。

「あのね、ミミ達はパーティ全員のアイテムボックスを共用してるんだよ!」

「フェオの加護ですね。…………まだですの?」

 こちらを凝視しながらも微塵も動かない女の人が、柔らかそうなウェーブのかかった金髪を少し揺らして急かす。

 

「あ!あったよ!食べかけのリンゴ!」

 時間はかかったけど、ミミ、見つけました!

 興味無さそうだった女の人も、あまりのミミの喜びように、顔を寄せてアイテムボックスを覗き込んだ。

 

「あ、本当ですわね。リンゴは1個。しかも芯だけ。何故ゴミまで取ってありますの?」

「ミミが欲しがるかと思っての……」

 ティール様がニコリとミミに微笑みかけた。

 

 種?この世界、種って植えたら生えてくる?

 ミミはちょっとワクワクした。

 目を輝かせるミミを鼻で笑うと、女の人は凶悪な顔をティール様に向けた。

「要らないと思いますわ。悪趣味な」

 女の人は辛辣な言葉を吐く。しかし、ティール様は何処か嬉しそう。ミミは悟った。

 

「2人共、とても仲がいいんだね!」

「やめてくださる?気持ち悪い!」

 そう言う女の人の後ろで、ティール様がそうじゃろ?と、嬉しそうに大きく頷いた。

 

「ところで貴方、凄いアイテムボックスをお持ちなのね。何枠ありますの?」

「無限だよ!!」

 ミミは胸を張った。

 

「冗談はおよしなさい。そのような……ありそうですわね。フェオの加護といい、面白い子ですわね。……いいですわ、私の屋敷に招待して差しあげましょう」

「おお!」

 ミミはぴょんぴょん跳ねて喜んだ。女の人はちょっと眉を寄せる。

 

「ウサギみたいな子。そうですわね……今からいらっしゃる?」

「アンスールの朝ごはんを食べてからでもいいですか?」

 ミミは生け垣の向こう側を見た。多分、もうご飯は出来ているはず。

 

「アンスール……様?まさか!!アンスール様がいらしているの?」

 女の人は真顔だけど、若干キラキラした目をミミに向けた。そうか、アンスールは有名竜だったね!

 

「うん!ミミにご飯作ってくれてるんだよ!」

 途端に女の人の声は地を這った。

「アンスール様が食事の用意ですって?貴方、アンスール様になんて事をさせてらっしゃるの?今すぐ案内なさい!!」

 

 すると、ミミの髪の毛の中から、もそりとライゾが顔を出した。

「おい!待て、ウィン。まずは、ティールに、疑いをかけた事を謝るべきじゃねぇか?」

 かなり不機嫌そう。

 

「ライゾ……。何故貴方が私の家に。しかも、謝れですって?既にティールは1つ、盗み食いしていましたのよ。他のリンゴだって、芯まで食べている可能性がありますわ!」

 ライゾがパタパタと飛び出し、女の人の前で腕を組む。

 

「ないね。そのリンゴは魔力が高すぎる。ティールが2個食べれば、老衰で死んでる」

「わしゃまだ、死にとうない……」

 ティール様が顔を青くした。

 

「悪かったですわ」

 女の人はチラリとティール様を見て言い放つと、ライゾをジトリと睨みつけた。

「これでいいですか?」

「よくねぇよ!」

 ライゾは気に食わないみたい。だけど、ティール様は何故か嬉しそうだった。

 


 女の人……ウィン様と一緒にキャンプに戻ると、アンスールは立ち上がり、執事の様に腰を折った。

「ああ、ウィン。悪かったね。留守だと聞いていたので、挨拶もなしに」

「いいえ。構いません事よ。しかしアンスール様?こんなに人間を率いて、一体私に何用ですの?」

 ウィン様は辺りを見渡し、眉を顰めている。

 

「ああ、これは少し事情がありましてね。説明したいところですが、まずはこの子に食事を取らせないと。ウィンも御一緒にどうですか?」

「……いいえ、お構いなく」

 アンスールはミミにスープを渡すと、ライゾ様にも器をくれる。

 

 ミミはウィン様に頭を下げると、スープを飲んではキノコを頬張った。

 キノコ、最高!

 ニコニコするミミを、ウィンさんが真顔で見ているから、ミミはそっと下を向き、チラリと目をあげた。

 食べたいのかな?

 

 ウィンさんは、ぷいっと顔を背けると、踵を返した。

「アンスール様、屋敷でお待ちしておりますわ!」

 スタスタと去って行くウィン様を見て、アンスールはため息をついく。


「ウィンは相変わらずですね。ウィンの聖域に騎士団を住まわせて貰えれば、心強い事、間違いなし、なのですが……難しいですかね?」

 影のように、そっと後ろにクリストスさんが膝を着いた。

「我々の事はお気になさらずに。冒険者に紛れて暮らす覚悟は出来ております。バラバラになるのは寂しいですがね」


 

 それからアンスールとミミと騎士団長のクリストスさんとで、可愛らしい屋敷へと行く事になった。

 アリスのウサギが出てきそうな生け垣を超え、小高い丘のを登ると、そこはファンタジーの世界。近くで見れば見るほど、素敵な屋敷だ。

「大きなお菓子の家!素敵……」

 ほぅ……と息を吐くミミに、扉を開けたウィンは、ちょっと頬を緩めた気がした。


「貴方までいらしたのですか?……まあ、誘ったのは私ですし、中にお入りなさい。人間も話があるのでしたらどうぞ」

 中はもっと素敵だった。思わず甘い香りがしそうな、パステル調の色使いの家具は、この世界では有り得ない。何故なら、教会が一般の人に顔料の調合を禁止しているから。

 

「驚きました?自然の色でないと、神への冒涜だ!って教会は言いますけど、では何故、人は様々な色を見る事が出来るのかしら?私はこの方が素敵だと思いますし、幸せを感じますのよ」

「好きな物に囲まれて暮らせるのって、幸せね!」

「貴方なら分かってくれると思いましたわ。あれだけのアイテムを収集されているのですから」

 

「ミミなら石ころとか、どんぐりとか並べそうですけどね」

 アンスールの言葉に、ミミは頷いた。

「ミミ、毒キノコも好きです!」

 

 通されたのは、金と白を基調とした豪華な客室。ここだけが異質だった。

「ここは外交向けに作りましたの。でなければ、私、変人だと思われてしまいますので」

 ミミは豪華な椅子を勧められ腰かけるも、落ち着かずにモゾモゾしてしまう。その横にアンスールが座り、2人の後ろにクリストス様が真っ直ぐに立った。ウィン様はすぐさま用意してあった紅茶を入れてくれた。


「で?私の家に来られた訳を話して下さる?」

 ここからはアンスールの出番だ。アンスールはウィン様に、スルトの洞窟での事を話し始めた。ミミはキョロキョロと周りを見回しながら、出されたお菓子に手を伸ばした。


 パクリ!とひちとくち、口に入れ……。

「!!」

 ヤバい。美味しすぎる!!

 ミミは大きな焼き菓子を、ゆっくりモヒモヒと、端っこから堪能始める。……幸せ。


 しかし、楽しい時間にも終わりはくる。時間をかけて焼き菓子を味わったミミは、満足気に、ふぅと息を吐いた。お腹いっぱいだ。

 顔を上げると、ウィン様とガッツリ目が合った。怖いほど真剣な顔だ。


「も……もう1ついかがですか?」

 自分の分の焼き菓子を勧められ、ミミはぷるぷると首を振った。

「……ウィン様は食べないの?」

 大きな瞳を揺らしながら小首をかしげるミミを、ウィン様は凝視すると、真顔で首を振り、アンスールに向き直った。

 

「……なるほど。アンスール様が騎士を連れている理由は分かりましたわ。しかし、いくらアンスール様の頼みとは言えども、あれだけ数の騎士を私の屋敷には置くことは出来ませんし、このまま外の森の中に住まわれるのも不快ですわ」

 不快……。

 クリストスさんの眉の端がピクリと動いた。


 ……と、その時、おもむろにウィン様が立ち上がった。

「来ましたわ!不届き者が!!」

 そう言うと、両開きの大きな窓に駆け寄り、バーンと開け、バルコニーに出ては空を仰いだ。何が来たの!?


「ミミ、後ろに下がってましょうね」

 アンスールに引き寄せられ、窓から離れると、不意にウィン様がバルコニーから飛び降りた!!

 慌てるミミに突風が襲いかかり、ミミはアンスールに掴まった。窓の方を見ると、美しい金色の竜が飛び立つのが見えた。

 羽は薄く金色で、ヒラヒラと大きく舞う。胴が細いせいもあって、飛ぶ事に特化した、見事な竜だった。


「ウィン様、綺麗ね」

「ええ。そうでしょ?とても優雅で、それでいてとてつもなく強い。そして相手は……恐らくハガルでしょう。まあ、ウィンなら軽く追い払えるでしょうが」

 ……と、その時、晴れた空に、稲光が!!


 ズド――ン!!


「ふおっ!!」

 ビクリと震え、思わずおへそに手をやるミミを抱き寄せ、アンスールは耳を押さえてくれる。

 この屋敷の上空では今、竜同士の戦いが……!?

 見たい!でも怖い!!


 何度かの雷鳴を聞いた後、再び風を感じたミミが顔を上げると、バルコニーには何事も無かったかのようにウィン様が立っていた。スタスタと部屋に入り、スっと椅子に着く。

 

「ハガルでしたわ。あなた達を追って来たようですわね、追い払いましたけど」

 真顔で説明。流石ウィン様、噂通りの強さだ。

 

「お手数をお掛けして、申し訳ない。スルトの洞窟の件もですが、ハガルの目的は恐らくミミの持つ竜王の証でしょう。竜王の証は、竜が持っていても何の問題もありませんが、ハガルがファリアスの王と結託しているとするなら、我々、竜にとっては脅威となる可能性があります」

 ウィン様は紅茶に口をつけ、顔を上げる。

 

「確かにファリアスの王が、息子のキローガとなるのであれば、ファリアスに未来はないでしょう。更に、そのキローガが竜王になる事があれば……考えるだけでもゾッと致します。実は以前、ファリアス城で開かれた舞踏会に行き、ファリアスの三兄弟を紹介された事があるのですが、次男のキローガは、女を値踏みする様な、それはそれはいやらしい糞野郎でしたわ」

「「!!」」

「……コホン。ではアンスール様、貴方様がこの娘を連れているという事は……そう言う事で間違いありませんね?」

 そういう事とはどういう事なのか……アンスールは頷いた。それを見て、ウィン様はため息をついた。

 

「分かりました。私もアンスール様のお考えを支持し致します。短期間であれば、あなた方の滞在を許しましょう。ところで、騎士は現在、何名滞在していますの?」

「現在、156名おります」

 ミミの後ろでクリストス様がビシッ!と答えた。

「所属は?」

「ありません。スルト様の洞窟より生きて脱出出来たと分かった時点で、全員、ファリアス騎士団の所属から脱退致しました。……我々は死んだのです。家族のある者には辛いでしょうが、これも家族を守る為、仕方の無い事だと、今では納得しております」

「騎士団という括りのギルドパーティを抜けたという事ですの?」

「はい。ファリアスでは、隊ごとにパーティを組んでおり、その過半数がこちらにいたのが幸いしました。皆、故郷には想い入れがありますが、ファリアスの現体制には不満しかありません。故郷を追われた身ですが、今では皆、指示されて動くのではなく、自分たちの意思で国を護っていけたらと考えております」

「大層な事ね。その人数では何も出来ないでしょうに」

「承知の上。ですが、我々はミミ様に運命に逆らう勇気を貰いました。必ずやお役に立って見せます」

 


 その日の午後から、ミミ達はお客様として屋敷に滞在する事になった。アンスールとティール様はフェオを迎えに行き、ミミはライゾとお留守番。お庭の見えるテラスで、やたらと焼き菓子を勧めるウィン様と優雅にお茶をしていた。

 外では騎士様たちがリンゴの収穫に励んでいる。ミミも混ざりたかったけど、ウィン様は許可をしてくれない。

「労働は騎士にやって頂くことになりましたから、手出しは無用です」

 ミミはぷくっと膨れる。

 

「いつもは誰が収穫してたの?」

「私です。アイテムボックスの容量がない私では、かなりの重労働でしたわ。せっかく男がいるのです。使わない手はありません」

 ミミは首を傾げた。

 

「ウィン様は自分の育てたリンゴを一緒に収穫したくないの?」

 ウィン様は孤高の人。きっとリンゴにも並々ならぬ愛情を注いで育てたに違いない。その収穫を人に任せるのが心配で、庭の見える場所でお茶をしているのではないかとミミは思ったのだ。

 

「一緒に……ですか?」

「うん!みんなで収穫すると楽しいんだよ!だって、リンゴはひとつ1つ違ってて可愛いから!これは赤いねとか、ピカピカしてるねとか、話しながら集めるの。……素敵」

 うっとりするミミに、ウィン様は手を止めて外を見た。

「確かに、出来を見る必要はありますわね」

 ミミはぴょんぴょん跳ねた。


 ウィン様の手を引き、庭に出ると、上着を脱いだ騎士様達が声をかけてくれる。

「素晴らしいリンゴですね。この様な品種は初めて見ましたよ!」

 ウィン様は真顔で頷く。

 

「そうでしょうとも。この庭には魔石を砕いた粉を肥料として蒔いております。魔力は還元され、このリンゴに蓄積されておりますので、法力や魔力を使う者には、良い効果が出る様です。このリンゴは絶大な人気がございますのよ」

 急に饒舌になるウィン様。やっぱりリンゴが好きだったんだって、ミミは嬉しくなる。

 目の前のカゴに、数は少ないものの、どれもピカピカのリンゴだ。ミミは手にとって空に掲げた。

 

「とっても綺麗ね!これを杖の先につけられたら可愛いのに!」

 ウィン様は驚いた顔をミミに向けた。

「これは食べ物ですよ?」

 

 しかし、騎士様達は顎に手をやり、思案顔。

「イグニート様なら、素でやりそうですね……」

「確かに、意外と似合うかもしれませんね……」

 ウィン様は驚愕の表情を見せるも、たまらず吹き出した。

 

「ファリアスの三男、イグニート様ですか?あの仏頂面がその様な……ふふっ」 

 ミミは騎士様と顔を見合わせる。すると、それも楽しくて笑いが込み上げる。


「きっと食べても美味しいんだよね!」

「きっとではありませんよ、ミミさん。元より美味しく食べる為に作ったつくったリンゴですもの、美味しいに決まっておりますわ。後でお味見をしますか?」

 ウィン様は花が綻ぶように微笑む。ミミは胸の辺りが暖かくなった。

 

「食べてもいいの?」

「勿論ですわ。せっかくですし、あなた方にも振る舞いましょう。魔術士がいれば、その効果の違いが分かると思いますわ」

「おお!それはありがたい!」

 ウィン様の綺麗な微笑みに見惚れていた騎士様も喜びに皆、顔を見合わせて笑った。

 

「ねぇ、ウィン様!後でイグニートにも贈っていい?」

「勿論ですとも……ふっ」

 ウィン様は何を想像したのか、またしても口元を緩めると、自分も木に手を伸ばし、リンゴを手折った。


「不思議ですね……先程までは、1人でいるのが1番幸せだと思っていましたのに」

 その顔はとても晴れ晴れとして見えた。

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