16話 スルトの洞窟
ミミ達は再び森に潜り、水音を探した。渓流を見つけると、それに沿い上流へと歩く事、1時間。浅い渓流は岩の下へと潜った。
「ここから入れるんだよ!」
ミミは渓流に飛び込むと、岩を押す。すぐにみんなが来てくれて、岩を動かしてくれた。
岩の後ろには大きな洞窟がぽっかりと空いている。ここがスルトの洞窟だ!!
「この中に村があるのか?」
リオンは、水流に負けて中々前に進めないミミを、後ろから支えながら、洞窟を警戒していた。すぐ横には、杖を掲げるイグニートと矢を番えたユリアスが並ぶ。ここにも光る苔が生えてて、中はほんのり明るい。でも、外の光に目が慣れているせいで、あまり中の様子は見えない。
「うん、面白い村なんだよ!上級ダンジョンの中にあるの!でも、魔物は狩っちゃダメ!スルトの部下だから!」
ミミは水音に負けない様に頑張って答えた。
「おい!お前ら、ここに何用だ?」
その時、上の方から声が聞こえ、皆が洞窟の天井へと目を向けた。
暗くてよく見えないが、洞窟の上方にはもうひとつ通路があるらしい。
「そんなの決まってるだろ?レイハルトに行きてぇんだよ!」
ライゾが叫び、こっちだ!と皆を促す。洞窟の壁に、結構頑丈なハシゴが掛けられていた。そこから上に登る様だ。
「それなら無駄足だな。今はレイハルトには行けねぇ」
「そりゃ何でだ?」
「スルトさんが、病んでてな……」
ライゾに引っ張られながら、ミミは洞窟の横穴に登った。皆は膝までしか濡れてないのに、ミミだけ胸までびしょびしょだった。ライゾが苦笑する。
「じゃ、せめて休みたいんだが?」
「宿屋は何処もいっぱいだぞ?」
今度はすぐ近くで声がした。……と思えば、カンテラの明かりが灯され、厳つい顔のおじさんが見えた。背中に大きな斧を背負っている。
「マジか……最悪」
しかしおじさんは、呟くライゾには見向きもせず、ミミをガン見していた。驚愕の表情だ!
「お……おい!お前、ミミじゃねぇか!?」
「んん!?」
ミミはおじさんに顔を近づけた。……そういえばこのおじさん、見た事ある!教会の地下で行われていた、謎の戦いに敗れ、腕をちょん切られてたおじさんだ!!
「おじさん!腕はもう大丈夫?」
ミミは覚えててくれた事が嬉しくて、ぴょこぴょこした。
「ああ、リハビリして、今ではバッチリ使えてるぜ!全部ミミのお陰だ!!」
おじさんはミミに力こぶを作って見せた。繋げた箇所がうっすらと白く見えた。
「良かったぁ――!プシュン!」
洞窟の中は寒い。可愛いくしゃみをしたミミに、おじさんは慌て始めた。
「こりゃいけねぇ!命の恩人に風邪をひかせちまう!!お――い!門を開けろ!!」
途端、洞窟内に轟音が響いた。
ゴォォォォォ――!
木の壁が上から降りて来た!
それは渓流を塞ぎ、流れていた渓流を完全に塞き止めた。
底に現れたのは、装飾の施された扉だ。
「石の扉がある!!」
「おう!スゲェだろ?これが洞窟に入る門だ!……下ろせ!」
続いて、上から鉄のフックが、ジャラジャラと降りて来る。おじさんが門の取っ手に掛けると、叫んだ。
「引けぇ――!!」
ゴォォ……ン!
門は上向きに開いた状態で止まった。中に石の階段が見えた。
「さあ、急いで入れ!ミミ、またな!」
ミミはおじさんに手を振ると、皆に続いて、松明の灯る門を潜り、階段を降りた。
「こりゃ、分からんわな……」
最後尾のティール様が呟きながら階段を降り切った時、物凄い音と共に再び門が閉じられた。ヒッ!と、ティール様は首を引っ込めた。
狭い階段の下には、水が漏れない様にか、小さな扉があった。この先が村だ!ミミは喜び勇んで扉を開けた。
「うぉぉぉ――!!」
目の前に広がるのは、雄大な洞窟だ!
すり鉢状に広がる地下はとても広い。天井は高く、所々に外からの光が帯のように降り立っていた。
中央には川が緩やかに流れていて、それを囲うように、所狭しと木造の建物が建っている。
建物自体は外にある素朴な建物と変わらないけど、湿気のせいか、苔むしてて、とても可愛く見えた。
宿屋に武器屋に道具屋。2つの領土から仕入れられる為、商品の品揃えは他のどこよりも多い。
そして、何より目立つのは酒場だ。
スルトの洞窟は、所々にボコボコとそそり立つ鍾乳石だけが、ここが洞窟の中だと主張している、立派な村だった。
「凄いですね……」
「ああ……」
狭い扉から出てくるなり、皆はポカンと口を開けた。
入り口で立ち尽くす一行を、迷惑そうに後からやって来た冒険者が追い越していく。ついでにチラッと、こちらを覗き込んだ戦士らしき人が、立ち止まった。
「ん?お前ら、勇者パーティじゃねぇか?」
素性がバレちゃ困る!ミミは慌てて、フン!と胸を張った。
「違うよ!コスプレです!!」
戦士は苦笑いをする。
「お……おおう。とうとうそんな奴らまで出てきたか。今回の勇者パーティは特に女性に人気だからな。ま、初心者みたいだから教えるが、野営するなら横穴を使え。宿屋は高価だし、そもそも空いてない」
「ああ、ありがとう」
リオンが丁寧にお礼を言うと、気を良くした冒険者はミミをチラリと見て、笑った。
「それと、これはお節介だが、その娘といい、そこの美人さんといい、気をつけな!中は荒い男ばかりだからな!」
「気を付けるわ!ありがとっ!」
フェオが戦士に投げキッスを送ると、
「げ……男かよ……」
冒険者は眉を顰めると、慌てて立ち去った。フェオは、失礼ねっ!!と、膨れた。
ゴロゴロとした岩の多い坂道を下れば、すぐに人通りは多くなる。行き交うのは強そうな冒険者達ばかり。やはり宿屋は満員なのか、退屈そうに道端でゴロリと横になってる者も少なくない。
「確かに人が多いな。ミミ、離れるなよ」
イグニートがミミをローブの中に隠してくれた。
「これじゃ、休む場所なんてなさそうね」
フェオはキョロキョロしながらも、冒険者の視線が嬉しい様子で、時折ウインクを送っていた。
「横穴、とは何処でしょうか?」
同じく、冒険者の視線を集めているアンスールが、その辺に転がる冒険者に声をかけた。たちまち冒険者は頬を染め背筋を伸ばす。
「はい!スルト様の寝所の下にございます!優しいスルト様の計らいで、女子供に解放されております!」
「治安維持か……移民がいるとは聞いてなかったな……」
イグニートが呟く。しかし、しっかり冒険者に聞こえた様で、冒険者はふっと鼻で笑った。
「ファリアス公爵はカストロの言いなりでな、古き信仰をも捨てちまったのさ!最近は見ないが、少し前までここは、ファリアスから逃げてきた聖職者でいっぱいだったんだぜ」
「なるほど……」
イグニートは顔を伏せると、ミミを抱く様に冒険者の前を去った。ミミは元気づけようと、イグニートのローブから飛び出し、手を引っ張った。
「イグニート!お店見てみようよ!」
「……ああ。そうだな」
「ミミ――!!」
その時、後ろの方から声がした。振り向けば、入り口にいたおじさんだ。
「良かった、すぐ見付かって。こっちだ!すぐに湯に入れてやるぞ!」
ミミは嬉しくてぴょんぴょん跳ねたけど、おじさんは何故か固まっていた。ミミの後ろが気になる様だ。
「おい、お前ら……そんな怖い顔すんなよ。大丈夫だ、スルト様の屋敷の風呂に入れるだけだから。……あんたら、ミミが風邪ひいてもいいのか?」
「そこは安全なのでしょうね?」
アンスールの声が怖い。でもおじさんは怯まなかった。さすが死と隣り合わせの戦いをしてきただけある!
「てめぇら、風呂の中までついて来る気か?」
スルト様の寝所は、川の下流にある池のほとりにあった。池と言ってもここは洞窟の中。お鍾乳石なのか、皿を並べた様な池で、とても見事だ。ミミ達はおじさんに連れられるがまま、洞窟をくり抜いた、坑道の様な建物の中に入った。
中はまるで無人の温泉センターだ。くつろげる様に配慮されたのか、長椅子やテーブルが無造作に配置されてあった。
「お!客か?久しぶりに女かよ」
ここの管理人らしき人物が、床を履く手を止め、おじさんの話に耳を傾ける。管理人は頷くと、代表者は?と訊ねてきた。
みんなが思わずアンスールを見る。管理人はアンスールと向き合った。
「ここは弱い者を守るための場所だ。あんたらは泊める訳にはいかねぇが……女だけ置いて行くなんて事も出来ねぇだろ?」
「当たり前の事を……!知らない者にミミを預けられる訳がないでしょう?」
アンスールはミミを引き寄せた。管理人は頭を搔く。
「だよな。女1人に、こんな大人数のパーティなんて、今までなかったんでな、気を悪くしたんならすまねぇ。じゃ、ちょっとスルト様に聞いてきてやる。ま、その間に風呂でもはいってな。モンペイの命の恩人だってんだし、ミミの話なら、他の奴らからも、何度も聞いた。無下には出来んからな!……じゃ、モンペイ。後は頼んだぞ!」
管理人さんはいい人だった。モンペイって呼ばれたおじさんは、ミミ達を奥へと手招きした。
「こっちだ。入れよ!今は誰も居ねぇから、遠慮は要らねぇ!」
ここはまさに洞窟ホテルだ。狭い洞窟を抜ければ、壁一面にベッドが並ぶ休憩所的な広間があった。ベッドと言っても横穴だ。埋葬された気分を楽しめるカプセルホテルといった感じ。
……と、ここでちょっと揉めた。この先の洞窟風呂は、女風呂と男風呂で別れているらしい。
「ミミを1人にする訳にはいかないな……」
「私が一緒に入るわっ!!」
「フェオ!てめぇ男だろ!?」
「心は女よ!!」
「じゃ、ジジィが……」
「師匠……残念な事を言わないで下さい」
「あ、そうだ。ピアを呼べばいいんじゃないかな?」
「ミミ、イースとお風呂入ります!!」
ミミは慌ててイースをアイテムボックスから出した。
そう!ミミは、お日様に狼狽えたイースを、アイテムボックスに仕舞っていたのだ!
なんでも、生命力の小さい生き物はボックスに仕舞えるらしい。普通はミミズとかカエルとかなんだけど、イースの場合、死んじゃってるから生命力ゼロで、収納可能だった。
生命力はないと言っても、イースは竜。しかも、擬態で朽ちる事も無く、最高品質の死霊だ。イースは世界の倉庫が気に入った様子で、アイテムボックスの中で、ピアと一緒に倉庫の番をしてくれているらしい。
イースはいきなり明るい場所に出されて、目を擦った。
「よく寝たわ……」
体(擬態)が治ったからか、イースはしっかりと喋れるようになっていた。
「イース!ミミとお風呂入ろ!!」
イースは、ぴょこぴょこしながら手を引くミミを見、そして周りの男達を見回すと、即座に状況を把握した。
「りょ!めっちゃ綺麗にしてあげる。楽しみにしてて」
嬉しさに笑いが止まらないミミの服を、イースは衝立の後ろでテキパキと脱がすと、洞窟風呂へと引っ張って行った。風呂の中は広く、泳げそうだ。真ん中に木の壁があるから、多分、あっちにリオンたちがいるのだろう。
そういうば、とミミは思う。この世界で初めての風呂だ!どんなに寒い日でも、ミミは今まで井戸の水で体を清めていたからだ。
一応この世界にも石鹸らしき物はある。ミミはイースと楽しく、体の洗いっこした。
「ミミ、可愛い。ちゃんと女の子なのね。全部が可愛いすぎ……ヤバい。鼻血出る」
イースはミミの事を褒めてばっかりだけど、イースの方が、黒髪の綺麗系美人さんだとミミは思った。
「おい!リオンが、のぼせたぞ!」
そんな声を聞きながら、ミミとイースはゆっくりとお風呂に浸かった。でも……。
風呂からあがり、休憩所的な場所に出た途端、先に出たらしい男風呂チームが、ラフな格好のまま武装集団に囲まれていた。……女風呂、覗いたの?
「ミミ、隠れて……」
イースに引っ張られ、ミミはベッドの影に潜んで、様子を伺った。大きな声が聞こえてくる。
「彼女の匂いを感じ、起きてみれば、俺の風呂に人間が入っているではないか!!カーリニン!一体どう言う事だ!?」
管理人が焦った様に説明を始める。
「スルト様!この者らはモンペイの命の恩人ですぜ!モンペイが教会で世話になったと話してたっしょ?聖女ミミです!こいつらミミのパーティメンバーです!」
この燃えるような赤い髪をした、巨人の様に大きい人がスルト……この洞窟のボスだった。
モンペイも加わり、2人共武装集団を下げようと必死に格闘してくれる。
「そうっすよ!ミミに助けられたのは俺だけじゃねぇ!スルト様も聞いたはずだ、ミミは本物の聖女様ですぜ!」
「聖女……」
「そうです!聖女です!!」
どうやらそれは禁句だった様だ。途端にスルト様が胸をかき抱いて、しゃがみ込んだ。
「ああ……では、私の聖女は何処に……。胸が……!!」
「スルト様――!どうされたんですか?」
「お気をしっかりと――!!」
病気?
ミミは慌てて物陰から飛び出した。苦しそうに俯いて、荒い息を繰り返しているスルト様の手を握り、悪い箇所が分からないから、とりあえず全部治りますように!とヒールを呟いた。
いつもの光が放たれる。
……そして、ミミがクラクラしてきた頃、ようやくスルト様の息は落ち着き、ゴロリと横になった。
「寝たのか?」
「嘘だろ……」
おじさんや武装集団が呆気に取られた様子で、スルト様を覗き込んだ。
「こんな穏やかな顔を見るのは久しぶりだ……ミミ、ありがとうよ」
「どこが悪いの?」
ミミは首を傾げた。何処にも怪我はなかったからだ。
「スルト様の病はヒールじゃ治せねぇんだ」
首を傾げるミミに、カーリニンが教えてくれる。
「スルト様は近くにある神殿の聖女に恋しちまったんだ。でも、最近、その聖女が神殿ごと埋められちまってな。スルト様が駆けつけた時には、もう息が……。スルト様は神殿の奥に丁重に葬ったらしいが、今もこうやって悲しみに耐えられず、伏せっているのだ」
「……すまない。父上がカストロに刃向かえなかったが為に……」
ミミの横で、イグニートが呟いた。モンペイが顔をあげる。
「ああ……。やっぱりあんた、ファリアス公爵の末息子、イグニート様だったか?」
イグニートは曖昧に首を振る。
「敬称など私には必要ない。敬われる事など、何もしてないからな」
モンペイは大人な顔で、イグニートの肩をバンバン叩いた。
「いや、三男坊が人一倍努力家だって事は、誰だって知ってる。それに、今は勇者パーティなんだろ?」
「ああ。しかし、私は兄に比べ、出来が良くないから、嬉々として進まなくてな……」
「人の為になろうと頑張ってる奴に、出来不出来なんか関係ねぇよ!……なあ、みんな!今日は勇者パーティの皆様をここに泊めてやろうぜ!聖女ミミ様が湯冷めしちまうからな!」
「「お――!」」
ノリがいいのか、武装集団はミミ達に手を振ると、スルト様を数人がかりで運んで去って行った。
最後にモンペイとカーリニンが、誰も来ねぇから好きに使いな!と、爽やかに言い残し、あっさりとミミ達はここに滞在を許された。
「ミミは法力を使って疲れたでしょう。ゆっくりと休んでいて下さい。我々は今後の事について話し合いましょうかね」
アンスールが言い、フェオとユリアスが食料の買い出しに出掛けた。残る者で話し合いを始め、ミミはイースに引っ張られ、ベッドのひとつに潜り込んだ。
穴蔵は思いのほか落ち着く。リオンがちょっと照れながら、可愛い色のケットを持ってきて、ミミにかけくれた。
イースは幽霊だから冷たいけど、ミミは暖かくて幸せだった。……でも。
「思い出さなきゃ……」
呟くミミの手をイースが握る。
「何を?」
「色々よ。ミミ、みんなの役に立ちたいの」
ミミはこれまで、前世の記憶は自分中心にしか思い出していなかった。でも、もっと世界に目を向けていれば、イグニートのお父さんの危機だって分かったかもしれない。だって、最終的に『聖女』の推しの貴族は『竜王』になるのだから。
「今でも十分、役に立ってると思うけど?」
「ミミ、何も出来ない。イグニートたちはきっと、ファリアス城にミミを連れて行ってくれない。みんな優しいから……ミミ、みんなが心配」
「そうね……。でも勇者パーティはいつもあんな感じよ。使い捨てなの。夢を見ちゃダメ」
「イース、詳しいのね?」
「何回も挑まれたからね。全部追い払ってやったけど!」
「イース、強い!!」
「ふふっ……」
【ルーンキャッスル・ストーリー】では、主人公である『聖女』の推しの貴族が『竜王の証』を持っていた為、竜たちは勇者との戦いに敗れれば、使役されてしまうという、ダンジョン攻略の報酬でしかなかった。イースだってそうだ。
でもミミは、イースとお友達になりたかった。この世界で初めての女友達。枕投げも恋バナも、カプセルホテルで、だけど。
「ねぇ、イース。聞いてくれる?ミミね、多分、リオンが好きなの。リオンはミミを、人として平等に扱ってくれた初めての人なの。だから、失いたくない。でもミミ、守られるばかりで、何か出来ないかなって……」
「ふっ!お前、採取しか興味ないと思ってたけど、ちゃんと考えてたんだな」
「ライゾ!」
気がつけば、穴蔵ベッドの下にライゾが座っていた。話し合いが余程暇だったに違いない。見れば、ピアも肩に座っている。
「シッ!抜けてきたってバレるだろ。ミミ、お前もようやく学び始めたな。では、これからはどうしたいのかしっかり考えるべきだ。口に出せば考えが纏まるだろう。俺が聞いてやるぞ」
「ライゾが?」
恋バナを?
ライゾはクククッと笑って、ミミの穴蔵に腰掛けた。
「ああ。最初に言ったろ?俺は聞くのは好きだ。存分に喋ればいい」
ミミは嬉しくて、ライゾに手を伸ばした。
「あのね、ライゾ、聞いてくれる?多分、ファリアスにいた、ハガルって竜は、ミミの持ってる『竜王の証』を欲しがってると思うの。それを手に入れて、ファリアスの公爵に渡せば、ファリアス領が竜族を従えて、この国の王様になる事が出来るから。ミミ、イグニートにファリアス城に行って欲しくない……」
時間はまだ昼時だ。なのにミミは喋りながらもふわふわしてきた。どうやら法力が底を突くと、眠くなるらしい。
「……ミミ。お前、思ったよりスゲェな。でもなミミ、今はみんながいるから安心しろ。心が落ちつければ法力が蓄えられる。それがお前の強さだ」
みんながいる事が、ミミの強さ。
ミミはライゾに手を握られ、安心して目を閉じた。