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14話 壊れかけの神殿

 廃墟……そこは、誰もがワクワクする場所である。ミミも、もれなくワクワクとその入り口に立っていた。

 神殿から少し離れた枯れた噴水の中。その中心の支柱を横にずらせば、入口が、ゴォォォ――と現れる。

 

 そう!ここは『壊れかけの神殿』だ!

 その地下には、前世で夢にまで見た迷宮があり、最奥には星の欠片があるのだ!

 

「ライゾーさん!一攫千金、行くよ!」

「お――っ!……って言いたいがな、ミミ。俺、こんなんだし、後ろでアンスールが目を光らせてるぜ」

 

 少年になったライゾは頼りない。ミミはその後ろで月明かりを背に立つアンスールに手を振った。

「ミミ、ちょっくら覗いてくる――!!」

「待ちなさい、ミミ」

 速攻肩を掴まれた。

 

「そんな怪しい穴に、今時間から入るのは無謀です。しかも、今は追われる身。ファリアス領から離れるのが最優先です。採取などしている場合ではありません!」

「……でもな、アンスール。コイツは妙に感がいい。コイツが自信もって行動する時には、絶対何かあるぜ」

 ライゾが支援してくれる。ミミは両手を組んで、アンスールを見上げた。

「しかし……」

 うるりとした大きな瞳で見上げるミミに、アンスールは怯む。そこに、騒ぎを聞きつけたティール爺様が参戦した。

 

「中で寝ればいいんじゃよ。ワシは屋根があった方が落ち着く。のお?ミミ」

 ミミはうんうんと頷いた。アンスールはため息をついた。

「……分かりました。では、今日は中で野営しましょう。すぐに用意をしてまいります」

 

 それから少しの後、野営地をサクサクと片付けたミミ達は、そんな狭い穴、詰まっちゃう!と、叫ぶフェオを押し込んで迷宮へと入った。


 穴の中は真っ暗だ。アンスールがユリアスの用意してくれた松明を取り出して火をつけてくれた。

 見えてきた迷宮内部は、きちんとしたレンガ造りで、見たとこ、右も左も同じサイズの通路が延々と伸びていた。絶対迷うヤツである。


「荒らされた気配がありませんね。まだ攻略されていないダンジョンの様ですね」

「壊れかけの神殿の地下迷宮は、月明かりの夜にしか開かないからだよ!」

 ミミはドヤりながら、先頭を切って歩き出した。

 

「それって明日雨だったら出れねぇんじゃね?」

「あ――皆さん!擬態を解いてはダメですよ――!一応、追われている身ですからね――!」

「アンスール、怖いから剣の予備をちょうだいっ!!ティール爺!ほら、杖握ってっ!!」

「ミミ、ワシのベッドをここに出してくれ」


 みんながいれば怖くない!ミミはワクワクしながら、右手にマルスの丘で拾った白い石持って、壁に線を引きながら歩いた。アンスールが横に並ぶ。

「ミミ、ずっと右の壁に沿っているようですが、何かあるのですか?」

「うん!この迷路はね、入り口と出口が一緒なの。だから、右手を離さなければ迷わないんだよ!」

「ほお……考えたのぉ。しかしミミ、ワシらは何処で寝るのじゃ?」

「この先に部屋があるんだよ!」


 ミミは右周りに行けば、遠からずその部屋がある事を知っていた。でも、この迷宮には魔物がいるのだ!ライゾが暗がりを指さす。

「死霊だ!ジジィ、燃やせ!」

 

 カラカラという音を鳴らし、暗がりを歩いてくるのは、よくいるアンデット。骸骨の……。

「法術士ですね。神父でしょう。攻撃されるのでしょうか?」

 アンスールが首を傾げている間に、神父の方から魔法詠唱がされ始めた。白い幽体が、ふわりと出現!!


「嫌ァァァァ――!幽霊よぉぉぉ――!」

 さすが神父!白く透き通ったシスターが召喚された!これは、攻撃し辛い!!

 

 しかし、ティール爺様には問題ない様子。1歩前に出ると、長いローブの中から、長いチョココロネの様な杖を取り出した。

「召喚とは中々やるの。ミミ、下がってなさい」


 フェオをくっ付けたままミミが下がると、ティール爺様は、燃えよ!火の塊を!と、めっちゃ簡単な呪文?で火の玉を暗がりに放出した。

 

 ドォーン!!カラカラ……。

 その一撃で、神父はシスター諸共、天に召された。


「爺様、凄い火力だね!……でもミミ、ちょっと罪悪感」

 ミミは両手を組んで祈った。爺様は頭を撫でてくれる。

「ミミ、魔物はな、魔石に宿った人の闇が具現化したものなのじゃ。魂ではないから安心するがいい。どうやらここは、聖職者の持つ闇の溜まり場の様じゃな」


 余程問題のあった神殿なのか……。先に進めば進むほど、アンデットは増えてくる。ティール爺様は、とりゃ――!とか、えいや――っ!とか最早、魔法使いとは言い難い掛け声と共に、火の玉を繰り出してはアンデットを、倒していった。

 

 聞けば爺様は、竜が本来口から吐く火を、杖から出ている様に見せかけているだけ、との事。立派な詐欺である。しかも爺様は、魔法?を使えば使うほど、若くなっている気がする。


「爺様が、おっさんになっていくよ!!」

 ミミは面白くてぴょんぴょん跳ねた。

「……ああ、擬態の容姿の事ですか。ミミ、我々の容姿はですね、魔力の量に感化されやすいのですよ。ライゾが魔法を使うと若くなる様に、ティール様は魔を溜め込み過ぎて老人になってしまっていただけです」

 時折飛んで来る骨をなぎ払いながら、アンスールが説明してくれた。

 このままいくと、爺様が赤ちゃんに!?

 

 ライゾと魔石を取り合いながらも、観察する事、1時間ほど。ティール爺様はいつの間にか老年を超え、壮年も超えつつあった。

「どりゃぁ――!みんなワシについてこ――い!!」

 その性格までも変わりつつある。

「体が軽くなって喜んでいらっしゃる様ですね」

 ふお!良かった!!

 

 そして……。

 とうとう、目の前にデカい扉がドォーンと現れた!!

「ミミ、ここ、ボス部屋じゃねぇか!!」

 ボス部屋にいい思い出のないライゾが、苦々しげに呻いた。

 

 ミミは早速、扉に耳をつけて、中の様子を探る。床を擦る音に紛れて聞こえる声は、物悲しい嘆きだ。

 前世で見た攻略サイトでも、この敵はめんどくさいと書いてあった。でもミミには相性のいい敵だと思っていたものだ。……中には入れなかったけど。

 

「中の魔物はね、『聖女になれなかった女』だと思うの。だから、みんなこれを持ってて!!危ないと思ったら女の人にかけるんだよ!」

 ミミはアイテムボックスから小瓶を沢山取り出した。

 

「ミミ、これは?」

 アンスールが小瓶を松明にかかげた。キラキラと輝く液体が透けて見えた。

「聖水だよ!モーリアンの神殿に置いてあったの。ミミ、燃えちゃう前に頑張って全部仕舞ったんだよ」

「ミミ……命の方を大切に、と言いたい所ですが、今は有難く使わせて頂きましょう。ミミはこれを持っていたから、1人で迷宮に入ろうとしてたんですね?」

「うん!でも、敵いっぱいだったから、無理だった!爺様ありがとう!」

 ミミはティール様に両手を組んだ。

 

「ふっ……そうか。ジジィに謝礼の抱擁を!」

 言ってる傍からティール様がフェオに吹っ飛ばされた。

「さて、開けるわよ!!」

 フェオは扉に手を掛けると、素晴らしい筋肉で押し開けた!


 部屋の中は、いつか見たボス部屋と同じ。四角い部屋に、高い天井。そして左右の壁には揺らめく松明。但しここは神殿だ。正面には祭壇が設えてあり、ロウソクが山のように灯されていた。

 

「精霊たちの声が聞こえるわ!!星の欠片がここにあるのよ!!」

 入った途端、フェオが歓喜の声をあげる。

 

「なんと!!」

「ミミも感じていたのですね……なるほど、無理にでも入りたがった訳が分かりましたよ。」

 感じた訳じゃない。知ってただけだ。でも、それをどう説明していいか分からなくて、ミミはアンスールに曖昧に頷いた。


『あああぁぁぁ……』

 部屋の何処からともなく叫び声が聞こえる。そしてその姿は突如目の前に現れた。

『助けて……』

「ぬあああ!!」

 ライゾが腰を抜かし、フェオが気絶した。アンスールも剣を構えたまま固まってる!

 

 それも仕方がない。

 女の人は半分朽ちた状態で宙に浮いていたからだ。いきなりそのドアップを見てしまえば、竜だって驚くと思う。

「出たな、死霊よ!!成敗してやる!!」

 杖を構えるティールの前にミミは慌てて立ち塞がった。

 

「ティール様!ダメ!!女の人は癒されたいの!だから攻撃しちゃダメだよ!」

「癒し……じゃと?」

 ミミは女の人にそっと手を伸ばした。


『!!』

 朽ちた女の人は、数メートルは後ずさった。ミミは追っかける。

「怪我をしてる!ミミ、治してあげるよ!!」

『!!!』

 女の人は、ゆらゆらと距離をとってミミを伺っている。


「攻撃せんのじゃな……」

「出来ないのでしょう。ミミですから……」

 手の届かない距離を保つ朽ちた女の人に、ミミはぴょんぴょん飛んでアピールした。

 

「ねえ、降りて来てよ!!」

『……怖くないの?』

「怪我してるんでしょ?治せば大丈夫!!」

『……治せるの?』

「うん!内緒にしてくれるなら治してあげる!!」


 しばらく部屋の中をウロウロとした後、ようやく女の人は頷いた。

『……分かったわ』


 女の人は、祭壇の後ろに、スっと入って行った。ミミも追いかけ、祭壇の後ろに潜り込む。

「しぃ――だよ」

 ミミは口に指を立てると、朽ちた女の人の手をそっと両手で握った。

「ヒール!!」


 強い光が放たれる。でもミミは知っていた。この光は他の人には見えない事を。

 だから大丈夫、もしもの時は、こっそりと逃がしてあげられるから!

 

『ああ……凄い。怪我が治っていく……』

 女の人のゾンビ顔が穏やかになって、ミミは嬉しくなった。

 

「あのね、もし、まだここに住みたいのだったら隠れてね!でも天国に行きたいのだったら、みんながお手伝いするよ!」

『選べるの?超親切……』

 話している間にも、女の人の皮膚は元通りになり、落窪んだ目には輝きが戻ってきた。

 でもミミはちょっとふわふわとしてきて……。

 

『大丈夫?法力の使いすぎよ……クラクラじゃん……』

「大丈夫……多分……」

 ――ミミ暗転。

 

 

 パチパチと薪のはぜる音で、ミミは目を覚ました。

 ミミは今日は毛皮の上で寝ている様で、フェオの温もりは無い。あ、そうか。竜に戻っちゃったら匂いで居所がバレちゃうんだったよね……あ!!

「女の人は!?」


 ガバリ!と起き上がったミミは、クラクラしてそのまま後ろに倒れ込んだ。でも大丈夫!フェオが支えてくれるから。

「大丈夫よ、ミミ。討伐は中止したの!死霊は無事よ!!……ほら、そこに隠れてるわ!!」

 

 ミミはフェオの指差す先を見た。祭壇の後ろから、こっそりとこちらを伺う、朽ちた……今は汚れた女の人が見えた。

 ミミは嬉しくてぴょこぴょこした。

「ウホウホするな、ミミ。どうすんだよ、あれ。聖水かけるか?」

「ミミ、聞いてみる!」


 ミミは祭壇までゆっくりと歩いて行くと、怯える女の人の顔を覗き込んだ。

「怪我はもう大丈夫?」

『ええ。ありがとう……あなた、凄い……。私……ダメな子……』

「何処がダメなの?」

 ミミは首を傾げる。

『傷が怖くて、触れなかった……ヒール出来ない、約立たずのイース……』

 

 でもミミは知っていた。この部屋のボスは強く、ヒール以外で倒そうとすると、パーティはほぼ全滅。氷属性攻撃は全体ダメージで、もれなく全員分の体力がゴッソリ持っていかれるのだ。

 

「攻撃魔法は使えるでしょ?ミミ、攻撃魔法使えないから、凄いと思います!」

 ミミは両手を振って力説した。

『攻撃魔法……?イースは冷気吐くだけ……』

「冷気!かっこいい!!」

『かっこいい……?』

 パァァと女の人は陰気な顔を輝かせた。

 

「そうだ!ねえ、ミミと一緒に行こ!星の欠片を集めるんだよ!」

『……行く!』

 体を乗り出したイースの手を、ミミは握った。すると、イースはミミの手の中に、トゲトゲの石を握らせる。そう、これは星の欠片だ!

 

『ミミ、でいいのよね?これあげるわ……。魔物になってしまった私が持っていたら、きっとそのうち黒く染まっちゃうから……』

 確かにイースは黒目黒髪だけど……。

 

「いいの?」

『ええ、勿論よ……星の欠片は手渡ししなくても、勝手に相手を選ぶのだけど、私はミミに感謝を込めて、手渡ししたかったの!』

「ありがとう!!」

 ミミは星の欠片を大切に仕舞うと、ぴょんぴょんしながら、皆の所にイースを連れて行った。

 

「「イース!?」」

 モジモジしながら紹介すれば、みんなはイースを知っている様子。

「ミミ、彼女は竜ですよ。お久しぶりです、イース。私を覚えていますか?」

 アンスールの微笑みに、イースは眉をひそめた。

『……誰?』

 

 アンスールを撃沈させたイースは若い竜で、この神殿の竜として祀られていたらしい。でも、カストロの支配によって、神殿は潰され、閉じ込め状態に!!イースは、最後まで自分と共に信仰を守った人達を癒そうと頑張っていたのだと言う。


「死霊になってまで残るとは、お前さんの意思も中々の強さじゃの」

 ティール爺……おじ様が認め、イースは暗い顔を歪めて喜んでいた。

 

『イース、強い……?』

「強くて美しい子よっ!ね、ミミ」

 フェオはイースに合う服がないかとアイテムボックスを探っていた。

「うん!明日お外に行って、ミミと一緒に埃を落とそ!」

「死霊だろ?太陽光、やばいんじゃねぇ……?」


 扉を閉めたボス部屋の中は快適だ。

 その晩、ミミたちはこの部屋のボス、イースを迎え、暖かい夜を過ごした。

 

「ミミ、あなたも回復魔法が使えたのですね」

 アンスールが横に座り、ミミの頭を優しく撫でてくれた。

 ミミはバレちゃったか――っと、諦めてアンスールに頷いた。

 

「何故隠していたのですか?回復が出来ると分かれば、もっと優遇されたでしょうに」

 優遇?ミミは首を傾げる。

 

「あのね、モーリアンの教会の地下にいたのはね、プロの戦闘集団だけど、戦えばどちらかが死ぬほど傷つくんだよ!聖女達が頑張ってヒールするけど、もうダメだって時は、お金を渡させれて、外に捨てられちゃうの!だからミミ、こっそりその人たちの怪我を治して、バイバイする事にしたんだよ!だって、怪我が治ったってバレたら、また、死と隣り合わせの戦いをさせられちゃうんだもの」

「なるほど……。だから回復魔法が使える事を黙っていたのですね……」

 

「よくばれなかったな」

 ゴロンと転がってるライゾが興味を持ったのか、体を起こした。

「みんな、冒険者に紛れてレイハルト領に行くんだ!って言ってた。そこに行けば、仕事が貰えるからって!」

 話しながらも、ミミはふわふわしてきた。

 

「傭兵か。レイハルトは自領の軍隊を持たないから、強い奴なら出生を問われない……か」

「ミミそろそろ寝なさい。目がくっつく前に、毛皮の上に……。仕方ありませんね」

 

 アンスールはミミを優しく抱えてくれた。ふわふわが気持ち良くて、嬉しくて嬉しくて……。

「ミミ、幸せ……」

「本当に、もう。……可愛い過ぎますよ」


 ティールおじ様が眠ったのを確認したフェオが、裁縫道具を出す。おじ様の黒ローブの着替えを、イースの服に加工する様だ。イースが嬉しそうにフェオの作業に、こと細やかに指示を出すのを見ながら、ミミは目を閉じた。


◇◇◇


 ――その頃、カストロ領モーリアン教会は大騒ぎとなっていた。

「法石が!!法石が黒く染まり始めたぞ!!」

「どういう事だ……法石が魔石になってしまう!!聖女を呼び戻せ!!」

 

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