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12話 ファリアス城

 ティール爺様とフェオは転移石を起動させ、ファリアス領の首都にある、領主の館へと旅立ってしまった。定員オーバーで、ミミと小竜のライゾはお留守番になっていた。

「ミミ、約立たず……」

「俺もな……」

 

 残されたミミとライゾは、甘い香りの充満するティール爺様の部屋で、ジャムを舐めまくっていた。

「ミミ、この位にしとくぞ。これ以上はバレる!」

「りょ!」

 ミミはうしろ髪をひかれる思いで、大鍋に蓋をした。

 

「ねぇ、ライゾーさん。ミミ、アンスールを助けに行きたい」

「そうだなぁ。俺もここいらで、ドカン!とぶっぱなして、みんなにギャフン!と言わせたい気もする。だが、過去の経験からいくと、大抵捕まる!」

「ライゾ、優しいからね」

 

 ライゾの事だ。戦わずに逃げまくっている姿しか想像出来ない。小竜だから今まで逃げきれたんじゃないだろうか……。

「そんなに褒めるなよ。そこまで言うのなら仕方ねえ!逃走経路を逆から攻めてみるか。ミミ、魔石はまだ残ってるか?」

「お――!!」

 

 ライゾのやる気スイッチがポチられた!!

 ミミは坑道で拾った魔石を手の中に出してみた。途端にパラパラと両手からこぼれ落ちる。

「いっぱいあったよ!!」

 大きな欠片はないから、きっとアンスールがギルドに納めたのだろう。でも、小さな欠片がたっぷり残っていた。

 

「でかした!じゃ、食わせて貰うぞ!」

 ライゾは言うやいなや、小石程の小さい魔石の山に顔を突っ込んでポリポリと魔石を食べ始めた。そして、ボフ!ボフ!と膨らむ。

 

「食いにくくなってきたな。擬態するか」

 それ以上大きくなったら、お家が壊れちゃうんじゃ……って心配するミミの前で、ライゾは青い髪の男の子になると、残った小さな欠片の山に手を突っ込み、ゴッソリと掴んで豪快に食べ始めた。

 ほっとしたミミは、あっ、と思い出す。そういえば、抽出器に最後の結晶を入れたままだったな、と。ライゾに渡さないと!


 ミミは抽出器を出すと、その中から輝く結晶を取り出した。今までの結晶よりも数段小さく、豆粒ほどしかない。だけどその分、輝きも半端なかった。

「ライゾ、この結晶……とと」

 

 あまりの眩しさに、ミミは結晶を落としてしまった。結晶はコロコロと転がって、欠片の山に紛れた。ちょうどその時、ライゾが最後のひとつかみ。

「……ん?」

 バリボリ……ゴクリ。

 

「食べたね……」

「ミミ、どうした?」

「何でもない……」

 ミミは目を逸らした。

 

「そうか。なら、そろそろ行くか?ミミ、前の服に着替えろ!」

「お着替え?りょ!」

 すぐさま古いワンピースを出すミミに、ライゾは眉を顰める。

 

「お前、少しは疑問を持つ事を覚えた方がいいぞ……まあいい。着替えたら転移するぞ」

「お――!!」

 ミミは拳を振り上げた。

 

 ミミが着替えて抽出器を仕舞うと、ライゾはいつの間にか育ってて、大人になっていた。

「これで俺だとバレないだろ?」

 ドヤ顔で不敵な笑みを浮かべるのは、青い髪をした、やんちゃそうな青年だ。勿論、ミミとお揃いの服を着ているけど、高貴な感じがする。ゲームの世界だからなのか、ミミの周りの人は皆、イケメン揃いだ。

 

「おお!ライゾ、かっこいい!」

「ハッハー!俺をもっと褒めろ!でも、お前は素で愛らしいから目立つな。これを被れ!」

 設定上、確かにミミは可愛いかった。

 ミミは頷くと、ライゾに渡された、その辺の壁に貼ってた汚らしい布を頭に巻いた。


「いい感じだ。よし、行くぞ!捕まれ!」

 ――転移!!


◇◇◇


 その頃、ファリアス領主の館でもある、ファリアス城の貴賓室では、ファリア当主バンデロが、化石となったと噂されていた、自由な老人を前に、渋い顔をしていた。

 

「マルス魔導師、お久しぶりでございます。……で?此度は何用で?」

 前領主の友人であるマルス魔導師は、バンデロの師でもあった。豪華なソファーに腰掛ける汚いローブ姿の老人を、追い払う事など、できる訳もなかった。

 

「なに、久しぶりに街に降りてきたんでな。ちと挨拶に寄っただけの事。……バンデロ、お前さん歳をとったな」

 確かにバンデロは壮年だ。だが、自分が子供の頃よりこの城で講師をしていた爺さんに言われたくない。パンデロは眉間を押さえた。

 

「マルス師が歳を取らないだけですよ。お幾つになられたんですっけ?」

「……忘れたな。最近、物忘れが酷くてな」

 ふぉっふぉっ!と笑う老人に、バンデロはため息と共に頭を抱えた。

 

「ところでバンデロ。長男のロイデはどうした?お前さんの後ろにいるのは、次男のキローガではなかったかの?」

 老人が疑問を持つのも仕方がない。騎士の服を着た仏頂面の息子、キローガは、騎士と言うには鍛え方の足りないガタイをしていた。

 

「ロイデは2年前に亡くなりましたよ。ご存知ないので?」

 苦しそうに吐き出すバンデロの言葉に老人は息を飲んだ。

「知らぬ!……そうじゃったか。あの子は強かった。なのに……何故じゃ?」

「竜ですよ。ロイデは無謀な闘いはしない子だと思っていたのですが……」

 バンデロは何度も息子の亡骸それを問うた。


「竜じゃと?どうしてまた、その様な!!」

「勇者パーティに選ばれたのがいけなかった。カストロは、私の息子を駒として使いおった!……クソッ!!」

 バンデロはダンッ!とテーブルを叩いた。苦難に満ちた表情を浮かべるバンデロに、老人も悲しみを隠さず眉間を押した。

「残念な事じゃ……」

 

「カストロは一体何を考えておるのか……。魔物を抑えるだけで、十分に平和な世が保てるではないか!何故、竜にまで……。実は、今年の勇者パーティに三男のイグニートが選ばれたのですよ!私はこれ以上、息子の死を見たくないというのに!!」

 バンデロの悲痛な叫びに、老人は首を振る。


「イグニートが自ら戦いに?まさか……そんな……」

 悲しみを共有したからか、バンデロは老人に心を開いたかのように、距離を詰めた。

「そうだ、マルス師よ!どうか、イグニートを護ってはくれませんか?」

 ふぉっ!と老人は顔を上げた。


「お主、老人に頼むには荷が重いとは思わんのか?」

「ハハッ!100の齢を超えて尚、転移魔法を唱える老人が何を仰る!」

 バンデロは知っていた。老人の魔術の腕は、優秀な息子たちでも越えられなかった。彼以上の魔術師など、この世界にはいないだろう。


「転移石を持っていただけじゃよ……わしももう歳じゃ。期待せんで欲しい」

「……そうですか」

 バンデロは明らかにガッカリした。この老人が出来ぬというのなら、一体誰がイグニートを助けてくれるのだろうか。

 

「父上!そろそろ会議にご出席を!これ以上貴族を待たせる訳にはいきませんよ!」

 次男の声にバンデロは、ハッとすると、自分に時間が残って無い事を悟った。迷っていては、自領の貴族に足元を救われかねない。

 

「ああ。最近、魔物被害が顕著でしてね。お恥ずかしい事ですが、魔物対策に追われておりまして……。マルス師よ。時間が許すのであれば、ここに滞在して欲しい。あなたの部屋はそのままにしておりますから」


 バンデロは腹を割って話せる相手が欲しかった。領土で起きている問題は魔物被害だけではない。自領だけで解決出来る域を超えていたからだ。

 その縋るような目に老人は頷いた。

「では、そうさせて頂こうかの」

 

◇◇◇


「ライゾーさん。ここ、どこ?」

 ミミとライゾは高い石壁に囲まれた、薄暗い場所に転移していた。見上げれば、お城っぽいのが見えるから、きっと城の周りによくある、堀の中だろう。水はないけど、そこら一帯にとんがった杭が上を向いていて、侵入者対策は万全!って、人がいっぱいいるよ?

 

 ミミと同じ様な素朴過ぎる身なりの人々が、何十人も堀の中で何かを探す様に彷徨いていた。でも、諦めたように、皆、肩を落として、こちらの方に歩いて来た。


「おや、あんた新人かい?残念ながらもう今日の分は終わったよ。また明日頑張るんだね」

 知らないおばちゃんがミミの肩を叩くから、ミミはガックリしておばちゃんの行く方へと帰ろうとした。

 

「ミミ、そっちじゃねぇ」

「もう終わったんだって」

「俺らの仕事は今からなんだよ!こい!」

 ライゾは、おばちゃんとは逆の方向へと歩いて行く。

 

「もう何も残ってねぇぞ」

 すれ違う人々は、皆、親切に教えてくれた。

 ミミはその頃には分かっていた。ここはごみ捨て場なのだと。城の住民の残した食べ物を漁る事で、命を繋ぐ者もいる事をミミはよく知っていた。

 ファリアス領……イグニートの故郷も、イースリットと同じ様に、魔物被害が多くなってるのかもしれない。


「おお、あったあった」

 しばらく何かを探して、ライゾは城のある方の壁を探っていた。その頃にはもう、人々はいなくなっていた。

 

 ライゾは、ここだここ!と石の壁を叩いた。辺りは暗くなり、灯りを持たないミミには、ふんわりと光を放つ虫以外、何も見えなかった。

「ありんこ?食べるの?」

「ちげーよ!見ろ!扉だ」

 

 顔を近づければ、しっかりとした木の扉がある。

「上から落ちた敵の装備を拾う時用の扉だ!ここから中に入れる。開けるぞ」

 敵……。ゲームでも分かるように、ここは領土争いの多い世界なのだ。

「りょ!」

 ミミは何だか怖くて、ライゾにくっついた。

 

 扉はこちら側から開けられる様にはなっていなかった。

 ライゾは取っ手のない扉を、器用に片手だけ竜に変えてから、爪で開けた。ライゾはその暗がりにガンガン入っていく。

 そこでミミ、気が付きました!ライゾも、やんわりと光り始めている事に!!

 

「ライゾ。なんか……かっこいいね」

 きっとあの光り輝く結晶を食べちゃったせいだ。そう思ったけど、言い出せない。

「ん?そうか?……なんか今日は調子がいいぜ!」

 ライゾは分かっているのかいないのか、ニヤけている。ミミはスター状態のライゾのおかげで、真っ暗で細い通路も怖くなくなった。


 少し歩くと、壁にぶち当たる。

「おっと!この辺に扉があったはず。こっから先は喋るの厳禁な!」

「ライゾ、詳しいんだね」

「ああ、前に来た事があるんだ。外に刻んでおいた(ソーン)が役に立つ日が来るとは思わなかったけどな!」

 捕まったのね!

「さすがライゾ!」

「褒めすぎだせ。行くぞ!」


 しかし、まさに扉を開けたその時、ピアが虚空から飛び出してきた。

「ミミ――!!あのね!リオン達から提案なんだけど!!」

「あ、コラ。ピア声がでかい」

 扉の先からは松明の明かりと共に、コツコツと足音が聞こえていた。この先に誰かいるのは確定だ。ミミ達はフリーズした。

 

「大丈夫よ、ライゾ!精霊の声は特別な人間以外には聞こえないから!あ、ミミは女神の加護があるし、リオン達は安全認定したから特別なの!」

「特別……」

 ミミはふぁーと顔をほころばせた。

「チッ!ミミ、喋るな」

 ピアはむう――っと膨れる。

 

「仕方ないわね、用事手伝ってあげるわ。早く終わらせなさいよ!」

 ピアはパタパタと飛んで行き、ここにマッチョなオッサンがいるわよ――!向こう向いてる!と手を上げた。

 ミミたちは頷くと、ゆっくりとその部屋の中に入った。

 するとライゾが、もの凄い速さでオッサンの方に駆け寄り、首にしがみつくと、絞めあげた。マッチョなオッサンは音もなく床に沈んだ。

 

「うぉう……」

 さすが竜!ミミは口を押えて息を飲んだ。

「心配するな、ミミ。ちょっと落としただけだから」

 そう言い、振り向くライゾの輝きで、部屋が見えてきた。

 

 狭い部屋だ。真ん中に手枷付きの病院の診療台の様なテーブルがあり、壁にはナイフとかペンチとか、DIYの必需品的な物が、所狭しと掛けられていた。地下の薄暗いスペースにこのラインアップ。犠牲者の悲鳴が聴こえるようだ。

 

「まあ!几帳面に磨いてあるわ!ミミ、貰っていきましょ!」

 手入れは万全!ピアは珍しい道具に興味津々だ。この際、何に使うのかは考えないようにしよう。

 

 この先、犠牲者が出ない為にも、ミミはピカピカに磨かれた壁の道具を全てアイテムボックスに仕舞った。

 ライゾはマッチョに手枷と猿轡を掛けると、その先の通路を覗いた。通路には松明が点いているようで、ライゾの影が揺らいで見えた。

「よし!看守はこいつだけだ。アンスールを探すぞ」


 看守!もうここは牢屋なのだ!ミミはマッチョに駆け寄ると、腰につけていた鍵を引っ張った。取れそうもなかったから、仕方なく腰布ごとアイテムボックスに仕舞った。うつ伏せだから大切な場所が見えないし、良しとしよう!

 

「あのね、ユリアスがね、定期報告しようって提案してきたのよ!ご飯の時間に、なんてどう?だって!」

「ほお――アンスールに聞いて見ようぜ。こっちだ」

 ピアとライゾは楽しそうに話している。もうすぐアンスールに会える!ミミもいそいそと続いた。

 

 通路の先には鉄格子で囲まれた個室が20は並んでいる。でも使われた感じはあまりない。

「誰も入ってないな……」


「……ライゾか?」

 個室の1つから声がした。

 聞きなれた声に、ミミはそれだけで鼻の奥がツンとしてきた。


「いたぜ!」

「アンスール!!」

 ミミは鉄格子に駆け寄ると、鍵を出した。ブルブルと手が震えるし、涙が盛り上がってきて、鉄格子についた鍵穴に鍵が入らない。

 

「ミミ。どうしてここに……貸しなさい」

 アンスールが鍵を受け取り、開けてくれた。扉が開くなり、ミミはアンスールに抱きついた。

 

「心配するなと言ったのに……」

 優しい声にミミの涙腺は破壊された様だ。アンスールは困った様に、泣き出したミミの頭を撫でてくれた。


「じゃ、帰って飯にしようぜ」

「アンスール、リオン達がね、定期報告をって……」

「ちょっと待ちなさい。私はここでもう少し探って……」

 

「大丈夫よ、ティール爺様とフェオがいるから!」

 ミミは、自分でも驚くくらいしっかりとした声をあげた。離れるのが怖くて仕方がなかったから。

 アンスールが驚いた顔をしたけど構わない。ミミは必死にアンスールにしがみついた。

「ミミ……」


 その時、牢屋の暗がりの中から声がした。

「ほお――。その子がミミですか」


 いつからいたのか、そこには気持ち悪い笑みをたたえた男の人が立っていた。毒々しい程の青い髪に白い肌。狂気に満ちた笑顔。その手には髪の毛……?

「……ハガル。お前……」

 アンスールが苦々しい声で呟いた。

 

 ハガルと呼ばれた男のその手には、首がぶら下がっていた。ミミは慌ててアンスールの胸に顔を押し付けた。それでもポタポタと音は聞こえる。血の音だ。

 

「ミミ、よくもマルスを起こしてくれたね?お陰でバンデロの寿命が縮んだじゃないか!君のせいだからね!」

 そう言いながら、ハガルは頭をこちらに投げてきた。そして、突如、大きな声をあげた。

「侵入者がいたぞ!!」

 

 すぐに沢山の足音が聞こえて来る。剣を抜く音。ミミの体に手が伸びる。

「仕方ありませんね。擬態を解きましょう……」

 アンスールがミミを庇って敵に背中を向けた。


「ダメ!」

 アンスールが捕まっちゃう!

 ミミは恐ろしくて……。

 咄嗟に思いつく限り、最も大きな大岩を敵の目の前に出した。マルスの丘で拾った白くて綺麗な岩だ!


「「ぎゃっ!!」」

 悲鳴が上がる。どうか押し潰されていませんように……!!


 岩が追っ手を塞いだのを見て、ライゾがすぐさま動いた。

「みんな!捕まれ!」

 アンスールがミミをギュッと抱え、ライゾに手を伸ばした。ピアが虚空に消える。

 ……転移!!

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