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11話 ファリアスのマルス

 朝靄の中、ミミは寒くて目覚めた。

 水の流れる音がする……あの坑道は脱出した様だ。

 

 辺りはまだ薄暗く、ミミはフルりと震えると、体を包むふもふに手を埋めた。……手?

 ミミは、手首に巻かれた可愛い赤いリボンを、じぃ――っと見つめた。

「これは何かな?……リオン?」

 …………返事は無い。


 ミミは何となく悟った。きっとまた、置いて行かれたのだと。ミミは、しょぼんと肩を落とした。

「どうしたら置いて行かれなくなるんだろう……。いくら勇気を出したくても、みんな、ミミの知らない間にいなくなっちゃうんだもの。……そうだ!今度から寝ないようにしよう!!」

 ミミが、ガッツポーズを決めた時、すぐ近くに赤い小さな炎が上がった。

「馬鹿か!!」

 この口の悪さ!

 

「ライゾだ!小さくなってるけど!」

 ミミはぴょこっと跳ね起きた。すると、朝霧をかき分ける様に、事切れたうさぎをぶら下げたアンスールも現れた。

「私もいますよ」

 

「アンスール!!良かったぁ。みんないてくれて、ミミ嬉しい!!」

「当たり前でしょう」

 アンスールはそう言うと、照れたのか、小さなライゾの首を掴み、頭を叩いた。

 ガォォ――!!薪に火がつく。

「クソっ!何しやがる!!」

 

 これが当たり前の風景……。ミミは何だか嬉しくて、鼻の奥がツンとするのを感じた。

 すると、ミミの頭を優しく撫でてくれる手がある。ミミは驚いて、上を向いた。

 ユルいブロンズヘアーに赤っぽい瞳。薄明かりでも分かる美人さんだ。アンスールみたいに繊細なタイプではなく、ハッキリとした目鼻立ちをした、グラマーなタイプ。でも、ふわふわのローブを着た男の人?フェオだ!!

 

「あなた達!ミミを不安にさせるなんて、リオンに申し開きが出来ないわよ!!」

「フェオ!!一緒に来てくれたのね!」

 さっきまでミミを包んでくれたもふもふは、フェオだったのだ!ミミはぴょんぴょん跳ねた。

「まあね。あの女神像は私じゃないしぃ――!あんな街、捨ててやったわ!!」

 

イースリッドの皆さん、ドンマイ!……でも。

「フェオ!よろしくね!!」

 ミミは嬉しくて、フェオに抱きつき、胸に顔を埋めた。ピクピクと動く立派な胸筋だった。


 朝靄が晴れると、立派な山脈が見えてきた。アルプス級だ!見た事ないけど!

 ミミのいる場所はゴツゴツとした岩が頭を出す高原で、すぐ近くには泉が見えた。

 泉のほとりは緑の絨毯で、小さなお花も咲いてる。ベリーの様な低木の茂みもあるじゃない!採取好きのミミにとっては、天国の様な場所だった。


 そう、ここはファリアス領の西、マルスの丘に違いない!前世の私は、何ヶ月もこの場所で採取をし、ここに住みたい!って思ってたくらい、この場所が好きだった。

 

「ミミ、ちょっくら行ってくる!!」

「待ちなさい!」

 駆け出そうとするミミの手は、速攻アンスールに手を掴まれた。シュンとなったミミに、アンスールは抱える程の布袋を押し付けた。

「ちゃんと支度してから行きなさい。その服では風邪をひいてしまいます」

 支度?ミミは受け取った袋そっと覗き込んだ。

 ふぉ!!服だ!

 

「あ!リオン達にもらった服ね!」

 見せて見せて!とフェオがそれを引っ張り出して広げた。

 地味な色合いの素朴な服は、赤ずきんちゃん風でコスプレに近い。どうしてコスプレっぽいのかなと思ったら、フードに耳が着いていた。猫耳付き……こだわりを感じる。

 

「リオン達がこれをくれたの?ミミに?」

「そうよ!随分と可愛らしいデザインね。愛されてるわねぇ。……しかし、誰の趣味かしら?」

「……ユリアス?」

「あ――あの色男ね。っぽいわね」

 何処かでユリアスのくしゃみが聞こえた気がした。


 何故か、朝からガッツリした食事を作り始めたアンスールの話によると、リオン達との誓約で、ミミはアンスール達と旅をする事になったらしい。リオンはミミに、アイテムボックスに詰め込んだ物は全て好きに使っていいと言い残したと言う。


 荷物が欲しかった訳じゃない。ミミはみんなと、もっと一緒にいたかった……。

 浮かない顔のミミをフェオは覗き込み、着てみなさい、と急かす。フルフルと首を振るミミに、フェオはため息をついた。

 

「ミミ。リオン達とは別行動だけど、アイテムボックスをパーティメンバー全員と繋げたの。だから寂しくないわよ?」

「アイテムボックスを?フェオ、そんな事出来るの?」

「まあね!この世界の倉庫は、私の可愛い精霊たちの世界にあるのよ。ぶち抜く事くらい簡単!さあ、ピア!リオンにミミが寂しがってるって伝えて!」

 

 一瞬の後、ピアが飛び出した!!

「いつか会える日を楽しみにしてる。だから、頑張って!だって!!」

 ミミは両手で顔を覆った。

 

 繋がってる!

 それが嬉しくて、涙が出た。同時に勇気がもりもりと湧き出るのを感じた。

「ミミも楽しみにしてるって伝えてね!」

 

 それからミミは、可愛い服に着替える為、白くて大きな岩の後ろに行った。大きな岩には謎の扉がついてたけど、そっとしておいた。いきなり開けたら、びっくりさせちゃうしね!


 ミミが着替えて戻ると、アンスールはご飯を作り終え、いそいそと道具を片付けていた。

「ミミ、よく似合ってますよ。……では、そろそろ麓の街まで行ってまいります。ここで待っていて下さいね。ちゃんと、ご飯は食べる事!」

 お母さんの様だ。

「街?何しに行くんだ?」

 ライゾが心配そうに聞く。

 

「決まってるでしょう。受けたクエストの報告ですよ。ペナルティを受けたくないですからね!では!!」

 風が吹き、顔を上げた時には、アンスールの姿は見えなかった。

 

「律儀だな……。だけど、報告したら、足がつかないか?」

 ライゾが心配する横で、フェオが毛布を沢山出し、薪の横で大の字に寝た。

「こんな遠くまで探しに来ないわよぉ。私は寝るわ。慣れない遠征で疲れたの。ライゾ、頼んだわよ!」

「マジか……。嫌な予感はするが……まあ、俺はこんなだけど、大人しくしとけば大丈夫だろう」

 ライゾが頼りなさを認めた。


 それからミミは、平らな場所を探すと、アイテムボックスから出した毛皮の敷物の上に、抽出器の入った箱をデン!と置いた。

 小さなライゾが、ミミの横にスタンバる。

「組み立てるのか?待ってたぜ」

 

 採取したい気持ちもあるけど、ミミは明るいうちに、この抽出器を作っておきたかったのだ。

 ガラスの部品を1つづつ丁寧に箱から出すと、箱を閉め、その上で組みたて始めた。

 

「お前、器用だな……」

 パズルは得意な方だ。それぞれの部品をきっちりと組み合わせ、粘土で固定する。あっという間に、抽出器は出来上がった。

「はぁ……素敵……」

 その見事な機械美にため息が出る。

 

「ああ、分かるぜ。その気持ち。何かワクワクする装置だよな」

「ライゾーさん。わくわくはまだ早いよ!」

 ミミは、お水をビーカーに入れ、ライゾに小さなランプに火を着けて貰うと、持っていた綺麗な小石を1つ、祈りを込めながら抽出器の中に入れた。

 

 ミミのお宝が無駄になりませんように……。

 石ころ1つ無くなるのだって、ミミにとってはショックだ。


 ブクブクと泡立ち、魔法の様に石は溶けていく。科学的根拠はない。ゲームの世界だから!

 ライゾと2人、ワクワクしながら待つこと数分。

 水分が抜けた場所には、怪しく虹色に光る、クリスタルの様な結晶が残っていた。

 

「おお!!出来た!!」

 ミミはぴょんぴょん飛び跳ねた。

「何だ?その欠片は……法石じゃないか!!」

 ライゾは抽出器に顔を近付け、匂いを嗅いだ。

 

「そうなの?」

 ミミが首を傾げながらその結晶を取り出すと、ライゾは舌なめずりをしてた。

「食って見れば分かるかも……。おい!何だその疑いの目は!!」

「むぅ――お腹壊さない?」

「あ――確かに純粋な法石なら、刺激が強すぎるかもな」

 ライゾが目を逸らした。


 そういえば、とミミは思い出す。ガチャの大当たりである結晶は、ステータス強化に使うアイテムだったのだ。だとしたら……。

「ライゾ、これ、ステータス画面に入れるんだよ!ステータスオープンよ!!」

「ん?そうなのか?でも俺は開けないぞ。お前のそれで開けよ」


 ライゾが爪指す先には、ミミの手首に巻かれたリボンがあった。もしかして……!!

 ミミはリボンを撫でて、ちょっと硬い部分に触れた。きっとこれがルーン石だ!

 あの水面の様な青い画面が目の前に現れ、ミミは跳ねた。ミミの体力と魔力と攻撃力が、細長いゲージで記されてある!

 

 ミミは大はしゃぎでぴょこぴょこすると、そっと結晶を画面に差し入れてみた。

 なるほどアンスールが、ステータス画面の事を生命の水面と言っていた訳だ。スゥ――ッと結晶は波紋を描きながら、画面に吸い込まれていった。

 途端にライゾが叫ぶ。

 

「おい!ミミ!魔力の最大値が上がったぞ!マジか!!」

「凄――い!!」

 2人は、ヒャッハーとハイタッチをした。

「俺にもやらせろよ!」

 

 次はライゾが適当な石を採ってきて、抽出器に入れた。ポコポコ……。

 2人、顔をくっ付けて結果を待つ。でも、出来上がったのは、茶色い粉だった。

 

「見た感じ、砂だね」

「ゴミじゃねぇか!ミミ、てめぇの石を出せ!」

「う……」

 ミミは泣く泣くライゾにお気に入りの石を差し出した。ポコポコ……。再び砂が出来上がった!

 

「クソだな」

 ライゾは不機嫌に炎を吐きまくる。

「ミミの大切な石が……」

「ただのゴミだろ?もう1回試させろよ!」

「うう……」

 

 しかし、その後、ライゾが何度試しても、砂しか出来ない。でも、ミミが入れれば、虹色の結晶が出来るのだ!

 ミミは喜んでそれをステータス画面に入れ……あれ?画面がスライド出来る。

 ミミは横に新しく出てきた、イグニートの画面に結晶を入れた。

 new!の文字と共に、アビリティと書かれた枠が増えた。

 

「おお!何か枠が増えた」

「何だよ、枠って……」

 ライゾは抽出器に夢中だ。もう次の石を入れてる。

「何か悔しいな……もう1回勝負だ!」

 何の!?


 しばらく続けて、ライゾはようやく諦めてくれた。

「うう……ミミの大切な石が。もう限界。精神力をゴリゴリ削られた感がある」

 ミミはクタクタだった。

「あ――分かったよ。その代わりミミ、お前が俺の為の結晶をつくってくれよ!」

 これで諦めてくれるなら!

「りょ!ミミ。最後にめっちゃ祈ってみる!」

 ポコポコ……。


 すると、ピカ――!!と光り輝く結晶が出たぁぁ――!!

「おお!!凄いの出たぞ!!……ミミ!?」

 ――暗転。

 

 

「ライゾ!あなたがついていたのに、どういう事!?魔力不足って……ねえ、ご飯も食べてないじゃない!!」

 目を開けると、ミミはフェオの、弾力半端ない膝枕で寝ていた。目の前では、ライゾがフェオに怒られていました。……ごめんなさい。

 

「ミミ、魔力の使い過ぎはダメよ。人間は小さくなれないから、生命の維持が難しくなるの!わかった?」

「はい……」

 ミミはゆっくりと体を起こすと、神妙に頷いた。

 

 魔力……いつ使ったのか分からないけど、ミミはこれから、こっそり結晶を作ろうと心に決めた。

 

 ご飯を食べたミミは、少し元気になり、午後は思いきり採取に勤しんだ。最高――!!

 謎の苔をもぎ、綺麗な石も面白い岩も、その下に隠れていたミミズやムカデも取った。その間ライゾは不貞腐れて、ミミの髪の中で眠っていた。

 

 そして最後のお楽しみにとっておいた、ベリーの茂みで採取を始める。ミミは可愛いベリーを摘みながらも、その甘い小さな果物を口に入れた。

「ん――!美味し!!」

 すると、ふと手元が暗くなってきて、ミミは顔を上げた。

 

「誰じゃ?お前さん。ここはワシの庭じゃよ?」

「!!」

 怒られた!!ミミは即座にジャパニーズ正座をした。

「ごめんなさい!」

 

 でも、頭の上から聞こえたのは、笑い声だった。

「ふぉっ!……お前さん、中々面白いの。そんなにベリーを採ってどうするつもりだったんじゃ?」

 ミミは聞いて!とばかりに顔を上げた。年老いた感のある、ヨボヨボのお爺さんが、しゃがみこんでミミを見ていた。


「可愛いし、とても綺麗だから採っておきたくて!」

「綺麗か……。確かに太陽を沢山浴びて育った実は美しい。しかし、食べてあげないと可哀想じゃろ?」

 確かにそうだ!うんうんとミミは頷いた。

 

「わしの家に、大鍋がある。そこでジャムにするのはどうじゃ?」

 素敵な提案に、ミミはぴょこぴょこと跳ねた。

「分かりやすい子じゃな……こっちじゃよ」

 

 景色が少し変わった気がするのぉー、とか言いながら、お爺さんはミミを連れて、長いローブをずりながら高原を歩き始めた。

 しかし、幾分も歩かないうちに、高原の地平線を、ドドドと馬を馳せる音がする。見れば、20人ほどの騎馬隊がこちらに向かって来ていた。

 

「ミミ――!!」

 同時に湖畔から、オネェさん姿のフェオも素晴らしいフォームで駆けてくる。フェオは困惑する騎馬隊を追い抜くと、ミミの前でキュッと止まり、立ち塞がった。

 追いついた騎士様が数人、馬から降りると、剣をこちらに向けてきた。


「おい!そこの娘!名は何という!」

「フェオよ!」

 フェオが即答した。騎士様が鼻で笑う。

 

「お前は違うだろ!後ろの娘だ!!」

 ミミは、ぶっ殺す!とか呟いてるフェオの後ろから、ちょんと顔を出した。

「ミミ、知らない!」

「ミミか!!見つけたぞ――!!」

 騎士様が叫んだ。

 何でバレたの!?


 合図を聞き、後ろからちょっと偉そうな騎士様が出てくると、馬の上からミミに向けて剣を指してきた。キラリと剣の先が光を放ち、ミミは震えた。立派な装備を着けた騎士様は偉そうに声をあげる。


「ファリアス閣下のご子息であられる、キローガ・ファリアス様の名により、その、ミミなる娘の拘束命令が下された。直ちに執行させて頂く!捕獲しろ!!」

 その命令に騎士様が反応し、素早い動きでミミの方へとやって来た。でも、フェオの睨みに剣を構えたまま、距離を縮められない。


 その時、お爺さんがフェオを抑える様に、騎士様の前に出てきた。

「ちょっと待ちなさい。拘束するには理由があるはずじゃろ?先ずは調書を拝見させて頂けんかな?」

 ミミは危ない!と、お爺さんの腕を引いた。お爺さんはミミに、大丈夫と言わんばかりに笑い返してくれる。

 なるほど前を向けば、騎士様たちが、明らかに狼狽えていた。

「……マルス魔導師では?」

 皆、剣を納めている。

 お爺さんはニヤった。

 

「ほぉ。ワシを知っておるようじゃの。ならば話は早い。この者たちはワシの大切な客人じゃ。それでも拘束すると言うのではあれば、それなりの書状を用意して出直してくるんじゃな」

「いや……しかし、マルス様……」

 偉そうな騎士様が狼狽える。それを見て、お爺さんは声を荒らげた。


「ここはワシがファリアス前当主から貰った土地じゃ!さっさと出てゆくがいい!」

 そして、ミミの方へと向きかえり、微笑んだ。

「さあミミ。ジャムを作るぞ」


 お爺さんがとても優しく微笑むから、ミミは踵を返したお爺さんについて行った。振り向けば、騎士様は怖い顔をしてミミ達を睨んでいた。でも、フェオの投げキッスを受ける騎士様の恐怖の表情の方が、ミミは怖いと思った。


「さあどうぞ。入るがいい」

 お爺さんは岩の後ろにあった扉を開け、ミミとフェオを促した。騎士様の姿は見えなくなっている。ミミはほっとして扉をくぐった。


 中はすごく広い洞窟だった。光る苔が生えていて、よく見えるし、ミミは楽しくてぴょこぴょこしながら、お爺さんの後に続いた。フェオが後から着いてきて、お爺さんの横に並んだ。


「マルスか……。いつ聞いてもピンと来ない名前だな、ティール」

「ワシはお前の容姿の方がピンとこんよ」

 どうやらフェオとお爺さんは知り合いの様だ。……と言う事は、竜なのかな?

 ミミは、この世界にどれだけの竜がいるのだろうと、ワクワクした。きっと、人の姿をして普通に人間に紛れて暮らしているに違いない。


 2人の昔話を聞きながら少し行くと、地底の川の様な地下水脈に突き当たり、一行はその川に沿って歩いた。そして地下の滝が見えた時、お爺さんは止まり、どこからか大鍋を出した。

「さあミミ。ここに入れなさい」

 ミミは頷くと、アイテムボックスからベリーをじゃんじゃん出して、鍋に入れた。

 

「こりゃまた大量じゃな。どれだけのアイテムボックスを、お持ちかな?」

「ミミは女神の加護を得ているのよ!」

 ミミの代わりにフェオが答えてくれる。……女神?

 お爺さんは何故か納得したように頷いた。

「なるほど……。しかし、追われているようじゃな。さあ、皆、入るがいい。ここがワシの家じゃ」

 

 滝の横に、洞窟の中だというのに扉がついていた。よく見れば、ファンシーなお家が建っている!半分は土にめり込んでいるけど、とても可愛い。ミミは目を瞬かせた。

「うほ!とても素敵ね!」

「そうじゃろ?入ってくつろぐがいい。……その前に、ライゾ。出てきて挨拶をせんか!!」

 

 もそり……と、ライゾがミミの髪の毛から出てきて、お爺さんに片翼を上げだ。

「よお!ティール!また飯を食わせてくれ!」

 ライゾがここに転移した理由が何となく分かった。


 ミミはこの世界に来て、初めて家らしい家に入った。魔法使いの家だ!!

 そこは、ごちゃごちゃとした部屋で、ドライフラワーや怪しい干物の瓶に囲まれた、宝の山だった。

 お爺さんは、大きな暖炉に魔法で火をつけ、その中に鍋を吊るした。蜂蜜っぽいのを棚から取ると、全部鍋に流し込み、スプーンをミミに渡す。

「混ぜなさい」

 ミミはうんうんと頷いた。


 すぐに部屋は温まり、居心地がいい空間となった。

「先程の様子だと、ファリアス家は既に、その息子に押されているようじゃな。キローガは好戦的な少年じゃった」

 お爺さんはミミの横の揺り椅子に腰掛け、フェオは向かい合った、しっかりとしたソファーに座った。狭いけど、ベッドまでちゃんとある。住み心地は良さそう。

 

「そのようね。しかし、ミミを狙うとは……。カストロ公爵から通達でもあったのかしら……」

「それにしても、来るの早かったよな。俺たちがここにいるのを知ってるみたいだったぜ」

 ライゾがミミの肩に乗って、鍋の中身を見ながら口を開くと、お爺さんは眉をひそめた。

「ふむ。目覚めたばかりで情報が足りんの。ワシの土地に騎士を送り込まれたのも不愉快じゃし、事情を話すがいい!」


 それからフェオとライゾは、お爺さんに色々と話して聞かせた。ミミは鍋をかき混ぜながら、うとうとしていた。


「……なんと!では、竜は討伐対象となってしまっておると言う訳か?愚かな!!」

 突然、お爺さんが声を荒らげ、ミミはビクッとした。

「竜王が死に、誓約がなくなれば、我らは自由になると思っておったが……愚かなのは我らなのか?」

 

「俺はまた、人間と戦うのは嫌だぜ。戦うくらいなら、人として自由に暮らした方がマシだ」

 ライゾの平和的考えに、お爺さんが唸った。

「それはワシも同じ意見じゃ。だが、他の竜がどう反応するか……。そういえば、アンスールはどうした。奴なら黙ってはおらんじゃろ?」

 

 アンスール!どのくらい時間が経ったのだろうか?ミミは急に心配になり、手を止めた。

 フェオもそうなのか、鍋を気にしながら、顎に手をやった。

「それが、街に行ったっきり、戻って来ないのよね。そうだ、ピア!アンスールの事、ちょっと覗いてみてちょうだい!!」

 

 少しの後、ピアが飛び出てきた。

「牢屋に入れられてたわ!!こちらの手の内を知られたくないから、大人しくしてるんだって!アンスールは見張りを気にしながらこっそり話してくれたわよ!」

 お爺さんが心配そうに唸る。

「竜と知られれば、人の敵となってしまうからの……。アンスールは片目じゃから、能力も制限されとるし、大丈夫じゃろうか」

 

 ピアはまた虚空に消え、そして再び顔を出す。

「ファリアス城には、他の竜の気配も感じる、ですって!もう少し探ってから帰るから、心配するなって言ってるわ!」

「他に竜じゃと?……なるほど。道理でここに来るのが早かった訳だ。恐らく、ミミと一緒に行動している、お前たちのどちらかの気配が探られたのだろうよ」

 フェオがライゾの首を掴んだ。


「擬態しなさいよ、ライゾ!あなたのせいでバレちゃったじやゃない!」

「お前らが転移させるから擬態出来ねぇんだよ!!魔石をくれたら擬態してやるよ!」

 ライゾが火を噴いた。


「アンスール、大丈夫かなぁ……?」

 ミミは下を向く。アンスールがいなくなったらと思うと、胸が痛くなった。ようやく手に入れた、当たり前の生活が失われる恐怖に、ミミは胸を掴んだ。


 お爺さんはミミを見て、ふむ、と顎に手をやると、立ち上がった。

「ちと、領主の館に足を運んでみるか。フェオ、お前さんも来るか?」

「ええ、行ってやろうじゃねぇか!!」

 途端にフェオの男らしい返事が返ってきて、ミミは少しだけ、息が楽になった。

 

 ピコン!と音が鳴る。

『ティールを、ギルドメンバーに、加えますか?』

 ミミはうんうんと頷いた!

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