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1話 ミミ、勇者パーティに拾われる

よろしくお願い致します!


 ワァァァ――!!

 

 ここはルーンキャッスル公国、勇者パーティ選抜会場。この国最大のすり鉢状円形闘技場内は、屈強な冒険者で溢れていた。

 取り囲む観客は満員。180度、何処を見上げても人、人、人。

 何をしている訳でもないのに、その熱気だけで、観客は盛り上がっていた。

 

 ミミは闘技場の隅にうずくまって、大きな瞳を瞬かせながら、周りを見回していた。

 丈の合わない質素なワンピースに、汚れたブーツ。小さな体を更に縮こめ、灰色の石造りの壁と一体化しようと努めた。

 

 近くを見れば、がっちりと装備を固めた冒険者達が、既に決まったパーティメンバーと固まって顔を寄せ合っている。

 ウロウロしてるのは、仲間を求めるソロの冒険者だ。新しいメンバーを求め、大声を上げる人数半端なパーティも沢山ある。


「中級以上!戦士求む!こちらは3人だ。魔術師、剣士は上級だぞ!」

「A級ダンジョン攻略済み4人パーティだ!初級でもいいから、ポーターはいないか?」

 皆、武器を持っているし、声も大きくて、ものすごく怖い!

 

 皆が勇者パーティを、目指している訳ではない。

 ここに集められたのは、貴族や各領土ギルド長推薦の優秀な人材のみだ。この機会に、足りないパーティメンバーの補填を考えている者が殆どだと、皆が話しているのを聞き、知った。

 上手く行けば、貴族の目にとまり、後援者となってくれる可能性もあるという。

 

 パーティ申請は、パーティとして機能出来る3人以上である事を求められるらしく、皆、必死だ。

 先程の開催者のアナウンスでは、その規定なるものが朗々と話されていた。

 

 敵を惹きつけるスキルを持つ強靭なタンク役が1名、ダメージを与える攻撃系や魔術系のスキルを持つアタッカー役が最低2名。

 更に言うと、多くて1週間にも及ぶダンジョン内での生活に必要な物やドロップアイテムを運ぶ、アイテムボックス持ちポーターがいる事が望ましい。

 神聖魔法や転移魔法を操るヒーラーと呼ばれる法術師は、大変貴重である為、今回はいなくても選抜の対象であり、選出時にパーティにいない場合は、国から支援を受けられるとの事。


 勇者パーティ選抜。

 年に一度行われる、国あげての大行事に、どうして自分が連れて来られたのか……。

 ミミは、熱気渦巻く会場内でただ1人、大きな瞳に涙を浮かべ、震えていた。


◇◇◇


「誰か!!公爵夫人の耳飾りを見かけなかったか?」

 ミミはその日、お世話になってる教会のお庭の草むしりの途中で、隅に生えている謎の双葉(成長期)の行く末について考えていた。

 声がしたのは、礼拝堂の前からだ。

 

 耳飾り……イヤリング?

 ミミは可愛い物や綺麗な物が大好きだ。ちょっと見てみたくて、可愛い双葉とお別れして、捜索のお手伝いにと、声のする方へと走った。

 礼拝堂の前では、騎士様が数人、下を向いてウロウロとしていた。

 

 今日、このモーリアン教会には、沢山のお客様が来訪していた。

 ルーンキャッスル公国の3大貴族の1つ、カステロ公爵様と公爵夫人をはじめとして、それを守る騎士様たちも沢山来ていた。


 ルーンキャッスル公国はとても小さい国で、3大貴族と言われる貴族がこの国の政治を担っている。でも同じ位、教会の地位も高く、教会の本家であるこのモーリアン教会に、公爵様が頭を下げにやって来る事も少なくなかった。

 多分、この教会の抱える神聖魔法の使い手が目当てだろうけど……。


 最近、ルーンキャッスル公国内外で多発している魔物被害。その魔物の住処であるダンジョン攻略には、回復魔法や転移魔法の使える神聖魔法の使い手、ヒーラーが欠かせないのだ。

 ミミのいるこの教会にも、ヒーラーとしてる活躍出来る神聖魔法の使い手が多く在籍していた。


 その中でも最も優秀なヒーラー。モーリアン教会の4人の聖女たち。

 それは、ルーンキャッスル公国では勇者と同じ位、高貴な存在だった。


「おい!そこの女!耳飾りを、探してくれ!褒美をやるぞ!」

 公爵夫人のイヤリングひとつに、使用人や馬番まで借り出されての大捜索だ。

 ミミは騎士様に手招きされるがまま、礼拝堂の前の整えられた石畳にしゃがみ込んだ。


 果たしてそれはすぐに見つかった。

 礼拝堂の前に数段ある石段の間に落ちていたのだ。ミミは石段に座り込むと、宝石の着いたイヤリングを持ち上げた。途端、近くにいた騎士様が、それをかっ攫う。


「良くやった!褒美をやろう」

 そう言い、その騎士様はミミに剣を向けた。

「高価な耳飾りに触った罰だ。このくらいで許されるんだ。感謝しろ」

 騎士様はミミにグッと剣を向け、気持ち悪い笑みを見せた。嗜虐者の笑みだ。


「酷いな、お前」

 近くにいた騎士様が寄ってきた。でも、止めてはくれない。

 目の前に剣の切っ先があって、それが、ミミの頬に軽く触れた。熱い!

 ミミは咄嗟に持っていた小石を投げつけた。

 

 コツン……。

 小石は騎士様の頬をかすった。

 痛くはないだろうに、騎士様は激怒した。

 

「こいつ!!誰に向かって……!!」

 コツン……コツン……。

「お前!!」

 コツコツ……パラッ……。

「どこから……あグッ!」

 バラッバラッ……。

「多いな……ぐ……止め……」

 バラバラバラ……。

 大切に取っておいたお気に入りの石だけど、ミミは両手で投げ続けた。

 

「アハハッ!アイテムボックス持ちか?すげぇ!!どんだけ持ってんだ??」

 気が付けば、そこいらに騎士様が集まってきて、笑っている。それでも、ミミの手は止まらない。だって、止めたら仕返しされるじゃない!

 

「待て!!何をしている!!」

 その時突然、ミミは後ろから手首を握られ立たされた。怒号が肩越しに聞こえ、ミミは肩をすぼめた。


「すいません!!こいつがいきなり……!」

 ミミに先に剣を向けたクセに、騎士様……いや、騎士野郎はイケシャーシャーと言う。

 むう!ミミはぷくりと頬を膨らませた。傷ついた頬っぺが痛い!

 

「では、そのイヤリングはお前が見つけたんだな?」

 肩越しに聞こえるのは、男の人の声。優しいけれど鋭い声だ。その指摘に、騎士野郎は一瞬固まり、次の瞬間、嘘を吐いた。

「……はい」

 その生返事を聞き、ミミの手首を掴んだ人が叫んだ。

「連れていけ!」

 

 ふあ!

 身を固くしたミミだけど、目の前の騎士野郎の手からイヤリングがむしり取られ、ほかの騎士に引き摺られて行くのを見て、自分の事じゃないと気が付く。

 力を抜けば、手首は離され、頭をポンポンと優しく叩かれた。


 直後、礼拝堂が開き、中からぞろぞろと公爵様御一行が出て来た。ミミは慌てて膝を着き、頭を下げた。そして気付く。

 

 うぉぉ……!

 目の前の石段は、ミミの投げた石で埋まっていた。ざっと見、数百個はあると思う。ヤバいと思ったけど、もう手遅れ。

 

「閣下!お足元にお気を付けて」

 その声に、先頭を歩く初老の公爵様足が止まった。

 声をかけたのは、騎士野郎を追い払ってくれた、あの男の人だ。ミミは怒られる予感に震えた。

 

「うぬ。これは?入った時にはなかったと思うが?」

 頭の上で声がする。公爵様の後ろからは、ぞろぞろと、主たる神官様の面々も出てきたようだ。顔をあげなくても豪華な祭服の裾だけで分かる。

 ミミの額に冷や汗が滲んだ。


「閣下、これは……子供のイタズラで……」

 焦った神官様の声。

「何処から入り込んだ。今すぐこの痴れ者を叩き出せ……」

 最も高貴な衣装を着た神官が呻いた。

 でも、それを遮るように、あの男の人の声がした。

 

「閣下!閣下の脚を心配した子どもの、優しい心遣いですよ」

 ……お?

 

「ほお、気が利くな。実はここ数年、膝が曲がらんでな。古傷の痛みが顕著に現れ始めたようだ……感謝するぞ」

 そう言い、公爵様はザックザクと小石の坂を降りて行った。

 公爵夫人が続き、神官様たちも後を追う。

 ……助かったの?


 ミミを助けてくれた男の人も後に続いたみたいで、お偉いさんが通り過ぎ、ようやく顔を上げて見れば、その背中だけが見えた。

 茶色い髪のスラリと背の高い騎士様だ。

 そして、その男の人に寄り添う様に、教会の4人の聖女の1人、エレーンが続いていた。

 

 公爵様はやはり、聖女をお求めだったようだ。教会いちの美人を選ぶとは、とてもいい趣味をしてる!

 聖女エレーンは、見た事もないくらいの笑顔っぷり。きっとミミを助けた、あの男の人が気に入ったに違いない。

 

 お礼……言いたかったな……。

 そう思いながら、立ち上がろうとしたミミの上に影がかかった。

 嫌な予感に見上げると、最後尾の神官様が立ち止まってミミを見下ろしていた。

 

「ミミ。それを片付けた後、荷物を纏め、出て行きなさい」

 神官様は冷たくミミに言い渡した。

 


 それからミミは泣きながら石を拾っては、スっと何処かに消していった。ミミが欲しいと感じた物は全て霧と消え、ポケットに入れる必要はない。そして、さっきみたいに、必要だと感じればまた出てくるのだ。

 

「ミミ、それはあまり人に見せん方がいい。困った事になりかねんからな。ここを出たらすぐに冒険者ギルドに行って、相談するといい」

 とても便利だけれど、困った事になるのは嫌だ。ミミは手伝ってくれた、馬番のお爺さんの言葉に頷いた。


 ミミは、自分に起きる、この謎の現象について、今まで誰にも見せたり喋ったりした事がなかった。誰にも聞かれなかったし、知られれば気持ち悪がられて追い出されると思ったからだ。結局追い出されたけど。


 全ての小石を拾い終えると、ミミは仲の良かった使用人さん達に泣きながら手を振り、15年間過ごした教会を後にした。

 捨て子であるミミの寝床は古い書庫の隅。荷物なんてものは、最初からなかった。

 

◇◇◇


 教会を出た翌日。

 そんなミミが何故、この勇者パーティ選抜会場にいるかって?

 

 それは、攫われたからです!!

 

 冒険者ギルドのある、国の首都目指して死霊のような顔で教会を出たミミだけど、街道に出て速攻、横付けされた荷馬車に抱え込まれた。


 馬車には、先程の公爵様に付き従っていた騎士様らが3人乗っていた。ミミを助けてくれた、茶色い髪の男の人はいない。

 公爵様の騎士なら悪い事はしないはず。ミミはされるがまま、大人しく馬車の隅に座った。

 

「副隊長の指示とはいえ、公爵家先鋭騎士の俺たちが、なんだってこんな小娘を攫う様な真似をしなきゃなんねぇんだ?」 

 騎士様らは主がいないからか、砕けた様子だ。

 

「良かったじゃねぇか。値段交渉するより拾った方が断然楽だ」

「確かに!おい、お前。さっきは悪かったな。アイツのやる事は前から気になってたんだ。排除してくれて助かったぜ。……パン食うか?」


 ミミはこくんと頷き、貰ったパンをモヒモヒと食べ始めた。

 こいつ、リス見てぇだな、おもしれぇ……。そう言いながら、騎士様たちはミミに、色々食べ物を分けてくれた。

 

 馬車はそのまま走り続け、お腹が膨れ、心地よい揺れにぐっすりと眠った次の日。

 首都に入った騎士様達に降ろされた場所が、この会場だった。

 


 回想する事、数分。

 無意識に地面に落ちていた綺麗な刃の欠片を拾っていたようだ。ミミはいつの間にか、会場の端から這いずり出ていた。


 ドン!!

 思い切り後ろから思い切り蹴られ、ミミは転がった。綺麗な前転を繰り返す事、3回。

 目を回してペタンと座ったミミに、笑う訳でも怒る訳でもなく、片膝を着いて真面目に手を差し伸べたのは、全身甲冑の騎士様だった。

 

「すまない、足元が見えなくて。怪我は……なさそうだね。良かった。なかなか面白い受け身のとり方だな。上手いもんだ」

 褒められた!

 ようやく焦点のあった目で見上げれば、細身の騎士様だ。甲冑の中から澄んだ緑の瞳が見えた。


「ん?何かな?」

「綺麗な目!」

 ミミが見つめていると、恥ずかしそうに横をむく。

「ありがとう……ところで何をしてたんだ?こんな所にコインは落ちてないぞ」

「?」

「手の平を見せて見ろ。何を拾った」

 

 どうやら盗人の類いと思われたらしい。

 ミミは手の平を広げ、さっき拾った物を出して見せた。

「……欠けた刃?それだけ?」

 こくんと頷く。

 

「ここにいるって事はポーターか。疑いたくないから、アイテムボックスを見せてくれ。情報(アスク)のルーンはどこだ」

 情報(アスク)

 ミミは首を傾げた。

「ここにいるんだ、知らないとは言わせない。出したくないのだったら、ギルドパーティーに入れて勝手に見させて貰うぞ。断る事は許さない」

 

 ピコン!とギルドパーティに加わりますか?って案内が、目の前に水色の帯として現れた。初めての表示画面に驚いて、ミミは思わず呟いた。

 ピコン!

『リオンのギルドパーティに加わりました!』

 

 うお!ピコン!って言った!リオンのパーティだって!!

「ああ。ちょっと見るだけだから、喜ばないで欲しい」

 それでも、嬉しいは止められない!ミミはぴょんぴょん飛び跳ねていた。

 

「全身で喜びを、表現されても……あ、ごめん。本当にゴミしかないね」

 ゴミ?ミミは止まり、眉をひそめた。リオンはミミの顔色を伺ってコホンと誤魔化した。

 

「……小石ばかりだな。それもたくさんだ。鉄くずが珍しかったのか?」

 リオンは何かをしきりに見つめている。気になってリオンの横にまわって見上げれば、水色の四角い何かが見えた。まるで底のない水面を見ている様だ。

 

 透明な水面に映るのは、×1の印の付いた金属片の絵と、×99の印の付いた小石の絵。その絵が等間隔に区切られた枠の中、画面いっぱいに広がっていた。きっとこれがミミの持ち物なのだろう。

「うん。綺麗なのだけ集めたの……」

「厳選したんだ。でも全部、ただの小石だ。……ん?ちょっと待って。嘘だろ……」

 

「おい!今すぐそれを消せ!」

 突然、目の前の表示が消えた。リオンが眉を潜めて振り返った先を見上げると、戦う装備ではなく、明らかにいい所のボンボンって感じの衣装を着た、長身の男の人が立っていた。ミミはその立ち姿に覚えがあった。ミミを、助けてくれた騎士様に違いない!

 長身の男の人は、リオンの腕に手をかけ、睨んでいた。

 

「いきなり失礼な奴だな。しまってくれないか?」

 リオンが冷たい声で言う。

 仕舞う?

 カシャ!と音がして見れば、リオンの腕を覆う甲冑の隙間から、いつの間に差し入れられていたのか、短いナイフが出てきた。


「毒を塗ってるじゃないか!危ない奴だな!」

 リオンの怒りに、男の人はニヤリと笑う。ちょっとタレ目だけど、とても魅力的な笑みだ。目は濃いブルーで、かなり整った顔をしていた。


「まだルーン石も持たない少女の情報を勝手に公開するとは、騎士として見逃せない行為だろ?」

「ルーン石を持たない者がここに呼ばれる訳ないだろ!……いや、呼ばれたのか……」

 リオンの視線が、改めてミミの簡素なワンピース姿を隈無く巡った。

 

「すまない……俺は君の事を最初から盗っ人だと決めてかかっていたようだ」

 申し訳なさそうな声。でも、甲冑の中にあっても、リオンの緑の瞳は澄んで見えた。ミミは気にするなって、オトナな笑みで、リオンの腕をポンポンと叩いた。

 

「ふっ。お嬢ちゃんは意外と大物なのかもしれないな。では、そろそろ返して貰おうか」

 ミミは突然、男の人に腕を取られ、ぐいっと引き寄せられた。それをすぐにリオンに引き戻される。

「この子はお前の所有物ではないようだが?ユリアス・カステロ」

 ユリアス・カストロ?リオンの言葉にミミの心臓は飛び上がった。

 

 カストロ公爵様はこの国の3大貴族の1つ。その次男で、この国の守護者って言われる騎士団の副隊長様の名が、ユリアス・カストロだったからだ。

 名前を呼ばれたユリアス様はリオンを、冷たいゾッとする様な目で見据えた。

 

「私を呼び捨てにするとは……ほお?よく見ればレイハルト公爵家五男のリオンじゃないか。全身甲冑姿とは、自分の容姿をよく分かってらっしゃるようで。だが、いささか自意識過剰じゃないかな?」

 レイハルト公爵家!これも3大貴族の1つだ。その5男坊!?

 貴族同士の争いに巻き込まれたら大変だ!ミミは慌てて逃げようと構えた。でも、2人の手がミミを離してくれない。


「どうした、リオン」

 ここで突然、顔を付き合わせる2人の間に黒っぽい印象の男の人が割って入った。

 魔術士である事を主張する様な黒いローブを、頭からすっぽり被っているけど、魔道士には見えない位しっかりとした体躯で、背も高く威圧感が半端ない。

 グッとミミを握る手に力が入った。ユリアス様の手の方だ。

 

「イグニート・ファリアスか……。ファリアス公爵家三男坊にして魔術師マルスの愛弟子が、何故、こんな所に?」

 ファリアス家!これも3大貴族!!

 わぁー凄い……これでこの国の3大貴族が揃ったよ。

 妙な達成感と共に、ミミは変な汗が背中を伝うのを感じた。

 

「お前には関係ない」

 イグニート様は高圧的な態度でユリアス様を見下ろした。多分、この3人の中では、ユリアス様が1番年上で位も高いと思う。なのに、この態度……。

 イグニート様は物凄く強い魔術士だと聞く。自信の現れなのだろうけど、空気が重い!

 

「そうか。手柄を上げて来いと言われて手を結んだか?」

 ユリアス様はリオンとイグニート様を前に、少し気圧された様子で口の端をあげた。緊張してるのか、ミミの腕が軋むほど握りしめられる。

「それなら俺も仲間だな……」

 緊張した空気の中、ユリアス様の呟きと共に、突如、ピコン!と音が鳴った。

 

『ユリアスをギルドパーティに加えますか?』

 おお!また出た!

 

 ユリアス様を見れば、頷け、と目で合図される。

 その目力に、ミミ思わずこくんと頷いた。

 ピコン!

『ユリアスがギルドパーティに加わりました!』

 

「あ!!お前、勝手に!!」

 ミミは、リオンに肩を掴まれ、グラグラと揺すられた。横ではイグニート様が、はぁ……とため息をつく。

 

「リオン、メンバーに権限を与え過ぎるのも考えものだぞ」

「それはお前と2人パーティだったからだ!この子に入会の権限を与えたつもりはない!」

 すぐに追い出してやる、と、青い表示を出して意気込むリオンを前に、ユリアス様が笑いだした。

 

「あはは!無駄だよ。ギルドパーティを抜けるには、過半数以上の承認が必要だ。今4人パーティだから、この子が頷かない限りは無理だね。君、絶対頷いちゃダメだよ?」

 ピコン!と、ユリアスを退会しますか?って表示が出たけど、ミミはユリアス様が怖くて頷けない。

 すぐに表示は、承認されませんでした。のメッセージと共に消えた。

 

「ははっ。これは君が私のモノを奪った罰だね。これで、ここにいる4人はギルドメンバーだ。リーダーになれなかったのは残念だけど、望んだ結果に満足だよ。よろしく頼む」

 ユリアス様は握手を求め、リオンに手を差し伸べた。リオンはそれは弾く。

「クソっ!」

 

 その時、向こう側で、そろそろ締め切りま――す!急いで登録して下さい!って声が聞こえた。

 

「リオン、諦めろ。このメンバーなら、必ず勇者パーティになれる。しばらくの我慢だ」

 イグニート様の言葉に、リオンは兜を脱ぐと、その場に投げ捨て、踵を返した。

 

 ミミは兜を拾うと、その場に立ちすくんだ。

 一瞬見えたリオンの顔が目に焼き付いていた。

 長い金糸の髪に緑の瞳。整った顔立ちは、女性かと見間違えるほどの美しさ。

 ミミはこれ程までに綺麗なものを、未だかつて見た事がなかった。


 

 その後、会場の中心が丸く空けられ、有志達の模擬戦が始まった。次々と剣を掲げてはパーティ同士で模擬戦を繰り返す。しかし人数には敵わないのか、残っているのは、10人を超える熟れた冒険者たちのパーティだった。


 そして、会場の熱気が最高潮に達した時、満を持して、リオン、イグニート、ユリアスの3人が名乗りを上げた。相手のパーティメンバーは皆、唸り声をあげる。3人の強さはそれほどまでに有名なのだろう。

 それとは逆に、やたらと盛り上がる会場。女性の悲鳴にも似た歓声が多いのは、3人がとても美しいからに違いない。

 

「開始!!」

 会場中が見守る中、リオンが切り込んだ。

 タンク役3人を引き付け、1人、また1人と、軽い動きと、重い剣技で膝をつかせた。

 攻撃役は!?と見れば、イグニート様の氷に足を縫いとめられている。遠隔攻撃は?と魔術士を見れば、ユリアス様の目にも止まらない攻撃に膝を着いていた。更に弓で狙われ、詠唱もままならない様子。


 あっという間の決着に、観客の方がついて行かなかったのか、少しの沈黙の後、爆発したかのような歓声が上がった。

 多人数パーティを瞬時に倒した3人の前に、その後、挑戦者が現れる事はなかった。


 ミミは人混みに混ざり、リオンの兜を抱えたまま羨望の眼差しで会場の中心に立つ3人を眺めていた。

 今年の勇者パーティはリオンのパーティだ!!


 国務大臣を務める3大貴族の長たるカステロ公爵様が、3人の前に進み出て、ダンジョン攻略における全ての権限を任す事を伝えられた。

 そして、まるで優勝賞品の様に差し出される、美しい聖女エレーン。

 ああ!なんて素敵な光景なの!!


 ピコン!

 その時、ミミの目の前に表示が現れた。

 

『エレーンをパーティメンバーに加えますか?』


 ミミは反射的にこくんと頷いた後、首を傾げた。

 もしかして、リオン、ミミを退会し忘れてる?

 ミミ、勇者パーティの一員になっちゃってるし。

 ……とんでもない事だ!!


 会場の片隅でミミは1人、ブルブルと震えていた。

 

作品の中にルーンが出てきますが、作者は詳しくありません。謎の古代文字という意味にとってくださると助かります。

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