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9.

 過去のことを持ち出されると、決まってアーサーは何も言い返せなくなる。


 だが、そんな風に落ち込む彼を見つめるセレーナの瞳は、すぐに愛おしいものを見るような瞳に変わった。言い返せなくて落ち込む姿も、今や彼の魅力の一つだからだ。


「ふふっ。『氷騎士』と呼ばれるあなたが、こんな風に妻にタジタジになるなんて、部下には見せられませんね」

「あ、あまりからかわないでくれ……」


 今でもアーサーは『白銀の氷騎士』と呼ばれている。

 一度戦場に出れば顔色一つ変えることなく、そして容赦なく敵を殲滅させているからだ。だから表向きの彼の顔は変わっていない。


 ただ一つ。

 今の彼は愛妻家となり、家族にだけ笑顔を見せるというギャップが生まれた点は、回帰前との違いと言えるだろう。


 数年前、仕事が忙しくあまり家に帰って来られなくなったアーサーのところへセレーナがお弁当を作って持って行ったことがあるのだが、その時のアーサーの甘い態度や照れた顔が、今でも伝説として騎士団の中で語り継がれているとかなんとか。


「まあでも、私にとってはかっこいい旦那様ですよ。……私の病気の治療薬も見つけてくれましたしね」


 セレーナと和解した後のアーサーは、彼女の病気を治療するために奔走した。

 エリオットを産んだ直後の五年前はまだ病気に罹る前だったこともあり、予防をしたり、定期的に検査を受けて早期に発見したりというような対策を打つことができるため、早めに行動して実行したのだ。


 そして驚くべきことに、予防法も、治療薬も、アーサーが見つけてきてくれた。


「治療薬は、前回君が亡くなってから数年後に開発されたものだ。ただ、今回もそれでは間に合わないから、研究者を捕まえて私が覚えている内容を伝えつつ、どうにか開発を早めて間に合わせた。それに予防法も、前回君の病気が見つかった時点ではもう手遅れだったけど、今回ならまだ間に合うかもと思って試してもらった。君のためにできることは何でもしたくて」

「旦那様……」

「でも、実際に頑張ったのは君だ。予防のために飲んでもらっていた薬はかなり苦かっただろう。それに、早期発見だったとは言え結局発症してしまって、毎日の投薬は辛かったと思うから」


 各所を駆け巡った自分より、病気と闘ったセレーナを褒めるアーサー。

 アーサーはこのような優しい言葉を、毎日惜しみなくセレーナに伝えている。

 そして言われる側のセレーナは感動しきりなのである。


「でも今回は、エリオットもあなたも一緒にいてくれましたから。二人がいてくれたので、頑張れたのですよ?」

「そうか?」

「ええ、そうですとも。エリオットを産んだときも、あんな大怪我をしながら来てくれてどれだけ嬉しかったか。まあそのあとでかなり心配はしましたけれど」

「あれくらい何でもないさ」


 アーサーはセレーナの手をギュッと握った。力を込めすぎて痛がらせないように加減はしつつ、それでもそこにある温もりをしっかりと感じられる程度の強さは持って。

 すると、前方にいたエリオットが丁度振り返ってセレーナたちを見ていて、声を上げた。


「あー、父上ずるい! ぼくも母上と手をつなぐ!」


 子供ながらの可愛いやきもちを焼いて、バタバタと走って近づいてきたエリオット。

 そんなエリオットに、アーサーは大人気なく対抗する。


「何がずるいものか。母上の一番は私だぞ?」

「一番は僕だよ! ね、母上? そうだよね?」


 アーサーに取られた右手とは逆の左手をエリオットに取られ、セレーナは二人に挟まれてしまった。

 そして、一番が夫か息子かという、難しい二択を迫られる。


「うーん。そうねえ……」


 両手を塞がれながら、セレーナは考えた。

 右の夫か、左の息子か。それとも――?



「私の今の一番は、お腹の中にいる新しい家族かしら?」


「…………は?」

「え? え?」


 セレーナは、ふふ、と笑って、アーサーとエリオットは戸惑っている。


「どういうことだ? 新しい家族って……」

「ここのところ胃の調子が悪かったので昨日お医者様に診てもらったところ、妊娠二ヶ月と言われましたわ」

「……」


「それって、僕がお兄ちゃんになるってこと?」

「ええそうよエリオット。まだ少し先になるけれど、あなたに妹か弟ができるのよ」

「えー! わー! ほんとにー?」


 呆然とするアーサーとは対照的に、エリオットは大きな目をキラキラと輝かせて喜んでいる。


「あら? 旦那様は喜んでくれないのですか?」

「え! 父上はうれしくないの?」


「いや……っ」


 二人から尋ねられたアーサーは、グッと力を込めて答える。


「嬉しいよ、とても。家族が増えるなんて想像していなかったから驚いたのだ。……ありがとうセレーナ。愛してる」


 そう言って、彼はセレーナを優しく抱きしめた。


「あ、ずるい! ぼくも!」


 そんな父親を見て、エリオットもセレーナの膝のあたりに横からぎゅっと抱きついた。


「あらあら……」


 夫と息子から挟まれるように抱きしめられたことで身動きが取れなくなり困りつつも、セレーナの心には幸せが積もる。

 また、彼女に抱きついたアーサーとエリオットも、溢れんばかりの幸せそうな笑みを浮かべていたのだった。



最後までお読みいただき、ありがとうございました!

いかがでしたでしょうか?

楽しんでいただけたなら嬉しいです。


後日談ですが。

その後セレーナたちのもとに、アーサーの銀髪とセレーナの金色の瞳を持った可愛らしい女の子が産まれます。


セレーナに似ている部分もある可愛い娘。

アーサーがこの子を溺愛することは間違いなしですね(^^)


氷騎士と呼ばれるほど冷徹な表の顔を持つアーサーが、

愛する妻や子供たちを前にしたら顔を緩ませまくるというギャップ。


そんなギャップがいいね!と思っていただけましたら、

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― 新着の感想 ―
[良い点] 二人で回帰していて、やり直したところ。 [気になる点] 特には。 [一言] 面白かったです。
[良い点] 自分の人生も2度目があったらこんな風に都合よく回せるのになあと思わされる 別に今幸せじゃないわけじゃないけど、親1年生や夫婦1年生よりは上手く立ち回りたいね
[良い点] 前世のすれ違いを互いの歩み寄りと努力で覆して幸せになれた所。 すれ違いものあるあるですが、言わなきゃ分からないですからね。 [気になる点] シェイが幸せそうだった、という話。 庭師の息子と…
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